第96話 空飛ぶ島のプリムチ族

 ついに俺達のピーチケッツ号が空を飛び、俺達は空を飛ぶ島、オチルデにたどり着いた。


 開けた平原に降り立つ船。

 しかしそこで、プリムチ族という連中に船を囲まれてしまった。


 プリムチ族。

 プリッとしたムチムチの女性ばかりの種族だと思っていたのに、現れたのはプリッとしたムチムチの筋肉男達だった。


 男達は手に持ったヤリをかかげながら、ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ! と叫んでいる。


 どこかで聞いた事がある掛け声だ。


 もしかして、ウミキタ王国の男達やヒゲのおっさんって、プリムチ族だったんじゃないだろうか。



 いや、今はそんな事を考えている場合じゃないな。


「マズイな、囲まれてしまっているぞ? アーナ、何とかならないか?」


 俺はこの島に詳しそうなアーナに話を振った。


「ん? そうじゃの。まあここはわしに任せてもらおうか!」


 アーナが前に出て、船の上からプリムチ族を見下ろした。


「プリムチ族よ! 安心するが良い! わしらはお主達の敵ではない! お主らも知っているじゃろう? 200年前にここを訪れた友の名を! そう、それこそが!」


 アーナがクイッと自身を指差す。


「わしじゃよ!」


「誰だよ!?」


 プリムチ族のひとりがそう言って、アーナに向かってヤリを投げた。


「ぐほっ!?」


 ヤリはアーナの額に刺さった。


 アーナが額から血を噴いて倒れる。


「オイオイ! し、シャレになってないぞ!? ゴッドヒール!」


 俺は急いでアーナに回復魔法をかける。


 俺が回復魔法をかける中、エリシリアが額のヤリを抜いた。


「おふっ! た、助かったのじゃ。いやぁエルドワーフであるこのわしじゃなかったら死んでたかもしれんのぉ」


 アーナの額の傷は思ったより浅かったので、俺のゴッドヒールでなんとかふさがった。


「あいつら、いくらアーナがウザかったからって、なんて事しやがるんだ」


 アーナの言う通り、アーナ以外が食らっていたら即死だったかもしれない。


「ウザいって、まあ良い。リクト、やつらも突然こんな船が現れて気がたっとるんじゃろう。ここはわしに任せよ」


 そう言って再びアーナが前に出る。


「おい、大丈夫なのか?」


 またヤリを投げられるんじゃないだろうか。


 俺達は止めようかと思ったが、アーナの自信満々な姿を見て、もう一度任せる事にした。


「プリムチ族よ! わしの話を聞くが良い! わしらはお主らと戦いにきたわけではない。長老はおらぬか? わしはお主らの長老の友人じゃ! 長老を出してもらえばわかる」


 アーナの話を聞いて、プリムチ族がざわつき始めた。


「お前が長老の友人だという証拠がどこにある! せめて名を名乗れ!」


 プリムチ族のひとりがそう叫んだ。


「わしか? そうじゃな、わしはな……」


 あ、俺、この先の展開が読めた気がする。


「わしじゃよ!」


「だから誰だよ!?」


「ごふっ!」


 再びプリムチ族が投げたヤリが、アーナの額に突き刺さった。


 やっぱりな。


「お前さ、マジメにやれよ」

「わしはいつだってマジメぢゃ……」


 アーナは額から血を噴き出しながらそう言った。


 俺は仕方なく、アーナに回復魔法をかける。


「ゴッドヒール」


 俺の尻がピンク色に輝き、光がアーナを包み込む。



 その時、プリムチ族が騒ぎ始めた。


「ん? なんだ?」


 俺はプリムチ族に対して背を……尻を向けていた。


 声が気になった俺は、後ろを振り返る。



「な、なんと神々しい尻だ!」

「おい見ろ! あんな尻、見た事ないぞ!」

「我らプリムチ族の誰よりもプリッとムチムチとしている」

「馬鹿な、あの尻、プリカイザー様以上だ!」

「それよりなんて綺麗な光だよ、見てるだけで心が安らぐぞ」

「ああ、触りたい」

「おい、誰か長老呼んで来い!」

「押すなよ! 尻が見えないだろう!」

「馬鹿野郎! あの尻は俺のだ! 邪魔するな!」



 なんか、どこかで見た光景が広がっていた。


 みんながコートの内側の、俺の尻を見ている。


 プリムチ族はお互いを見てうなずきあい、一斉にひざまずいた。


「な、なんだよ?」


 俺達は突然の事態に困惑していた。


 やがてプリムチ族のひとりが、俺達に向かって叫んだ。


「大変失礼致しました! 無礼をお許し下さい。あなたこそまさに伝説の、神の尻を持つお方!」


 なんだよ、伝説って。


「えっと、伝説って?」


 ユミーリアが俺の隣に来て、プリムチ族を見る。


「おお!」

「あれは、まさか!」

「やはり神の尻だ! 間違いない!」


 プリムチ族達が、今度はユミーリアを見て驚いていた。


「我々プリムチ族には古くから伝わる伝説があるのです。神の尻を持つ男、3つの尻尾を持つ勇者と共に現れ、世界を平和に導くであろうと! 我らプリムチ族は、神の尻を持つ男が現れた時、最大限の協力をせよと先祖代々、言われてきたのです」


 3つの尻尾を持つ勇者、か。

 確かにユミーリアのトリプルテールは尻尾にも見えなくはない。


「し、しっぽ?」


 ユミーリアは困惑しながら、自分のトリプルテールを撫でる。


 しかし、その伝説、ほんとに古くからあるのか?


 あきらかにあの神様が後付けで加えたようにしか思えないんだよな。


「とにかく! 神の尻を持つお方とあれば、歓迎しないわけには参りません! さあどうぞこちらへ! 村へ案内致します」


 俺達はお互い顔を見合わせる。


「どう思う?」

「ここは素直についていっても良いかと思われます」


 マキがそう言うと、みんなもうなずいた。


「アーナがやられたのが気になるが、あれはアーナが名乗らなかったのが悪いしな」

「酷いのじゃ」


 いや、どう見ても自業自得だったと思う。


「私も、私とリクトの伝説っていうのが気になるし、ちゃんと聞いてみたい」


 ユミーリアと俺の伝説か。

 どうせ神様が適当に設定したものだと思うけど、俺とユミーリアの伝説ってのはちょっと良い響きだ。


「よし、とりあえずついていってみるか。もし襲い掛かってきたら、その時は全力で戦おう」

「おー! たたかうー!」


 コルットが元気よく腕をあげた。


 コルットよ、まだ戦うって決まってないからな?



 俺達はプリムチ族の言葉に従い、船を降りる事にした。


 しかし俺には、その前にやる事があった。


「さて、ランラン丸よ」


 俺は船の上に放置されてっぱなしのランラン丸に話しかける。


「なんでござるか? ずーっと拙者を放っておいて今さら急に話しかけてきても無駄でござるよ、フンだ!」


 ランラン丸は放置されてふてくされていた。


「おや? いいのかな、そんな風にふてくされていて。このままだと、大変な事になるぞ?」

「た、大変な事?」


 俺はランラン丸にニヤリと笑いかける。


「この後、俺は船を尻の中に収納するわけだが、このままお前を船の上に置いておいたら、どうなると思う?」

「ど、どうって?」



「お前も船と一緒に俺の尻の中に収納される」


「ごめんなさいでござる! 拙者が何もかも悪かったでござる! だからそれだけはカンベンしてほしいでござるー!」


 ランラン丸が泣きついてきた。


「フフフ、尻に収納されたお前を出す時が楽しみだぜ、お前が大爆笑した方法で、お前は俺の尻から出るのだ。プリッとな!」


「リークートーどーのー! もう笑わないでござるから、許して欲しいでござるー!」


 その後からかったら、ガチ泣きされた。そこまで嫌か。


 俺はランラン丸を拾い上げ、腰にさす。


 そして船を降りて、尻に収納した。



「おお!」

「見たか今の?」

「ああ、さすがは神の尻だ」

「あれほど大きなモノが入るなんて!」



 相変わらず周りが騒がしい。


「完敗だよ、神の尻」


 ひときわ大柄の男が、突然俺に話しかけてきた。


「あ、アンタは?」


「俺の名はプリカイザー。この島一番の尻を持つ男……そう言われていた。俺の尻に飲み込めない物は無いと思っていたが、お前さんには負けたよ」


 プリカイザーと名乗る男は、ピーチケッツ号のあった辺りを見つめた。


「さすがの俺も、船を尻におさめるのは無理だ。俺の負けだよ。今日から島一番の尻は、お前が名乗るが良い」


 いや、いりません。全然いりませんその称号。


「お断りします」

「え? 男割り?」


 言ってねえよ! どんな耳してるんだよプリカイザー!


「とにかく、良い尻を持つ男は歓迎するぜ、えっと……シリト、だったか?」

「リクトだよ!」


 なんでどいつもこいつも同じ様に間違えるんだよ、やっぱりヒゲのおっさん、プリムチ族なんじゃないか?


 俺は渋々、プリカイザーと握手した。



「おお、見ろ!」

「ああ、プリカイザーと神の尻を持つ男の固い握手だ!」

「俺、なんか感動して汗が出てきたよ!」

「ああ俺もだ! 見ろよこの汗、たまんねえぜ!」

「いいや、俺の汗の方がすごいね!」

「馬鹿野郎! 今は俺達の汗より、あの二人の尻だろう?」

「そうだ尻だ!」

「あの神の尻の男の名前は?」

「シリトだ! シリトって聞こえたぞ!」


「シリト! シリト! シリト!」



 もうやだこの島、汗臭いしウザイし帰りたい。


 俺がゲンナリしていると、コルットがズボンを引っ張ってきた。


「おにーちゃん」

「ん? どうしたコルット」


 コルットがビシッと自身を指差した。


「わしじゃよ!」


 コルットがドヤ顔でアーナのマネをする。


 なんか、可愛くて、思わず噴き出してしまう。


「ぷっ、ぷふふ、アハハハ」

「えへへー、おにーちゃん、笑ったー」


 そうか、コルットのやつ、俺をはげましてくれたんだな。

 ありがとう、コルット。


 俺はコルットの頭を撫でて、抱っこして、プリカイザーの後についていった。



「わ、私もやった方がいいのかな、アレ」

「いや、アレはコルットだから可愛いのだと思うぞ?」

「そうですね、私達ではああはいかないでしょう。さすがはコルット様です」


 俺達の後ろを歩く、ユミーリア、エリシリア、マキのつぶやきは、俺には聞こえていなかった。



 しばらく平原を歩いていると、村が見えてきた。


「あれが俺達の村、マッスルタウンだ」


 メチャクチャ臭そうな名前だった。

 というか、村なのかタウンなのかどっちだよ。


 案内されたマッスルタウンは、村と呼ぶには大きく、街と呼ぶには発展してはいなかった。


 ほとんどが木で出来た家で、自然と調和した造りの建物が多かった。


 俺達はひときわ大きな家に案内される。


「ここが長老の家だ、入ってくれ」


 プリカイザーの案内で俺達は家の奥に通される。


 するとそこには、ヒゲがモジャモジャの、マッスルなじいさんが居た。


「ようこそ、神の尻を持つ男、そして勇者よ」


 じいさんが椅子から立ち上がり、手をあげる。


「久しいな! 長老よ!」


 そこに間に入ってきたのは、アーナだった。


「む! まさか、お主は!」

「そうじゃ! 久しぶりじゃな長老よ!」


 アーナが自身を指差し、長老に向かってウインクする。


「わしじゃよ!」

「誰じゃっけ?」


 アーナがひとり、ずっこけた。


「アーナじゃ! 忘れたのか長老よ!」

「アナ? おお、アーナか! 思い出したわい。久しぶりじゃのお」


 どうやら、アーナは本当に長老の知り合いだった様だ。


「まったく、親友を忘れるとは、酷いのじゃ!」

「いやすまんすまん。とはいえ会うのは200年ぶりくらじゃないか?」

「そうじゃの」

「それじゃあ忘れてもしょうがないじゃろう」


 なんか、このまま昔話に花が咲きそうだった。


「長老、今はそこのわし女より、神の尻を持つお方を」


 なんと、話を止めたのはプリカイザーだった。


 名前はともかく、真面目なヤツなんだな、プリカイザー。


「おお、そうじゃったそうじゃった。いやあよくきてくれた。歓迎するぞい、神の尻を持つ男と勇者よ」


 周りに居た人達もみんな頭を下げる。


「どれ、遠い所からきて疲れたじゃろう。今日はもう遅い。話は明日にして、今日の所は宿で休むが良い。プリカイザー、宿は空いているかな?」

「は! すでに人数分、手配させております」


 え? 人数分? それって、俺達用に、だよな?


「そういうわけですじゃ、神の尻を持つお方と勇者よ、今宵はゆっくり休むが良い。また明日、じっくり話そうではないか」


 長老にそう言われて、俺達は宿に向かう事になった。


 こんな所に旅人はこないと思うんだが、結構大きめの綺麗な宿だった。


 マイホームを使う事も考えたが、俺達は素直にプリムチ族の好意を受け取る事にした。


 食事は肉中心だった。


 何の肉か聞いてみたが、ドラムーだと答えが返ってきた。


 ドラムーって、どんなモンスターなんだ? 聞いた事がない。


 どうにも、この島は不思議でいっぱいだった。



 俺達は食事を終えて、それぞれ部屋に入る。


 コルットはユミーリアと一緒だ。昼寝はひとりに慣れてきたみたいだが、夜はまだひとりでは眠れないからな。


 俺はランラン丸をベッドのそばに立てかけ、ベッドで眠りにつく。


 なんだかんだで疲れていたのか、すぐに睡魔が襲ってきた。



 夜中、なんだか良い匂いがして目が覚める。


 なんだか暖かくてやわらかいものが上に乗っている。


 俺は思わず、それを抱きしめる。


「あんっ」


 俺はすぐさま飛び起きた。


 目を覚ますとそこには、マキが居た。


「何をやっている?」

「いえ、少しでも魔力供給をして頂こうかと思いまして」


 夜這いの正体はマキだった。


 相変わらず、色っぽい。


 胸元を少しゆるめていて、目のやり場に困る。


「リクト様が邪神を倒すまで我慢すると決意なさっているのは知っています。ですが、このまま本格的な魔力供給をしてもらえないのであれば、私はいつまで経ってもパワーアップできません」


 本格的な魔力供給か。


 それってつまり、その、俺のランラン丸がアーナとドッキングって、そういう事だろ?


「いや、それは」

「ですから、こうして少しでも、服の上からでも良いので、肌を合わせたいのです。リクト様がピンチの時に、何もお役に立てない様では、困りますから」


 そう言われるとつらい。


 マキは俺達と違って、魔力供給によってパワーアップする。


 しかしその方法が、現状では俺とひっつくしかない。


 もっと効率を求めるなら、それこそその、エッチな事をするしかないのだ。


 しかし、一度でもそういった事をしてしまえば、俺はおぼれてしまいそうな気がする。


 だから我慢だ。

 マキがいくら引っ付いてきても、我慢我慢。


「リクト様」


 ええい、そのエロい声をやめろ!


 俺はなんとかマキの誘惑に耐える。


 無理そうになれば、昼間の男達を思い出す。


 俺の頭の中で、ピンク色のマキと、ソイヤ! と掛け声をあげる男達が戦っていた。



 やがて朝が来る。


 ここまで我慢できたのは、男達の幻想と、ランラン丸のヘタレという声のおかげだった。


 マキは朝日が昇ると、少しなごり惜しそうに身を引き、ごちそうさまと一言つぶやいて、部屋を出て行った。


 勝った。俺はマキの誘惑に勝ったのだ。


 俺は魅惑の時間がようやく終わった事に安堵した。



 しばらくして、突然大きな地震が起きた。


 いや、地震というよりは、全体的に右に傾いている気がする。


「な、なんだ?」


 窓から空を見ると、恐ろしい勢いで空が移動していた。


 ……違う、移動しているのはこの島の方か?



「大変だ! 島が、島が落ちる!」


 俺の部屋のドアをあけて入ってきたのは、プリカイザーだった。


「こんな、こんな事が起きるなんて、もう終わりだ、この島は終わりだ!」


 プリカイザーがその場にしゃがみこむ。


 俺はランラン丸を装備して、部屋の外に出る。


「リクト!」


 廊下に出ると、ユミーリアとエリシリアが居た。


「いったい何事だ?」

「なんでも、島が落ちてるって!」


 ユミーリアの言う通り、島がどんどん落下していっているみたいだった。


「このままでは地面に激突して、この島はコナゴナにくだけちってしまうぞ!」


 エリシリアの言う通りだ。この質量の島が地面に落ちたら、ただでは済まないだろう。



 そうこうしている内に、島が地面に衝突した。


「うおおお!?」

「きゃああ!」


 宿屋全体が、島全体がゆれる。


 宿屋がくずれ始める。



 その後、ひときわ大きい音とゆれが重なり、宿屋は崩壊する。


 俺は強い爆発の様な衝撃に、吹き飛ばされた。


 ふと目を開けば、崩壊していたのは島だけではなかった。


 世界全体が、崩壊していた。


 正直、何が起きたのか、わけがわからなかった。


 ただひとつ、俺がわかった事、それは……




「おお素晴らしき尻魔道士よ、死んでしまうとは なさけない」


 真っ白な空間で、神様が俺を出迎える。



 ただひとつわかった事。


 それは……俺は死んで、生き返り、この危機を乗り越えないといけないという事だった。


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