第153話 グッバイマイチェリー

 ついに見つけた解決法。


 それは俺が……童貞を捨(す)てる事だった。


 邪神は俺の魔力に同調して、俺を邪神にしてしまう。


 だが、童貞を捨てれば魔力がなくなってしまう為、邪神は俺に干渉できなくなり、俺が邪神になってしまう事はなくなるのだ。


 間違いない。

 これが答えだったんだ。



 だが、問題があった。


 童貞を捨てる為には、童貞を捨てなければならない。


 俺は元の世界で、たくさんの女性を相手に、童貞を捨ててきた。


 だがそれは全て……ゲームの中での話だ。


 つまりその、なんだ、現実ではその……アレだ。


 ハッキリ言おう。


 どうやって童貞を捨てたらいいのか、わからない。


 こういう時に限って、マキが来ない。


 今回の邪神復活の騒動で動き回っているから疲れているのか、それとも以前、俺が結婚するまでそういう事は禁止だと言った事をちゃんと守ってくれているのか、どちらかはわからない。


 だけどマキ、今こそ来てほしい。


 そして俺の童貞をアッサリと奪ってほしい。


 だが、来ない。


 つまり俺から動くしかないのだ。


 しかしどうする? なんて言えばいい?


 ヘイユー! オレの童貞を奪ってくれないかー?


 ……うん、ないな。


 だいたいタイミングが悪い。


 今日は邪神との決戦がある日なんだ。

 なのにいきなりヤろうぜ! とか、空気読めてないにも程がある。


 大人しく寝ろと言われるのがせいぜいだろう。


 ランラン丸は?


 あいつなら事情をちゃんと全部把握しているはずだ。


 だが、あいつは刀だ。

 刀相手に童貞捨てたって事になるのか?


 やって駄目でした、じゃ今度こそ本当にランラン丸が泣いてふさぎこんでしまう気がする。


 そもそも俺は、初めてはユミーリアでと決めていた。

 やっぱり一番の嫁はユミーリアだからな。


 だが、これからユミーリアの部屋に行って、夜這いをかけろと?


 だ、大丈夫なのか?


 いや待て、これからヤろうってのに、俺は全然準備ができていないんじゃないか?


 ユミーリアだってそうだ、いきなり行っても困るだろう。


 だが準備って、何をすればいいんだ?


 ……ゴム? この世界にそんなものあったっけ? 聞いた事ないし聞けるか!


 いや待て? ……聞く?


 そうだ、こういう事は経験者に聞くしかない!


 俺は着替えて部屋を出る。


 そしてマイホームを出て、ギルドに向かった。



 ギルドは当然真っ暗だった。


 しかし、そこで寝泊りしている人間は居る。


 俺は以前聞いていた、ヒゲのおっさんの部屋をたずねる。


「おっさん、起きてくれ! 緊急事態だ!」


 おっさんの部屋の扉を開けると、そこにはヒゲのおっさんがひとりでベッドで眠っていた。


「ああ? なんだシリトか? ビックリさせんな、今何時だと思ってやがる」


 おっさんがノソノソと起き始める。


「おっさん、頼みがあるんだ!」

「なんだよ?」


 俺はおっさんに対して、頭を下げた。


「俺、童貞を捨てたいんだ!」


 ……おっさんの反応がない。


 顔をあげると、おっさんが固まっていた。


「あーその、なんだ、シリト、悪いが俺はそっちの趣味はない。お前も知っているだろう? 俺の嫁は」

「は? 何言ってるんだおっさん?」


 その場を静寂が支配する。


「俺とヤッて童貞を捨てたいって話じゃないのか?」

「ちげーよ! 俺だってそんな趣味はないわ!」


 何が悲しくてヒゲのおっさんで童貞捨てなきゃならないんだよ! ていうかそれ童貞捨てたって事になるのか?


「何事だい?」


 俺の後ろから、おっさんの奥さんであるギルド長もやってきた。


 そうだ、女性の意見も聞かなければなるまい。


「二人とも頼む! 緊急事態なんだ、力を貸してくれ!」


 俺の真剣な言葉を聞いて、ギルド長が俺の目を見つめてくる。


「おだやかじゃないね、どういう事だい?」


 ギルド長が俺ごしにおっさんを見た。


「俺もよくわからん、シリト、いいから落ち着いて話せ」


 おっさんに言われて、俺は深呼吸する。


「その、どうしても朝までに童貞を捨てなきゃならないんだ! だけどその、どうやればいいか……いや違う! 何か準備が必要なのか、その、俺は何をすればいい!?」


 全然落ち着けてない気がした。俺は何を言っているんだ? 自分でもよくわからなくなってきた。


「……」


 ギルド長もあきれている。


 おっさんはため息をついて、俺に語りかけてきた。


「シリト、まず確認だ、なぜ朝までに童貞を捨てる必要がある? そこを話せ」


 なぜ必要か、か。

 俺は胸に手を当てて、ゆっくり話す。


「えっと、このままだと、俺は昼過ぎには邪神になってしまうんだ。それは俺の中にある魔力が原因で、原因になってる魔力をなくす為には、童貞を捨てなければいけないんだ」


 邪神になる。


 その言葉に二人は顔を見合わせた。


「お前が邪神になる、だと?」

「ああ、どうやら俺の魔力を、邪神が乗っ取るらしいんだ。だから魔力をなくすしかないんだが……その為には」


「童貞を捨てなければならん、と?」


 ギルド長の言葉に、俺はうなずいた。


「童貞を捨てると魔力が消えるってのは、聞いた事がないな。確かなのか?」


 おっさんが俺の目を見る。


「それは間違いないのは確認済みだ、神様にちかってもいい」


 というか、神様からの情報だからな。


「神の尻を持つお前が神にちかう、か。本気なんだな? シリト」

「ああ」


 おっさんが大きくため息をついた。


「わかった。つまりお前は朝までに童貞を捨てなければいけないが、どうやって捨てたらいいのか、何を準備すればいいのかわからないんで、俺に聞きに来たって事だな?」


「そう、そうなんだ!」


「なんで俺なんだよ?」

「いや、こういう事は経験者に聞く方がいいかなって思って」


 今度は俺の後ろでギルド長がため息をついた。


「もっと時間を考えてほしいねえ」

「ついさっきこの事が判明したんだよ! むしろ気付いてから割りとすぐに来たんだ」


 二人がやれやれと言いながら、椅子を用意して俺に座る様にすすめてきた。


 おっさんとギルド長は並んでベッドに座る。


「まず、相手だ。まあお前さんは嫁がたくさんいるから困らないか、誰にするつもりだ?」


 おっさんの問いに、俺は拳をにぎって答える。


「ユミーリアだ」


「勇者のお嬢ちゃんか、ウミキタの娘さんの方がいいんじゃないか? あっちの方がそういう事に詳しそうだろう」


 ウミキタの娘、マキの事だな。

 おっさんのおすすめはマキなのか。


「もちろん、マキの事も嫌いじゃないし、いずれはその……そういう事もしたいと思っている。だけど初めてはユミーリアだってのは、ずっと前から決めてた事なんだ」


 おっさんがギルド長を見る。


「初めて同士ってのは、大変だよ? 特にあの子はそういう方面には縁がなさそうだし、今晩中ってのは難易度が高いだろうねえ」


 確かに、ユミーリアはそういう事には耐性がなさそうだ。


 やっぱり、無理なのか?


「まあ、いいんじゃねえか? こういうのはいきおいが大事だからな。準備も何も必要ねえ。ガッといってガッとやっちまえ! それに今の事情を話せば、お前の嫁ならわかってくれるだろう」


 なんとも参考にならないアドバイスだった。


「あの、ゴムとかは?」

「なんだゴムって?」


 残念、この世界にゴムはありませんでした。避妊とかどうするんだよ?


「いいかい? とにかくやさしくする事を心がけるんだ。私の隣にいるどこかの野獣みたいに、力任せは駄目だからね?」


 ギルド長がおっさんを見る。


 おっさんはバツが悪そうに指で頬をかいていた。


「わかったらとっとと戻れ。こんな所で油を売ってる暇はないだろう? お前が相談する相手は俺達じゃない。お前の嫁だ」


 俺はそう言われて、椅子から立ち上がった。


「確かに、そうだな。わかった! ありがとう、おっさん、ギルド長!」


 そうだ。


 俺が相談する相手は、ユミーリアなんだ。


 駄目だな、こんな簡単な事にも気付かなかった。


「マイホーム!」


 俺の尻が光り、尻の間からニュッと扉が出てくる。


「じゃあ、いってくる!」


「おう、せいぜい頑張れ」

「いいかい? あきらめるな、ためらうな、相手も同じ様に初めての事で怖がっているという事を忘れるんじゃないよ!」


 二人の言葉を受けて、俺はマイホームに戻った。



 マイホームに戻った俺は、ユミーリアの部屋に向かった。


 ユミーリアの部屋の扉をノックしようとして……俺は固まっていた。


 ど、どうする?


 やる事は決まった。だが、最初はなんて声をかければいいんだ?


 心臓の音がうるさい。

 邪神に乗っ取られた時よりうるさいんじゃないか、これ?


 早くも帰りたくなってきた。


 拒否されたらどうしよう?

 嫌われたらどうしよう?


 さっきからそんな事ばっかり頭の中に浮かんでくる。


 そこで俺は、おっさん達の助言を思い出す。


 ガッといってガッとヤれ、ためらうな、か。


 俺は深呼吸をする。


 もう一度深呼吸をして、深呼吸をした。


 そして、扉をノックする。


 ……応答がない。


 当然か、こんな時間じゃ寝てるよな。


 寝てるならしょうがないと自分の部屋に戻ろうとした時、扉が開いた。


「ふみゅ……リクト?」


 寝ぼけたユミーリアが出てきた。可愛い、超絶可愛い。


「ゆゆゆゆ、ユミーリア、は、話があるんら!」


 かんだ。ちくしょう。あせりすぎだ俺。


「話? ……うん、わかった、入って」


 俺はユミーリアの部屋に入る。


 部屋は、ユミーリアの匂いがした。


 なんとも甘く、しびれる様な匂いだった。


 ユミーリアは普段のトリプルテールをほどいていた。


 トリプルテールなユミーリアも可愛いが、今の髪をおろしたユミーリアも超絶セクシーだ。


 ユミーリアがベッドに座り、俺は近くにあった椅子に腰掛ける。


「えっと、話って何かな?」


 さて、なんと答えようか。


 マキならここで、もちろん夜這いですって答えるんだろうな。


 そもそもユミーリアはどこまで知ってるんだ? 夜這いって言ってわかるのか?


 マズイ、ドキドキして心臓が破裂しそうだ。


 か、帰りたい。もうおうち帰りたい。


 ってここが俺の家だよちくしょう!


「リクト?」


 俺がひとり混乱していると、ユミーリアが話しかけてきた。


 落ち着け、落ち着くんだ俺。


 そうだ、ちゃんとユミーリアに話すんだ。


「ユミーリア、聞いてくれ」

「うん」


 俺は深呼吸して、ユミーリアに話をする。


「邪神が童貞で大丈夫なんだ」


「……わけがわからないよ」


 そうだな、俺もわけがわからない。


「えっとだな、まず、今日昼過ぎに、俺は邪神になるんだ」

「え? ちょ、ちょっと待ってリクト、何言ってるの? リクトが邪神になるって、どういう事?」


 ユミーリアがあわて始める。


 そうだ、そこからちゃんと説明しないとな。


「実は、俺は今日、すでに何度か死んでやり直しているんだ。それでわかったんだけど、今日の昼過ぎ、俺は邪神になってしまうんだ。原因は俺の魔力で、俺の魔力に邪神が干渉して、俺を邪神に変えてしまうみたいなんだ」


 ユミーリアは驚きで目を見開きながらも、なんとか俺の話を飲み込んでくれる。


「そ、そうなんだ……邪神になったリクトは、どうなるの?」

「勇者である、ユウに倒される。そして俺は死んで、またこの時間に戻ってきたんだ」


 ユミーリアが自分の手をギュッとにぎりしめる。


「兄さんが……そう、兄さんを殺せばいいのね」

「いや違うから! ユウにはむしろ感謝してるんだって、死ななきゃやり直せないんだからな。だからユウの事は許してやってくれ」


 俺はあわててユミーリアを落ち着かせる。


 普段は天使はユミーリアだが、どうもユウには容赦がない。


「そう、なんだ? でも、それじゃあどうすればいいの?」


「えっと、そこなんだ。俺の魔力が原因だから、俺の魔力をなくしてしまえばいいんだよ。ただその、方法に問題があって、ユミーリアに相談しにきたんだ」


 俺の言葉を聞いて、ユミーリアが俺の手をにぎってくる。


 やわらかい。


「方法があるんだ! わかった、私で良ければなんでもするよ!」


 ふっ、ユミーリアよ、今なんでもと言ったな?


 これからなんでもしてもらうんだぜ?


 なんて強気で言えたらいいんだけどな。


 さて、どう説明したらいいものか。


「えっと、その、方法は、だな……ユミーリア、童貞って言葉の意味、わかるか?」

「どうてい? ……ごめん、わからない」


 だよなー。そうだよなー。


 さて、なんて説明すればいいんだ?


「あ、待って! 確か、村のおばあちゃん達が教えてくれた事でそんな感じの事が……あ」


 ユミーリアの顔がボッと赤くなる。


「もう! いきなり何言い出すの! リクトのエッチ!」


 そして俺はポカポカとなぐられた。


 どうやら意味は通じたらしい。

 村のおばあちゃん達、ありがとう。


「ちょ、ちょっと待った、その、大事な事なんだ。実はな……俺がその童貞を捨てれば、魔力がなくなる事がわかったんだ」


「童貞を捨てれば、魔力がなくなる?」


 ユミーリアが手を止めて考え始める。


「魔力がなくなれば、リクトは邪神にならなくて済むんだよね?」

「ああそうだ」


 ユミーリアの顔がパアッと明るくなる。


「良かった、それじゃあ早くその童貞を捨てないと!」


「う、うん。そうなんだけどな、ユミーリアは童貞の意味は知ってるみたいだけど、それを捨てるってどういう事かわかるか?」


 ユミーリアが今度はキョトンとした顔をする。


「うーんと、童貞が確か、エッチな事をした事がない男性の事だから、それを捨てるには……エッチな事をする?」


 うん、完璧な答えだ。


「リクト、エッチな事するの?」


 ユミーリアの顔が再び赤くなる。


 さっきから表情がコロコロ変わって可愛い。超絶可愛い。


「ああ……むしろしないと、邪神になってしまうんだ」


 ユミーリアがジッとこちらを見ている。


「どうしてそれを、私に言いに来たの?」

「そ、それは!」


 言うのか? 言うのか俺?

 言ったら今度こそ本当にもう戻れないぞ。


 嫌われたら終わりだ。邪神になって死ぬよりつらいだろう。


 だけど……俺は、ユミーリアを信じる。信じるしかない。


「ゆ、ユミーリアと」

「私と?」



「その、エッチな事がしたいんだ!」



 したいんだ したいんだ したいんだ とエコーが聞こえた気がした。


 ユミーリアの反応が無い。


 た、頼む、何かしら反応をくれ!


 やっぱり駄目だったか?


 もっとマシな言葉はなかったんだろうか?


 ああ駄目だ。もう死のう。死んでユミーリアに謝ろう。


「リクトはその……相手が、私でいいの?」

「え?」


 心臓がはねる。


 その衝撃は、邪神になる時の衝撃とは比べ物にならない。


 い、今ユミーリアはなんと言った?


 ワタシデイイノ?


 そ、それはつまりだ。


「い、いいのかユミーリア?」


「……うん、リクトなら、いいよ」


 リクトナライイヨ


 リクトナライイヨ


 いいのか!


 俺は改めてユミーリアを見る。


 可愛い、超絶可愛い。


 これまでずっと可愛いと思っていたが、本当に可愛い。


 俺はユミーリアに手を伸ばそうとする。


 だが、そこでもうひとつ、ちゃんと言っておかなければいけない事に気付いた。


「えっと、ユミーリア、俺はその……確かに、邪神にならない為に、魔力をなくす為にこういう事が必要なんだけど」

「……うん」


「だ、だけど、それだけが理由じゃない。ユミーリアの事が好きだから、だからユミーリアの所に来たんだ。誰でも良かったわけじゃない」


 俺は椅子から立ち上がる。


 そしてユミーリアに近づく。


 その時、ベッドに立てかけられていた勇者の剣が、俺に向かって倒れてきた。


 そのせいで、剣に足を取られて、俺は前のめりに倒れてしまう。


「あ」

「きゃっ!」


 そしてそれは……ベッドに座っていたユミーリアにおおいかぶさる様になってしまった。


「ゆ、ユミーリア」

「リクト」


 俺達は見つめあう。


「私ね、すっごくドキドキしてるけど、リクトが私を選んでくれて、とってもうれしいの。リクト、ありがとう」


 ユミーリアがクスッと笑う。


 可愛い。

 超絶可愛い。


「ユミーリア」

「うん、いいよ。私もリクトの事が、好きだから……だから、私をリクトのモノにして」



 夜汽車が汽笛を鳴らした。


 俺とユミーリアの、二人だけのミステリーツアーが始まる。




 そして、夜が明けた。


 俺が目を覚ますと、隣でユミーリアが笑ってこちらを見ていた。


「起きてたのか」

「うん、リクトの寝顔を見てた」


 なんとも恥ずかしいセリフだった。だが、一度は言われてみたいセリフだった。


 ああ、俺今、超しあわせ。


「私、リクトの本当のお嫁さんになったんだね」

「ああ」

「お母さんになっちゃったんだね」

「……おう」


 ゴムとかないからな、この世界。産めや増やせやなんだろう。


 そんな世界で、ユミーリアは俺を受け入れてくれたんだな。


「ユミーリア、ありがとう」

「私も、ありがとうリクト、私を選んでくれて。私……しあわせだよ」


 俺達は手をからませる。


 そして……お互いの口を近づける。



「いやー、昨夜はお楽しみでしたね」


 マキの声がした。


 ふと見ると、すぐそばにマキが立っていた。


「ふおっ!」

「ま、マキさん!?」


 俺とユミーリアはあわててふとんをかぶった。


「あ、あの、マキさん? こ、これには事情が」


 ユミーリアが顔を真っ赤にして説明しようとする。


「はい、ちゃんと全て聞いていました。最初に私を選んで頂けなかったのは残念ですが、ここは出会った順番という事で納得してあげましょう。ですが、今後は容赦なく夜這いしますので、覚悟してくださいね」


 ぜ、全部聞いていた、だと?


「い、いつから?」

「マイホームを出てヒゲゴロウ様の元に向かった辺りから、ですね」


 ほぼ最初からじゃねーか!


「な、なんで?」

「リクト様がマイホームを出ようとした事に気付き、行き先がギルドに設定されていたので急いで追いかけました。何やら重要な話の様でしたので隠れて控えておりましたが、まさかこの様な事になるとは……」


 なんてこった。マキ怖い。


「リクト様」

「は、はひ?」


 俺はマキに声をかけられてビクッとする。


「童貞卒業、おめでとうございます」


 そ、そうだよな、全部見られてたんだよな?


「さて、今からお二人の恥ずかしい愛のメモリーを片付けなければなりませんので、少しどいて頂けますか?」

「あ、愛のメモリー」


 ユミーリアが頭からケムリを吹いてオーバーヒートしてしまった。


「さあ、リクト様は先にシャワーでも浴びてきてください」


 そしてマキによって部屋から追い出された。


 廊下にポツンとひとり、立ちすくむ俺。


「う、うわあああ!」


 俺は恥ずかしくなり、そのまま風呂へと駆け込んだ。


 シャワーを浴びながら、マキとどう接するべきか、考えていた。


 しかし、すでに事情は把握され、おそらくほとんどの事を見られてしまっていると考えると、考えるだけ無駄な気がしていきた。



 その後、風呂場で顔を真っ赤にしたユミーリアとすれ違った。


 一緒に入る? なんて言えるほどの度胸は、今の俺にはまだなかった。



 俺は自分の部屋に戻り、着替えを済ませる。


 新しい服に身を包むと、なんだか身体がウズウズしてきた。


 俺は、これまでずっと抱えてきた荷物を無事におろす事ができたのだ。


 なんだか気持ちがたかぶってきたので、風にでも当たろうと、一度マイホームの外に出る。



「……はは、マジかよ」


 朝日がまぶしかった。

 世界が、変わって見えた。


「俺、捨てたんだな、本当に」


 実感がわいてきた。


 そう、俺は今日、生まれ変わったんだ。


「ハハ、ハハハハハ! 邪神でもなんでもこいってんだ! 今の俺は、無敵だー!」


 俺は両手をあげて、そう宣言する。



 全てが俺を祝福している、そんな気がした。



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