第144話 終結、大武闘会

 大臣が正体を現し、巨大なモンスターとなった。


 本来のストーリー通り、闘技場での戦いとなったが内容は大きく違っていた。


 本来は勇者パーティが戦う相手だが、大武闘会が開かれていた今、ここには各国の猛者が揃っていたのだ。


「まとめて滅ぼしてくれるわ! 人間どもめ!」


 大臣が吼えるが、戦士達はひるまない。


「いくぞ! 王国騎士団の力を見せてやれ!」

「はっ!」


 王子様の声がけで、騎士達が、兵士達が盛り上がり、大臣へと攻撃していく。


「おめえら! モンスターとの戦いこそ俺達の仕事だ! 気合い入れていけー!」

「おおー!」


 ヒゲのおっさんの号令で、冒険者達がうなりをあげて大臣へと立ち向かう。


「こうして一緒に戦うのは久しぶりね、エリシリアちゃん」

「ああ、頼んだぞ、みんな!」


 ロイヤルナイツのメンバーが、エリシリアと連携して戦っている。


「今こそ僕達の力を見せる時だ! みんな、いくよ!」

「おー!」


 ユウも気合い全開で大臣へと立ち向かっていく。


 上下左右前後、あらゆる角度から攻撃を受け、大臣がひるんでいく。


「おのれ! おのれえええ!」


 戦闘はまさに、大乱闘となっていた。



 一方俺達は、なんというか出遅れた感があり、どう手を出せばいいのか迷っていた。


 張り切っていた割には戦いに参加できず、みんなの戦いをながめているだけになっていた。


「これだけ人が多いと、なんか、参加しづらいな」

「う、うん」


 俺の隣にはユミーリアが居た。


 コルットとプリム、マキも俺のそばで待機している。戦えないアーナは王族席に座ったままだ。


 ウチのメンバーで戦いに参加しているのはエリシリアだけだった。


 こういう時、やっぱり元ロイヤルナイツってのはすごい。戦場の空気が読めるんだろうな。


 俺達はボーっと立って、みんなの戦いを見ているだけだった。



 大臣は終盤で戦うボスだ。当然、相応の強さを持っている。


 実際見ていると、もし個別に戦っていたら兵士や冒険者達はあっという間にやられていただろう。


 この大乱闘を可能にしているのは、エリシリアだった。


 エリシリアが光のムチで腕や足をからめとって、うまく敵の攻撃を防いでいるもんだから、みんな攻撃し放題になっている。


 むしろ敵がかわいそうになってくるくらいだ。


 だが、そうして見ていると次第に状況が変化していない事に気付く。


 肝心のエリシリアは、敵の動きを邪魔するのに手一杯といった感じだ。


「決定打が足りていないな」


 いつの間にか近くに居たユミーリアのお父さんがそう呟いた。


「ダメージは与えているが、決定打にかけている。このままでは逃げられてしまうぞ」


 それはマズイ。


 いい加減、邪神の使徒とも決着をつけたい所だ。ここで大臣を逃がすのは後々面倒な事になるだろう。


「というかお父さん、お母さんも参加しないんですか?」


 俺の言葉を聞いて、お母さんがカラカラと笑う。


「あなた達の敵でしょ、親がしゃしゃり出るもんじゃないわ。自分達でなんとかしなさい」

「すまないねリクト君、私達がヘタに手を出すとまわりの人を巻き込んでしまいそうなんだ、未熟者で申し訳ない」


「そこ! せっかくカッコつけてるのに正直に言うんじゃない!」


 お父さんがお母さんにポカポカと殴られていた。


 なるほど、二人は火力が強すぎて乱戦には向かないのか。


 とはいえ俺達も同じ様なもんだ。


 相手を逃がさない様に一気に倒すとなると、大技を放つしかないがそれだと周りの人達を巻き込んでしまう。


 なんとかみんなに引いてもらうしかない。


 それが可能なのは、やはり前線で戦うエリシリアしか居ないだろう。


「マキ、俺が合図をしたらみんなが引くように号令をかける様、エリシリアに伝えてくれ」

「かしこまりました」


 マキが素早くエリシリアの元に行く。


「ユミーリア、コルット、プリム、やるぞ。俺達の必殺技で、あいつを一気にぶっ倒す!」


「うん、わかった!」

「はーい!」

「わかりました!」


 俺達はそれぞれ武器を取り出して構える。


 俺がランラン丸をかかげて気を集中すると、刀の先に、ピンク色の二つの丸みをおびた気が生まれる。


 ユミーリアも俺と同じ様に、剣をかかげて気を集中している。


 コルットとプリムも、必殺技を撃つ体制になる。


「よし、みんな準備はいいか?」


「うん!」

「いいよ!」

「はい!」


 俺は大臣を見る。


「よし、エリシリア!」


 俺の合図を受けて、エリシリアが大きく叫ぶ。


「全員! 大臣から距離を取れ!」


 周囲に居た人達のほとんどは何事かと思考がついていかない様だったが、気付いた人間が引っ張ったり、声をかけながら大臣から距離を取る。


「な、なんだ?」


 大臣がその動きに気付くが、一手遅い。


 みんなが大臣からはなれたおかげで、俺達と大臣との間に、空間ができる。


「いまだ! 撃て!」


 俺はランラン丸を、大臣めがけて大きく振り下ろした。


「シリブレード!」


 俺は必殺技を放つ。

 ピンク色の尻が、大臣に向かって飛んでいく。


 それにあわせて、みんなも必殺技を放った。


「ブレイブソード!」

「超級! 撃動波(げきどうは)!」

「アルティメットレーザー!」


 俺達4人の必殺技が、大臣を襲う。


「なっ! し、しまっ! グアアアアア!!」


 必殺技をモロに受けた大臣は大爆発を起こす。


「そ、そんな、私が、こんな……じゃ、邪神、様……」


 激しい暴風を巻き起こし、大臣は消滅していった。


 後には、∞のピンク色のラインだけが残っていた。


 俺達は大臣が消滅した事を確認すると、武器をしまった。


 そんな俺達を見て、人々が勝利を確信し、ワッと歓声があがった。


「やったねリクト!」

「コノヤロウ、おいしい所持っていきやがって!」

「さすがは余の認めた神の尻だな、最後も尻で倒すとは、あっぱれだ!」


 ユウやヒゲのおっさん、ついでに王子様が俺に近づいてきて声をかけてくる。


「うん、見事だリクト君」

「そうね、これは認めないわけにはいかないわね、あなた」

「ああ」


 ユミーリアのお父さんとお母さんも、完全に俺を認めてくれたみたいだった。


「どうやら、決着はついたようだな」


 セントヒリアの王様が会場におりてきていた。


「まさか大臣がモンスターだったとはな。非常に優秀な良い大臣だったのだが、残念だ」


 王様は大臣が消えた場所の地面をそっとなでる。


「シリトよ、大臣以外にも人間に化けている邪神のモンスターは居るのか?」


 俺はゲームを思い出す。


「いえ、大臣だけだったはずです。確かやつは邪神の作り出した最高傑作のモンスターだと言っていましたから、他には居ないはずです」


「そうか」


 王様はうなずくと、舞台の中心に行った。


「みなの者! 今回はご苦労であった! 今見た様に、邪神の使徒やモンスターは必ず倒す事ができるのだ! 私はここに、我が国セントヒリアは邪神と完全に敵対する事を宣言する!」


「俺もだ、ウミキタ王国は、邪神を認めない。改心して邪神の使徒をやめるヤツは受け入れてやるが、邪神の使徒だってやつは厳しくあたっていく!」


 ウミキタ王国の王様はそう言ってゴンを見る。

 ゴンは静かに頭をさげた。


「デンガーナもよーん。邪神の使徒ちゃん達は、しっかり考えてね。今なら間に合うわよん」


「パッショニアはこれまで他の国よりは様子を見る姿勢で居ましたが、こうなっては仕方ありません。邪神の使徒の方は今すぐ考え直してください! 邪神の使徒さえやめれば、パッショニアは過去にこだわらず、受け入れます」


「我が帝国は、一度邪神の使徒に乗っ取られている。だからこそ、邪神に対しては厳しく対応していくつもりだ」


 それぞれの国の王様達が、この場で邪神に対するスタンスを宣言した。


 これで、少しでも変わってくれればいい。


 変わらなければ、後は俺達が倒すだけだ。



「ううん」


 その時、眠っていたネギッツが目を覚ました。


「あれ? 私……そっか、私、負けたんだ」


 ネギッツは座ったまま、ひざを抱える。


 そんなネギッツの様子を見て、コルットが俺のズボンを引っ張った。


「おにーちゃん」


 コルットは俺のズボンを引っ張った後、手を出す。


 俺はコルットの意図を察して、腰を振る。


 すると今だ俺の光ったままの尻から、尻まんじゅうが出てくる。


 コルットはまんじゅうをキャッチして、ネギッツの元へ向かった。


「ネギッツ!」

「な、何よコルット」


 ネギッツがコルットを警戒してうろたえる。


「はい、おしりまんじゅう、おいしいよ、一緒にたべよう!」


 コルットがニッコリ笑ってネギッツにまんじゅうを差し出した。


 ネギッツは最初は警戒していたが、そっとまんじゅうを手に取り、口にふくんだ。


「……おいしい」

「えへへー、でしょ? おいしいよねーもぐもぐ」


 ネギッツは大粒の涙を流しながら、コルットと一緒に尻まんじゅうを食べていた。


 ゴンはそんな娘の様子を見て、そっと泣いていた。


「俺達は邪神から完全に足を洗う。約束する」


 ゴンの言葉を聞いて、ウミキタ王国の王様が笑った。


「ガハハ! おう、それでいい。お前らの家は残ってるからな、気にせず帰って来い」

「……ありがとう、ございます」



 こうして、大武闘会は終わりを告げた。


 ユミーリアの両親が大暴れしたり、ゴンとネギッツが現れたり、大臣が正体を現したりと、振り返ってみれば色々と大変な大会だった。


 ゴンとネギッツはウミキタ王国へと帰っていった。


「またねー! ネギッツ!」

「うん! またねコルット! 次は負けないんだから!」


 コルットとネギッツは、お互い大きく手を振って別れた。


 少しさびしそうなコルットを、俺は抱きかかえて頭を撫でた。


「今回はがんばったな、えらいぞコルット」

「えへへー、おにーちゃんすきー」


 コルットが俺に頭をすり寄せてくる。


「ええいもう我慢できん! 今回のコルット優遇は少し度が過ぎるぞ!」


 エリシリアが急に怒り出した。


「そうだよ! コルットばっかりずるいよリクト」


 ユミーリアも頬をふくらませている。


「そうです、私だってお兄様と出場したかったし、お兄様にほめられたかったです!」

「私なんてこの大会を開催するのにこれほどがんばったのに、ほとんど放置プレイでした」


 プリムが怒り、マキがなげいている。


「はっはっは! その中でも完全に空気だった嫁が居るぞ? そう、それこそが!」


 アーナがビシッと自信を指差す。


「わしじゃよ!」


 なんとも残念なわしじゃよだった。


「そうねー、リクト君、お嫁さんをいっぱいもらうんだから、こういう事は気を使わなきゃ駄目よ?」


 ユミーリアのお母さんにまで駄目だしを食らってしまった。


「そういえばお母さん達はこれからどうするの?」

「んー? 私達はまた旅にでも出ようかしら。この街はあなたとユウに任せていれば大丈夫でしょうしね」


 お母さんがお父さんを見ると、お父さんも静かにうなずいた。


「そっか、すぐに行っちゃうの?」

「さすがにもう何日かはこの街に残るわよ。だからそんなさびしそうな顔しないの!」


 お母さんがユミーリアの頭を強引に撫でる。


 ユミーリアは顔を赤くしながらも、うれしそうだった。


「そういえばマキ、俺が優勝したんだから、賞金とデリシャスギュウは俺のものなんだよな?」

「そうなりますね」


 自分がとってきたデリシャスギュウを賞品でもらうってのも、なんだかなと思ったが、俺は良い案を思いついた。


「よし! せっかくだから在庫も出して、みんなでデリシャスギュウパーティといこうぜ! 大会参加者は参加自由だ! 他にも参加したいやつがいるならオッケーだ!」


「ふむ、ならば城の広間を貸し出そう」


 王様が同意してくれる。


「かしこまりました、早速手配致します」


 それからは大急ぎでたくさんの人が動いた。


 国に帰ろうとしていた人々も呼び止められ、内容を聞いてよろこんで参加してくれた。


 パーティはおおいに盛り上がった。



「リクト様、少しよろしいでしょうか?」


 そんなパーティの席で、俺はパッショニアの代表である、カマセーヌさんに声をかけられた。


「どうしました?」

「少し二人っきりで話があるんです、ちょっとこちらにいいですか?」


 そう言ってカマセーヌさんが腕をからめてくる。


「あ、いや、俺にはユミーリア達が居るんで」

「あはは、わかっていますよ、ちょっとした冗談です」


 カマセーヌさんが腕をはなす。ちょっと残念だったのは秘密だ。


「でも、話があるのは本当なんですよ、ちょっときてもらっていいですか?」


 俺はカマセーヌさんについてバルコニーに出た。


 あたりはすっかり暗くなっていて、月が綺麗だった。


「話というのは、アーナさんの事なんです」


 カマセーヌさんが、月をバックに語りだす。


「リクト様、アーナさんをもらって頂いてありがとうございます。アーナさんはあの性格ですから普段は表に出さないかもしれませんが、今までつらい人生を歩んできたんです」


「アーナが?」


 確かに、普段のアーナからはつらい人生というのは想像できない。


「ほら、アーナさんはエルフとドワーフの混血でしょう? 種族に対する差別というのは、想像以上にキツイものなんです」


 そういえば、デンガーナでもドワーフの対応は酷かったな。


「相当つらい人生を歩んできたと思うんです。パッショニアにきた時も、ずっと黒いフードをかぶったままでした。私はパッショニアを、差別の無い国として目指していましたので、アーナさんを受け入れました。ですがアーナさんは、最後まで街中ではフードを取って頂けませんでしたし、街には住んでくれませんでした」


 カマセーヌさんがさびしそうに目を細める。


「ですが、リクト様と出会って、一緒に行動する様になってからは、一度もフードをかぶった所を見ていません。リクト様が受け入れてくれたからでしょう。アーナさんの事は家族の様に思っていましたので、本当にうれしかったです」


 そ、そんな大層な事をした覚えは無いんだが、なあ?


 ただ単に、俺の世界にエルフとドワーフを差別する文化がなかっただけだ。

 俺にとってはエルフだろうがドワーフだろうが関係ない。


「アーナがさんがよくする、わしじゃよ は、きっと、自分を認めてもらう為、自分はここにいると主張する為のものだったんだと思います。でも今は、周りの人をしあわせにする為に行っている様に思えます」


 確かに、アーナは最近、わしじゃよをする時はコルットとプリムを誘ったり、一緒にやるのを待ってたりする。


「本当にありがとうございます。今のしあわせそうなアーナさんを見る事ができて、私もしあわせな気持ちになりました。これもリクト様がアーナさんを受け入れてくれたおかげです。本当に、ありがと」


「ええいそこまでじゃ!」


 俺達が話をしていると、アーナが飛び込んできた。


「こりゃカマセーヌ! わしに黙って恥ずかしい話をしおって! わしとリクトがギクシャクしたらどうするつもりじゃ! もっと後先考えて行動せよと言っておるじゃろう!」


「なっ! 私はアーナさんの事を思って言っているのですよ! なのになんですかその言い草は!」


 アーナとカマセーヌさんの言い合いが始まった。


 俺が苦笑して見ていると、思ったより早く決着がついた。


「この馬鹿者が! おせっかいが! わしはそんなお主の事が大好きじゃ!」

「なんですの! アーナさんの馬鹿! 私だって、最初はただ面倒を見なきゃなんて思っていましたけど、いつの間にか家族みたいに思えてきたんですから! 大好きですわ! もう!」


 二人は涙を浮かべながら、馬鹿と大好きを繰り返していた。


 さすがに邪魔かと思い、俺はそっとその場をはなれた。



 パーティは大いに盛り上がり、やがて静かに幕を閉じた。


 こんな日々が続いていけばいいと、改めて思った。



 しかし、数日後。

 日々の終わりはやってきた。


「ついに、この時がきたか」


 俺はギルドの入り口近くに立つ、人の良さそうな商人を見る。


 彼はゲームではモブキャラだが、重要な人物だった。


 彼に話しかけた時、邪神が復活するのだ。



 ついに、最後のイベントが始まろうとしていた。


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