第159話 最後の戦い、始まる。

 ラスボスである邪神の居るラストダンジョン。


 このダンジョンは邪神の力によって空間がねじ曲げられている為、岩のダンジョンや炎のダンジョンといった様々なフロアが存在している。


 俺達は第四フロア、水のダンジョンにたどり着いた。


 ……はずだった。


「さ、寒い」


 第三フロアから階段をおりて出た所は、一面……雪景色だった。


「カイテキス!」


 マキが魔法を唱える。

 俺達の周囲の温度が適温に変わる魔法だ。


「す、すまんマキ」

「どういう事でしょうか、確か第四フロアは水のダンジョンと聞いていましたが?」


 マキの言う通り、本来第四フロアは水のダンジョンのはずだった。

 しかし、俺達の目の前に広がるのは水ではなく、雪のダンジョンだった。


「ふむ、リクトよ。確かこのダンジョンは、邪神の力によって空間がねじ曲げられていると言っておったな?」

「ああそうだ」


 アーナが両手を広げて何かを感じ取っている。


「なるほどの、そういう事か」


 さすがはアーナだ、何かがわかったらしい。


「アーナ、どういう事なんだ?」

「うむ……わからん! わからんという事がわかった!」


 俺は思わずずっこける。

 なんだよそれ、感心して損した。


「ここに居てもしょうがない、とにかく進むしかないだろう」


 エリシリアがそう言って歩き出す。

 確かに、エリシリアの言う通りだ。ここで立っていても何も始まらないしな。


「よし、エリシリアの言う通りだ。みんな行こう!」

「おー!」


 コルットが元気よく手をあげて返事をする。


 しばらく歩くと、モンスターが現れた。


「げ! あれは!」


 マホがモンスターを指差した。


「シルバーオークにシルバースライムよ! どっちも相手を即死させる魔法を使ってくるわ! に、逃げましょう!」


 そ、即死魔法だと!?

 俺達の前に、シルバーオークとシルバースライムが大量に押し寄せてくる。


「確かに、やっかいな相手だな」


 エリシリアが俺達の前に出る。


「え、エリシリア! 危険だ!」

「心配するな、私に考えがある」


 エリシリアはモンスターの群れに向かって走り出すと、光のムチを取り出して大きくふるった。


「はあああ!」


 エリシリアの光のムチが、モンスターを次々と倒していく。

 モンスターが近づいて魔法を使おうとしても、エリシリアのムチの距離の方が長い為、モンスターは近づく前に倒されていく。


 気がつけば、あっという間にモンスターは全滅していた。


「す、すごいなエリシリア」


 俺の言葉に、エリシリアは顔を赤くして頬をかく。


「こ、この手の敵は、魔法が届く距離の外から倒せばいいんだ。私のムチなら範囲が広いから、やられる前に倒せるからな」


 なるほど、やられる前にやれ作戦だったのか。まあそれ、エリシリアの光のムチでしか無理だけどな。


 脳筋だなんて言ってはいけない。

 俺達はこうしてエリシリアに助けられたのだ。


 即死魔法とか、間違いなく俺にとってはデッドポイントだっただろう。危ない危ない。


 それにしても……水のフロアから雪のフロアに変えたり、即死魔法を使うモンスターを配置してくるとは、邪神のやつめ、俺を本気で殺しにかかってるな?


 いいだろう、必ずたどり着いて倒してやる!


 俺は決意を新たにする。



 エリシリアのおかげで、俺達は誰も犠牲になる事なく第四フロアの奥にたどり着いた。

 第四フロアのボスであるフィリスは先ほど倒したから、このフロアのボスは不在だった。


 いよいよ最終フロアだ。

 最後の門が開く。


 俺達は奥に続く階段をおりていく。


 階段は真っ暗だったが、魔法使いの光の魔法が周囲を照らした。


「リクト、あんたもお尻、光らせなさいよ」

「いや、俺のは逆にまぶしすぎると思うぞ?」


 魔法使いはジト目で俺を見て、それもそうねと言って階段をおりていった。


 なんか、そう簡単に納得されるとそれはそれで微妙な気分だった。



 階段をおりると、そこは教会の様な場所だった。

 かなり地下のはずなのに、窓から日の光が差し込んでいる。


 長イスが並び、その奥には大きな邪神の像がたっていた。


 邪神の像は、クエファンの邪神の姿そのものだった。

 大きな2本の角にさけた口、腕が6本に翼も6枚。そして巨大な4本のしっぽ。


 今にも動き出しそうな不気味な像だった。


 いや、実際にアレが今から動くのだ。

 ゲームだとあの像が割れて、中から邪神が出てくる。


「よし、先手必勝といくか!」


 俺はランラン丸を抜いて、天にかかげた。


 気を集中すると、二つのピンク色の丸い気ができていく。


「みんな下がってろ! くらえ、シリブレード!」


 俺は刀をふるって、二つの丸いピンクの気を邪神の像へと放つ。


 ズドン、と大きな音がする。

 俺のシリブレードを受けた邪神の像は砕け散り、∞のピンク色のラインだけが残った。


 ……あれ? 邪神は?


 俺はあまりのあっけなさに、キョトンとしてしまった。

 ま、まさか、これで終わりなのか?


「あ、あはは。勝っちゃった」


 なんともあっけない幕切れだった。というか、本当に終わったのか?



 その時、ピシッと音が鳴った。



「……っ! 油断するな、リクト!」


 エリシリアが叫びだす。


 なんと周囲の長イスの下に黒い闇が現れて、イスを飲み込んでいった。

 窓から差し込んでいた日は消え、周囲は暗闇に包まれる。


 そして、先ほど破壊した邪神の像が、うっすらと光り始めた。



「相変わらず、ふざけた男だ」



 俺達の居る空間全体に、低い声が響いた。


「じゃ、邪神か!」


「そうだ」


 周囲の黒い闇がうずまいて、邪神の像に集まっていく。

 粉々に砕け散った邪神の像はその姿を取り戻していき、邪神像の目が赤く光る。


「くっ!」


 やはり、全然終わりではなかった。


 邪神の像が赤く光り輝き、やがて邪神の像にヒビが入り、中から黒いモノが現れる。



「ガアアアアア!」



 邪神の像から、本物の邪神が現れた。


 邪神はその6枚の羽をはばたかせながら、宙に浮いている。



「我は、邪神、この世の全てを破壊するものなり」



 威圧的な声に、一瞬心がふるえた。

 しかしひるんではいられない。


 俺達はそれぞれ武器を構える。



「勇者よ、姫よ、武を極めんとする者よ、そして異世界よりきた者よ! よくぞきた」



 邪神が腕の一本を上に向ける。

 すると周囲の黒い闇が、邪神がかかげた腕の上に集まっていく。


「くっ!」

「クハハハ、見るがよい。神の使いである貴様の力は得られなかったが、神が引き寄せた世界の邪神の力を集める事によって、我は究極の力を手に入れたのだ」


 神の使いってのは、俺の事か?

 あと、神の引き寄せた世界の邪神の力って、何の話だ?


「察しが悪いな神の使徒よ、貴様はすでに気付いているのではないのか? 我が力がより強大になっているその理由に」


「……お前が、俺が死に戻りする度に神様の力をかすめとっていたのは知っている」


 そう、この邪神は邪神のかけらから作られた俺から、神様の力を少しずつ奪い取っていっていたらしいのだ。


 それに気付いたからこそ、俺はこれ以上神様の力を得られなくなって、死に戻りができなくなってしまった。


「クハハハ! それだけではない。我はすでに元の邪神ではない。貴様の為に神が引き寄せた世界の邪神と、融合したのだ。貴様がその刀とひとつになるようにな」


 融合、だと?


「リクト、どういう事なの?」


 ユミーリアが俺を見る。


「こいつは、ユミーリアの物語の世界の邪神だが、エリシリアの世界にも、コルットの世界にも、マキの世界にも、プリムの世界にも邪神が居たんだ。こいつの言う事が正しければ、こいつはそれぞれの世界の邪神と融合……合体した事になる」


「その通りだ」


 邪神が腕の一本を、こちらに向ける。

 そしてその腕から黒い波動が放たれた。


「ぐあああ!」


 戦士が吹き飛ばされ、壁に激突して落ちて、気を失った。


「セン!」


 僧侶が戦士に駆け寄る。


「はあっ!」


 邪神はもう一本の腕から、再び黒い波動を僧侶に向けて放つ。


「ソウ!」

「え?」


 ユウが僧侶の前に飛び込んで、黒い波動を受けて吹き飛んだ。


「ぐああああ!」

「ゆ、ユウ!」

「この!」


 僧侶が叫んでユウと戦士に駆け出した。

 魔法使いは邪神をにらんで、魔法を放つ。


「くらいなさい! バーニングフレイム!」


 魔法使いの杖から炎が放たれる。


「カアッ!」


 だが、邪神は大きく開いた口から息を噴き出して、炎をかき消した。


「う、うそ!?」

「その程度か、勇者の仲間よ。やはり我が敵は……」


 邪神が魔法使いから視線をそらす。


 その視線の先には、ユミーリアとエリシリアが居た。


 ユミーリアとエリシリアはすでに邪神に向かって駆け出していた。

 邪神に近づき、剣を振り上げ、ムチをしならせる。


 邪神は黒い波動でユミーリアの剣を受け止め、大きなしっぽでムチを弾き返す。


「たあっ!」


 そこにコルットが渾身の突きを放つ。


「ぐうっ!」


 コルットの突きは邪神の腹にヒットし、邪神がうめき声をあげる。


「ガアアアッ!」


 しかし邪神は大きく咆哮し、身体中から黒い波動を放出した。


「きゃっ!」

「わわっ!」


 ユミーリア達は黒い波動に吹き飛ばされる。

 しかしうまく着地して体勢を整える。


 さすがは邪神だ、この三人の攻撃を防ぎきるとは、さすがはラスボスだ。


「クハハハ、やはりな、貴様らは特に力をつけている様だ。多数の邪神と融合した我と互角……いや、それ以上とはな」


 邪神が浮き上がり、再び全身から黒い波動を放つ。


「やはり……決着はお前とつけるしかないようだ」


 邪神が大きく手を広げる。

 邪神から放たれた黒い波動は大きく回転し、気付けば俺の周りに近づいてきた。


「くっ!」

「リクト!」


 ユミーリアが叫んでこちらに来ようとするが、黒い波動にはばまれる。


「うおっ!」


 黒い波動に包まれた俺の視界が真っ暗になる。



 気付けば俺は、真っ黒な空間に居た。

 目の前には、邪神が浮かんでいる。


「クカカカ、ここは我が力が作りし暗黒空間だ。これで我と貴様は一対一だ。貴様が死ねば、この世界の希望はなくなるだろう」

「俺が死ねば、希望がなくなる?」


 どういう事だ?


「俺は別に、世界の希望になんてなった覚えはないぞ?」


「気付いておらんのか? 今や貴様はこの世界の人間にとって神同然であり、多くの者の希望となっている。確か……シリト教といったか?」


 え? なに? 今ここでその名前が出てくるの? というかいい加減その名前変えてほしいんだけどな。


「考えたものだ。本来の神でもなく、我の様な邪神でもなく、新たに神となり、人々の信仰を集めるとはな……さすがの我もビックリしたぞ?」


 いや、別に俺は自分が神になろうと思ったわけじゃないんだが?

 何がさすがなのかサッパリわからなかった。


「だが、それも逆効果だったな、貴様が死ねば、それだけでこの世界の人間は絶望に包まれる。我は勇者を倒さずとも、貴様さえ倒せばそれでいいのだ!」


 邪神が大きく6本の腕を広げる。


 俺は静かに、ランラン丸を鞘から抜いた。


「貴様を初めて見つけたのは、偶然だった。ある日、意思を得た我は、他の世界の事を探っていた。そこで我は架空の存在である事をしった。架空の世界の邪神である事もな。いったい何の為に生み出されたのか、考えていた。そんな時、貴様の魔力を見つけたのだ」


 邪神が語りだす。


 だが、俺がそんな話に付き合ってやる義理は無い。


「それが、どうした!」


 俺は駆け出してランラン丸を振るう。

 邪神は俺の刀を腕で受け止めようとするが、ランラン丸はそんな邪神の腕を斬り落とした。


「ちいっ!」


 邪神が飛び上がり、すぐさま斬られた腕を再生させる。


「貴様の魔力は我と波長の合うものだった。意思を得ただけの我が完全な存在となる為には、貴様の魔力が必要だと思ったのだ」


 邪神が腕の一本を振るい、こちらに黒い気の塊を飛ばしてくる。

 俺はそれを避けて、邪神に近づいた。


「だが、そこで邪魔が入った。貴様の魔力の源である尻を、神が隠したのだ」


 ……もしかして、あの時の痴漢にはそういう意味があったのか?


 神様は俺の尻を撫でるフリをして、俺の尻を守っていた? というかなんで尻なんだよ、神様が俺の尻をさわったから俺の魔力は尻から出るようになったんじゃないのかよ?


 ま、まさか俺の魔力って、最初から尻に集まってたって事か?


「我はあきらめず、貴様を取り込もうとした。だが、あろう事か神のやつめ、我の一部を切り取り、それを元にこの世界に貴様を転生させたのだ」


 そうか。それがつまり、俺か。


「正直、いい迷惑だ!」

「まったくだ、大人しく我に取り込まれていれば良かったものを、神のやつめ」

「いや、俺が迷惑だって言ってるのは、お前だ!」


 俺はランラン丸で、邪神が飛ばしてくる黒い気の塊を斬り裂いた。


「人の事を勝手に取り込もうとしやがって、おかげで俺はこの世界に転生する事になって……まあ、うん、良かったかな?」

「ああもう! リクト殿、ここはバシッと言ってやる所でござろう!」


 ランラン丸に突っ込まれる。


「いやまあ、俺としてはこの世界に来れてよかったと思ってるし、そういう意味では邪神と神様に感謝なのかなって」

「邪神に感謝なんてする必要ないでござるよ! だいたい、そのせいで何度死んだと思っているでござるか!」


 そういやそうか、こいつが俺を取り込もうとしたせいで、俺は何度も死んだんだった。


「そういうわけだ、俺を殺そうとしたお前は敵だ」

「うーん、もっといい言葉はなかったのでござるか?」


 ええいうるさいやつだ。だいたい俺は今、飛んでくる黒い気の塊を斬るので忙しいんだよ。


「神は何を思ってか、貴様が思い入れがある世界をこの世界に取り込んだのだ。初めはさりげなかったがその内、我は気付いたのだ、選ばれる世界には全て、我と同じ邪神が居ると!」


 そう、ユミーリアのクエファンも、コルットのスト2も、エリシリアのサモン5も、マキのプリメイも、プリムのロイぱにも、全て邪神が登場する。


「我はそれぞれの世界の邪神を感じ取り、ひそかに融合をしていったのだ。全てはこの世界を滅ぼす為に! 他の世界の邪神も同意し、我と融合したのだ」


 なるほど、どうりで他の世界の邪神が出てこないはずだ。

 こいつがかたっぱしから声をかけて融合していっていたのか。


「貴様からかすめとった神の力も加えて、我はパワーアップを繰り返し、絶大な力を得た!」

「そうかよ、つまりだ……!」


 俺は尻に力を入れる。


「はあっ!」


 俺の尻からピンク色の波動が放たれる。

 俺はその尻から出た波動のいきおいで、高く空を飛ぶ。


「何?」


 俺は邪神よりも高く舞い上がり、邪神を見ろおした。


「お前を倒せば、全ての邪神を倒した事になるわけだ! なら、これで終わりにしてやるぜ!」


 俺はランラン丸を大きく振りかぶって、気を集中する。


「くらえ! シリブレード!」


 俺は刀を思いっきり振り下ろす。


「こざかしい!」


 邪神が6本の腕をこちらに向けて、黒い波動を放つ。



「うおおおお!」

「カアアアア!」



 俺と邪神の力、黒とピンクの力が激突した。

 ふたつの力は弾け合い、大きな爆発を起こした。


「我は貴様を取り込んで、この世界を滅ぼし、貴様の世界も含めて、全ての世界を滅ぼすのだ!」

「そんな事させるか! 俺はお前を倒して、みんなと結婚して、ハッピーエンドをむかえるんだ!」


 俺と邪神の力と意思が、激しくぶつかり合う。



 戦いは、クライマックスをむかえようとしていた。



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