第43話 憧れのエリシリア

 おおおお! エリシリアだ!

 マジで動いてしゃべってる! 生エリシリアだ!


 エリシリア。


 サンダーの紋章5で出てきたキャラクターだ。


 ロイヤルナイツのリーダーで、長い銀髪の髪と鋭い目つきと、あと大きな胸が特徴だ。


 ロイヤルナイツの鎧はしっかりしている割に、胸は丸出しだ。ゆれるのがよくわかる様になっている。素晴らしい。


 武器はムチを使う。

 だが、ただのムチではない、ヒモの部分がビーム状になっている、なんともファンタジーなムチだ。


 性格はキツめだが、デレると可愛い、ツンデレキャラだ。


 俺は何度も彼女を攻略して、その美しさ、可愛さに惚れた。


 そんなエリシリアに出会えるだなんて、やっぱりゲームの世界は最高だ!



 しかし、そうしてエリシリアを見ていて、突然ハッとなる。


 そうだ、今の俺にはすでに仲間が居る。


 ユミーリアとコルットだ。


 くっ! まさかここでこんな展開になるとは!



 みんな誰でも、それぞれの作品に、最萌えの、嫁キャラがいるはずだ。


 それぞれ別の作品だからこそ、一番に愛せるのだ。


 だが、ここにきて、3つの作品がひとつになってしまった。


 これはあれだ、以前やったあのゲームに似ている。


 1、2、3のキャラが、4で勢ぞろいして、その中からひとりを選ぶという展開だった。


 1、2、3とそれぞれに嫁キャラがいた俺は、誰を一番に攻略するか、メチャクチャ悩んだ。


 今の状況はまさに、その時と同じだ。


 俺はクエファンではユミーリアが一番好きだし、スト2ではコルットが一番好きだ。

 そして、サンダーの紋章5こと、サモン5では、エリシリアが一番好きだ。


 もっといえば、サモンシリーズではエリシリアが一番好きだ。


 だが、ユミーリアやコルットと比べた時、誰が一番好きかと言われると、困る。


 いや、俺は人に話す時、俺の一番の嫁はユミーリアだと豪語している。


 そういう意味では、俺の一番はユミーリアで間違いない。


 だがしかし、エリシリアを見ると、かつてのときめきがよみがえってくる。


 いや、実際に目にすると、さらに愛おしく見える。


 コルットは嫁枠というよりは、娘枠だったから気付かなかったが、まさかこんな事になるとは……


 いやでも、そもそも今の俺は選べる立場なのか?

 ユミーリアもコルットも、俺に好意を持ってくれているのは確かだが、それは果たして男女の愛なのか?


 ああでも! ユミーリアやコルットが他の男にかっさらわれるなんて嫌だ!


 そういう意味ではエリシリアも嫌だ! 他の男に渡したくない!



 だが、これがゲームのキャラクターなら許されるのだろうが、相手はいまや現実に居る人間だ。


 そうなると、こんな風に悩んでいる自分が最低な人間に思えてくる。



「おい」


 悩み続けている俺に、エリシリアが話しかけてきた。


 やっべ! 声めっちゃキレイ!


「今、お前のお尻が光ったが、なんなんだお前は? 人を見てお尻を光らせるなんて……」


 え?


 な、なに? 俺の尻が光った?


 なんだと思っていると、その正体はすぐにわかった。


 光が俺の目の前に来て、文字となった。



《エリシリア レベル35 冒険力:3万2500》



 ああなるほど、相手を見つめて相手の事を知りたいと思ったから、ステータスサーチが発動したのか。


 そしてこれで確信した。


 相手はやっぱりエリシリアだ。


 しかも俺達より強い。さすがロイヤルナイツのリーダーだ。



 ロイヤルナイツ。

 サモン5では、王国の精鋭部隊という設定だったが、この世界ではどうなんだろう?


 大体似た様な設定だとは思うけど。



「おい! 話を聞いているのか? さっきから無言でお尻を光らせたりニヤニヤしたり、なんなんだお前は!?」


 キレイな声でエリシリアが怒っていた。


 うんうん、いいぞいいぞ。これでこそエリシリアだ。


「またニヤニヤして! 私をバカにしているのか!?」

「いやいや、それは無い」


 ただエリシリアに怒られるのがうれしいだけだ、というのは黙っておこう。



「ねえねえフレ姉、あの人、エリちゃんに怒られて喜ぶ人達と、同じ顔してるよ」

「そうね、きっとその手の人なのね。困ったわねぇ」


 ロイヤルナイツのメンバーまで何やらコッソリ話し始めた。


 いい加減、こちらもマジメに話した方がいいだろう。



 俺は一度、深呼吸して落ち着くと、エリシリアに話しかけた。


「すまない、ウワサに聞いていたロイヤルナイツに話しかけられて、少し緊張していたんだ」


「お前は緊張すると、お尻が光るのか?」


 ぐう! 尻ネタを引っ張るな。


「こ、これはその、俺は尻魔道士という職業でな。時々、意味も無く尻が光る事があるんだよ」


「そうなのか? それは……大変だな。失礼した」


 真剣に心配されてしまった。


 なんだか申し訳ない気持ちになる。


 とはいえ、あなたのステータスを勝手に見ちゃいましたとは言いづらい。


「まあ、今は任務優先だが、お前には後で言いたい事がある。この任務が終わったら、詰め所に同行してもらうからな?」


 冷たい瞳が俺を見つめる。

 ダメだ、ドキドキしてくる。


「お、なんだ? 愛の告白か?」

「違います!」


 軍団長がエリシリアをからかっている。


 うむ、からかわれるエリシリアも可愛いな。


「とにかく! そういうわけだから、くれぐれも逃げないように!」


 そう言って、エリシリア達、ロイヤルナイツは去っていった。


 どうやら同じ東口でも、俺達とは配置や役目が違う様だ。


「まさかあいつが、初対面の人間にあんなに感情的になるなんてな。めずらしい事もあるもんだ。尻の兄ちゃん、悪いが後であいつに付き合ってやってくれ」


 軍団長は笑いながら去っていった。



「あいつらはロイヤルナイツ。この国の精鋭部隊の1つだ。男の方はこの国の軍で一番偉いやつだな」


 ヒゲのおっさんが、今さらながら説明してくれた。


 そうか、やっぱりロイヤルナイツはこの国の精鋭部隊なのか。そこら辺の設定は変わらないんだな。



 俺達はおっさんの指示で、それぞれ配置についた。


 俺達が配置された場所は、街の東口から少し進んだ、見晴らしのいい街道だ。

 ここに配置されたのは、俺、ユミーリア、コルット、ヒゲのおっさんの4人だけだ。


 本来のゲームのストーリー通りなら、冒険者や軍の包囲を突破して、オーガキングがやってくる。



 ……あれ? そういえば、ゲームでの配置はどこだったかな?


 いつも勝手に配置されるから、何口を守っているのか、気にした事がなかった。


 オーガキングが男勇者の居る南口に来るのか、俺達のいる東口にくるのか、わからない。


 しかし、東口にはロイヤルナイツがいる。彼女達を突破して、この東口に来るとも思えない。


 そうなると、オーガキングが出てくるのは、男勇者のいる南口だろうか。



「ねえ、リクト」


 色々考え事をしていたら、ユミーリアが話しかけてきた。


「どうした?」

「リクト、さっきのロイヤルナイツの人と、知り合いなの?」


 知り合いというか、一度結婚した仲だな。


 もちろん、ゲームの中で、だけど。


 考えてみると、ゲームで恋愛して、結婚までいったのは、三人の中ではエリシリアだけなんだよな。 


 ユミーリアは主人公だ。攻略対象じゃなかった。ゲームに恋愛要素とか無かったしな。

 コルットは格闘ゲームのキャラクターだから、そもそも恋愛に発展する事はない。あくまで操作キャラだ。


 そう思うと、恋愛もできて結婚までできたゲームは、サモン5だけだ。


「なんだか、二人の空気が普通じゃなかったというか、そんな感じがしたんだけど?」


 うむ、ユミーリアするどい。


 とはいえ、意識しているのは俺だけなんだけどな。向こうは俺の事、何も知らないだろうし。


 いや、尻が光る男って認識なのかな?


 さて、ユミーリアにはどう説明したものか。


 

「……俺は相手の事を、ウワサで知っていたんだ。ユミーリアだって知ってるだろう? ロイヤルナイツって言えばそこそこ有名な人達だしな」


「うん、それはまあ、知ってるけど」


「相手はまあ、俺の事は尻が光る男って事で知っていたんだろう。それにあれだ、遺跡を破壊したって言ってたから、それで何か話がある、というか怒られるのかもしれないな」


 俺達は、不可抗力とはいえ、遺跡をひとつ破壊してしまっている。

 今思えば、何もおとがめが無いのが不思議なくらいだ。


 ギルドはまあよくても、国としては言いたい事もあるだろう。


 そう思うと、この戦いの後に待っているのは、お説教としか思えなかった。


 ……エリシリアのお説教か。


 うん、ちょっと楽しみなのは秘密だ。


「なんだか、それだけじゃない気がするんだけど。特にリクトの方が」

「おにーちゃん、ずっとニヤニヤしてたもんねー」


 ユミーリアとコルットの指摘がするどい。


 女の勘というやつだろうか?


 イカンな。少し自重しないと。


 いくら俺がエリシリアの事を好きでも、今の俺は冒険者だ。

 サモン5の主人公の様に、国の王子ではない。


 エリシリアどころか、ロイヤルナイツとも何の関係もないのだ。


 ぶっちゃけこの後、お説教されて、それで終わりだろう。


 実物を見れて良かったーで、満足しておくべきなのだ。


「アハハ、ロイヤルナイツのエリシリアって人が、強いってウワサに聞いてたから、ちょっと憧れてたんだよ。それで本物に会えたからさ、ちょっと舞い上がっただけだって」


 我ながら苦しい言い訳だが、ゲームで結婚した仲なんだって言っても、通じないだろうしな。



「それで? ほんとの所はどうなんでござる? リクト殿」


 ランラン丸が話しかけてきた。


 マイルームの外にいる時は、ランラン丸の声は俺にしか聞こえない。


「なんの事だ? 今ユミーリアに話した通りだが?」


「ふふ、ユミーリア殿達は騙せても……まあ、騙せてないでござるな、あれは。大人しく引き下がっただけでござる」


 ランラン丸が痛い所をついてくる。


 まあ俺も、ユミーリア達が納得いっていないのはなんとなくわかっている。


「だからこそ、拙者だけでも聞いておくのでござるよ。これからのユミーリア殿達への説明の仕方のアドバイスなんかもできるかもしれないでござるよ?」


 こいつ、うまい事言ってきやがる。


 確かに俺だけでは、ユミーリア達へのうまい説明が思いつかない。


 しかしどうなんだろう? こいつにここで説明するのは正解なんだろうか?


 なんだか、面倒くさくなる未来しか見えない。



「おいシリト、来たぞ! オーガだ!」


 迷っていたらオーガがやってきた様だ。


「ってマジかよ!? 前線にはロイヤルナイツがいるんだろう?」


「それだけ今回は数が多いんだよ、気合い入れろよ、シリト!」


 ヒゲのおっさんが大剣を構える。


 俺達もそれぞれ、臨戦態勢になる。


 すると前から、傷ついたオーガが3匹やってきた。


 オーガ。

 俺の2倍くらいの大きさで、肌の色は緑色、一つ目の頭に大きな角が生えているのが特徴だ。


 だいぶ傷ついている所を見ると、前線の戦いであふれたやつらなんだろう。


 これなら楽勝だ。


「おおおお!」


 俺はランラン丸で、オーガの1匹を斬り裂いた。


 残りの2匹も、ユミーリアとコルットが倒していた。


「おおう、おめえら強くなってんな! どうやら俺の出番は無いらしい」

「いやいや、おっさんも仕事しろよ」


 俺とおっさんは軽口を言い合う。


 それほど、今の状況は余裕だった。



 だがその余裕は、長くは続かなかった。


「あら? ずいぶんと楽しそうじゃない?」


 上空から声が聞こえた。


 正直、二度と聞きたくない声だった。


 俺達は上を見上げる。


 そこには、白と緑の縞々のパン……じゃない! 黒い羽を生やした女性が居た。


「フィリス!?」


 ユミーリアが叫んだ。


 そう、つい先日会った、ユミーリアの幼馴染、フィリスだ。


 ちょっとヤンデレ入ってて、怖い。


 正直、二度と会いたくなかった。


「ごきげんよう、ユミーリア」


 フィリスがゆっくりと、地上に降りてくる。


「フィリス、どうしてここに?」


「それが、先日のオメガドラゴンの試運転に失敗してしまったので、急遽オーガ軍団の進行を早める事になったの。それで、私もその責任をとる為に、こうして前線に送り込まれたってわけ」


 なるほど、そこはストーリー通りなのか。


 本来のストーリーでも、ショシンリュウが勇者に倒された事によって、あせった邪神の使徒の上層部がオーガ軍団で街を攻める計画を早めたって感じだったな。


「だから、上空から見回りと遊撃として働いていたんだけど、そこでユミーリアを見つけたから、きちゃった」


 いやいや、きちゃった。じゃねーよ。


「これはもうあれね、邪神様が愛しのユミーリアを殺せと言っているに違いないわ! うふふ、早く殺して私のモノにしたいわ、ユミーリア!」


 うん、相変わらず思考が病んでいらっしゃる。


「でも、その前に……」


 一瞬、俺の背筋がゾクッとした。


 嫌な汗が滝の様に流れてくる。


「そこのあなた、確か先日もユミーリアのそばにいたけれど、何者なのかしら?」


 フィリスが俺を冷たい目で見てくる。


 同じ冷たい目でも、エリシリアとは全然別物だ。


「まさか、私のユミーリアに手を出そうというのではないわよね? もしそうなら……」


 フィリスが黒い羽を大きく広げ、爪を伸ばす。



「ユミーリアに近づく邪魔な虫は、殺すわ」


 フィリスの殺気が、俺を包み込んだ。


 そして、次の瞬間。


「リクト!?」




 俺の胸は、フィリスの腕に、貫かれていた。


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