第60話 新たなる必殺技、桃尻波!

 街は夕暮れ時だった。


 ブルードラゴンの討伐、フィリスやゼノス、アクデス帝国との遭遇。

 色々あった1日だった。


 そして俺は今、宿屋でコルットの親父さんと話をしていた。


 先日の城での大会でレズリーが使用した技、覇王凛影弾(はおうりんえいだん)。


 自爆技の様に見えたあの技は、オウガが俺を殺す際に何度か使った技に似ていた。


 だから、オウガのライバルであるコルットの親父さんなら、何か知ってるんじゃないかと思って聞いてみた。


 そしてそれは……親父さんの顔を見る限り、当たっていた様だ。


「……なぜ、俺に聞く?」

「親父さんなら、知ってると思ってさ」


 親父さんはしばらく考えると、カウンターに『ただいま離席中』とこの世界の文字で書かれた札を出した。


「ついてきな、ここじゃ話せねえ」


 俺は親父さんについて、宿屋を出た。


 しばらく歩くと、街のはずれに空き地があった。


 空き地に着くと親父さんは立ち止まり、こちらを見た。



「まずは、なぜあの技について聞きたいか、教えてくれ」


 俺は親父さんを真っ直ぐ見て、答える。


「オウガが、似た様な自爆技を使おうとしたんだ。おそらく今後も、使ってくるかもしれない。だから知りたかったんだ」


 使おうとした、というよりは、実際に使われて何度か死んだんだけどな。


 俺の答えに、親父さんは目を見開いた。


「あの野郎が!? そうか、そういう事か……オウガが使った技だから、やつのライバルである俺は知っているかもしれないと思ったわけだな?」


 俺は親父さんの問いに、うなずいて応える。


「あの馬鹿野郎が……いいかリクト、あの技は、自分の命を代償にして放つ技なんだ、決して使おうなんて思うんじゃねえ」


 親父さんが苦々しい顔をしてこちらを見る。


「命を代償にって、レズリーは死にはしなかったけど?」

「ありゃ技が未熟だったからだ、どこのどいつが教えたのかは知らねえが、中途半端だったから、逆に助かったのさ」


 そういう事だったのか。


 自分の命を代償に、か……


「リクト、お前はこれから、オウガと戦う気はあるのか?」


 親父さんがジッとこちらを見ていた。


「……できれば、戦いたくないけど、向こうは俺を殺したがっている。だから、戦わざるを得ないと思う。それに」

「それに?」


 俺の頭に浮かぶのは、まだ幼いコルットだった。


「本当は、親父さんの娘であるコルットがオウガを倒すのが一番いいと思うけど、俺はコルットにオウガを……倒させたくないと思ってる」


 殺す、とは言えなかった。

 コルットにそんな言葉は使いたくなかった。


「……そうか、すまねえな」


 親父さんもそれを察したのか、顔をふせた。


「だから、俺がオウガと戦う。オウガを倒す」


 それが俺の、決意だった。


 コルットにはこのまま純粋な子でいてほしい。

 だから、今の邪悪の塊みたいなあのオウガは……俺が倒す。コルットの手は、汚させない。


「……お前さんの気持ちはわかった。ありがとう、心から礼を言う」


 親父さんが深く頭を下げた。


「いや、そんなつもりじゃないんだ! 俺はただ、コルットがその、そういう世界にかかわるのはまだ早いかなって、それだけで」


 さすがに頭を下げられるとは思っていなかった。


 親父さんは仮にも初代ストレートファイターの主人公、オウガのライバルのリュウガだ。

 いわば格ゲーにおける、心の師匠みたいなものだ。


 そんな人に頭を下げられると、こちらが困ってしまう。


「よし、俺も決めたぜリクト! 俺はお前を強くしてやろう!」


 ……え?


「見たところ、身体はある程度、鍛えてある様だな?」


 まあ、ユミーリア達に重力修行でしごかれたからな。

 最近はちょっとずつ、強くなってきていると思う。


「よし、ならこれから時間がある時には、俺が型と技を教えてやる! それでオウガの野郎をぶっ倒してくれ!」


 これは……まさか、リュウガが本当の師匠になってくれるのか!?


 なんという……なんという胸熱展開!


「ぜひお願いします!」

「よし! それじゃあこれからいくつか型と技を見せる! よく見て覚えるんだ」


 親父さんが型と技を披露してくれる。


 これを全て覚えなければならない。


 しかし、俺にとってそれは、さほど難しい話ではなかった。


 リュウガやコルットの動きなら、ゲームで散々見ている。


 今の動きも、ゲームで見た事がある動きだ!


 後は俺が、この動きを体現できるかだ。


 やってやる。


 リュウガが師匠になってくれるんだ、こんなに燃える展開はない! 俺はやるぞ!


 俺の眠っていた闘魂に火が点いた!


 俺はランラン丸を外してそばに置こうとした。


「ああ、その刀はつけたままでやるんだ。いざという時、外している暇なんてないだろうからな、腰に刀をつけた状態に慣れておけ」


 俺は言われたとおり、ランラン丸を腰につけたまま、型稽古を始める。



 俺はいくつか型を学び、そしていよいよ……あの技を見せてもらう。


 リュウガの得意技、己の気を相手に放つ、いわゆる飛び道具。


 撃動波(げきどうは)だ。


「さて、久しぶりだからできるかな……と!」


 親父さんは両手に気を集中させる。


「撃動波!」


 親父さんが両手を前に出すと、青い気の塊が放たれて、近くにあった岩を粉砕した。


「す、すげえ!」


 俺は感動していた。やはり生で見ると違う。


「よし、やってみろリクト」


 俺はうなずいて、親父さんと同じ様に構える。


 腰を落とし、両手を右腰辺りに持って行き、気を集中する。



 すると俺の手……ではなく、なぜか尻がピンク色に光る。


「……え?」


 なぜ手に気を集中しているのに尻が光るのか。


 いや、きっとこのまま手を前に出せば、手に光が移って、できるはずだ。


「……撃動波!」


 俺は両手を前に出す。


 すると尻から、ピンク色の光の塊が放たれた。


 もちろん、後ろに。


「……」

「……」


 俺と親父さんは無言になった。



「アレだな、お前はほんと、なんていうか」


 親父さんがなんとも言えない顔をしていた。


「ともあれ、威力はしっかりしている様だ」


 確かに、俺の後ろの方にあった岩が粉砕されている。


「しかしこうなると、撃動波ってのは合わねえな……そうだ! せっかくだから技名も、桃尻波(ももしりは)にしたらどうだ?」


 親父さんはヤケになっていた。そう思いたい。決して本気ではないと。


「ほれ、もう一度やってみろ、今度は後ろを向いて、狙いをさだめて、桃尻波を撃つんだ」


 ああ駄目だ。親父さんは本気だった。


 俺はあきらめて、後ろを向く。


「って! 見づらいなもう!」


 俺は目標の岩に背を向けて、なんとか後ろを見る。


 岩を意識して、両手をグッとにぎり、尻に力を集中する。


 すると尻がピンク色に光りだした。


「いいぞ、撃ってみろ!」


 こうなったらもうヤケだ。


「桃尻波!」


 俺は腰を落として尻を後ろに突き出す。


 するとピンク色の光の塊が、尻から放たれる。


 光は岩の少し左の方に向かったが、なんと自動的に軌道が修正され、見事岩にヒットした。


「おお! やるじゃねえか!」


 どうやら、俺が意識した対象に向かって、自動で軌道修正される様だ。

 威力もそこそこあるみたいだな。


 俺はついに、融合していない状態での攻撃技を習得したのだ。



 ……でもこれ、俺が求めてた撃動波と違う。


「よし、この調子でガンガンいくぞ! しっかりついてこい!」



 その日、俺は夜遅くまで、憧れのリュウガから型と技を学び続けた。


 


 そしてその後、黙って出てきた俺と親父さんが宿屋に帰ると……


「リクト、どこに行っていた? 待機する様に言われていたはずだが?」

「あなた? お店を勝手に放っておいて、どこに行っていたのかしら?」


 エリシリアとコルットのお母さんに、メチャクチャ怒られた。


 俺達二人は正座して、土下座した。


 俺達師弟に、絆が生まれた瞬間だった。



「それで、お城の方はどうだったんだ?」


 俺はいまだ正座したまま、エリシリアにたずねた。


「うむ、3日後、改めて会議を行う事になった。当然、私とお前は出席だ」


 3日後か。

 果たしてその会議で、何が決まるのか、何が起きるのか。


 どちらにしても、面倒な事になりそうだ。


「ユミーリアとコルットは留守番だ。会議中に居眠りされては困るからな」


 確かに、今日の感じを見ると、二人は留守番していた方が良さそうだ。


「じゃあ俺も……」

「お前は今回の当事者だろう? 大体、私をひとりにするつもりか?」


 うん、そう言われると絶対に断れない。


「いや、エリシリアをひとりにはしないさ。わかった、俺もいこう」

「う、うむ……そうだな、そうしてくれ」


 エリシリアの顔が真っ赤になった。

 自分で言っておいて照れているのか、可愛いなもう!


 エリシリアを見てニヤニヤしていると、頭にチョップされた。



 俺達は起きてきたユミーリアとコルットに、3日後の会議の事を伝えた。


 ユミーリアは会議に出席しなくて良いと聞いてホッとしていた。

 コルットはよくわかっていないみたいだった。


「ところでリクト、せっかく3日あるんだ、私もあの重力室で修行してみたいと思うんだが、いいか?」


 エリシリアの目が輝いていた。

 するとそれを聞いたコルットが、手をあげた。


「うん! エリシリアさんもやろうよ! 強くなるの、楽しいよ!」


 しぐさはとても可愛いのだが、言ってる事は完全に戦闘狂だった。


 しかし今後の事を考えると、戦力アップは悪くない話だ。


「そうだな、会議までの間はギルドの依頼はレア肉の納品だけにして、修行するか」


 俺も、親父さんにはまだまだ修行をつけてもらいたい。



 話し合いの結果、俺は朝はレア肉の納品、昼間は重力修行、夜は親父さんとの修行となった。


 親父さんも昼間は宿屋の経営があるしな。


 ユミーリア達はみっちり修行だ。

 エリシリアがわくわくしていた。



 そういえば、エリシリアに目標のマイホームの事を聞こうと思ったが、今はやめておいた。


 どうせ3日しかないんだ。今聞いてもロクに動けないだろう。


 会議が終わって、今後の展開がある程度わかったら、聞いてみよう。



 そして、俺達の修行の日々(3日)が始まった。


 レア肉の納品は3回。パーティ資金は89万2320P(ピール)になった。目標の100万まであと少しだ。


 3日後の会議は昼間行われるから、みっちり修行が出来るのは実質2日だ。



 重力室での修行。

 最初は俺とエリシリアに合わせて、10倍の重力で修行をする事になる。


「くっ! キツイな、これは……立っているだけで精一杯だ」

「俺も……くっ! 駄目だ!」


 俺は早くも地面にへばりつく。


「だが! ここで俺の十八番! 拡散型ゴッドヒール!」


 俺は回復魔法を唱える。


 重力室がピンク色の光に包まれる。


 あの時、コルットの親父さんを助けた時に感じてわかったのだが、どうやらゴッドヒールは対象を回復するのと周囲全体を回復する2つのタイプがある様で、俺は周囲全体を回復する方を、拡散型ゴッドヒールと名づけた。


「なるほど、身体に限界まで負荷をかけ、そして力尽きれば回復させてを繰り返すのだな。お前達が短期間で強くなるわけだ」


 エリシリアが感心していた。


 そこまで深く考えていたわけじゃないんだけどな。

 単純に、疲れたら回復して修行を続けていただけだ。


「フフフ、いいぞ、これなら私もすぐに強くなれる! 見ていろリクト!」


 エリシリアが張り切っていた。


 ちなみに、ユミーリアとコルットは10倍の重力程度ならすでにモノともしておらず、端の方で組み手をしていた。



 後半はユミーリアとコルットに合わせて、50倍の重力にした。


 当然、俺は立ち上がる事すら出来なかった。


 エリシリアはなんと立ち上がった。これが才能の差か。


 俺はひたすら回復魔法を唱えるマシーンとなった。



 そして夜、俺は親父さんに型と技を見てもらう。


 新しい事はないが、こういうのは繰り返しが大事だからな。


「シクシク、拙者が修行しようって言った時は、10分で素振りに飽きたのに、リクト殿ひどい。そんなに親父殿の方がいいのでござるな」


 ランラン丸がわざとらしく泣いていた。


 あの時は、今みたいに、目標や意志がしっかりしていなかったからな。


 だけど今は違う。


 俺はユミーリアを、コルットを、エリシリアを守りたい。一緒に居たい。


 その為には、強くならないといけない。


 ここで戦闘に関するチートでもあればいいんだが、神様はそこまでは与えてくれなかった。


 しかし、強くなれる環境と回復魔法はある。


 後は俺がどれだけがんばれるかだ。

 やってやろうじゃないか!


「ランラン丸」

「なんでござるか?」

「……今度、剣の型も教えてくれ」


 俺がそう言うと、ランラン丸はうれしそうに返事をした。



 2日目、すでにエリシリアは10倍の重力をクリアしていた。


「嘘だろ?」


 俺はまだ普通に動くだけで精一杯だった。


 せっかくなので、夜に親父さんに習った型を復習してみる。


「あ、おにーちゃん、それ!」


 コルットが反応した。


 そうか、コルットも親父さんから習っただろうから、俺が型を復習していれば、わかるよな。


「コルット、変なところがあったら言ってくれ」

「うん、わかった!」


 俺は型を続ける。


 しかし、コルット先生の指導は微妙だった。


 コルット先生は、「ちがうよー」か、「それそれー」しか言ってくれないのだ。

 具体的に聞くと「んーと、こんなかんじ!」と実際に型を見せてくれるだけだった。


 コルット可愛い。

 それが俺の結論だった。


 そして今度は、ユミーリア達に合わせて重力60倍。昨日より増えとる。


 エリシリアはなんとか、ユミーリアとコルットに食らいついていた。


 俺は地面にはいつくばりながら、必死に回復魔法を唱える。


 エリシリアの言った通り、重力修行と回復魔法の相性は最高だった。


 自分の限界の力で重力に耐え、そして回復して続ける。このコンボがまさに、俺達を強くした。




 そして3日目の朝。


 ギルドでレア肉の納品を済ませた俺は、ギルド長に声をかけられた。


「よう、今日はよろしく頼むよ」


 すでにギルド長は正装していた。


 俺も準備をすると言って一度マイルームに戻る。


「って! 俺、正装とか持ってないぞ!?」


 今さらながら気付いた。


「気にするな、お前はいつものピンクのコートでいい。その方がみんながお前を認識しやすいからな」


 エリシリアはすでに準備出来ているようだった。


 とは言っても、いつもの鎧だ。


「エリシリアは正装とかしないのか?」

「パーティではなく会議だからな、これでいいのさ」


 結局俺は、ピンク色の絶壁のコートで出席する事になった。


 まあ、何かあった時の為に、この方がいいんだけどさ。



「それじゃあ、行って来る」


 俺はユミーリアとコルットに、声をかける。


「うん、いってらっしゃい」

「いってらっしゃーい!」


 ユミーリアとコルットが手を振ってくれる。


 ……なんだか奥さんと子供にいってきますを言ってるみたいで、なんか良い。すごく良い。


「二人とも、何かあればすぐに呼ぶから、頼んだぞ」


 エリシリアの言葉に、ユミーリアとコルットがうなずく。


 二人には何かあった時の為に、マイルームで待機してもらう事になっている。


 これなら戦闘中でなければ、すぐに俺達の元に呼び出せるからだ。



 俺とエリシリアはマイルームを出て、城に向かう。


 そういえば、城に行くのは初めてだな。


「なんだリクト、緊張しているのか?」


 エリシリアが笑う。


 綺麗だなと、素直に思った。


「……馬鹿者、無言で見つめるな。照れる」


 今度は顔を赤くして怒った。可愛い。


 そしてニヤニヤ見ていたら、最終的に頭にチョップしてきた。


 この2日間で強くなったエリシリアのチョップは、とても痛かった。



 城に着いた俺達は、会議室に案内された。


 慣れた様子のエリシリアと違って、俺はついキョロキョロしてしまう。


 やっぱりゲームで見るのとは違うなーなんて思いながら、城内を見ていた。


 会議室に着くと、すでに王様以外は集まっていた。


 長机の左側に軍団長やロイヤルナイツやお城の人達、右側にギルド長やヒゲのおっさんが座っていた。

 他にも知らないおっさんやじいさんが数名居た。


 俺達が右側の席に着くと、しばらくして王様が大臣と一緒にやってきた。



「それではこれより、会議を始める!」




 大臣の号令で、会議が始まった。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る