第42話 ついに到達、Cランク

 俺は放心していた。


 今までで一番、色んな事が一気に起きた気がする。


 フレアイーグルの討伐に来たと思ったら、オメガドラゴンが出てきた。


 それどころか、本来もっと後に出てくるはずの、ユミーリアの幼馴染、フィリスまで出てきた。


 しかも本来の性格と違い、なぜかヤンデレになっていた上に、オメガドラゴンを吸収しやがった。


 ちょっと出てきて場面を引っ掻き回すだけのキャラだったのに、どうしてこうなった?


「……」


 ユミーリアも突然の事に、戸惑いを隠せない様だ。



「あ、おにーちゃん、フレアイーグルが戻ってきたよ」


 空気を読んで黙っていたコルットが、空を見て指差した。


 オメガドラゴンが居たせいでどこかに避難していたのだろう。


 本来の討伐対象、フレアイーグルが生息地に戻ってきた様だ。


「コルット、とりあえず1匹倒しておいてくれるか」

「うん、わかったー!」


 コルットがフレアイーグルに向かって駆けて行き、一撃で倒した。


 フレアイーグルが魔石に変わる。


 これで俺達の討伐依頼は終了だ。



「とりあえず、帰るか」


 俺の言葉に、ユミーリアが反応する。


「ふあっ!? う、うん……その、えっと……」


 うーん、思ったよりユミーリアのショックが大きいみたいだ。


「ユミーリア、幼馴染が突然敵になってショックなのはわかるが、ひとまず帰ろう」


 俺の言葉に、ユミーリアが首をかしげる。


「幼馴染? ……あ、そっか、フィリスの事? うん、それはまあ、そうだね」


 ……うん?


 なんだ、この反応?


 フィリスの事でショックを受けているんじゃないのか?


「リクトは……平気なんだ? その、あの……」


 平気? 何の事だ?


「そうだよね、リクトにとっては、ただのパワーアップの為の行為だもんね」


 パワーアップの行為?


 ……あ。


 そ、そうか! さっきの、き、キスの事か!?


 しまった、前回はユミーリアがそのまま気を失って、忘れていたから気にしていなかったが、今回はバッチリ意識が残っているもんな。


「あー、その、なんだ? 確かにパワーアップの為に仕方なかったというか、それでも大切な事だったというか」


 俺はなんと言っていいかわからなくなる。


 さっきまでオメガドラゴンやフィリスの事で頭がいっぱいだったのに、急にキスの話だ。


「うん、わかってるよ。パワーアップをお願いしたのは私だし」


 ううん、どうもさっきとは別の、気まずい空気になっている。


「とにかく戻ろう! うん、まずは戻ってから、色々考えよう。な?」


 俺は無理に笑って、マイルームを出す。


 俺の尻が光り、光の中から扉が出てくる。


 俺達はマイルームに入り、ギルドへ戻った。



 ギルドについた後、俺は迷っていた。


 オメガドラゴンの事はどう報告しようかという事だ。


 散々迷ったが、特に報告はしなかった。


 今回はオメガドラゴンを倒したわけでもないから、魔石も無いので証拠が無い。


 なのにオメガドラゴンが現れたと言っても、信じてもらえないだろう。

 そもそも、オメガドラゴンって邪神の使徒が作ったモンスターだしな。言ってもわからないだろう。



「おめでとうございます、これでリクトさん達は、Cランクですよ」


 コルットが倒したフレアイーグルの魔石を受け取って、ラブ姉が笑顔で祝福してくれる。


 そうか、俺たちこれで、Cランクになったんだよな。


 俺達のステータスカードを受け取って、ラブ姉がCランクの処理をしてくれる。


「……え?」


 そこでラブ姉の手が止まった。


「あの、どういう事でしょうか? リクトさん達のステータスが、おかしい事になっているんですけど?」


 俺達のステータス?


「何か変かな?」


 俺達は顔を見合わせる。


 ユミーリアも少し落ち着いたのか、普通に顔を合わせてくれた。


「リクトさんもそうですが、お二人の冒険力が、2万を超えているんですけど?」


 珍しく、ラブ姉が汗をかいている。


 そうか。重力修行をして強くなってから、誰かにステータスを見せたのは初めてだったか。


 その前は1万もなかったからな、俺達の冒険力。


 まあ、俺は今も1万もないんだけどさ。


「ちょっと特殊な修行をしてさ、それでみんな強くなったんだ」


 俺は簡単に説明する。


「特殊な修行ってなんなんですか!? たった数日でこんなに強くなれるなんて」


 マイルームの事は、できるだけ内緒にしておきたい。


 たとえラブ姉であっても、不用意に話すべきではないだろう。


 これ以上、イレギュラーな事はごめんだ。



 俺はなんとかラブ姉の質問をうまくごまかし、三人でマイルームに帰った。



「ふう、なんだか忙しい一日だったな」


 俺は身体をソファに沈めた。


「あはは、お疲れ様、リクト」


 ユミーリアはいつの間にか、普段の調子を取り戻していた。



「おや、ユミーリア殿、もう大丈夫なのでござるか?」


 せっかくユミーリアが調子を取り戻したというのに、ランラン丸がわざわざ話題に触れていく。


 まったくランラン丸め、余計な事を。


「うん、あれはあくまでパワーアップの為だから、気にしない事にしたの。それでも、いつかは……」


 最後の方は、俺には聞こえなかった。



 考える事はいくつもある。


 だが、俺はソファに身体を沈めたまま、動けなかった。

 今はなんだか、こうしてボーっとしていたかった。


 それを察したのか、コルットがソファに来て、俺のヒザの上で寝転がった。


「……私も!」


 ユミーリアもソファに来て座り、俺の肩に頭を乗せる。


「ならば拙者もー!」


 ユミーリアの反対側に、ランラン丸が座る。


 普段なら、女の子に囲まれているこの状況にあわててしまう所だが、今日は疲れているのか、なんだか眠くなってきた。


「うん、みんな無事で良かった」


 俺はウトウトしてきて、眠ってしまった。


 疲れが溜まっていたのかもしれない。


 Cランクになったし、ここらで一度休んでもいいかもしれない。

 この世界にきてから今日まで、怒涛の日々だったからな。


 明日は休みにしようかな。


 そんな風に思いながら、俺は目を閉じた。



 だが、俺は忘れていた。


 Cランクになった勇者には、すぐにイベントが発生するという事を。




 次の日、俺達の宿屋に、ヒゲのおっさんがやってきた。


「シリト! いるか!? 大変な事になった! すぐに一緒にきてくれ!」


 俺は寝ぼけながら、部屋の扉をあけた。


「なんだよおっさん、朝っぱらからどうしたんだ?」


 俺はまだ眠い目をこすりながら、おっさんに話を聞いた。


「オーガだ、オーガの群れが現れて、この街を目指していやがる。Cランク以上の冒険者は全員集合の緊急事態だ。すぐに仲間と一緒にギルドにきてくれ!」


 おっさんの話を聞いて、俺は思い出した。


 Cランクになった次の日、オーガの群れが襲ってくるイベントがある事を。


 そして、Cランクになったばかりの勇者も招集される事を。


「わ、わかった! すぐに向かう!」


 俺はユミーリアとコルットを起こして準備をする。



 ギルドに着くと、何人もの冒険者達が集まっていた。


「リクト、大変な事になったみたいだね」


 男勇者も居た。


「ユウ、お前はどうだ? Cランクになったのか?」

「うん、昨日ね。リクト達には先を越されちゃってたみたいだけどさ」


 なんと、男勇者は俺達と同じ日にCランクになっていたらしい。


 これじゃユミーリアと男勇者、どっちの勇者がトリガーになったのかわからんな。


 それはともかく、起きてしまったイベントは仕方ない。



 俺達がギルド前で待機していると、おっさんとギルド長と、ラブ姉が出てきた。


「よく集まってくれた! 今日はAランクやSランクの冒険者もきてくれている。大丈夫だと思うが、くれぐれも油断しないでほしい! それぞれの配置はこれからラブが案内する! よく聞いて指示に従い、この街を守ってほしい!」


 ギルド長はそう言うと、さっさと奥に下がってしまった。

 きっと、色々やる事があるのだろう。


「それでは説明します。まずはAランクのみなさんですが……」


 ラブ姉が説明を始める。


 それにしても、今日はSランクもきているのか。いったい、どんな人達なんだろう?


「どうしたシリト、何か気になるのか?」


 いつの間にかヒゲのおっさんが近くにきていた。


「おっさん、ここにいていいのかよ?」

「俺はCランクだからな、お前らと一緒さ」


 いや、そうじゃなくて、奥さんの、ギルド長のそばにいてやらなくていいのかって事だったんだが。


「お? 見ろ、Sランク様のご登場だ」


 おっさんの言葉に、ギルドの方を見ると、中から3人の男女が出てきた。


 ひとりは3メートルを超える大きさの男だった。筋肉ムキムキのマッチョだ。

 武器は持っていない。まさか、素手で戦うのか?


 二人目はこれまた身長が高い、ムチムチの美女だった。ピンク色の髪のポニーテールが素晴らしい。

 まあ、ユミーリアのポニーテールには2本敵わないけどな。

 彼女も武器は持っていなかった。なんだ、Sランクはみんな、武道家なのか?


 最後のひとりはコルットより少し高いくらいの身長の、ちびっ子だった。肩まで伸びた青い髪、毛先はウェーブがかっている。ゆったりしたローブと大きな杖から、魔法使いと思われる。


「あれがSランクだ。男がキングーヴ、背の高い女がララ、ちっこいのはミンティだ」


 三人は何も言わず、そのまま街を出て行った。



「さて、俺達は俺達の仕事をしなきゃだぜ。俺達Cランクは数が一番多いが、その分数で街をまもらなきゃいけねえんだ。気を抜くんじゃねえぞ」


 そうこうしていると、俺達Cランクの役目を、ラブ姉が話し始める。


 俺達Cランクは、3つある街の入り口の防衛にあたる事になる。


 キョテンの街は、南、西、東の3つの入り口がある。


 俺達とおっさんは、東口になった。男勇者達は南口に行くようだ。


「やっぱり東口か、アリアめ、面倒をおしつけやがって」


 ヒゲのおっさんがぼやいていた。


「東口だと、何かあるのか?」


 俺は率直に聞いてみる。


「ああ、あっちは一番城に近いからな、王国軍のお偉いさん方とはちあう事になるだろうぜ」


 王国軍?


 これまたゲームには無かった設定だ。


 ゲームでは城の兵士くらいはいたが、軍なんてのはなかった。


 いや、あったのかもしれないがストーリーではほとんど触れられなかったな。


 あくまで勇者の物語だったからか?



 俺達は東口に移動した。


 するとそこには、すでに甲冑に身を包んだ兵士達がいた。


「おお、きたか、ヒゲゴロウ」


 壮年の兵士が、ヒゲのおっさんに話しかけてきた。


「これはこれは軍団長殿。ごきげんうるわしゅう」

「慣れもしないあいさつなど不要だ。久しぶりだな、ヒゲゴロウ」


 軍団長と言われた男が、ヒゲゴロウこと、ヒゲのおっさんに笑って話しかけてくる。


「お前さんも元気そうじゃないか、ゴッフ」


 軍団長の名前はゴッフというらしい。


 どうにも引っかかる名前だった。いや、それを言うなら見た目もだ。どこかで見た事がある様な気がする。


「おお、そっちが例の、尻が光る男か」


 と思っていたら速攻でこっちに話をふってきた。


「ああ、シリトってんだ」

「だから俺の名前はリクトだって言ってんだろ!!」


 ヒゲのおっさんだけなら諦めがつくが、これ以上シリ呼ばわりはゴメンだ。



「そう、あなたがあの……コダイノ遺跡を破壊した男ね」


 横から声が聞こえてきた。


 見るとそこには、5人の女性が立っていた。


「オイオイ、ロイヤルナイツまで来てるのかよ」


 ヒゲのおっさんが言った言葉、ロイヤルナイツ。



 ああそうか、どうも聞き覚えや見覚えがあると思ったら、そういう事だったのか。


 ロイヤルナイツと、軍団長ゴッフ。


 俺は全員、見覚えがあった。というか知っている。


 ただしそれは、この世界の元になっている、クエストオブファンタジーではない。

 コルットが登場する、ストレートファイター2でもない。


 《サンダーの紋章》


 クエファンやスト2とは別のゲーム。

 シミュレーションRPGの元祖と言われているゲームだ。


 彼女達ロイヤルナイツはサンダーの紋章5で出てくるキャラクターだ。

 ゴッフは初代のキャラクターだったから、あんまり覚えてなかった。


 またしても、別のゲームが混じっている。


 しかし、サンダーの紋章か。という事は……


 俺はロイヤルナイツを見つめる。



 そして、彼女を見つけた瞬間、俺の目は奪われた。


 銀髪のロングストレート。

 厳しい目つきをした、女騎士。


 ロイヤルナイツのリーダー、エリシリア。


 サンダーの紋章で、俺の最も好きなキャラクターだ。



 彼女と目があった瞬間、俺の尻が光った。




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