第94話 魔界無双

 どんより紫色に曇った空。


 右を見ても左を見てもモンスター。


 俺達は今、魔界に来ていた。


「ここが魔界か」


 俺達は船や城を空飛ぶ乗り物に変える事が出来る不思議な石、飛変石(ひへんせき)を求めて魔界にきた。


「これはまさに、想像通りの世界だな」

「モンスターがいっぱいいるよー」


 エリシリアが緊張した表情を見せる一方、コルットはワクワクしていた。


「岩とか植物は、私達の世界とあんまり変わらないんだね」

「細かい違いはありますが、おおむね同じ様な進化を遂げていると思われます」


 ユミーリアが近くの岩に触れ、マキが解説していた。


 みんなそれぞれ、魔界という世界を感じていた。


「ところでマキ、飛変石はどこにあるか、わかるか?」

「申し訳ありません。伝説には聞いた事はありますが、具体的にどこにあるかはわかりません」


 マキが頭を下げる。

 まあ、予想通りだ、問題ない。


「よし、それじゃあまずは……マイホーム!」


 俺の尻がピンク色に光り、尻の間から扉がニュッと出てくる。


 どうやら魔界でもマイホームは呼び出せるみたいだ。


「みんな、マイホームに入ってくれ」


 俺達はマイホームに入り、扉を閉じる。


 そして、マップを見る。


 マップは魔界のマップに切り替わっていた。


「よし、こっちでもマップ機能は使えるみたいだな」


 ふと見ると、マップの端っこの方に切り替えボタンが出来ていた。


 押してみると、元の世界のマップに切り替わった。

 もう一度押すと、魔界のマップに戻る。


 あれ? もしかしてこれって。


 俺は先ほど、魔界に出た所を出口に設定してみる。


 その後、マップを切り替えてキョテンの街のギルドを出口に設定する。


 どちらも設定できた。


 つまりだ、マイホームのこの機能を使えば、元の世界も魔界も行った事がある場所ならどこにでも行けるという事だ。


「……マキ、どうしよう? これ、多分あの穴が閉じても、魔界と元の世界を行き来できるぞ?」


 俺の言葉に、マキが目を見開く。


「さ、さすがはリクト様です。こうも簡単に異なる世界を繋いでしまわれるとは、感服致しました」


 うん、我ながらビックリだ。


「おっと、今はそれどころじゃなかったな。飛変石を探さないと」


 俺は魔界のマップに切り替えて、マップ上に飛変石の場所を表示させる。


「ここか。なあマキ、ここがどこかわかるか?」


 俺はマップに示された光を指差した。


「ここは、天魔山(てんまざん)ですね。その昔、空に浮いていた山と言われています」


 オイオイ、思いっきりあからさまじゃないか。


「つまりはあれか、この山に飛変石があるから、昔浮いていたと?」

「……なるほど、その通りかもしれません。盲点でした、さすがはリクト様です」


 いや、普通誰でも気付くと思うんだけど? マキってちょっとどこか抜けてる所があるんだよな。


「よし、そうと決まればこの天魔山に行こう」


 俺がそう意気込むと、エリシリアが待ったをかけた。


「しかしリクト、そうは言っても外はモンスターであふれかえっているんだぞ? どうやってそのなんとか山まで行く気だ?」


 俺は動きを止める。


 確かにエリシリアの言う通り、この魔界はそこら中にモンスターが居た。


 恐らく山に向かうまでの間も大量のモンスターが襲い掛かってくるだろう。


「おにーちゃん!」


 コルットが手をあげる。


「はい、なにかなコルット?」


「わたしが、モンスターを全部たおすよー!」


 ……ああうん。なるほどな。さすがコルット、素晴らしい作戦だ。


「いやいや、コルット、お前が強いのは私も認めるが、相手は無数のモンスターだぞ?」


 エリシリアがこめかみをおさえながらコルットを説得しようとした。


 だが、俺はそれを止める。


「いや待てエリシリア。案外それが正解かもしれんぞ?」


 俺の言葉に、エリシリアが首をかしげる。


「どういう事だ?」


「まず確認だ。なあマキ、今この魔界に、六魔将軍より強いモンスターや魔族は居るか?」


 俺の問いに、マキは頭を下げる。


「いいえ、おりません。その様な者がいれば、魔王と共に私達の世界に向かっているはずです」


 やっぱりそうか、これまた予想通りだ。


「つまりだ、さっき倒した六魔将軍より強い敵は居ないって事だよな? どうだエリシリア、さっきの戦いを見て、六魔将軍は強いと思ったか?」


 エリシリアは目を閉じて考える。


「いや、動きも遅かったし、脅威には感じなかったな」


「だろう? つまりだ、向かってくるやつはみんな六魔将軍以下なんだから、コルットの言う通り全部ブッ飛ばせばいい。まっすぐ山に向かって歩いていけばいいんだ」


 俺の答えに、エリシリアが目を開き、うなずいた。


「なるほど、言われてみれば確かにそうだな」

「だろう?」


 俺達はニッコリと笑う。


「よし、それでいこう」


 俺とエリシリアはお互いの手をにぎりあった。


「みんなもそれでいいか?」


 俺の言葉に、みんながうなずいた。


「うん、私はそれでいいよ」

「わーいバトルだー!」

「いささか脳筋過ぎるかと思われますが、警戒しすぎるのもどうかと思われる状況ですので、よろしいかと思われます」


 みんな反対意見は無いみたいだ。


 こうして、俺達の方針が決まった。


 作戦、ガンガン進もうぜ!



 俺達は外に出て、マップで見た天魔山を目指した。


 早速モンスターが襲い掛かってきたが、コルットが瞬殺する。


「おにーちゃん、ここのモンスター、弱い」


 モンスターはコルットの蹴り一発で消滅していた。


 早速コルットが残念そうだった。



 その後も次々とモンスターが出てくるが、どれもみんな一撃で倒していく。


「マキ、魔界のモンスター、弱すぎね?」

「いいえ、ユミーリア様達が強すぎるのです。私ひとりなら苦戦していますよ?」


 俺とマキはほとんど何もしていなかった。


 モンスターはみんなユミーリア達が瞬殺してくれている。


 前をユミーリアとコルットが歩いて、モンスターが現れれば瞬殺し、奇襲や取りこぼしたモンスターはエリシリアがムチで一掃してくれる。


 まあ、六魔将軍でさえ、50倍の重力で立つのがやっとの俺でも倒せるレベルだからな。

 100倍の重力で修行して、今や桁違いの強さになっているユミーリア達なら、ここのモンスターも楽勝なんだろう。


 その内、ユミーリア達の強さを見て、モンスターは近づいてこなくなっていた。


 しばらくして、俺達は天魔山に着いた。


「アッサリ着いたな」

「ユミーリア様達のおかげですね」


 ユミーリア達はタオルで汗を拭いていた。

 女の子の汗って良いよね。


「あらリクト様、もしなんでしたら、いつでも私がお相手しますよ?」


 マキが上目づかいで見つめてくる。


「そ、そんな場合じゃないだろ、まったく」


 俺は急いで目をそらす。

 油断するとマキはすぐに攻めてくるから困る。


「残念……まあ、まずは飛変石を手に入れてから、ですね」


 俺達は山を見上げた。


 ササゲ火山くらいはあるかな? そこそこ大きい山だった。


「さて、あとはこの山のどこに飛変石があるかだが……」

「リクト、もしかしてあれじゃない?」


 ユミーリアが山の表面を指差した。


 そこには、青色の石が埋まっていた。


「マキ、どうだ?」

「お待ち下さい……シラベール!」


 マキが魔法を唱える。


「マキ、鑑定魔法が使えたのか?」


 エリシリアが驚いていた。


 ほほう、これが鑑定魔法か。

 ゲームにはなかった魔法だ、なんだか新鮮だな。


「間違いありません、あれが飛変石です」


 マキの鑑定が終わったみたいだ。


「よし、ならば任せろ!」


 エリシリアがムチをうならせる。


 ムチで山の表面を削り、青い石を弾き出す。


 俺は落ちてきた石を両手で受け止めた。


「よっと、さすがだな、エリシリア」

「ふふ、これくらいはたやすいものだ」


 エリシリアがドヤ顔を見せる。

 うんうん、このエリシリアのドヤ顔がまた可愛いんだよな。


 俺がエリシリアのドヤ顔を見ていると、エリシリアの顔が赤くなる。


「な、なんだリクト? 何をニヤニヤしている」

「いやぁ、別に?」


 可愛いなあ、ほんと可愛い。

 しかし口に出すのは恥ずかしかったのでやめておく。


「とりあえず、これ1個でいいのか?」


 山の表面にはまだいくつか青い石が残っている。


 俺達の船を浮かせるのには、どれくらい必要なんだろう?


「私も詳しくは存じません。ひとまずピーチケッツ号に取り付けてみてはいかがでしょう?」


 それもそうだな。


「よし、一旦パッショニアに戻ろう。そこで船に取り付けてみて、駄目ならまたここに来よう」


 一度来た場所ならまた来れるからな。


 俺はマイホームを出して、パッショニアに向かった。



 パッショニアに着いた俺達は、早速船を出す為に港に向かった。


「すみませーん! 船を出したいんですけど、いいですか?」

「あん? いったい誰……」


 振り向いた船員が、俺を見て驚いた。


「こ! これは! 素晴らしき尻魔道士様ではありませんか!」


 ハハー! と船員が土下座した。


 それに気付いた周りの人達も、一斉に土下座し始める。


「お、おいおい? どうなってるんだ?」


 俺は困惑していた。

 ユミーリア達も驚いている。



「これはこれはリクト様!」


 ひとりの女性が走ってこちらに来た。


 見覚えのある褐色巨乳のお嬢様。この街の長でもある、カマセーヌさんだった。


「申し訳ありません、出迎えもせず」

「いやいやいや! こっちが勝手にきただけだから!」


 頭を下げるカマセーヌさんに俺はさらに困惑した。


「何を仰るのです! いまやリクト様はここパッショニアだけではなく、セントヒリア、ウミキタを救った救世主様! そして神のごときそのお尻の輝きで、人々を魅了する素晴らしき尻魔道士様! ピンクのコートを着た救世主といえば、このパッショニアでは知らぬ者はおりませんわ!」


 カマセーヌさんが大げさに語った。


 なんというかまあ、話が大きくなっているな。


「ところでリクト様、本日はどの様なご用件で?」


 おっとそうだった。

 あまりのインパクトに忘れる所だった。


「ここで船を出したいんだけど、いいかな?」


 俺はそう言って港を指差した。


「船を、出す、ですか? 船をご用意すればよろしいのでしょうか?」


 カマセーヌさんが首をかしげる。


「いや、そうじゃなくて……まあいいか、ちょっと失礼するよ」


 俺は港の、あいているスペースに移動する。


 そして海に尻を向けて……


「あー、すまん、みんな目を閉じていてくれ」


 カマセーヌさんや船員達はの頭の上にハテナマークが浮かばせるが、すぐに何かあるのだろうと、素直に目を閉じてくれた。


 ユミーリア達は理由を察して、苦笑している。


「よし、出ろ! ピーチケッツ号!」


 俺がそう言うと俺の尻が光り、プリッと可愛い音がして、尻から船が出てきた。


「プフッ、プフフッ、プーハハハハ! 駄目でござる! やっぱり何度見ても、これだけは我慢できないでござる! アハハハハ!」

「ていっ!」


 俺は勢いよく、ランラン丸を投げた。


 また海に投げると面倒くさいので、今回は船の上に乗るように投げた。


 みんなが目を開けて、ピーチケッツ号を見る。


「これは、いつの間に!?」


 カマセーヌさんや他の船員達が、突然現れたピーチケッツ号を見て、驚いていた。


「よし、マキ! 早速、飛変石を取り付けてくれ」

「え?」

「え?」


 マキがなぜか驚いていた。

 そしてそんなマキの反応に、俺も驚いた。


「……どういう事だ? マキ、飛変石の取り付け方、というか使い方は、知らないのか?」

「は、はい。存じあげません」


「……」

「……」


 え? うそ、どうすんのこれ?


 俺は手元の飛変石を見る。


 試しに船に石を近づけてみたり、船の上に置いたりするが、何の反応も無い。


「数が足りないとか?」

「申し訳ありません、それすら不明です」


 マジか。


「鑑定魔法は?」

「それがどういう物かわかるだけで、使い方までは、わかりません」


 なんとも使えない魔法だった。


「えっと、今度はどうされましたの?」


 カマセーヌさんが俺達に声をかけてくる。


 ダメ元で、聞いてみるか。


「この、飛変石の使い方がわからないんだ。何か知ってる? カマセーヌさん」

「飛変石、ですか」



「飛変石じゃと!?」



 いつの間にか出来ていた人垣の後ろの方で、甲高い声が聞こえた。


「ちょ、ちょっとどいてくれ! ええい通すのじゃ!」


 人々がざわめき始める。


 そうして人々をかきわけて出てきたのは……長い緑色の髪をなびかせる、見た目20代くらいの長身の女性だった。

 俺達の中で一番身長が高いエリシリアよりも、大きい。


 そしてもちろん、ゆれる二つの果実も、でかかった。


「あ、あなたは!」


 カマセーヌさんがその人を見て驚いていた。


 その人は、自らを指差し、ニカッと笑って声高に叫んだ。


「そう、わしじゃよ!」



 ……誰だよ。



「どうしてあなたがここに?」


 カマセーヌさんが疲れた顔で、女性に話しかけた。


「なに、ピンクの救世主がきていると聞いてな、それを見にきたんじゃが……飛変石というなつかしい名前が聞こえたんで、出てきたのじゃよ」


 長身の女性は、ズカズカとこちらに近づいてくる。


「お主がピンクの救世主じゃな? そしてその手にあるのは、飛変石じゃの?」


 女性が俺の手の中にある飛変石を指差す。


 近くで見るとほんとにでかい。何がとは言わないがほんとでかい。


「なつかしいのぉ。昔はこの辺りでもよく見たもんじゃ」


 よく、見た?


「あの、もしかして、この石の使い方、知ってる?」


 俺がそう聞くと、女性は豪快に笑った。


「ハッハッハ! もちろん、知っておるとも! わしを誰じゃと思っておる?」


 いや、だから誰なんだよ。


「そう、わしじゃよ!」


 女性は再び、ニカッと笑って自身を指差した。


「ああもう! だから誰なんだよ!?」


 俺はついに我慢できなくなってツッコミを入れてしまった。


「む? なんじゃお主、わしを知らんのか?」

「知らないよ! いいから自己紹介くらいしてくれ!」


 なんかアレだ、この人、疲れる。


「そうかそうか、わしが誰か聞きたいか! ならば教えてやろう! わしはエルフとドワーフの間に生まれた超天才! エルフの知識と寿命、そしてドワーフの技術を持つハイブリット! 人はわしを、エルドワーフと呼ぶ!」


 エルドワーフさんが声高にそう叫んだ。


「ちなみに、エルドワーフというのはわしの名前ではないぞ? わしがつけた最高にカッコイイ、わしの種族名じゃ」


 そうなのかよ! ええいまぎらわしいわ!


「わしの名はアーナ。史上最高の天才じゃ、覚えておけ」


 そう言って、アーナは俺の手から飛変石を取り上げる。


「お、おい」

「なーに任せておけ。この船を飛べるようにしたいのじゃろう?」


 アーナは俺達の船、ピーチケッツ号を見上げる。


「できるのか?」

「ふん、当たり前じゃ! わしを誰だと思っておる!」


 そして再び、アーナは自身を指差す。


「そう、わしじゃよ!」


 うん、やっぱりこの人、なんか疲れる。



 変な人にかかわってしまったと、俺はため息をついた。


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