第8話 動き始めたメインストーリー

 マイルームにランラン丸を入れたら、美少女に変化した。刀になる前の姿らしい。


 そんなランラン丸に、俺はゲームの事、世界の事、俺の事を話した。



「ふむ、リクト殿はこの世界の人間ではなく、神様と思われる人物にこの世界に飛ばされた。この世界はリクト殿の世界で書かれた物語の世界だと、そういう事でござるな?」


 ゲームと言っても通じないだろうから、物語の世界だという事にした。


「ああそうだ」


「で、勇者が邪神を倒して世界を救う。それを邪魔しない程度に見届けつつ、この世界を楽しむというのが、リクト殿の目的、というわけでござるな?」

「おう」


 ランラン丸は、思ったより理解が早かった。しかし……


「俺が言うのもなんだが、やけにアッサリ受け入れるな?」


 普通、俺は異世界からきました。とか言ったら、変人扱いか、可愛そうな人扱いになりそうだが。


「んー、いくつか理由はあるでござるが、一番はリクト殿の言う事だから、でござるな。拙者、ご主人であるリクト殿の言う事は疑う気はないでござるよ」

「ランラン丸……」


 ちょっと目頭が熱くなった。いいやつじゃないかランラン丸。


「まあ、拙者の事をアッサリ受け入れたというのも、これで納得がいったでござる」

「ああなるほど、そういう見方もあるか」


 確かに、俺がランラン丸の事を受け入れられたのも、剣がしゃべるという事について、ファンタジーなんだからそれもアリだろうと思ったからだしな。


「それで、話は戻るでござるが、リクト殿は勇者を助けたりはしないのでござるか? せっかく大好きな物語の世界にきたのに、物語にかかわらなくて良いのでござるか?」


 ふむ、メインストーリーを体験したいというのはもっともな意見だ。だが……


「お前、俺の冒険力知ってるだろう?」

「あー」


 勇者の初期冒険力が334、俺の冒険力はランラン丸を装備して102。話にならんのだ。


「それにだ、俺がかかわる事によって、ストーリーの内容が変わったらどうする? ヘタすりゃ世界が救われなくなるかもしれないんだぞ?」

「なるほど、それもそうでござるな」


 むしろそれが一番怖い。だからこそ、ユミーリアともパーティが組めないんだし。


「そんなわけでだ、俺はこの物語の世界で、なるべく勇者の邪魔にならない様に、楽しく生きようって決めたんだ」

「まあ、それが無難でござるかなー。うん、リクト殿の事は良くわかったでござるよ」


 ランランがソファに寝そべりながらうなずいている。


「そういえばランラン丸、お前は物語の中に登場しなかったぞ? 日本刀もなければ、しゃべる武器なんてのもなかった」

「ほう? という事は、拙者は運命には縛られぬ、特別な存在というわけでござるな?」


 ランラン丸の目が輝く。ちょっとうれしそうだった。


「いや、たんに触れるまでもない存在だったのかもしれないぞ? 実際俺が今お世話になっている宿屋とかも、物語に出てこなかったし、必要ないから出てこなかったんじゃないか?」

「なにそれひどいでござる!」


 むしろそうであって欲しい。

 そうでなければ、これから俺の知らない事、想定外の事が起きるかもしれない。


 ゲームに存在しなかったものか……なんだか、ちょっと不安になってくる。


「ちなみに、勇者はこれからどう動くのでござるか?」


 ランラン丸がソファでゴロゴロしながら聞いてくる。


「ん? そうだな、まずはこの後、ギルドで依頼を受けながらレベルを上げて、ランク昇格試験を受けるな。ランクFからEに上がる試験はゴブリン3匹を討伐する事なんだ」


 俺はゲームの流れを思い出していた。


「なんだ、楽勝でござるな」

「ところがだ、ここで想定外の事が起こる。なんとゴブリンに混じって、ゴブリンキングが出てくるんだ」

「ご、ゴブリンキング!?」


 さすがのランラン丸も驚いた。


「ゴブリンキングって、ゴブリンとは全然強さが違うではござらんか。大丈夫なんでござるか? というか、なんでそんな大物が出てくるのでござる? 確か100年に一度くらいしか生まれない様なモンスターだったはずでござるよ?」


 確かに、ゴブリンキングの強さはゴブリンと比べて桁違いだ。そもそもゲーム内では一匹しか出てこないしな。


「これは後でわかるんだが、そのゴブリンキングは邪神の使徒によって作られたモンスターなんだ。今後も勇者の前には、そういった想定外の強さの敵が現れるんだよ」


 ストーリーの中で、勇者は何度もピンチにおちいる。

 その度に、勇者の力が覚醒したり、仲間との絆の力で乗り越えていた。


 まあ実際は、ある程度レベルをあげてれば戦闘には勝てるんだけどな。あとはイベントで勝利って感じだ。


 俺はそれをランラン丸に説明した。


「なるほど、なんとも都合がいい話でござるなー」

「なんだかんだで、物語だからな」



 そうしてランラン丸に色々説明した後、マップで今日の元気草の配置を確認して、俺達はマイルームを出ようとした。


 だが……


「拙者、もう外に出たくないでござるー」


 なんと、ひきこもりが誕生していた。


 俺はソファにしがみつくランラン丸を無理矢理引きずって、外に出た。




 再び刀に戻ったランラン丸を腰に装備して、俺はギルドに向かった。


 今日のギルドは、なにやら騒がしかった。


「どうしたんです?」

「おう、シリトか?」


 ヒゲのおっさんだった。


「だから俺の名前はリクトだって!」

「おお、すまんな。なに、勇者様が早くもランク昇格試験を受けるって言うんで、みんなが注目してるのさ」


 なに? もうランク昇格試験を受けるのか?


「ちなみにそれって、男の方?」

「そうだ、男の勇者様だ」


 そうか……あ! 俺が昨日、風呂であおったせいか。大丈夫なんだろうか?


 そもそも、男勇者は今レベルはいくつなんだ?

 確かゴブリンキング討伐の推奨レベルは、8だったと思うが……仲間の構成やレベルにもよるしな。


 そうしていると、男勇者がやってきた。


「やあリクト、僕はこれからランク昇格試験に向かうよ」


 今日も男勇者はさわやかイケメンだった。


「大丈夫なのか? 昨日も言ったが、無理はしないでくれよ」

「大丈夫さ、妹の為にも、一日でも早く強くならないといけないからね!」


 そして邪神を倒す、と言いたげな目をしていた。


 俺は考える。

 このまま行かせていいものかと。


 何か、ストーリーを変えない程度の何かが、できるんじゃないか?


「……ユウ」

「ん?」


 俺は男勇者を見つめる。

 俺の尻が光って、男勇者のステータスが表示された。


《ユウ レベル8 冒険力1320》


 おお、推奨レベルギリギリか。


「えっと、リクト? 今のはなに?」

「……未来が見えた」

「え?」


 俺は相手のステータスを見るチート能力のおかげで尻が光った事を利用して、ある事を思いついた。


「あいまいだが、未来が見えたんだ。ユウ、お前達がゴブリンを倒した後に、巨大なゴブリンが現れる未来が見えた」

「き、巨大なゴブリン?」


 男勇者が目を見開いて驚いている。


「……信じるかはお前次第だ。だが、十分気をつけていけ」


 そう、俺はゲームのストーリーを知っている。

 だからこそ、未来が見えるなんて事が言えるんだ。


 これくらいの助言なら、ストーリーが大きく変わったりはしないだろう。


「ありがとう、十分気をつけていくよ」

「ああ、そうしてくれ」


 俺に礼を言うと、男勇者は仲間と共に出て行った。


 男勇者の言ったとおり、パーティメンバーは、男戦士、女魔法使い、女僧侶だった。


 すれ違い様になぜかみんな、俺の顔……ではなく、尻を見ていった。



「おい、聞いたか? 今の話」

「さすが尻魔道士だぜ」

「未来が見えるって、それマジ?」

「ありがたやありがたや」

「美しい光だ」

「尻が光る所を見れるなんて、今日はツイてるぜ!」


 またしてもまわりがうるさい。

 もうやだこのギルド。


 俺はギルドの連中の視線が俺の尻に集中している事に気付かないフリをして、カウンターに向かった。


「おはようございます、リクトさん」


 今日もラブ姉の笑顔とゆれるラブルンがまぶしかった。ラブ姉だけが俺の癒しだ。


「あら、武器を手に入れたんですね? 今日はどうされますか?」


 ラブ姉が俺の腰についたランラン丸を見て聞いてくる。


 そんなランラン丸は、さっきからシリトという名前を聞いて、爆笑している。捨ててやろうかこいつめ。


「……武器は手に入れましたが、防具がまだなので、今日も無難に薬草採集にしたいと思います」


 ラブ姉は俺の希望を聞くとニッコリ笑って、昨日と同じ元気草の採集依頼の受付をしてくれた。



 俺はギルドを出て、マイルームで確認した元気草の配置場所に向かう。


 今日は昨日より少しはなれた平原だった。


「おお、生えてる生えてる」


 俺は早速、元気草をカバンにつめこんだ。


「しかし、ついにメインストーリーが動き始めたか」


 ランク昇格試験、これはゲーム内でボス戦がある最初のイベントだ。


「……頑張ってくれよ、勇者」


 俺は空を見て、今頃ゴブリンキングと戦っているであろう勇者を想う。


 本当は見に行きたいが、今の俺じゃ、行っても邪魔になるだけだろう。ヘタしたら死ぬだろうし。



 そうしていると、前から宿敵、ケモリンがやってくる。


「さて……」


 俺は元気草がつまったカバンを置いた。


 勇者には勇者の、俺には俺の戦いがある。



 俺はランラン丸に、手をかける。


「おや? 今日は薬草採集にするんじゃなかったのでござるか?」

「少しは戦ってみないとな、ケモリン一匹なら……なんとかなるだろう」


 俺の戦う気配に気付いたのか、ケモリンが身構える。


 俺はランラン丸を鞘から抜き、構えた。


「アハハ! ひっどい構えでござるなー」

「ランラン丸、うるさい!」


 まったく、こっちは緊張してるってのに……もしかして、緊張をほぐそうとしてくれてるのか?

 だとしたら……まったく、よくできた刀だよ。


「……いくぞ!」


 俺はケモリンに向かってダッシュした。


 そしてケモリンに、刀を振り下ろす!


「キュキュッ!?」


 ……刀が触れると、アッサリとケモリンは消滅した。


 あとには綺麗な石だけが残っていた。



「……か、勝ったのか?」

「でござるな。リクト殿の勝利でござる」


 俺は今さら手が震えてきた。


 勝った。


 勝ったんだ、俺。


 初めて、モンスターを倒したんだ!


「うおおおおお! 勝ったぞおおおお!!」


 俺は思わず、叫んでしまった。



「リクト殿ー、うれしいのはわかるでござるが、前、前」

「え?」


 俺の叫び声につられたのか、2匹のケモリンがあらわれた。


「うぐっ! し、しまった! くそ、やるぞランラン丸!」

「ほいほいー、しっかりやるでござるよ!」


 俺は再びランラン丸を振りかぶり、ケモリンを斬った。


 なんとか攻撃を食らわずに、ケモリン二匹を倒した。


「はあ、はあ、なんとかなったか……」


 その時、ステータスカードが光った。


「お?」


 なんと、レベルが上がっていた!


「おおおお! レベル上がったよ! 見ろよランラン丸! レベルが上がったぞ!」

「おお、おめでとうござるよリクト殿ー」


 レベルが2に上がって、HPが18、MPが27、冒険力が120になっていた。


 俺は感動していた。

 レベルアップがこんなにうれしいものだなんて、思わなかった。


 ゲームとは違い、自分のレベルが上がるというこの感覚。最高だった。



「リクト殿、うれしいのはわかるでござるが、忘れない内に、魔石を回収するでござるよ」


 ん? 魔石?


「この石か? この石は何なんだ?」


 俺はケモリンを倒した後に出た、綺麗な石を拾った。


「魔石でござるよ、モンスターを倒すと出てくるでござる。それをギルドで換金できるのでござるよ」


 へえ、モンスターを倒した時にもらえるお金は、この世界ではこうなるのか。


「あとは、たまにアイテムがポンッと出てくるでござる」


 すげえなさすがファンタジーだ。はぎ取りとかしなくていいのはありがたい。



 ともあれこれで、レベルも上がってお金もゲットできたわけだ。

 モンスター退治……最高だな!


「よし! この調子でもっと狩るか!」

「はいはい、油断は禁物でござるよ。まだ防具がないんでござるから、今日はこの辺にしておくでござるよリクト殿」


 ……そういえばそうだった。ついうまくいったから、調子にのってしまった。


「そ、そうだな。ありがとう、ランラン丸」

「むふふふ~、レベルアップしてはしゃぐリクト殿、可愛かったでござるよ?」


 ランラン丸の言葉に顔が赤くなる。確かにちょっとはしゃぎすぎたかもしれない。


「よ、よし! 元気草もたっぷりつめたし、街に戻るぞ」

「了解でござるー」


 俺は顔の熱さを風でさます様に、早足で街に戻った。



 ギルドに着いた俺は、魔石と元気草をラブ姉に提出した。


「す、すごい! 元気草がこんなにたくさん!? 相当歩き回ったんですか?」

「いやあ、たまたまたくさん生えてる所を見つけたんですよ」


 まあ、マイルームで確認してから行ったんだけど。


「それにケモリンを三匹。レベルも上がってますね。お疲れ様でした、リクトさん」


 ラブ姉がほめてくれる。

 話す度にゆれるそのラブルンに、とても癒された。



「それでは今回の報酬です。元気草が30P(ピール)、ケモリンの魔石が1つ2Pで、3つで6P。合計で36Pですね」


 おお! なんだか一気に増えたぞ! これで合計の手持ち金は、37Pか。


 昨日は残り1Pだったが、なんとかなるもんだ。これからも薬草採集は続けよう。



「勇者が帰ってきたぞ!」


 誰かがそう言った。


 見ると男勇者が帰ってきていた。


 ……ボロボロだった。戦士なんかは瀕死の様だ。


 ギルド内が騒然としていた。


「おや? もしかして、ゴブリンキングに負けたのでござるか?」


 俺はランラン丸の言葉にこおりついた。


 その可能性を考えていないわけではなかった。ゲーム中でも、全滅する事は普通にあった。


 その時は、ギルドで目を覚まして……「危ない所でしたね、熟練の冒険者が助けてここまで連れてきてくれたんですよ」ってラブ姉に言われるんだっけ。


 しかし、この世界ではどうなんだ?


 男勇者達は何とかここまで帰ってきたみたいだが、倒されなかったゴブリンキングはどうなる? ゲームと同じ様に、同じ場所で待っててくれるのか?



 俺は不安になりながらも、男勇者の言葉を待った。




◇ステータス◇

リクト

レベル:2 HP:18 MP:27 冒険力:120

職業:素晴らしき尻魔道士

能力:ゴッドヒール、マイルーム、ステータスサーチ

装備:ランラン丸、布の服、布のズボン、皮のカバン

所持品:かいふくーん×2

所持金:37P

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