第113話 希望の覚醒

 邪神の力を得た魔王の力は、圧倒的だった。


 俺が、ユミーリアが、エリシリアが、マキが、コルットが、プリムが、アーナが、その場に倒れている。


 身体中がマヒしていて声も出ず、回復する事も出来なかった。


 このまま死んで、やり直す事になるのか。


 そう思った。


 その時、胸に光が宿った。



 なんだ? 何の光だ?


 俺は胸の光に集中する。


 頼む、なんでもいい。みんなを……助けてくれ。



 胸に宿ったピンク色の光は、俺を、そしてみんなを包み込む。


「む? な、なんだ?」


 魔王が光に気付く。


 俺達を、あたたかい光が包み込んでいた。


 目が開く。


 口が動く。


「ゴッド……ヒール」


 俺は回復魔法を唱える。


 するとピンク色の光は強さを増し、俺達を癒した。


 胸元を見ると、そこにはアーナが作った、アクアペンダントがあった。


 みんな胸元のペンダントがピンク色に光っている。


 よくはわからないが、俺はペンダントに、力を集中する。


 感じる。


 みんなの鼓動を、力を!


 より強く輝いたペンダントの光を胸に、みんなが起き上がり始めた。



「リクト」


 エリシリアが立ち上がる。

 立ち上がったエリシリアは、激しい銀色の雷光をまとっていた。


 光のムチを持つ手の甲には、雷の紋章が刻まれていた。


 あれは本来、サンダーの紋章で主人公が覚醒した時に、額に現れる紋章だ。


 それがエリシリアに宿っていた。


「リクト様」


 マキが起き上がり、背中から黒い翼が生える。


 ゲーム終盤、覚醒したマキが前世の力を取り戻した証だった。


 マキの目がピンク色から赤に変わり、人と魔の両方の魔力を展開する。


「おにーちゃん」


 コルットが起き上がり、全身から親譲りの青い闘気が立ち上がる。


 髪の毛が逆立っている。技ゲージをためて発動する覚醒状態、全ての能力が上がる、スーパーモードだ。


「お兄様」


 プリムが立つ。全身が赤く光っていた。


 光る王冠を取った時になれる、触れただけで相手を倒す事が出来る、無敵モードだ。



「リクト」


 俺の隣で、ユミーリアが起き上がる。


 3つのトリプルテールが、激しく金色に光り輝いていた。


 勇者のよろいが、盾が、かぶとが、剣が、ユミーリアに力を与える様にきらめいている。


 そしてその瞳は力強く、希望に満ちていた。



「なんだ、何が起きている?」


「ふっふっふ、お主の負けじゃよ、魔王」


 魔王が声のした方を見る。


 そこには、ゆっくりと起き上がるアーナの姿があった。


「アクアペンダントには、もうひとつ仕掛けをしておいたのじゃ。普段リクトの魔力を少しずつペンダントにためておき、いざという時には、ペンダントを通してリクトの魔力を皆に分け与える事が出来るようにしておいたのじゃよ」


 そうか、それで俺に力がよみがえり、みんなも立ち上がったんだ。


 そして俺の魔力を受けて、みんなは覚醒したのか。


「馬鹿な! そんな、そんな事が!」


「出来るのじゃよ。このペンダントを作ったのは誰じゃと思っておる? そう……」


 アーナは一度大きく息を吸って、自身を指差して、声高らかに叫んだ。



「わしじゃよ!!!」



 俺達は、笑った。


 笑って、魔王を見る。


 相変わらず魔王は邪神の気をまとっているが、もう怖くはない。


「いくぞみんな! ありったけの力をぶつけてやれ!」


 俺の号令で、みんなが最大の必殺技を放つ。



「ライトニングサンダー!」


 エリシリアのムチがらせん状になり、中心から銀色の雷を放つ。


「ダークプリズムフレイム!」


 マキが漆黒の翼を大きく広げ、手から黒と白が交じり合った波動を撃つ。


「超級! 撃動波(げきどうは)!!」


 コルットが巨大な青い撃動波を放つ。


「アルティメットレーザー!」


 プリムが手を前に出し、全身の赤いオーラをレーザー状にして放った。


「私はリクトを、みんなを、守りたい!」


 ユミーリアが勇者の剣を天高くかかげる。


 金色になびくトリプルテールから光を吸収し、黄金の剣となる。


「ブレイブソード!」


 ユミーリアが剣を振り下ろすと、黄金の剣が、魔王へと向かった。



「おのれ! こざかしいわ!」


 魔王がそれぞれ向かってくる必殺技を迎え撃つ。


「いくぞランラン丸、もう一度、融合だ」

「待っていたでござるよリクト殿!」


 俺はランラン丸と心をひとつにする。


「合(ごう)!」

「結(けつ)!」


 俺の尻が光り輝き、俺とランラン丸は、ひとつになる。

 俺の髪に紫色のメッシュが入り、瞳は金色に、服は黒い着物になる。


「うおおお!」


 俺達は思いっきり飛び上がる。


「天使のケツ!」


 俺の尻からピンク色の翼が生える。


 俺は飛んで、魔王へと向かう。


「やるぞランラン丸!」

「ハッハッハ! これはまた無茶な技を思いついたでござるな! しかもぶっつけ本番とか、死んでもしらんでござるよ!」


 俺はみんなが放った技と、魔王の間に向かって飛ぶ。


 そして意識を無にして、みんなの力を感じ取る。


「何をする気だ! 勇者あああ!」


 俺は背中に感じるみんなの力を、そして前からせまりくる魔王の力を、ひとつにする。


 竜我天聖(りゅうがてんせい)。周囲の気を自分の力に変えて放つ、リュウガの最終奥義だ。


 それを、ランラン丸に力を込めて、魔王に放つ。


「くらえ! 竜我天聖・シリブレード!」


 この場にある全ての気を、ピンク色の尻の形に変える。


 刀を振るうと、ピンク色の竜が現れる。


 竜は両手にふたつの丸い気を持っていた。


 ふたつの丸い気と共に、竜が魔王を襲う。



「ぐあああああああああ!!」



 ピンク色のまばゆい光が、魔王をおおい、爆発する。


 中心には∞のピンクのラインが現れる。


 ピンク、金、黒、銀、青、赤と、光は色を変えて、空へと突き抜けていった。


 魔王は元の大きさに戻り、力を失って倒れた。



「マイホーム」


 俺がそう言うと、俺の尻が光り、尻からニュッと扉が出てきた。


 マイホームは戦闘中には発動できない。


 どうやら、戦いは終わったみたいだ。


「みんなお疲れ、どうやら終わったみたいだ」


 みんなが俺に向かって走ってくる。


「リクト!」


 ユミーリアが抱きついてくる。


「おにーちゃん、わたし、おにーちゃんを感じたよ!」

「ええ、私もお兄様の力を感じました」


 コルットとプリムが、俺の足にしがみつく。


「ああ、お前の力を感じた途端、力がみなぎってきた。あれは、なんだったんだろうな?」


 エリシリアが手の甲を見る。そこにあった紋章は、すでに消えていた。


「私も、あれほど濃厚な魔力は初めてでした。フフフ」


 マキも背中の翼は消えている。

 だが、妙に顔が赤い。息も荒い。超エロい。


「やったの、リクト!」


 アーナ。今回の俺達の救世主だ。


「ありがとうアーナ。お前のおかげで助かった」


 アーナの作ったアクアペンダントがなければ、俺達は今頃、全員死んでいただろう。


「ハッハッハ! そうじゃろうそうじゃろう。今回の主役はやっぱり……」


 アーナが大きくのけぞる。


 俺達はお互いうなずいて、みんなで、ビシッと自身を指差した。



「わしじゃよ!」



 俺達は、全員でアーナのマネをして、一斉にわしじゃよと叫んだ。


「ハッハッハ! そうじゃな、みんなが主役じゃ! ハッハッハ!」


 アーナは心底うれしそうに笑った。


 俺達もお互い、笑いあった。



「さて、それじゃあもうひと仕事するか」


 俺は魔王に向かって歩き出す。


「もうひと仕事、だと?」


 エリシリアが聞き返してくる。


「ああ、魔王に聞きたい事があってな……邪神の事だ」


 俺のその言葉に、全員息を呑む。


 邪神。


 今回、明確に魔王に力を貸す所を俺達は見た。


 今までは邪神なんて本当に居るのかわからなかったが、今回はハッキリした。


 邪神だかなんだか知らないが、魔王に力を貸した者がいる。


 しかも、その力のせいで俺達は全滅する所だった。危険な存在だ。


 俺達は倒れた魔王に近づいた。



「勇者か、まだ我に何か用か?」


 魔王が倒れたままこちらに話しかけてくる。


「ああ、邪神の事について、聞きたいんだ」


 邪神、という言葉を聞いて、魔王が上半身を起こした。


「邪神か、それを知ってどうする?」


「俺達の最終目標は、邪神を倒して世界を平和にする事なんだよ。だけど今まで、邪神にかかわる事はあっても、会った事はないからな」


 邪神の使徒もこいつらも、邪神の名を口にはするが直接邪神が出てくる事はなかった。


 いったいどんなやつなのか気になる。


「邪神とは……」



 魔王が口にしようとした瞬間、魔王の身体を闇の剣が貫いた。



「がはっ!」

「な、なんだ!?」


 魔王が口から紫色の血を吐いた。


 そして、俺と魔王の周りを、黒い炎がおおった。


「な、なんじゃ!?」

「リクト!」


 俺と魔王、みんなは黒い炎で分断された。


 だんだん、みんなの声が聞こえなくなっていく。


「悪いが邪魔をさせてもらう」


 上空に、二人の男女が浮いていた。


 顔には仮面をつけている。


 男女、というのもひとりはズボン、ひとりはスカートだったからそう思っただけだ。

 スカートはロングスカートで、残念ながら中身は見えない。


 ってそうじゃない。


 この黒い炎を出したのはこいつらか? それと、さっきの黒い剣みたいなのも?


 魔王にささった黒い剣はすでに消えていた。


「初めましてリクト君。悪いが君にはここで、死んでもらいたいんだ」


 男の声だった。


「ごめんなさいね。君はね、存在してはいけない者なの。だから大人しく、死んでね?」


 そして女の声、やはり男女二人組みだった。


 新たに現れた敵。


 明らかに分が悪い。


「ランラン丸! 融合だ!」

「り、リクト殿、それが……」


 ランラン丸の声に力が無い。


「どうした?」

「さっきの無茶な技のせいか、力が入らないのでござる」


「ええい、ゴッドヒール!」


 俺はランラン丸に回復魔法をかける。


「だ、駄目でござる。全然力が入らないでござるよー」


 駄目か、くそ。


 だとすると、俺に残された手は、あとひとつしかない。


 光の尻だ。

 光の尻を使えば、スーパーリクトになり、パワーアップする。それならこの状況を打破できるかもしれない。


 だが、この技は使えば死ぬかもしれない。


 だけど、敵は魔王をアッサリ倒した程の強さだ。ランラン丸と融合できない以上、もうこれしかない。


 このまま殺されるくらいなら、やるしかないか!


 俺は空に浮かぶ二人を見る。


「へえ?」

「やる気なんだ? 面白い子ね」


 二人が空から降りてくる。


 女の手には、黒いどこかで見た事がある剣がにぎられていた。


 男の方は、手に魔力を集中していた。


 剣士と魔法使いって所か。


 俺は意識を……尻に集中する。


「いくぞ! これが俺の奥の手! 光の尻!」


 俺の尻が、激しく輝きだす。


 俺の髪が逆立ち、ピンク色に変わる。

 そして、全身からピンク色のオーラが立ち上がる。


「な、なんだ!?」


 男女が驚いていた。


《光の尻:尻が光っている間、スーパーリクトとなりパワーアップする。効果は自分のみ。解除後、誰かに10分間、尻を撫でてもらわないと死ぬ》


 そう、俺にとってこれは、自爆技みたいなもんだ。


 光の尻を解除した後、誰かに尻を撫でてもらわなければならない。


 なんとかこいつらを倒してユミーリア達と合流出来なければ、俺は死ぬ。


「はっ!」


 俺は大地を蹴り、距離を詰める。


 そして男の方の腹に、拳を叩き込む。


「がはっ!」

「あなた!?」


 どうやらこいつらは夫婦みたいだ。


 俺は女の方に、蹴りを放つ。


「ぐうっ!」


 女は俺の蹴りを、剣で受ける。


「やる、わね! あなた、大丈夫?」

「ぐっ……す、すまない、油断した。これ以上はキツイ」


 女は俺を見る。仮面をつけているのでよくわからないがにらまれた気がする。

 しばらく俺を見た後、剣を引いた。

 

「今日はここまでにしておいてあげる。でも、次は容赦しないから」


 女はそう言うと、丸い何かを地面に叩き付けた。


 地面から煙があがる。煙幕か?


「ごほっ、ごほっ!」


 煙が消える頃には、二人の姿は消えていた。


 なんだったんだ? あいつらは。


 俺は床に倒れる魔王を見る。


「ふ、ふははは! なんという事だ。面白い、実に面白いぞ!」


 魔王が笑い始める。


「いったい何がおかしい?」


「これが笑わずにいられるものか。貴様、邪神はなんだと聞いたな? 我は貴様のその力を見て、全てわかったぞ。そして先ほどの二人……クックック、ハーハッハッハ! ゴフッ!」


 魔王は血を吐きながら、笑う。


 俺はそんな魔王の態度に、いい加減腹が立ってきた。


「ひとりで納得してないで教えろよ、いったい何だっていうんだよ?」


「ふん、こんな面白い事をアッサリと教えるものか。我が教えてはそれこそ興醒め。自分で答えを見つけるが良い。もっとも、答えにたどりついた時、貴様は真実に耐えきれるかな?」


 いったいどういう意味だ? さっぱりわからん。


 その時、俺の光の尻の効果が切れた。


 ピンク色のオーラは消え、髪の色が元に戻る。


「げっ」


 マズイ。早く尻を撫でてもらわないと死ぬ。


 しかし、俺と魔王を囲った黒い炎はまだ消えていない。


 まずいまずいまずい。

 ここまで来て死ぬとか、嫌過ぎる! さすがにこれをもう一回やり直したくはないぞ!


 俺はあせる。

 あせるが何も良い方法が思いつかない。


 誰かに尻を撫でてもらわないと!


 誰かに……


 誰か、に?


 俺はふと、地面に倒れる魔王を見る。


 

「……なあ、魔王、ひとつだけ、頼みがあるんだ」

「なんだ? 邪神の事なら教えんぞ。先ほどの二人の事もだ」


 なぜそこにこだわるのかはわからないが今は置いておこう。


「いや、何かを教えてくれという事じゃない」

「ふむ……いいだろう、どうせもうすぐ、死ぬ運命だ。ひとつくらい聞いてやろう」


 俺はピンク色のコートをめくって、魔王の手の近くに行き、しゃがんで尻をさしだす。



「すまんが、10分間、俺の尻を撫でてくれ」


「……は?」



 魔王が間の抜けた声を出す。


「早くしてくれ」

「貴様! 死にゆく我に、はずかしめを受けろというのか!」


 はずかしめってなんだよ。


「勘違いするな。これは俺が生きる為に必要なんだ」

「生きる為、だと?」


 魔王の顔が困惑に染まる。


 だが、少し考えた後、結論を出す。


「いいだろう、貴様には生きて、真実を知る必要がある。その時の貴様の苦しみを思うからこそ我は、よろこんで逝く事ができる。その為なら貴様のその尻、撫でてやろう」


 魔王が手を動かし、俺の尻を撫でる。


「しかし貴様、なにゆえ尻が丸出しなのだ? その為の衣装なのか?」


 そういえば、六魔将軍と戦う為に炎の尻を使ったから、ズボンが焼けて尻丸出しなんだっけ。


「戦いの中で破れたんだ」

「我は貴様の尻など狙っておらんぞ?」


 お前の攻撃で破れたんじゃねえよ。


「ああもう、いいから黙って撫でてくれ」

「むう」


 魔王が渋々俺の尻を撫でる。


 ああ、ついに魔王にまで撫でられてしまった。


 魔王の手の感触を感じる。


 骨ばってて気持ち悪かった。


 生きる為とはいえ、死にたくなってくる。


 魔王に尻を撫でられたって、多分後にも先にも俺くらいだろうな。


「なんと、なんという撫で心地だ。ああ、この世にこんな尻があったのか」


 ええい余計な事を言うんじゃない。黙って撫でろ!


 俺の目の前に、光の文字が出てくる。時計みたいだった。残り09:40。


 長い。


「とりあえず、俺が良いというまで続けてくれ」

「わかった」


 魔王が若干うれしそうだったのは見ないふりをする。


 沈黙が場を支配する。


 黒い炎はまだ消えない。


 むしろ消えないで欲しい。


 こんな姿を、みんなに見られたくはない。


「貴様は、勇者ではなかった」


 魔王が俺の尻を撫でながら、ぽつりと話し出す。


「貴様は、貴様が思っているよりも……厄介な存在だった。そしてあの二人が敵、フフフ、実に愉快だ。それを実際に見れない事だけが、心残りか」


 やがて、10分経過して時計が消える。


 それと同時に、周囲の黒い炎も消えた。


 魔王に尻を撫でられたままの体制で、外に居たみんなと目が合う。


「さらばだ、素晴らしき尻を持つ、ピンク色の男よ。せいぜい苦しむが良い」


 魔王はそう言って、消滅していった。



「り、リクト、お前というやつは! 魔王にまで手を出したのか!?」


 エリシリアが何か勘違いしていた。


「ち、違うんだ! その、ランラン丸が不調だったから、光の尻を使ってさ」


 その瞬間、空気が凍った。


「リクト、その技、使っちゃ駄目って言ったよね?」


 ユミーリアの目が怖い。


「リクト様、あの状況では誰もリクト様のお尻を撫でられません。魔王が協力してくれたから良かったものの、そうでなければ死んでいましたよね?」


 マキも、なんだか怖い。


 エリシリアも怒ってるし、コルットとプリムは涙目になっている。


「馬鹿者。今回はお主が悪い。さすがのわしも、かばう気になれんわ」


 アーナにも見捨てられた。


「ら、ランラン丸」


 ランラン丸なら、一緒にあの状況に陥ったランラン丸なら、なんとかわかってくれるはず。


「いやー、ないわーでござる。いくらあの状況だったからって、いきなり光の尻を使うとかないわーでござる。しかも魔王に尻を撫でてもらうとか、ドン引きだわーでござる」


 俺の味方はいなかった。



 俺はマイホームに戻って、みんなに怒られた。


 光の尻は、誰かがそばに居ない限り、絶対に使用禁止となった。



 その後、俺達は魔王を倒した事を各国に報告した。


「さすがリクトちゃんと私の娘! 勇者ちゃん達もよくがんばったわーん!」

「皆様、お疲れ様でした」


 デンガーナの王様と女王様がプリムを抱きしめながらいたわってくれる。


「そういえばお父様、魔王の城で、お父様が敵として出てきましたよ」

「え? どういう事?」


 プリムが余計な事を言ったせいで、俺がデンガーナの王様の事を苦手だとバレてしまった。


「んもー! リクトちゃんったら、アタシの事を誤解してるんだから! ここはじっくり、その誤解を解きましょうか?」

「そういう態度を取るから警戒されるというのです」

「あひん!」


 女王様のムチがうなる。


 俺達は苦笑しながら、デンガーナを後にした。



「ガッハッハ! そうかそうか、魔王を倒したか! さすがは勇者一行様だ。マキも肩の荷がおりたって顔してるな」


 豪快に笑うウミキタ王国の王様。


 マキも心なしかうれしそうだった。


「これで後は帝国だな。ああ、邪神の使徒とかいうヤツラも残ってるか。なんにしてもお前らはよくやった。しばらくゆっくり休みな」


 豪快に笑うウミキタ王を見ながら、俺達はパッショニアに向かった。



「さすがはリクト様ですわ!」


 パッショニアでは、カマセーヌさんが迎えてくれた。


「ところで、アーナさんはお邪魔にはなりませんでしたか?」

「邪魔どころか、アーナが居なければ危なかったよ」


 俺の言葉を聞いて、カマセーヌさんは信じられないといった顔でアーナを見る。


「なんじゃその顔は! 文句でもあるのか!」

「いえ、単純に信じられない……痛たた! 何をひまふの!」


 アーナとカマセーヌさんがお互いのほっぺたを引っ張り合う。


 相変わらず、仲の良い姉妹の様だった。



 最後に、俺達の街、キョテンの街があるセントヒリアに向かう。


 セントヒリアの王様が、ヒゲのおっさんが、ギルド長が、俺達を迎えてくれた。


 エリシリアはロイヤルナイツのメンバーに囲まれている。


「本当に、よくやってくれた。人々の脅威となる前に魔王を討てたのは何よりだ。後日褒美を与えよう。何か考えておくが良い」


 褒美、か。


 なんという美しい響きだ。さて、何にしようか。


「とはいえ、いまだ帝国と邪神の使徒という脅威は残っておる。これからも気を引き締めて事に挑んでくれ」


 セントヒリア王は、ウミキタ王国の王様と同じ事を言っていた。


 そう、俺達の戦いはまだ終わっていない。


 まだまだ敵は残っているんだ。


「だがまあ、しばらくはゆっくり休むが良い。時には休養も必要だろう」


 俺達は王様の言う通り、今日は早めに休む事にした。




「リクト様、少しよろしいでしょうか?」


 夜、マキが俺の部屋をたずねてきた。


「ああ、いいよ」


 俺はマキを部屋に招きいれる。


 そうして招きいれたマキは……


「なっ!?」


 マキは素早く俺の部屋に入り、扉を閉める。


 マキは、スケスケのネグリジェを着ていた。


「ま、マキ、その格好は!?」

「ウミキタ王国に伝わる、夜の伝統衣装です」


 夜の伝統って何だよ! 何を伝統にしているんだよウミキタ!


「さあリクト様、ゆっくりじっくり、お話し致しましょう」


 マキからただよう良い匂いに、俺の脳がとろけていく。



 魔王との戦いが終わったばかりだというのに、理性との戦いが、始まろうとしていた。



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