第37話 ドキドキの護衛依頼

 俺はCランク昇格試験のひとつ、護衛依頼を受ける事になった。


 褐色巨乳のお嬢様、カマセーヌさんを南西の街、パッショニアまで護衛するのが目的だ。


 依頼を受けた俺は、準備の為に一日もらい、明日出発する事になった。



 その後はイノシカチョウを乱獲した。旅に出ている間の分を補充しておかないとな。

 しかし重力修行のおかげか、イノシカチョウを倒してもレベルが全然上がらなくなってしまったな。



 俺はイノシカチョウのレア肉を仕入れ、マイルームに戻った。

 なんか、職業が尻魔道士からレア肉仕入れ屋さんになってないか、俺?


 レア肉を冷凍庫に仕舞おうとしたら、なんと冷凍庫が大きくなった。


「おお、すげえな。これならいくらでも入るぞ」


 俺は大量のレア肉を冷凍庫にしまった。これで当分は大丈夫だろう。



 レア肉を仕舞った後、地下の重力室に下りて、ユミーリアとコルットに状況を説明した。


「そっか、修行に夢中になってたけど、ランクもあげていかないとね」

「冒険者としてのランクが上がれば、受けられる依頼も増えますからねー。あの人ともう一度戦う為にも、必要かもしれません」


 ユミーリアはともかく、コルットの闘志が燃えていた。


「とはいえ、今回は護衛するだけだからな。盗賊のアジトもすでにないし、多分楽勝だろう」


 しかし、問題はあった。


「問題はだ、護衛対象がいる以上、マイルームが使えない。しっかり旅の準備をしないといけないんだ」

「あ、そっか」


 俺達はマイルームに慣れきっているからな。こういう時に困る。


「ユミーリアは、ユウ達に必要なものを聞いてきてくれ。俺達じゃ旅に必要なものなんて、わからないしな」

「それはいいけど、お兄ちゃん達がどこにいるかわからないよ?」

「ふっふっふ、それは任せろ」


 俺は1階に戻って、マイルームのマップ機能を起動する。


「んー、ユウ達は今、ここの食堂にいるな。わかるか?」


 俺はマイルームの入り口横に表示されたマップを、ユミーリアにも見せる。


「あ、ここ知ってる。すごいねリクト。こんな事までできるんだ」


 感心するユミーリア。


 最もこれ、使い方によってはストーカーになるんだよな。今回みたいな時はいいだろう。


「それじゃあ、私聞いてくるね」

「ああ待った、どうせなら俺達もご飯にしよう。コルット、出られるか?」

「うん、わたしは大丈夫」


 俺達はマイルームから食堂の前に出て、食堂の中の男勇者達を探した。



「なるほど、あなた達も護衛依頼を受けるのね」


 俺達は男勇者達と同席して、事情を話した。


「まあ確かに、誰か別の人がいればあのマイルームは使わない方がいいわね。それで、私達に必要なものを教えて欲しいと?」

「そうなんだよ」


 俺は魔法使いに頼み込む。


「そうね……イノシカチョウのレア肉1つでどう?」


 相変わらず、ちゃっかりしていた。



 俺達は必要なものを買い揃えた。

 全部で3,200Pかかったが、買い物はパーティ資金からそろえた。


「いつの間にか、私達お金持ちだねー」


 ユミーリアがパーティ資金を知り、感心していた。

 なにせまだ32万6900P(ピール)もあるからな。



 俺達は準備を整えた。


 次の日、ギルドに行って、イノシカチョウのレア肉を納品した後、護衛依頼を正式に受けた。


「あらあなた、お仲間がいたんですのね?」


 そこに先程のカマセーヌさんが、大きな胸をゆらしながら現れた。


 こうして見ると、ユミーリアといい勝負だった。


 ラブ姉>ユミーリア=カマセーヌさん、といった所か。

 コルット? 無いのがいいんだよ、言わせんな。



「それじゃあ、気をつけて行ってきて下さいね」


 俺達はラブ姉に見送られて、ギルドを出た。


 うむ、やはりラブ姉が一番大きいな。


 そんな事を思いながら、俺達はギルドを後にした。



 街を出た所で、カマセーヌさんが俺に引っ付いてきた。


「さあ、それでは参りましょうか、リクト様」


 俺の腕に、カマセーヌさんの大きな胸が押し付けられる。


「ふ、ふへへ」


 俺は思わず、顔がニヤけてしまう。


「り、リクト! 鼻の下が伸びてるよ!」

「そうだよおにーちゃん! ヘラヘラしないの!」


 ユミーリアとコルットに怒られた。



 それからというもの、カマセーヌさんは俺に引っ付いてきた。

 なぜいきなりこんな態度に?


 そして、ユミーリアとコルットは怒りっぱなしだった。

 なんとも気まずい。


 しかし、まさか俺にこんなモテ期が訪れるなんてな。


「リクト殿ー。これ、護衛依頼でござるからなー。デートじゃないでござるからねー」


 ランラン丸がうるさい。


「わ、わかってるよ!」


 とはいえ、今さら道中に出てくるモンスターは、俺達の敵ではなかった。


 なんとも平和な道中だった。



「そういえば、どうして俺を指名して、依頼したんだ?」


 俺は今さらだが、カマセーヌさんに気になっていた事を聞いてみた。


 今回の護衛依頼は俺達にとってはCランク昇格試験だが、そもそも俺を指名して護衛を依頼したのは、このカマセーヌさんだ。


 なぜ俺を指名したのか。

 そもそもなぜ俺の事を知っていたのか疑問だった。


「先日、勇者さんが商隊の護衛依頼をした時に、私も一緒にいましたの。そこで勇者さんに、リクト様のお話を聞いたのですわ」


 なるほど、また男勇者か。あいつ、ほんと口が軽いな。


「勇者様が大層うれしそうに語っていましたよ、お尻が光る不思議な人で、とても頼りになる人だって」


 何をうれしそうに語ってるんだあいつは。


「それで私、どうしても会ってみたかったので、もう一度キョテンまで来て、リクト様に護衛の依頼をしましたの」


 なるほど、俺に会う為にわざわざ戻ってきて、護衛依頼を出したと。


「どうしてそこまでするんだ?」


 単純な疑問だった。

 尻が光る変なヤツを見る為だけに、そこまでするだろうか?


「私にとっては、とても大事な事でしたの。それだけですわ」


 カマセーヌさんは、それ以上は答えなかった。



 あとは俺の腕に、自分の胸を押し付けていただけだ。


 つまり、今日の俺はとっても幸せだった。


「……」

「……」


 ユミーリアとコルットの視線がキツかった。途中からしゃべってくれなくなった。


 つまり、今日の俺はとっても不幸だった。



 目的地であるパッショニアまでは、まだ距離があったので、今日はここら辺で休む事になった。

 俺達は初めての野営の準備をする。


 だが残念な事に、俺のサバイバル技術はそう高くはなかった。


 結果、ほとんどユミーリアとコルットに任せる事になってしまった。


「す、すまん」


 情けなさで泣けてきた。


「私はよく、兄さんと一緒に、村で訓練してたから」


 ユミーリアの村ではこういった事を覚えるのは常識らしい。


「わたしは何度かお父さんと一緒に、修行の旅をした事があったから」


 コルットも見事な手際の良さだった。


 俺は今後の為にも、ちゃんと二人の動きを見て、覚える事にした。



「ほ、ほらリクト、ここは、こうするんだよ」


 ユミーリアが俺に教えながら、なぜか胸を押し付けてくる。


 まさか、昼間のカマセーヌさんに対抗しているのか? なんともラッキーだった。


「おにーちゃん、ここは、こうするんだよ」


 コルットも俺に教えながら、胸を押し付け……うん、押し付けられる胸が無かった。

 しかしこれはこれで可愛い。



 なんだかんだあったが俺達は無事、野営の準備を済ませ、晩ご飯を食べる事になった。


 今日はイノシカチョウのレア肉のスープだ。


「おいしい! おいしいですわ! なんですのこのお肉!?」


 カマセーヌさんが天に昇っていった。


 うむ、やはりレア肉は最高だな。



 俺達は早めに就寝する。


 だが、野営には見張りが必要だ。


 俺はここまで役に立っていなかったので、見張りを引き受けた。


 途中で交代してくれるとユミーリアが言ってくれたが、一晩徹夜するくらいなら慣れていたので大丈夫だ。


 これでも社畜だったからな。徹夜は友達さ。



 俺はひとり、見張りをしていた。


 ユミーリアがつけてくれた火の番でもある。


 こうして火をつけていれば、ほとんどのモンスターは寄ってこないんだそうだ。



 そういえば、こうして徹夜した時は、死に戻りのスタートはどうなるんだろう?


 たとえば明日死んだ場合、どこからやり直しになるんだろうか。


 できればこの依頼くらいは、無事に終わって欲しいものだが、何があるかわからないからな。




 そんな俺の不安は今の所、特に当たる事もなく、無事に目的地に着いた。


 情熱の街、パッショニア。

 歌と踊りの街、だそうだ。


 確か、3回目のリメイクで追加された街だったか。色々イベントが追加されたんだよな。

 まあ、本編には一切絡まなかったけど。


 しかし歌と踊りの街か。

 街の雰囲気もどことなく明るい……事はなかった。


 なんだ、ものすごくどんよりしている。


「あの、カマセーヌさん、なんか聞いていた街の印象とずいぶん違うんですけど」


 俺はカマセーヌさんに伺いを立てる。


「……ええ、その通りですわリクト様。今この街は、邪神の使徒によって邪教が流行り、皆歌と踊りを忘れてしまっていますの」


 うわ、やっぱりやっかい事だったんじゃないか。


 というかまた邪神の使徒か、ほんとどこにでもいるな、あいつら。


「さあ来てくださいリクト様、皆の目を覚まして欲しいのです」


 カマセーヌさんが、俺の手を引いてくる。


「いや、目を覚ますって、何をどうしろと?」


 俺の言葉を無視して、カマセーヌさんは俺の手を引いて、街の中心にある、大きな祭壇まで連れて行った。


 後ろからついてきたユミーリアとコルットも困惑している。


「リクト様、お願いします。私に力を貸して下さい」


 カマセーヌさんはそう言うと、いつの間にか集まっていた街の人たちに語りかけた。



「みなさん! 本日は無理矢理集めてしまってごめんなさい! しかし、聞いて欲しい、見て欲しいものがあるのです!」


 無理矢理って……見ると確かに、何人かはロープでしばられていた。


「あなた達が神とあがめる邪神、あんなものに惑わされてはいけません! さあ見なさい! これこそが、真の神なのです!」


 そう言ってカマセーヌさんは、俺の方を見る。


「さあリクト様、今こそあの光を、お尻の光を見せてあげてください!」


「え? 俺?」


 ここで話を振られるとは思わなかった。

 というか何をさせようとしているんだよ、カマセーヌさん。


 俺はいまいち話についていけなかったが、とりあえずゴッドヒールを使う事にした。


「ゴッドヒール」


 俺の尻から、激しい光があふれだす。


 その光は祭壇から広場を照らした。



「おお!」

「な、なんと美しい尻だ!」

「まさに神の光!」

「ああ! 心が洗われるー!」

「お! シリトじゃーん」

「撫でたい! 俺はあの尻を撫でたいぞー!」

「ぐあ! 消えていく、俺の中の邪悪な何かが!」

「なんて綺麗な光なんだ」



 人々が苦しんだり、よろこんだりしていた。


「やはり! 私の目に狂いはなかった! 素晴らしいですわリクト様! あなたのその神の尻の光で、邪神にまどわされた人々が浄化されていきますわ!」



 いや、ないから。

 俺の尻にそんな機能、ないから。あんたの目、狂ってるから。


 ていうかなんだこれ。

 なんなの? 俺、尻を光らせる為にここに呼ばれたの?


 カマセーヌさんと人々が盛り上がる中、俺はひとり、無表情でその光景を見つめていた。



「おのれ! 神を語る不届き者め!」


 いつの間にそこに居たのか、広場の中心で、覆面を被った男が叫んでいた。


 あれは、邪神の使徒の覆面だ。色は青。中間くらいのヤツか。


「邪神様の素晴らしさを広め、この街を征服しようとしていたというのに、邪魔をしおって! こうなれば本部から預かっていたとっておきを見せてやる!」


 おお、なんだかわからんが全部自分で説明したぞあいつ。

 わかりやすい敵だな。


 しかしなんだ、本部から預かったとっておきって?



 邪神の使徒は叫んだ後、走り去っていった。


「追いなさい! あの者を追うのです!」


 カマセーヌさんの号令で、何人かが邪神の使徒を追いかけた。



「カマセーヌさんって、ひょっとして偉い人?」


 ユミーリアがカマセーヌさんに質問していた。ちょうど俺も聞きたかった事なので助かった。


「ええ、私はこの街の長をしていますの。聞かれなかったから答えなかっただけで、隠していた訳ではありませんよ?」


 なんと、この街で一番偉い人だった。

 どうりでみんなが言う事を聞くわけだ。



 その時、邪神の使徒が逃げた先で、爆発音が鳴った。


 その中からなんと、大きなモンスターが現れた。


「そんな! まさかモンスターが入り込んでいたんですの!?」


 驚愕するカマセーヌさん。



 だが、俺とユミーリアは、それ以上に驚いていた。


「リクト、あれって……」

「ああ」


 忘れはしない。あの姿。



「ゴブリンクイーンだ」



「ゴオオオオオオ!!」


 ゴブリンクイーンが、咆哮をあげる。



 かつて、俺を何度も殺した、ゴブリンクイーン。


 その死の象徴が、再び俺の前に、姿を現した。



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