第13話 ゴブリンクイーンを攻略せよ!
一度目、俺は何もできずにゴブリンクイーンに殺された。
二度目、マイルームに逃げ込もうとしたが戦闘中には使えない事がわかり、ゴブリンクイーンに殺された。
そして三度目の朝。
俺は神様の言っていたヒント、ユミーリアの勇者の覚醒について考えていた。
「確かに、元々あのイベントは、勇者が覚醒してゴブリンキングを倒すってものだったな」
俺はゲームの内容を思い出す。
ゴブリン3匹を倒した後、ゴブリンキングが現れて戦闘になる。
なんとかゴブリンキングを倒すと、イベントが始まる。
勇者の仲間がゴブリンキングに吹き飛ばされて、それを見た勇者の身体が光り輝き、ゴブリンキングを倒す。というイベントだ。
おそらく俺達も、同じ様に勇者の覚醒の力で、あのゴブリンクイーンを倒すしかないのだろう。
「問題は、どうやって勇者である、ユミーリアに覚醒してもらうかだ」
1回目、2回目と、ユミーリアが覚醒した様子はなかった。というか俺、すぐ死んだ。
まずはユミーリアが覚醒するまで、生き残らないといけないか?
「さっきから何をブツブツ言っているござる? リクト殿」
ランラン丸が話しかけてきた。
「おう、実はな……また死んだんだ、俺」
「は? 死んだって、またってどういう事でござる?」
そういえば、俺以外は記憶の引継ぎはないんだっけ? 毎回説明するのも面倒だな。
「……うん、気にするな。それより、さっさと準備をしてギルドに行くか」
「いやいや! わけがわからんでござるよ!」
混乱するランラン丸を装備して、俺はギルドへ向かった。
ギルドの前には、ユミーリアが立っていた。今日もトリプルテールが綺麗にないびている。
「おはよう、ユミーリア」
「おはよう、リクト」
俺達はあいさつを交わす。ここまではいつも通りだ。
さて、まずはどうやってユミーリアに覚醒の事を話すかだが……
「……ユミーリア、聞いて欲しい事があるんだ」
「なに?」
ユミーリアが振り返る。可愛い。
「実はな、俺の新しい魔法についてなんだ」
「新しい魔法?」
俺は色々考えた末、魔法のせいにする事にした。
「ああ、未来が少しだけ見える魔法なんだ」
「未来が!? すごいじゃない!」
まあ実際には、見てきた過去なんだけどな。
「そういえば兄さんも言ってた、リクトには未来が見える力があるって」
ああ、そういえば言ったな。男勇者にも。
「その魔法で、今日のこれからの事が見えたんだ。俺達はゴブリン3匹を倒すが、その後……ゴブリンクイーンという、大型のゴブリンが現れる」
「ご、ゴブリンクイーン!?」
ユミーリアが驚いている。まあ、聞いた事もないモンスターだしな、無理もない。
「それで、私達はどうなるの?」
「少なくとも俺は死ぬ。ユミーリアがどうなるかは、俺が先に死んでしまうからか、その先はわからなかった」
これは本当だ。まあ俺としては、ユミーリアが死ぬ所が見えなかったというのは、良かったのかもしれない。
好きな子が死ぬ所なんて、見たくないしな。
「そんな、リクトが……」
ユミーリアの目が見開く。
「解決するには、男勇者……ユウと同じ様に、なんらかの方法でゴブリンクイーンを倒すしかない」
「兄さんと、同じ様に?」
そうだ、男勇者は少なくとも、先にゴブリンキングを倒している。
それはおそらく、勇者の覚醒の力によるものだろう。
だが、神様は言っていた、男勇者はゴブリン戦ではこれ以上覚醒しないと。
ならば、もうひとりの勇者、ユミーリアが同じ様に覚醒するしかない。
「ユミーリア、ユウがどうやってゴブリンキングを倒したか、聞いてないか?」
俺の言葉に、ユミーリアがアゴに手をあてて、考えだした。
「一応、兄さんに聞いてはいるけど……仲間がやられたと思ったら目の前が真っ赤になって、気付いたらゴブリンキングを倒していたって聞いているから、その……よくわからないの」
ふむ、覚醒するとそんな感じになるのか。
ともあれこれはマズイ。ヒントが仲間がやられたって事しかない。俺が知ってる情報と大差なかった。
つまりアレか? 俺がやられれば、ユミーリアも覚醒するというわけか?
だが、俺がやられるといっても、俺は敵の攻撃を一撃でも食らえば、死んでしまう。
どうすればいい?
どうすれば……
「……よし、こうしよう!」
「え? なに?」
俺は思いついた、最善の手を選ぶ。
「今日は試験を受けるのは中止にしよう。1日あけてみたら状況が変わるかもしれない」
ようはギブアップだ。無理なものは無理。あきらめよう。
「え? うん……リクトがそれでいいなら、いいけど?」
俺とユミーリアは、体調があまりよくない為、試験は明日にするとラブ姉に告げ、今日は解散した。
「さて、これでどうなるか……」
何か状況が変わればいいんだが、難しいかもしれない。
ゴブリンクイーンは、あの森に生息している。
だとすれば、1日おいた所で、出てくる場所は変わらず、明日行っても、結果は同じ事かもしれない。
それでも、このまま突っ込むよりはマシだと思った。
しかし、それは悪手だった。
夜、宿屋で寝ていると、外の騒がしさに目が覚めた。
「な、なんだ!?」
俺が驚いていると、宿屋のおっさんが部屋に入ってきた。
「た、大変だ! 街にものすごいでかいゴブリンが襲ってきやがった! なぜか霊聖樹(れいせいじゅ)の聖なる気も役に立たないみたいで、他のモンスターもどんどん集まってきてやがる!」
……は?
「な、なんだよそれ? どういう事だよ?」
「わからん! わからんが逃げるしかない! お前さんも早く逃げるんだ!」
どういう事だ? 巨大なゴブリンが街に? 霊聖樹の聖なる気が役に立たない?
何が起こっているんだ?
本来、霊聖樹の聖なる気によって守られているこの街には、モンスターは入って来れないはずだ。
それがなぜ? どうして……
俺は混乱していた。あまりにも予想外な事態に。
すると、すぐ近くで大きな振動が響いた。
窓を見ると、外に大きな目があった。
天井が割られ、大きな棍棒が、迫ってくる。
恐怖と混乱で動けなかった俺の意識は、そこで終わった。
「おお、素晴らしき尻魔道士よ! 死んでしまうとは ふがいない」
「じゃねーよ! なんだよアレ!?」
俺はまた、白い空間に居た。神様の空間だ。
という事は、俺はアレで死んだのだろう。
「いやあ、レアイベントですよアレ。良いイベントを引きましたね」
男勇者そっくりの顔の神様が笑っている。
「いやいやいや! どういう事だよ、いったい何がどうなったんだよ!?」
何がどうなったのか?
俺は状況を整理する。
俺は今日、ランク昇格試験を受けなかった。
そうしたら、夜にモンスターが街に襲い掛かってきた。
街には霊聖樹の聖なる気があるから、本来モンスターは入って来れないはずだ。
だが、宿屋のおっさんは、その聖なる気が役に立たなくなっていると言っていた。
そして俺が最後に見たあの巨大なモンスター。アレはおそらく、ゴブリンクイーンだろう。
だがおかしい、シンリンの森で見た時よりも、大きかった気がする。
まさか、成長しているのか?
「……つまりはだ、俺とユミーリアがあの日、シンリンの森でゴブリンクイーンを倒さないと、成長したゴブリンクイーンが街に襲い掛かってくるって事か?」
それもなぜか、霊聖樹の聖なる気が役に立たなくなっているという、異常事態まで起こって?
俺は神様を見るが、ニコニコしているだけで、何も言わない。
参ったな、これじゃあ結局、あの森でゴブリンクイーンをなんとか倒すしかないじゃないか。
大人数で行ったり、強い冒険者を連れて行ければ良いが、聞いた事もないモンスターがいると言っても信じてもらえないだろう。
俺達だけで、やるしかないのか。
そうすると、やっぱりなんとかして、ユミーリアに覚醒してもらうしかない。
俺がそう考えている間にも、神様は俺の尻を撫でていた。
……ちょっと慣れてきたかもしれない。
イカン! 尻を撫でられるなんて事に慣れる前に、なんとかしなければ!
「それでは素晴らしき尻魔道士よ、そなたに もう一度、機会を与えよう!」
俺は再び、朝の宿屋に戻される。
そしてギルドでユミーリアに会って、同じ様に魔法で未来を見たと告げる。
「ユミーリア! 君の勇者としての力が必要なんだ! 俺がなんとか時間を稼ぐから、力を覚醒させて、ゴブリンクイーンを倒して欲しい!」
俺の言葉に目を丸くするユミーリアだったが、すぐに表情が引き締まった。
「わかったわ、どうすればいいかわからないけど、全力でそのゴブリンを倒してみせる!」
俺はユミーリアの強い意思を確認して、シンリンの森へ向かった。
森に入ると、嫌な汗が出てくる。
これからまた、あの巨大なゴブリン、ゴブリンクイーンと戦う事になるんだ。
そう思うと、緊張でノドがカラカラになってくる。
俺はすでに、3度ヤツに殺されている。
正直怖い、足が震えているのがわかる。
「リクト……」
不意に、ユミーリアが俺の手をにぎった。
「ユミーリア?」
「大丈夫、リクトは私が守るから」
それはまるで、女神の様だった。
俺は腹の底から、やる気がわいてくるのを感じた。
そうだ、なんとしてもユミーリアの覚醒まで、生き残ってやる。
「ありがとう、ユミーリア……もう大丈夫だ。ユミーリアはゴブリンを倒した後は、力を覚醒する事に集中してくれ。それまでは俺が、なんとかするから!」
「うん。でも……リクトも無茶しないでね」
そうやって会話をしていると、ゴブリン達が現れる。
ゴブリン3匹をユミーリアが瞬殺すると、奥の方で、ガサガサと草がゆれる音が鳴る。
「くるぞ!」
俺がそう叫ぶと、巨大なゴブリン、ゴブリンクイーンが現れた。
「うおおお! いくぞランラン丸! 敵の攻撃をかわす事に集中するんだ! ユミーリアが覚醒するまで、生き残るんだ!」
「それ! 拙者に言われても、拙者は何をすればいいでござる!?」
俺はランラン丸に向かって叫び、気合いを入れる。
ゴブリンクイーンは俺に向かって、巨大な棍棒を振るってくる。
「おおおおお!! あぶねえええええ!!」
俺はなんとか、ゴブリンクイーンの攻撃をかわす。
あの巨体にしては、攻撃のスピードが速い。
攻撃をかわす事に必死で、ユミーリアがどうしているか、どこにいるかも確認する余裕が無い。
「ユミーリア! ままま、まだかあああ!?」
俺はどこにいるかもわからない、ユミーリアに叫ぶ。
「ご、ごめんリクト! その、やっぱり覚醒ってどういう感じなのかわからないの!」
そりゃそうか、そうだよな。なんか光って倒す、じゃわからないよなちくしょう!
俺はその後も、何度かゴブリンクイーンの攻撃をかわすが、とうとう攻撃が当たってしまう。
「ぐあっ!!」
少しかすっただけなのに、吹き飛ばされた。
なんとか死ぬまでには至らなかったが、メチャクチャ痛い。
「リクト!」
「ご、ゴッドヒール!」
俺は回復魔法、ゴッドヒールを発動する。
俺の尻が光り輝き、傷が消え、HPが回復する。
「うおおお! まだまだあああ!」
俺は再び、ゴブリンクイーンの攻撃をかわす作業に戻る。
だいぶ目が慣れてきた。このままなら、なんとか攻撃をかわし続ける事ができそうだった。
だが、そう思った矢先、ゴブリンクイーンの身体がひとまわり大きくなった。
「え?」
腕も長くなっており、攻撃の範囲、つまり……リーチが広がって、俺は攻撃をかわしきれなかった。
「おお、素晴らしき尻魔道士よ! 死んでしまうとは ふがいない」
また死んだ。
「マジかよ、戦闘中に成長するのかよあいつ……」
そういえば、夜街にきたあいつは、大きさが増してたっけ。
つまりはだ、あれがタイムリミット。ああして成長するまでに、ユミーリアが覚醒しなければならない。
しかし、ユミーリアはまったく覚醒する感じがしなかった。
俺が攻撃を受けても、男勇者と違い、覚醒はしなかった。
「どうすりゃいいんだよ、このクソゲー……」
俺が悩んでいると、神様が話しかけてきた。
「しょうがないですね、次回は少しだけ、ヒントをあげましょう」
「え?」
どうやら俺が悩んでいる間に、尻を撫でていたらしい。
ついに撫でられている事にも気付かないくらい、自然な事になっていた様だ。
駄目だ、これ以上は駄目だ! 尻を撫でられる事が自然だなんて……クソ! なんとか次は死なない様にしないと!
そう思った瞬間、俺は再び、宿屋に居た。
「なんとかしないと……そうだ、あの神様、何かヒントをくれるって言ってたな?」
俺は何か持っていないか、まわりに変化が無いか見渡した。
「……あった!」
部屋の片隅に、見慣れない木が置かれていた。そのすぐそばには、ビンがある。
俺はビンを手にとってみる。
中身はなんだ? ラベルが貼ってある……お酢?
「なんだ? 木と、お酢?」
どういう事だ?
これがいったい、なんのヒントだっていうんだ?
「どうしたでござる? リクト殿?」
ランラン丸が俺に話しかけてくる。
どうしたと言われても、俺にも何がなんだかわからない。
考えていても答えが出ないので、ひとまず部屋を出ると、廊下に魚が落ちていた。
「魚? なんだこれ?」
「さあ? 拙者も見ただけで魚の種類がわかるほど、くわしくは無いでござるよ」
俺は魚を拾って、宿屋のおっさんに聞いてみた。
「それは、キスだな」
キス? なんでゲームの世界に魚のキスが? というか待てよ、部屋にあったのも、木とお酢……
魚のキスと、木とお酢……
「ま、まさかこれって!?」
そう、これはヒントだった。
ユミーリア覚醒の為の……
「で……」
「リクト殿? どうしたでござる?」
「できるかああああああああ!!」
俺の叫びが、宿屋にこだました。
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