第100話 俺の冒険力は、100万でござる!

 ブタカゼの冒険力、21万4200に対し、ランラン丸と融合した俺の冒険力は、100万を超えていた。



「ひゃ、100万だと? ボクが21万だと! な、なんだよそれ、いい加減な事を言いやがって! それじゃあまるでお前がボクより強いみたいじゃないか!」


 ブタカゼは、俺の告げた言葉に対して、身体を震わせていた。


「ああそうでござるな。俺はお前よりはるかに強いでござるよ? ニッシッシ」


 俺はブタカゼを馬鹿にした様に笑う。


 ブタカゼの怒りはついに限界に達して、爆発する。


「あああああ! ウザイ! ウザイよアンタ! もう死ねよ!」


 ブタカゼが俺に向かって駆けてくる。ブタカゼが繰り出すその手刀が俺の首めがけて放たれる。


 しかし、俺はその手刀を左手で掴んだ。


「んなっ!」

「無駄でござるよ。お前の攻撃はもう、俺には通用しないでござる」


 俺はもう片方の手で、ブタカゼを殴る。


 しかし、ブタカゼの魔力障壁に弾かれてしまった。


「お?」

「は、ハーッハッハッハ! バーカバーカ! お前ら人間の攻撃なんて、ボク達六魔将軍には通じないんだよ!」


 そうだった。

 こいつらには魔力障壁があったんだな。


 だが、俺には通用しない。


「炎の尻!」

「は?」


 俺がそうつぶやくと、俺の尻から炎が出る。


 俺の尻が燃えさかり激しさを増す。


「え? 何してんのお前? なんでお前のオシリ、燃えてるの?」


 ブタカゼは突然俺の尻が燃えた事に、困惑している様だった。


「知りたいでござるか? 教えてやろう、俺の尻が燃えている限り、俺はお前らの魔力障壁をぶち抜ける様になるんでござるよ!」


 俺はブタカゼの手首を掴んだまま、腹を思いっきり殴った。


「ぐふぅっ!?」


 掴んでいた手をはなすと、ブタカゼはそのまま思いっきり吹っ飛んでいった。


「は、はあっ! はあっ! なんだ、何なんだよお前は!」


 ブタカゼは殴られた腹をおさえて立ち上がる。


 俺は鞘からランラン丸を抜いて、ブタカゼに突きつけた。


「さっきも言ったが時間が無いんでござるよ。これで終わりにするでござる」


 俺はブタカゼに向かって駆け出し、刀を振るう。


「い、いやだ! 来るな! こんな、こんな尻が光ったり燃えたりする様なヤツに負けるのは嫌だああああ!」


 俺はブタカゼを切り刻む。


 その回数は、100回!


「爛々・百列斬(らんらんひゃくれつざん)!」


 切り刻まれたブタカゼが消滅してく。

 その最中、ブタカゼは最後の力を振り絞り、こちらをにらんできた。


「くそ、ボクが、こんな尻野郎に……お前はなんだ? お前の、名前は……?」


 俺はブタカゼに名前を問われ、答える。


「オシリ丸」


 それは以前、ランラン丸が勝手に名乗った名前だ。


 しかし、さっきステータス表示では完全にオシリ丸になっていたからな。もうオシリ丸でいいや。


「は、はは……こんなふざけた名前のやつに、ボクが負ける、なんて、ち、ちくしょう」


 ブタカゼは消滅した。


 ついでに俺の尻の炎も消えて、ランラン丸との融合も解除される。



「やったのお! リクト!」


 アーナと長老が、ブタカゼが消滅した事を確認し、こちらに駆けてくる。


「急いでここを出よう。みんなが心配だ」

「ふむ、そうじゃの」


 俺達は長老を先頭に、洞窟を出た。


 洞窟を出た俺は、すぐさま空を飛ぶ為、翼を出す。


「天使のケツ!」


 俺がそう叫ぶと、俺の尻からピンク色の光の翼が広がった。


「プフーッ! り、リクト、お主、尻が丸出しじゃぞ!」


 アーナがピンク色のコートの下に隠されていた、俺の生尻を見て笑っていた。


 炎の尻を使うと、いつもズボンとパンツが燃えて、尻が丸出しになるんだよな。


 とはいえ、今は履きかえに行っている時間は無い。


「ええい、緊急事態なんだから笑うんじゃない! まったく」


 俺はボヤキながら、翼を羽ばたかせて空へと舞い上がる。


 まずはコルットが向かっているはずの北を見て、そちらに向かった。



 超飛変石がある北の塔に着くと、悲惨な光景が広がっていた。


 プリムチ族も魔族も、みんな倒れている。


 立っているのはひとり……コルットだった。


 しかしそのコルットは、立ったまま寝ていた。


「こ、コルット? 大丈夫か?」


 俺が声をかけると、コルットが目を覚ました。


「んにー? おにーちゃん? おはよー」


 コルットが背伸びをする。


 いったい、何があったのだろうか?


 そう思っていると、倒れていたプリムチ族の男が、こちらに話しかけてきた。


「こ、コルット様は、寝ぼけたままで、魔族を倒して、ふ、不用意に近づいた俺達も、ついでに倒された……がくっ」


 そう言って、プリムチ族の男は気を失った。


 おそろしやコルット。

 敵味方両方を寝ぼけたままで倒してしまうとはな。


 とにかく、ここは大丈夫そうだな。


「コルット、大丈夫だとは思うがもう少しここで様子を見ていてくれ。俺達以外はブッ飛ばしていいからな?」

「んー、わかったー」


 まだ半分寝ぼけているコルットを残して、俺は再び空へ舞い上がった。


 次はユミーリアの居る東へ向かう。


 空飛ぶ俺にユミーリアが気付き、俺に向かってブイサインをした。


「大丈夫だったか? ユミーリア」

「うん、弱い魔族だったから楽勝だったよ。超飛変石も無事!」


 俺はユミーリアが無事だった事にホッとした。


 ユミーリアは俺達の中で一番強いが、それでも心配なものは心配だ。


 しかしそれはユミーリアも同じだった様で、ユミーリアも俺の顔を見てホッとしていた。


「リクトも無事で良かった。そっちは大丈夫だったの?」


「ああ、予想通りブタカゼが来たが、ランラン丸と融合して、サクッと倒してやったさ」


 俺は親指を立てる。


 そんな俺を見て、ユミーリアが微笑む。


「そっか、良かった。ランラン丸、リクトを守ってくれてありがとうね」


 ランラン丸が刀の状態の時は、ユミーリアにランラン丸の声は聞こえない。


 それでも、ユミーリアはランラン丸に話しかける。


「全てリクト殿の成果でござる。拙者は何もしていないでござるよだってさ」


「もう、それ絶対に嘘だよね? 後でランラン丸に怒られても知らないからね」


 俺の嘘は速攻でバレた。

 実際ランラン丸が俺の嘘に対してわめいている。


「さて、俺はエリシリアとマキの様子を見てくる。もう大丈夫だと思うが、一応警戒しておいてくれ」


「うん、わかった。リクトも気をつけてね」


 ユミーリアに手を振って、俺は再び空へと舞い上がった。



 続いて西のエリシリア。

 こちらも笑顔で手を振っていた。


「リクト! こちらは大丈夫だ! 私の事はいいから他を見に行ってくれ!」


 エリシリアが俺に向かって叫んだ。


「わかった! だけどエリシリア、油断するなよ! それと無茶もするな! お前がいなくなったら、俺はメチャクチャ困るんだからな!」


 俺のその言葉を聞いて、エリシリアの顔が真っ赤になる。


「わ、わかった。わかったから早く行け!」

「おう!」


 さて、エリシリアも無事だったみたいだし、後は南か。


 俺は南に向かって飛んだ。



 南の方へ向かうと、なにやら上空に雲が集まっている様に見える。


 下の方を見ると、プリムチ族の男達が、魔族を囲んでいた。


 ソイヤ! ソイヤ! ソイヤ! と掛け声が聞こえてくる。


 なんという地獄絵図。敵がかわいそうになってきた。


 そして気付いた。

 どうやらあの上空にある雲は、男達の熱気によって生まれた汗などの水蒸気が溜まって発生しているみたいだ。


「見たか! 100人のプリムチ族の汗が生む、伝説の雲! これぞ、マッスルクラウド!」


 プリムチ族の中心で、プリカイザーが叫んでいた。


「そしてこれが、我らプリムチ族の奥義だ!」


 プリカイザーが右手をあげ、人差し指を雲に向かって立てる。


 雲から雷鳴が走り、プリカイザーが指差す辺りに集まってくる。


「くらえ! マッスルサンダー!」


 プリカイザーが手を振り下ろし、指を魔族に向ける。


 すると雲から発生した雷が、ワシの顔をした魔族に直撃した。


「ぎええええ! ば、馬鹿な、この俺が、こんなわけのわからない技で!」

「マッスルサンダーは100万ボルトだ、覚えておけ」


 ワシ顔の魔族は雷を浴びて、消滅した。


 プリムチ族の歓声があがった。



 俺は何も見なかった事にして、マキの居るササゲ火山に向かう事にした。


 適当な所に降りて、マイホームを出す。


 マイホームを経由して火山に出ると、そこはすでに火山ではなく、氷の山と化していた。


 あたり一面が凍っている。


「リクト様、そちらはもう大丈夫なのですか?」


 マキが涼しい顔で待っていた。


 目の前には、氷漬けにされたエンドラが居る。


「はは、また見事に凍らせたな」


 火山もエンドラも、見事に凍っていた。

 ここはもはや、火山ではなく氷山だ。


「ちょっと張り切ってしまいました。さすがに疲れましたので後はお任せしていいですか?」


 マキが少しフラついていた。


「ああ、ちょっと待っててくれ……炎の尻!」


 俺は再度、エンドラに止めをさす為、尻を燃やす。


 ランラン丸を抜いて、氷漬けになったエンドラを、斜めに斬った。


 エンドラはそのまま、氷と共に消滅した。


「お見事です、リクト様」


 俺はフラつくマキを支えて、マイホームに戻った。


 マキはそのまま部屋に寝かせる事にした。


「すみません、リクト様」

「ああ、ゆっくり休んでくれ」



 マキを部屋で寝かせた後、マイホームの出口を空飛ぶ島の長老の家に設定して、外に出る。


 俺は尻から翼を出し、コルットを迎えに行った。


 コルットは、また寝ていた。


 コルットを抱きかかえて空を飛び、長老の家に戻って、コルットを長老の家の客人用のベッドに寝かせる。



 しばらくすると、ユミーリアが帰ってきた。


「リクト!」


 ユミーリアが走って俺に突っ込んでくる。


 俺は思わずユミーリアを抱きとめた。


「お疲れ様、ユミーリア」

「えへへ」


 俺はユミーリアの頭を撫でる。

 するとユミーリアはうれしそうに笑って……寝た。


「ゆ、ユミーリア?」

「すう、すう」


 ユミーリアはグッスリと寝ていた。

 急にどうしたというのだろう?


「寝かせておいてやれ」


 俺がユミーリアをどうしたもんかと困っていると、エリシリアが戻ってきていた。


「夜中に急に起こされて、即戦闘だったからな、ユミーリアも疲れたのだろう。私も少し眠いぞ」


 エリシリアが大きく背伸びをする。

 大きな二つの果実が持ち上がり、脇が丸出しになる。


 い、イカン。見てはイカンぞ! でも見てしまう!


 俺がチラチラと見ている視線に気付いたのか、エリシリアが胸を、腕で隠す。


「ば、馬鹿者! まったくお前というヤツは……見たいなら見たいと言えばいいのに」


 最後の方は声が小さくて聞こえなかった。


 バツが悪くなったので、俺はユミーリアを抱えて、長老の家の中の、コルットが寝ている隣のベッドに運ぶ。


 ユミーリアをベッドに寝かせて、俺は外に出た。



 外に出ると、気がつけば、朝日が昇っていた。


「無事に、乗り切ったのだな」

「ああ」


 俺とエリシリアは、二人並んで朝日を見た。


 終わったのだ、と思うと、俺も急激に眠くなってきた。


「ふぁ~あ……確かに、眠いな」


 俺があくびする姿を見て、エリシリアが微笑む。


「そうだろう? 私もだ。しかし……ふふ、こうしてお前と二人で朝日を見るというのも、悪くないな」

「はは、そうだな」


 俺とエリシリアの距離が近づく。


「リクト」

「うん?」


 エリシリアが、身体をこちらに預けてきた。


「私は、お前が好きだ。ユミーリアも、マキも、お前の事が好きだろう。だからリクト、帰ったら……」



「婚約しよう」



 婚約。

 結婚ではなく、婚約か。


「結婚じゃなくていいのか?」

「お前は、邪神を倒すまでは身を固めるつもりはないのだろう? それにまだ、魔王軍も居るし、帝国もいつ攻めてくるかわからない。だから、婚約だ」


 なるほど。

 確かに結婚するとなれば、色々やる事もあるだろう。


 そうなればこれまでの様に、自由に動けなくなるかもしれない。


「婚約、か」

「そうだ、婚約だ。お前は私の物で、私はお前の物だと約束するんだ」


 それって結局、結婚と変わらないんじゃないか?


 まあ、結婚の約束をするのが婚約だからな。そう変わらないのか。


 今の俺達には、それが一番良いのかもしれない。


「わかった。帰ったら婚約しよう」

「ああ、約束だぞ、リクト」


 朝日が、俺達二人を照らしていた。



 この時、俺は眠くて、半分寝ていたのかもしれない。

 あとで思い返して、とんでもない事を約束してしまった事に気付いた。



 俺達はあの後、気を失う様に眠った。



 起きてから、エリシリアと話した事が夢じゃなかった事を、ランラン丸に確認した。


「ついに覚悟を決めたのでござるな、拙者は感動したでござるよ!」


 エリシリアに宣言して、ランラン丸に聞かれていた以上、覚悟を決めるしかないだろう。


 さて、ユミーリアとマキには何て言おう?


 俺と婚約しようぜ! か?


 婚約する時って、なんて言えばいいんだっけ?


 起きて早々、頭が痛かった。



「お主達には本当に世話になった。リクト殿、そなたはまさに我らがプリムチ族の救世主じゃ。この島を救ってくれて、ありがとう」


 長老達に見送られて、俺達は空飛ぶ島、オチルデを後にする。


「よし、出ろ、ピーチケッツ号!」


 俺の尻からプリッと音が鳴り、ピーチケッツ号が出てくる。


「ヒュウッ! 相変わらずスゲー尻だぜ」


 プリカイザーが俺の尻を見つめてくる。

 なんか視線が熱い。


 俺はあのプリムチ族達の戦いを思い出し、出来ればプリムチ族にはかかわりたくないなぁと、心から思った。


「そ、それじゃあ、みんな、元気でな」


「ああ、お前ならいつでも大歓迎だ! また遊びにきな!」


 出来れば来たくないです。


 俺は苦笑しながら、船に乗る。


「よし、ではいくぞ!」


 アーナが張り切って魔力を放出し、ピーチケッツ号が空へと舞い上がる。


 こうして俺達は、空飛ぶ島、オチルデを去った。




「ただいまー」

「おう、おかえり!」


 俺達はセントヒリアのキョテンの街に着いた後、コルットの実家であるヤードヤの宿に向かった。


「しばらく帰ってこなかったから心配したぞ? 大丈夫だったのか」


「おとーさん、おかーさん!」


 親父さんの心配をよそに、コルットが親父さんとお母さんに話しかける。


「ん? なんだ」

「なぁに?」


 コルットが何かしようとしているのを察して、二人が注目する。


「わしじゃよ!」


 コルットが自身を指差してポーズを決めた。


「……」

「……」


 親父さんとお母さんが固まっていた。


「なぁリクト、これはなんだ? 俺はどう反応すればいい?」


 親父さんが俺に助けを求めてくる。


「コルットは面白いと思っているんだ、笑ってやってくれ」


 俺がそう言うと、親父さんが笑った。


「ハッハッハ、なんだコルット、面白いな!」

「えへへー、でしょー?」


 コルットは親父さんとお母さんが笑った事が、うれしそうだった。


「それで? それは何のマネなんだ?」

「うん、わしじゃよの人のマネー!」


 アーナ、お前、コルットに名前覚えられてないぞ?


 俺は後ろのアーナを見る。


 アーナは……とてもうれしそうだった。


「むっふっふ、良いぞコルット! 広がれ、わしじゃよの輪!」


 広がって欲しくない輪だった。


「ところでリクト、おめえ今回はどこまで行ってきたんだ? 勇者の装備は見つかったのか?」



 ゆうしゃの、そうび?



「あーーー!」



 親父さんに言われて、俺はとんでもない事に気付いた。


「ど、どうしたのリクト?」


 突然叫んだ俺に、みんながビックリしていた。


「ゆ、勇者の装備を、回収するの、忘れてた」


「あ……」


 俺達が空飛ぶ島に行った本来の目的、それは勇者の装備を見つける事だった。


 しかし俺達は、勇者の装備の回収を忘れて、帰ってきてしまった。


「す、すっかり忘れてたよ」

「私もだ、失念していた」

「みなさまお疲れでしたからね。私もウッカリしていました」


 みんな忘れていたみたいで、苦笑するしかなかった。


 明日、もう一度行こう。


 勇者の装備と、みんなとの婚約。

 魔王軍に帝国との戦争、そして邪神との戦い。


 まだまだやる事がいっぱいだ。


 特に婚約は、みんなになんて言ったらいいのか、いまだに頭を悩ませていた。


 俺はユミーリアの笑顔を見る。



 そうだ、憧れのヒロインとの婚約なんだ。

 それこそ、101回くらいプロポーズしてやるさ!


 勇者の装備を回収したら、みんなに話そう。



 俺は静かに、決意を固めた。


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