第112話 全滅
ふんどし一丁の3人の男達が、俺の周囲をまわり、順番に尻を撫でてくる。
ただただ恐怖を感じる状況だった。
だんだん、男達の熱気で意識が遠のいてくる。
ヤバイ。
そう思っても、身体が動かない。
「馬鹿な、なぜ私の命令を聞かない!? はっ! まさか、貴様のイメージが私の力を凌駕したというのか! なんという力だ!」
この男達を生み出した張本人、キョウフクロウがなんかカッコイイ事を言っているが、実際はモンスターが言う事を聞かず、俺の尻を撫でている、というのが現状だ。
「ええい、こうなれば私自らが貴様を殺してくれるわ!」
「そうはさせません」
マキが素早く動き、巨大なハンマーでキョウフクロウを叩き潰した。
キョウフクロウが死んだせいか、男達の姿も消えていった。
助かった。
もう少しで危ない所だった気がする。
「り、リクト殿、拙者、初めて本当の恐怖というものを味わった気がするでござる」
「だな」
ランラン丸が心の底から怯えていた。
俺は力が抜けて、その場にガクリとひざをつく。
「だ、大丈夫? リクト」
ユミーリアの顔がとても美しく見える。
続いてかけつけてくるみんなも、いつもの数倍可愛く、綺麗に見える。
良かった。
あの男達に囲まれた状態で死ななくて、本当に良かった。
俺は思わずユミーリアに抱きつく。
ああ、おっさん臭さが消えていく。なんて良い匂い。女の子ってどうしてこう良い匂いがするんだろうな。
「あはは、よしよし」
ユミーリアが俺の頭を撫でてくれる。
ヤバイ、これ最高だ。
俺はしばし、ユミーリアに癒される事にした。
「ユミーリア、そろそろいいか? 次は私だ」
エリシリアがそう言うと、ユミーリアがなごり惜しそうに俺をはなす。
「もうちょっとこうしてたかったなー」
「気持ちはわかるが駄目だ。次は私の番だ」
エリシリアが俺の頭を寄せて、抱きしめてくる。
やわらかいなぁ。そして良い匂い。
ユミーリアとはまた違った良さがある。すごく心地良い。
「わたしもやるー!」
「私もです! 負けていられません!」
「その次は誰じゃ? そう……わしじゃよ!」
コルット、プリム、アーナが名乗りをあげる。
「では、私も」
「マキは駄目だ」
「マキさんは駄目」
「マキはお預けじゃ」
なぜか駄目出しを食らうマキ。
「さっきリクトとイチャイチャしただろう?」
「そうだよー、今は私達の番」
「その通りじゃ。ちゃんとみんな平等にイチャイチャするのじゃぞ」
「……ひどいです、皆様」
マキがいじけた。
さっきっていつの話だ?
気にはなったが、俺はエリシリアの胸の心地良さに、意識をゆだねた。
その後のコルットとプリムは危なかった。
幼女に頭を撫でられるのは、何かが目覚めそうだった。
最後は身体だけは立派なアーナの番だ。
これで性格がおしとやかなお姉さん系だったら文句なしなのになぁ。
「ふふ、リクトよ、気持ち良いか? やはりお主と一番相性が良いのは……」
アーナが俺の頭を撫でる手を止めて、自身を指差す。
「わしじゃよ!」
「いや、それはない」
確かに胸は一番大きいが、大きければ良いってもんじゃないよな、うん。
「リクトよ、たまにはデレてくれても良いんじゃよ?」
「まあ、その内な」
婚約した以上、これからもずっと一緒に居る事になるんだ。
いずれ、デレてやってもいい、と思う日がくるだろう、多分。
みんなのおかげで精神的に回復した俺は、立ち上がって魔王の居る最上階を目指す。
また階段だ。
地味に疲れるんだよな、これ。
俺達は再びコルットを先頭に、階段をのぼっていく。
やがて、階段の上に大きな扉が見えてくる。
「おそらくこの向こうに、魔王が居ると思われます」
マキがそう告げた。
いよいよ魔王との決戦か。
「ゴッドヒール!」
俺は念の為、みんなに回復魔法をかける。
「よし、みんな準備はいいな?」
全員がしっかりうなずいた。
さあ扉をあけるぞと思ったその時、アーナがふと思い出した様に俺達に声をかけた。
「そうじゃ! みんな、わしが作ったアクアペンダントは持っておるか? あれは防御力を上げる効果もつけてあるからの。しっかり装備しておくんじゃぞ」
アクアペンダントか、そういえば装備したままだったな。
みんなも首からさげたアクアペンダントを見る。全員装備したままだった様だ。
「うむうむ、良いぞ。そのペンダントはわしが魂を込めて作ったからの。いざという時は、そのペンダントを信じるのじゃ」
信じる、か。
「言われなくても、私はアーナの事、信じてるよ」
「ユミーリア、お主というやつは……好きじゃああ! 大好きじゃああ!」
アーナがユミーリアに抱きつく。
ユミーリアの言う通り、俺達の中で誰一人、今さらアーナを疑うやつなんていない。
俺達は胸のペンダントを一度にぎりしめ、最後の扉を開けた。
真っ暗だった。
しかしすぐに周りの燭台(しょくだい)に、紫色の炎が灯っていく。
炎は手前から灯っていき、やがて一番奥に居る影を映し出す。
「よくぞきた、勇者とその仲間、そして先代魔王の娘、リリリフレートよ」
ゾウの顔をした、黒衣のローブをまとう魔王、ゾウマだった。
「りりりふれーと?」
「耳を貸すでないユミーリア、今は魔王を倒す事に集中するのじゃ。いつ攻撃を仕掛けてくるかわからんぞ」
疑問を持ったユミーリアを制するアーナ。
多分アーナは、マキの事に気付いているのかもしれない。
マキは人間に転生した元魔族、そして殺された先代魔王の娘だ。
その時の名がリリリフレート・アンドゥーナ・リリライ。
しかし今のマキは俺達の仲間で、俺の嫁であるマキだ。
「魔王ゾウマ、魔界に混沌と戦乱をもたらし、私達の世界にまで侵攻して来た事、今日ここで後悔させてさしあげます」
マキが巨大なハンマーをスカートの中から取り出して構える。
「笑止! 魔界とは混沌こそが華! 先代魔王が理想としたふぬけた魔界など必要ない! 今の姿こそが真の魔界なのだ。我は貴様らの世界を征服し、魔界も、貴様らの世界も、混乱と恐怖の世界に変えてくれるわ!」
魔王の身体がふわりと浮き、前に出てくる。
「貴様らにも、恐怖を与えてやろう……よみがえれ! 我が忠実なるしもべ、六魔将軍よ!」
魔王がそう叫ぶと、6つのいかづちがほとばしり、6つの影が現れる。
影は形を成していき、倒したはずの六魔将軍となった。
「こちらが我を入れて7人、そちらも7人か。面白い、六魔将軍よ、それぞれひとりずつ相手にせよ。全員、殺して構わぬ」
魔王の指示で、六魔将軍がそれぞれ、俺達と向かい合う。
「あの時はよくも氷漬けにしてくれたな。殺してやるぜ、姫様よ!」
「もう一度氷漬けにしてくれます」
エンドラに対し、マキはハンマーをしまって右手をかざす。
「あら残念。もっと可愛い子と戦いたかったわ」
「言いたい事はそれだけか? ならばさっさと倒れるが良い」
エリシリアが光のムチをしならせ、ウマゴオリを威嚇する。
「ボクの相手は子供かよー、つまんないの」
「わたしも、もっと強そうな人が相手が良かったなー」
ブタカゼがコルットの言葉にブチギレる。
「ふふふ、我輩のツメのサビにしてやるのであーる」
「あら怖い。でも、あなたのツメは、私には届きませんわよ?」
自身の両ツメを弾くヤミガーメに、プリムが微笑みかける。
「ミーの相手はあなたデスカー? ミーの魔法で、とっとと消し炭にしてやるデース!」
「え? わしも戦うの? 無理じゃね?」
ウミコアラが杖を構え、アーナは混乱している。
「出来ればあの男と再戦したかったのだがな、娘よ、逃げるなら今の内だぞ?」
「逃げません、私はあなた達を倒して、リクトと、みんなで帰ります!」
ライトニングレオとユミーリアが、お互い剣を抜く。
「勇者よ、貴様の相手は我だ」
「だから俺は勇者じゃ……まあいいか。やるぞ、ランラン丸!」
「おうでござる!」
俺の事を勇者だと勘違いしたままの魔王ゾウマに対して、俺はランラン丸を抜いた。
「さあ、我がしもべ達よ! 殺せ! そして我に恐怖を献上せよ!」
魔王の号令で、六魔将軍が襲い掛かってくる。
「みんな、いくぞ! 炎の尻!」
俺の尻が激しく燃える。
《炎の尻:尻が燃えている間、敵の魔力障壁を打ち消せる様になる。仲間全員にも発動可。炎は任意で消せる》
これで俺達全員の攻撃が六魔将軍に通るはずだ。
俺達と六魔将軍の戦いが始まる。
結果から言うと、そのほとんどが俺達の相手にはならなかった。
「凍りつきなさい」
「ぐ、ぐおおお!」
エンドラがマキの氷魔法で氷の像と化す。
「二度と、よみがえって来るんじゃありませんよ?」
そして、巨大なハンマーで叩き割った。
「アヒン! なによこのムチ! なんで魔力障壁がきかないの!?」
「我らがリクトの力だ。貴様らの障壁など、もはやなんの意味も無い!」
エリシリアのムチをくらい、ウマゴオリが消滅する。
「なんだよ! なんなんだよお前! なんでボクより早いんだよ!」
ブタカゼの攻撃はコルットにかする事すらしなかった。
しばらく様子を見ていたコルットが、距離を詰め、必殺技を放つ。
「えーい! 撃動波(げきどうは)!」
「ば、馬鹿なあああ!」
コルットの放った撃動波で、ブタカゼは消滅した。
「おのれ! なんという小娘であるか! 近づけば格闘、離れれば魔法、そのどれもがこれほど強力など、ありえないのである!」
「私は私の国を、大切な人達を守る為、負けるわけにはいかないのです。ですから……あなたにも、負けません!」
プリムの光魔法をまとった蹴りが、ヤミガーメに突き刺さり、ヤミガーメは消滅していった。
「ぐふっ! 見事だ、その3本の角、忘れんぞ」
ユミーリアとライトニングレオの戦いはすでに決着がついていた。
ライトニングレオは消滅し、ユミーリアの勇者の剣と、トリプルテールが、力強く輝いていた。
「つ、角? ……角じゃないもん」
ユミーリアがトリプルテールを悲しそうに撫でた。
「ぎいいやあああ!」
その時、アーナの悲鳴がこだました。
アーナはウミコアラの魔法から、必死に逃げ回っていた。
「わしには戦う力はないと言ったじゃろうがあああ!」
「えーい! 大人しく死ぬデース!」
アーナを魔法で狙うウミコアラ。
しかしそんなウミコアラを、右からコルットの拳が、左からプリムの蹴りが襲った。
「がふっ! み、ミーがこうも簡単に……」
「ああそうだ、お前達はこれで、終わりだ!」
最後に正面から、エリシリアのムチがウミコアラを討つ。
「た、助かったぞみんな」
こうしてアッサリと、六魔将軍は再び消滅した。
「馬鹿な! これまでほとんどの六魔将軍は、勇者である貴様が倒していたはず! なぜ貴様以外が、こうもアッサリ六魔将軍を倒せるのだ!?」
六魔将軍を倒された魔王が驚愕する。
「復活した怪人は弱いってのは定番だが、お前はひとつ、勘違いをしていたな」
「なんだと?」
魔王がこちらを見る。
「言っておくがな魔王、このパーティの中で、俺の強さは下から数えた方が早いんだぞ?」
現状強さは、ユミーリア>コルット>エリシリア>プリム>マキ>俺>アーナといった感じだ。
これでも俺は強くなったが、選ばれし戦士達と尻が光るだけの一般人である俺との差は激しい。
「勇者より強き者達だと? 馬鹿な、なんなんだ貴様らは!?」
さて、このままじゃ俺は魔王に勝てない。
だから、悪いが反則技を使わせてもらう。
「いくぞランラン丸、融合だ!」
「任せるでござる!」
俺はランラン丸と心をひとつにする。
「合(ごう)!」
「結(けつ)!」
俺の尻が光り輝き、俺とランラン丸は、ひとつになる。
俺の髪に紫色のメッシュが入り、瞳は金色に、服は黒い着物になる。
魔王が変化した俺の姿を見て、混乱する。
「か、変わった? 貴様はなんだ、なんなのだ!?」
「俺は、貴様を斬る者でござる」
俺はそう言って、刀を真上に持ち上げる。
「やはり魔王は、勇者の奥義で倒さなくてはな、覚悟はいいでござるな、魔王!」
俺の刀に尻から出たピンク色の気が集まり、姿を変えていく。
「あの技は!」
「お尻まんじゅうだー!」
そう、俺の気が、尻の形になる。
「くらうでござるよ魔王! 奥義・シリブレード!」
魔王に向かって思いっきり剣を振り下ろす。
尻の形をしたピンク色の気が、魔王へと向かう。
「くっ! こ、こんなふざけた技など!」
魔王が魔力で打ち消そうとするが、敵わず、∞のピンク色のラインが、魔王の身体に刻み付けられる。
「ぐあああああ!!」
魔王にあたったピンク色の気は、巨大な爆発を起こし、魔王が倒れ、∞のピンク色のラインだけが残った。
俺は、ランラン丸との融合を解除して、魔王を見る。
「こ、こんな馬鹿な事が……我は魔王だぞ? こんな、こんな結果など、認めてなるものか!」
魔王がその場で起き上がる。
その身体は、ボロボロと崩れかけていた。
「邪神よ! 聞こえているなら我が声に応えよ! 我は魔王! 我に力をよこせ! この者達を葬る力を!」
魔王が天に向かって両手を広げる。
すると、邪悪な気があたりをおおった。
「な、なんだ?」
「みんな、近くに集まれ!」
エリシリアの号令で、俺達は一箇所に集まる。
邪悪な気は、魔王へと向かい、そして……魔王を包み込んだ。
「ぐああああ!」
魔王がおたけびをあげる。
激しい風が巻き起こり、俺達は互いを支えあう。
魔王は、どんどん姿が大きくなっていく。
天井を打ち破り、紫色の雲におおわれた空が見える。
雷鳴がとどろき、巨大化した魔王を照らしていた。
「はぁ、はぁ……ははははは! いいぞ! これだ、この力だ! これぞ世界を破滅させる力だ!」
ゾウの顔の目が、赤く光る。
「我が名は魔王ゾウマ! 魔界を、世界を破滅させる者なり!」
巨大化した魔王は、5階建てビルくらいの大きさだった。
魔王の手に、邪悪な気が集まる。
「まずは勇者、貴様からだ」
魔王の手から放たれた気が、俺とユミーリアを襲う。
俺の着ている絶壁のコートがピンク色の結界を張るが、魔王の気は、それを撃ち抜いた。
「なに!? ぐあああ!」
「きゃああ!」
俺とユミーリアが吹き飛ばされる。
身体がシビれて、動かない。
「ゆ、ユミーリア」
「り、リクト」
ユミーリアも立ち上がれない様だ。
だんだん意識が薄れてくる。
回復しようとして声を出そうとするが、口もマヒしてきて、うまくしゃべれない。
「リクト! ユミーリア! おのれ、貴様!」
エリシリアとマキが魔王に向かう。
「おろかな人間と裏切りの姫か、容赦はせぬぞ? 死の恐怖に震えるが良い」
闇の炎がエリシリアを、闇の雷がマキを襲う。
「なにっ!? ぐあああ!」
「エリシリア様! あああああ!」
炎に焼かれたエリシリアが、雷に打たれたマキが倒れる。
「あとは、貴様らだ」
魔王がアーナを指差す。
魔王の指から闇の波動が放たれる。
「ひいっ!?」
アーナが両手で顔をおおう。
絶体絶命のアーナを、コルットとプリムがアーナ前に立ってかばった。
「うううう!」
「ま、負けませんわ!」
「お、お主ら!?」
二人は両手に気を集中させて、闇の波動を真正面から受ける。
「おろかな、無駄な抵抗をするでない」
魔王が人差し指を空に向ける。
すると雲から闇の雷が落ち、二人を襲った。
「ああああ!」
「きゃあああ!」
コルットとプリムが雷に打たれ、正面から闇の力を受けて爆発する。
「ぐっ! コルット! プリム! うああああ!」
アーナも、爆発の余波で吹き飛ばされ、壁に激突して気を失う。
「フハハハハ! 素晴らしい! 素晴らしい力だ! これぞ、世界を破滅に導く力だ!」
魔王が高笑いをする。
邪神の力を得た圧倒的な魔王の力の前に……俺達は、全滅した。
駄目か。
回復しようにも、身体が動かず、声も出ない。
これで、終わりなのか?
またやり直しなのか。
でも、やり直すって、何をどうしたらいいんだよ?
わからない。
何か手はないか?
死ぬ前に、何かわからないか?
俺は必死にあたりを見渡す。
だが、かすかに見えるのは倒れたみんなの姿と、巨大な魔王だけだった。
何か、何か他に手はないのか?
-信じるのじゃ-
その時、ひとかけらの希望が、俺の胸元で光った。
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