第10話 よろいはロマン

 やられた。はめられた!


 俺は完全にはめられた。ラブ姉と男勇者、それに……


「よっ! いいぞ尻の兄ちゃん!」

「さっすが尻魔道士様だぜ!」

「今日も良い尻だ」

「勇者様を頼むぜ! 尻の人!」

「良かったな、シリト!」


 ギルドの面々に……


「だから俺の名前はリクトだって言ってるだろうがあああ!」


 そう、俺はみんなにはめられて、女勇者であるユミーリアと一時的にではあるが、パーティを組む事になったのだ。



 マズイな。よりにもよってメインイベントにかかわる事になるなんて。


 どうしてこうなった?


 ……ラブ姉の胸のやわらかさに負けたのが敗因か。ちくしょう!


「あ、あの……リクト、本当にいいの?」


 ユミーリアが不安そうな顔でこちらを見てくる。


 ……良くない。


 俺がついていっても役には立たないし、万が一、俺がいる事で想定外のイベントが起きたらどうする?


 だが、みんなの前で引き受けてしまったからには、もう後には引けそうにない。



「……はあ、こうなった以上は、しょうがないか」


「り、リクト! それじゃあ!」


 俺は覚悟を決めて、ユミーリアに付き合う事にした。


「……ああ、こうなったらやってやるよ! ただし、俺は役に立たないぞ、いいんだな?」

「うん!」


 ユミーリアに満面の笑みが咲いた。


 ああ、可愛い。スッゲエ可愛い。超絶可愛い。何この天使。


「よ、よし! そうと決まれば、今日はお互い準備をして、明日に備えよう」

「わかったわ! 私もしっかり装備や道具を整えてくる!」


 そう言って、ユミーリアはトリプルテールをゆらして、駆け出していった。


 元気いっぱいなユミーリアが去り、後には俺の乾いた笑いが残った。



「ありがとう、リクト」


 男勇者が話しかけてきた。


「お前ら、ラブ姉とグルだっただろう? というか、お前がラブ姉に頼んだな?」


 俺は男勇者をにらむ。ラブ姉が率先してこんな作戦を立てるとは考えづらい。

 となると、男勇者やその他冒険者に頼まれたとしか思えない。


「あはは、ごめんね。あくまで協力……というか、一時的なお手伝いなら、引き受けてくれるかなって思って」


 まったく、こっちの気も知らないで、このノンキな勇者様は……!


 俺が心配しているのは、俺がかかわる事で想定外の事が起きないかって事なのに、俺をかかわらせてどうするんだよ! しかも大事なメインイベントに!


「……ラブ姉、ほんとに俺達二人でいいのか? というか、俺でいいの?」


 俺の質問に、ラブ姉がニッコリ笑って答える。


「はい、リクトさんなら何があっても大丈夫だと思います。最悪、何かあればユミーリアさんを連れて逃げ帰ってくださいね」


 何だこのラブ姉の俺に対する信頼感……


 俺ができる事といえば、ゴッドヒールくらいだぞ? それも外で使えば光につられてモンスターが寄ってきてしまう欠陥魔法だ。


 あとは、マイルームか。

 これは俺とランラン丸以外は知らないはずだが……


 ……マイルームか、いざとなればユミーリアと一緒に逃げ込むしかないか。

 今回、一時的とはいえパーティを組むんだから、ユミーリアもマイルームに入れるだろう。


「ユミーリアさんが無条件で言う事を聞く相手は、リクトさんしかいませんから」


 ニッコリとほほえむラブ姉……ああなるほど、そういう理由か。



「はあ……しょうがない、気持ちを切り替えて、早速今日の依頼を受けて、準備を整えるか」


 いい加減、防具が必要だな。さすがに布の服でゴブリン退治は危ないだろう。


「はい、そう言うと思って、用意してありますよ」


 ラブ姉はすでに、薬草採集の依頼を準備してくれていた。


「よし、それじゃあいってくるよ」

「気をつけて行って来てくださいね、リクトさん」


 俺はラブ姉の笑顔に見送られながら、ギルドを後にした。



「リクト殿! リクト殿!」


 急にランラン丸が騒ぎ出した。


「なんだ、どうした?」

「さっきの美少女! あれが女勇者でござるか!?」


 美少女といえば、俺の該当件数は1件だけだ。


「そうだ、名前はユミーリア、彼女が勇者だ」

「ユミーリア殿……」


 ランラン丸が何か考えている。


「どうした、何か気になる事でもあったか?」

「……リクト殿」

「ん?」



「拙者! あの子が気に入ったでござる! 絶対モノにするでござるよ! そしてマイルームに連れ込むでござる! そうすれば拙者も、お話しできるでござる!」


 なんだかいきなり鼻息を荒くしている。刀だから鼻無いけど。


「ど、どうしたんだよ急に?」

「一目惚れでござるよ! 拙者、彼女に一目惚れしたでござるー」


 は? 何言ってんだこいつ?


「お前、女だろう?」

「愛に性別は関係ないでござるよ! というわけでリクト殿! ぜひユミーリア殿を攻略するでござる!」


 駄目だこの刀……すでに手遅れか。


「あのなあ、お前には言っただろう! 彼女は勇者だから、俺はかかわれないの!」

「そんな事、関係ないでござる! それに、明日は彼女と組むのでござろう? チャンスでござるよ!」


 チャンスって、何のだよ!?


「リクト殿だって、ユミーリア殿の事が、好きなんでござろう?」

「うっ……」


 イエスかノーで言えば、パーフェクトイエスだ。大好きだ。


「……はあ、そうだよ、俺はユミーリアの事が好きだ。だけどな、言っただろう? 俺がかかわると、何が起きるかわからないんだ。最悪明日は……ゴブリンキングが現れるかもしれない」


 そう、本来のストーリー通りなら、勇者がランク昇格試験を受ける時には、必ず想定外のモンスターが現れる。それが最初は、ゴブリンキングなんだ。


 ゲームでは、邪神の使徒によって作られたゴブリンキングは一匹だけだ。


 だが、勇者が二人いる以上、もしかしたらもう一匹、出てくるかもしれない。


「ゴブリンキングでござるか、それは確かに、やっかいでござるなー」


「やっかいどころか、俺達じゃどう頑張っても倒せないぞ? ユミーリアの勇者の力が覚醒して何とかなるかもしれないが、それまでに俺達は死んでしまうかもしれん」


 何せ俺は、本来の勇者の仲間よりかなり弱いからな。


「今日これから、薬草を採集して、少しでもケモリンを倒そう。せめてレベルを上げて、防具を買わないとな」


「ふむ、それがいいでござるな。頑張るでござるよリクト殿!」


 俺はランラン丸のはげましを受けながら、元気草の生えている場所に向かった。




 元気草を採集し終わった後、俺はケモリンと戦っていた。


「うおおおおおお!」


 一撃でもケモリンの攻撃を食らうと、痛みで動きが鈍ってしまう。

 だから攻撃を食らう前に、何とかケモリンを倒す。これが俺の戦法だった。


 さいわい、ランラン丸の攻撃力のおかげで、ケモリンは一撃で倒す事ができる。


 俺はケモリンと一対一になる様に、周囲に気を配り、絶対に攻撃を受けない様に立ち回る。

 正直素人の動き丸出しだが、それでも俺は、必死にケモリンと戦った。



 そうして6匹目のケモリンを倒した所で、俺のステータスカードが光った。


「はあ、はあ……よっしゃあ! きたぞきたぞ! レベルアップだ!」


 俺はレベル3になった。

 HP27が、MPが35、冒険力が140になった。


「おおお! ついにMPが30を超えたぞ! これで一日に2回、マイルームが使えるぞ!」

「おめでとうでござるよ、リクト殿!」


 きた、俺の時代きた! レベル3。まだまだ小さな一歩だが、確実に強くなっている。


 レベルが上がるのって、なんでこんなにうれしいんだろう?

 やっぱり目に見えて数字が上がるのがいいんだろうな、きっと。


「よぉしランラン丸! 戻って防具を買いにいくぞ! それでさらにパワーアップだ!」

「合点承知でござる!」


 俺は意気揚々と街に戻った。




「ラブ姉! 換金よろしく!」


 俺はラブ姉にケモリンの魔石6個とカバンにパンパンに詰め込まれた元気草を渡した。


「はい。今日も元気草が大量ですね、素晴らしいですよリクトさん。ギルドとしても助かっています」

「いえいえ、たまたまたくさん生えている場所が見つかっただけですよ」


 まあ、マイルームのマップのおかげだけどな。


「では、元気草の報酬が30P(ピール)、ケモリンの魔石が12Pで、42Pですね」


 よし、これで残り所持金が44Pになったぞ。


「それじゃあ俺、これから防具を買いにいってきます!」

「はい、気をつけて行って来てくださいね」


 ラブ姉の笑顔とゆれるラブルン……まあ今回はアレに騙されてしまったんだが。


 とにかく幸せの塊を見届けて、俺はギルドを出た。



「よし! 防具を買うぞ!」

「何かアテはあるのでござるか?」


 所持金は44Pか。

 俺はゲーム内の防具の値段を思い出す。


「……あれ?」


 そこで思い当たる。


「どうしたでござるか?」

「……いや、44Pで買える防具って、布の服と丈夫な服しかなくね?」


 布の服は今着てるし、丈夫な服では、ぶっちゃけ今着ている服とそう変わらない。


「と、とりあえず防具屋に行ってみよう! 考えるのはそれからだ」


 俺は防具屋に向かった。




「いらっしゃい」


 いかつい筋肉モリモリの親父が店員だった。目がこえぇ。


 俺は親父と目を合わせないようにして、メニューを見る。


《布の服 2P》

《丈夫な服 30P》

《皮のよろい 120P》


 ああやっぱり、武器と防具って高いんだなぁ。


 俺はガックリとうなだれた。


「なんだ兄ちゃん、どうした?」


 いかつい親父が話しかけてくる。顔が怖いがしょうがない、話してみるか。


「いえ、明日急遽防具が必要になったんですが、手持ちが全然足りなくて……」


 俺は防具はあきらめて、とりあえず予備の服とズボン、パンツと靴下だけでも買うかと思案した。


「ほう、わけありの様だな? なら、こいつはどうだ?」


 そう言って親父は、奥から古いよろいを出してきた。


「それは?」


 ボロボロの、皮のよろいの様だった。


「つい先日、処分品として持ってこられた皮のよろいだ。処分品だからボロいが、今の布の服よりはマシだろう。これなら格安にしておいてやるぜ?」


 おお、なんというグッドタイミング!


「ただし、あくまで今着てる服よりはマシって程度だ、本来の性能じゃないからな、過信するんじゃないぞ?」


「あ、ああ。ありがとう。それで……お値段の方は?」


 格安といっても、あくまで皮のよろいだ。それなりの値段はするだろう。足りるだろうか?


「そうだな、16Pでいいぞ」

「安っ! それがいい! 売ってくれ!」


 俺は中古の皮のよろいを購入した。


 あとついでに、布の服とパンツ、靴下を2着ずつ買った。


 全部で24Pだった。


 残り所持金が20Pになった。



 早速、皮のよろいを装備してみた。

 皮のよろいは肩と胴体を守る様になっている。素材が皮なので軽くて動きやすい。


 ちょっと皮が臭うが、なんだか、一気に強くなった気がする。


「ぐふふふっ」

「やだ! リクト殿ったらニヤニヤして気持ち悪いでござる!」


 ランラン丸の言葉も気にならない。今の俺は最強なのだ。戦士リクトなのだ!



 なんて戦士気分を味わっていると、日が暮れてきたので俺は道具屋に向かった。


 念の為、まかいふくーんを購入しておいた。



 俺は現在の所持品、所持金を確認する。


 かいふくーんが2つ、まかいふくーんが2つ、残り所持金は5P。



 これで今できる準備はできたはずだ。


 あとは明日、ただのゴブリン退治で終わる事を、祈るしかない。



 俺は今日は風呂は浴場で済ませ、残り3Pで飯を食った。

 所持金は0になった。



 俺は寝る前に、念の為、ゴブリンキングが現れた時の事を想定する。


 ゴブリンキングの行動パターンは、単体攻撃と全体攻撃のぶんまわしだ。

 勇者は攻撃と回復魔法、戦士は攻撃、魔法使いは魔法で攻撃、僧侶は最初に防御力を上げる魔法を使い、後は回復に専念する。これがセオリーだ。


 だが、俺達にはそんな戦法は無理だ。ユミーリアは攻撃に専念し、俺が回復アイテムとゴッドヒールで補助、ゴッドヒールの光りにつられて現れるモンスターを撃退するしかない。


 後はユミーリアの、勇者の覚醒を待つ。そうすれば、勝てるはずだ。


 最悪は、マイルームに撤退だ。そのままギルドに帰って、誰かにゴブリンキングの討伐を頼むしかない。



 俺はそこで思考を止め、ゆっくり眠った。




 朝起きて、朝食をしっかり食べる。


 新品の布の服と中古の皮のよろいを身にまとい、ランラン丸を装備して、ユミーリアの待つ、ギルドへ向かった。



 ユミーリアは、すでにギルドの前で待っていた。


 その金色の、トリプルテールをなびかせながら。




 俺とユミーリアの、はじめての冒険が、始まろうとしていた。





リクト

レベル:3 HP:27 MP:35 冒険力:140

職業:素晴らしき尻魔道士

能力:ゴッドヒール、マイルーム、ステータスサーチ

装備:ランラン丸、皮のよろい、布のズボン、皮のカバン

所持品:かいふくーん×2、まかいふくーん×2

所持金:0P

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