第18話 レア肉フィーバー!

 キョテンの街。


 その南の方にある平原に、ウサギットは生息している。

 ちなみに前回行ったシンリンの森は北の方だ。


 俺は街から出て、南の平原に向かい、そこでウサギットを倒した。



 そうしてドロップ品として出てきたウサギットの肉は、なぜか光り輝いていた。


「ど、どうしよう? ランラン丸」

「どうするもなにも、回収するしかないのではござらんか?」


 確かに、ランラン丸の言う通りだった。


「……一応、マイルームの冷蔵庫に入れておくか」


 マイルーム。俺のチート能力のひとつである。

 中は特殊な空間になっていて、そこには俺の世界の風呂やトイレ、キッチンに冷蔵庫もあった。


 マイルームは一度使うと、MPを15消費する。

 だが、レベルアップした俺のMPは今や85。1日5回は使えるのだ。


 夜に風呂の為に1回残すにしても、4回は使える。


「マイルーム!」


 俺の尻が光り、尻からニュッと扉が現れる。


 ゴッドヒールほどの強い光ではないので、モンスターはそうそう集まってはこない。


 俺はマイルームの中に入って、冷蔵庫に肉を保管する。


「これで良しっと」


 俺は冷蔵庫を閉めたあと、マイルームから出た。



「……今日の晩飯用に、もうひとつは欲しいな」

「お! いいでござるな!」


 調味料はマイルームの中で念じれば出てくるし、キッチンにはコンロもあるから、肉があれば今夜は肉パーティができる!


「よし! 引き続きウサギットを狩るぞ! ランラン丸!」

「了解でござる!」


 俺達は気合を入れなおし、ウサギットを探した。



 結果、もう1匹ウサギットを倒したら、またしても輝く肉が出た。


「おお! 俺ってもしかして、運が良いんじゃないか?」

「なんでもいいでござるよ! 肉! 肉でござるー!」


 いくらウサギットが肉をドロップしやすいとはいっても、2回連続は運が良い方だろう。


 俺は再びマイルームを出して、冷蔵庫に保管した。今日の晩飯用である。


「よし! 晩飯用も確保できたし、報酬もウサギット2匹で20P(ピール)、肉が1つで20Pだから合計40Pもあれば十分だろう。今日はちょっと遅くなったし、本格的に狩るのは明日からにしよう」


「でござるな、早く肉が食べたいでござるよー」


 俺は今ゲットした肉を冷蔵庫に入れて、報酬として提出するウサギットの肉を取り出し、ギルドの裏を出口に設定してマイルームから出た。


 こうして出口を設定すれば、一瞬で移動できるのもマイルームの強みだ。行った事がある場所しか設定できないけど。


 俺はゲットしたウサギットの肉を、ギルドへ持っていった。



「ええええええええ!?」



 ラブ姉が叫んだ。


「ど、どうしたの? ラブ姉?」


 俺が持ってきたウサギットの肉を見て、ラブ姉がメチャクチャ驚いていた。


「ここここ、これは! このお肉は!?」


「え? ウサギットの肉、だよね?」


 ウサギットを倒してドロップしたんだから、ウサギットの肉だと思うが……そういえば俺は、鑑定スキルとか持ってなかったな。


「レレレレレ、レア肉ですよ! ウサギットのレア肉!」


 レア肉?


「それって、何か違うの?」


「大違いですよ! ウサギットのレア肉は、それはもう珍しいものなんです! ウサギットの肉自体はよくドロップするんですが、レア肉は半年に1回ドロップすれば良い方で、滅多にお目にかかれないと言われています!」


 おお、そこまでレアなものだったのか。


 あれ? 俺その肉、連続で2つ出たよな? 1つはマイルームの冷凍庫に保管してあるし。


「えーっと、それじゃあ、その珍しいレア肉だと、すごいの?」


「すごいですよ! おいしさは普通のお肉と比較にならないくらいで、報酬も普通のお肉の20倍! 1つ400Pですよ!」


 おお! って事は、一気に400Pか!? すげえ!!


「早速、ギルド提携店に連絡をします。リクトさん、お手柄ですよ!」


 ギルド提携店、そういうのもあるのか。


 ラブ姉がレア肉を持って奥に引っ込み、しばらくしてまた出てきた。


「それではリクトさん、今回の報酬ですが、ウサギット2体で10P、魔石が2つで10P、レア肉が1つで400P、合計420Pですね」


 ひゃっほーい! 一気に400Pも稼げたぞ!


「やったでござるな、リクト殿!」


 俺はウキウキで報酬を受け取り、ギルドを出る。


 早速マイルームを出して中に入り、冷凍庫からウサギットのレア肉を取り出した。



「こ、これがウサギットのレア肉だったとは……どうりで輝いているはずだ」


 俺は取り出したレア肉を、あらためて見る。


 肉は変わらず輝いており、大きさは切り分ければ10人前くらいはある。


 普通のウサギットの肉より、比べ物にならないくらい、おいしいらしい。


 ゴクリ、とノドが鳴る。


「よおし! 楽しい楽しい肉パーティの始まりだ!」

「やったーでござる!」


 マイルームの中に入る事で、人の姿に変わったランラン丸もよろこんでいる。


 俺はウサギットのレア肉を切り分け、キッチンにあったフライパンで焼いていく。

 どうやって火が出ているか? そんなものはチートだ、魔法だ、今は関係ない。


 ジューという音が、食欲をそそる。


「まだでござるか? まだでござるか?」


 ランラン丸がよだれをたらしている。


「待て待て! もう少しだ!」


 俺は肉をひっくり返し、焼いて、皿に盛る。


「な、なんてかぐわしい、肉の香りだ!」


 ランラン丸と俺は、皿に盛られたウサギットのレア肉を前に、よだれが止まらなくなっていた。


「よ、よし! た、食べるぞ?」

「お、おうでござる! 食べるでござる!」


 俺とランラン丸は、同時に口にウサギットのレア肉を入れた。



 草原が見えた。


 草原を元気にかけまわる、ウサギット。


 その躍動する魂、筋肉、そんな生命力が、嵐の様に、滝の様に口の中になだれ込んでくる。


 口の中でかめば、やさしくほどけて、口いっぱいにそのうまみが広がっていく。


 自然と、目から涙がこぼれた。


「うみゃい」

「うみゃいでごじゃる」


 俺とランラン丸は、ウサギットという生命に、感謝した。


 そして俺達は再び、ウサギットのレア肉にかぶりついた。




「あー、うまかった」


 俺とランラン丸は、満足して床に転がっていた。


「拙者、刀になる前でもこれほどうまいものを食べた事はないでござるよ、あんまり覚えてないでござるが」


「いや、わかるよ、俺も……こんなにうまい肉を食べたのは、初めてだ」


 俺達はあの後、塩、コショウ、しょうゆと色々な調味料を使い、ウサギットのレア肉を楽しんだ。


 あれだけあった肉を、2人で全て食べきってしまった。


「明日も狩ろうな、ウサギット」

「でござるな、また出るといいでござるな、レア肉」


 俺とランラン丸はしばらく幸せをかみしめ、寝転がっていた。



 翌日、俺達は再び、ギルドを訪れた。


「あ! おはようございます、リクトさん! 昨日のレア肉、ものすごく好評でしたよ? 少し冷えていて、鮮度が保たれていたって言われましたけど、何かしました?」


「ふっふっふ、それは企業秘密です」


 冷蔵庫に入れておいたなんて言っても、通じないだろうしな。


「とにかくもう、すごい騒ぎだったんですから。今日もウサギット討伐を受けますか?」

「もちろん! 今日もレア肉をゲットしてやりますよ!」


 俺は調子に乗って、親指を立てる。


「ふふふ、もちろんそうだといいですけど、滅多に出るものじゃないんですから、ドロップしなかったからって、へこんじゃ駄目ですよ?」

「わかってるって!」


 俺はウサギットの討伐依頼を受けて、街を出る。



 そして早足で平原にたどり着き、早速、ウサギットを見つけた。


「見つけたぞウサギット! さあ、今日もレア肉を落としてもらうぜ!」


 俺はランラン丸を鞘から抜き、ウサギットに攻撃をしかける。


 相変わらず素早いウサギットに、なんとか攻撃を当てて倒す。


「はあ、はあ、手こずらせやがって!」

「リクト殿の刀の扱いが悪いせいでござるよー」


 ランラン丸の小言を無視していると、ポンッと音が鳴って、魔石と……レア肉が出現した。


「おっしゃあああ! 出たぞレア肉!!」

「おおおお! またでござるか! すごいでござるよリクト殿!」


 ここまでくると間違いない、どうやら俺には、レア肉を引き当てる何かがあるようだ。


 ステータスカードを確認する。


 すると俺にしか見えない、チート能力が書かれている虹色の欄に、能力がひとつ、追加されていた。



《レア肉ドロップ確定》



 やっぱりあった!


 よく見ると、尻がほんのり光っていた。


 説明を見ると、肉をドロップするモンスターを倒した際、確定でレア肉をドロップする能力みたいだ。


 素晴らしい、素晴らしいよ神様! ありがとう神様!


「よおし! まだまだ倒すぞ! ランラン丸!」

「ひゃっはーでござる!」


 俺はその日、合計で5匹のウサギットを倒した。


 レア肉は、1つは冷蔵庫に、1つは保存用として、冷凍庫に入れた。


 残り3つを冷蔵庫に保管しておき、ギルドに提出する前に取り出して、ギルドのカウンターに向かった。



「さあラブ姉! これを見よ!」


 俺はカウンターに、輝くウサギットのレア肉を、3つ置いた。


「えええええええええ!? そそそ、そんな! どういう事なんですか!?」


 ラブ姉も、まわりも驚いている。


 そりゃそうだ。滅多にお目にかかれないレア肉が、2日続けて、しかも今日は3つもあるのだ。



「オイオイ、スゲーぞあの尻の兄ちゃん」

「ああ、あれも尻の加護なのか?」

「やっぱ違うんだよ! あの尻は!」

「ああ、さわりたい」

「さすが尻魔道士だぜ!」

「いや、もはや尻だけではない! 肉だ! 尻肉だ!」


 まわりが騒がしい。そして相変わらず言われている内容がひどい気がする。


「やるじゃないか、シリト」


 ヒゲのおっさんが話しかけてきた。


「だから俺の名前はリクトだって言ってんだろ!?」


「おおすまんすまん、それでだなシリト、盛り上がっている所悪いが、お前さんにお客さんがきてるぜ?」

「へ?」


 俺はヒゲのおっさんが指差す方を見た。



 そこに立っていたのは、ポニーでもツインでもない、金色の3つのテール……トリプルテールをなびかせる、巨乳美少女。


 女勇者の、ユミーリアだった。


「リクト」


 会うのはあの、ゴブリンクイーン討伐以来か。

 たった1日なのに、なぜか久しぶりに会った気がする。


 俺はユミーリアに近づいた。


「この間はありがとう、リクト……それでね、ちょっと、話があるの」


 話? なんだろう?


「ふむ、もしかして、あの時の、キスの事を思い出したんじゃないでござるか?」


 ランラン丸の言葉に、心臓がはねる。



 俺は、ゴブリンクイーンを倒す為、ユミーリアの勇者の力を覚醒させる為に、ユミーリアに、キスをした。


 ユミーリアはその事を覚えていないみたいだったけど、もし覚えていたとしたら……いや、思い出したんだとしたら……


 嫌われる? 怒られる?



「えっと、ちょっと場所を変えてもいいかな? みんなの前だとその、話しづらいから」


 ユミーリアがモジモジしながら、上目づかいで聞いてくる。


「あ、ああ……そうだな、外に出ようか」


 俺はユミーリアについて、外に出た。



 しばらく歩いて、ユミーリアが振り返る。


「あのね! リクト!」




 ユミーリアの言葉を待つ俺の心臓は、今にも弾けそうだった。



◇ステータス◇

リクト

レベル:8 HP:72 MP:85 冒険力:354

職業:素晴らしき尻魔道士

能力:ゴッドヒール、マイルーム、ステータスサーチ、覚醒のくちづけ、レア肉ドロップ確定

装備:ランラン丸、皮のよろい、布のズボン、皮のカバン

所持品:かいふくーん×2、まかいふくーん×2

所持金:420P

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