第5話 えげつないカラクリ



「おい! いきなりどうした、シャノン!?」


 俺の問いに、彼女は頭を上げ上目遣いで見つめてくる。


「……ローグから話を聞きました。彼を庇ってくれたことにお食事の件、改善して頂きありがとうございます」


「あ、ああ……そのことね。組織である以上、実力差に応じた序列は必要だけど行き過ぎは良くないと思っただけさ……てか食事の件は俺が悪かったみたいだから気にしないでくれ」


「それでも見直して頂いたことに変わりありません……少し前のアルフレッドさんなら、いくら訴えようと『はぁ? ローグだぁ? んな雑魚知らねぇっての、ギャーハハハッ!』と一蹴されましたので……」


 原作読んで、そういう糞キャラだって知っているけど生の声を聞くと改めて酷ぇ。


「ごめん……今後そういうのはないから安心してくれ。あとローグの対応も少しずつ見直すようにするよ。そもそも【英傑の聖剣】は彼と共に立ち上げたパーティだからね」


「……貴方、本当にアルフレッドさんですか? 朝食時といい、まるで別人みたいです」


 シャノンが大きな瞳を細めて首を傾げている。


 やべぇ……つい素で喋りすぎたか。

 けど俺は本物のアルフレッド・ヴェステンだ。

 転生して人格が入れ替わっただけの……本来のアルフレッドはどうなったのか知らんけど。


 だからこそ、これまでの素行のしわ寄せが全て俺に降りかかってしまう。

 少なくても、一年後のローグ追放イベントを回避するまで少しずつ軌道修正しなければならない。


「三日後のクエストに備えて色々と考えてね……安定しているからこそ、【英傑の聖剣】安泰のため自分の素行を改めてみようと思ったんだ。今まで、シャノンにも色々と言われていたし……」


「そうですか……ようやく、わたしの言葉が届いたのであれば嬉しいです、アルフ・ ・ ・さん」


 シャノンがにっこりと微笑み、初めて俺を愛称で呼んでくれた。

 いつも仏頂面で距離を置かれていたのに、初めて近づけた気がする。


 にしても超かわいい……まさしく清楚系で麗しき聖女様。

 こりゃアルフレッドが寝取ろうと画策するのも頷ける。

 ぶっちゃけ、サイコパスなローグには勿体ない。

 けど元社畜おっさんの俺としては、高嶺の花すぎて近づくのもおこがましいけどね。


 あれ? でもこの子と親密になったら駄目なんじゃね?

 何しろ、あの鳥巻八号の原作世界だ。

 俺にその気がなくても何をブッ込んでくるかわかったもんじゃない。


 寝取りフラグは全てへし折らなければ……。


「でもあれだ……ローグが無能のままなら、いつか追放しちゃうかもね~ん」


「そんなこと、わたしがさせませんよ……けど不思議です。今のアルフさんなら冗談にしか聞こえませんね、フフフ」


 意外にも優しい微笑で返してくる、シャノン。

 彼女は「それじゃ、また」とお辞儀をしてその場から去って行く。

 俺は何も言えず「ああ」と間の抜けた言葉を発し、そんな彼女の後姿を眺めていた。


 なんだか思っていた反応と違う。


 逆に雰囲気が良くなった気がするんだけど……気のせいか?

 まさか既に寝取りフラグが立って……いやそんな筈はない。

 そもそも『アレ』と手に入れないと成立しない筈だ。


 次のクエストで――。

 


◇◆◇



 三日後。


 古代遺跡ダンジョンに潜む、魔王軍の幹部を討伐するため出動する。


 俺は団長リーダーとして10名ほどの【英傑の聖剣】に所属する冒険者達を選抜していた。

 メンバーは俺ことアルフレッド、ガイゼン、パール、シャノンの幹部クラス。

 さらに二軍のフォーガス、ダニエル、ラリサを加え、推しのカナデと他1名の冒険者。

 最後にローグがいた。



「ギルドに確認したところ、魔王の幹部はジャダムという魔族で炎を操る強力な魔法を持っているらしい。またダンジョンの内は本来であればいない筈の強力なモンスターが蠢いていると言う。だが俺達【英傑の聖剣】の目的は、あくまでジャダムのみだ! だから深追いはするなよ! 常に皆で連携を取ること、いいな!」


 ダンジョンにアタックする前、俺は各団員達に説明し鼓舞する。

 けど何故か全員がポカーンと口を空いたまま見入っていた。


「お、おい、みんなどうしたんだ? 探索前だぞ? しっかり気を引き締めろ!」


「いやぁよぉ……いつものアルフなら『俺様が一番乗りだぁ! ブワハハハ!』って、無策のまま勝手に乗り込むところだって思ってよぉ」


「アルフ、しっかり団長している……意外」


「これが団長として本来あるべき姿なのですが……違和感しかなくて、ごめんなさい」


 ガイゼン、パール、シャノンの幹部達が感想を漏らしている。

 他の団員も同じようで「あのアルフ団長が!?」と驚いている。

 唯一、カナデだけが「うむ! 勇者を目指す者として本来そうでなくてはなりませぬ!」と褒めてくれた。


 どちらにせよ、アルフレッドが如何に杜撰で適当な団長リーダーだったかが伺えるわ……。


 そうそう、最後に念を押さなければならない。

 俺はローグに近づき、彼の肩に腕を回し耳打ちした。


「おい、ローグ。今回から俺にバフを施さなくていいからな」


「え? それってどういう意味ですか?」


 すっとぼけやがって……こいつが戦闘中、密かに俺ら全員に《能力貸与グラント》で能力値アビリティを強化させているのは知っている。

 そして固有スキルを進化させるためスキル経験値ポイントも増加させていることもだ。

 一度進化した固有スキルは《能力貸与グラント》を解除されても元の状態に戻ることはないけど、剣技だけでも今の力で戦いたいと思っている。


 来るべき原作者、鳥巻のガバに向けて――。

 いや、ガバに向けてって何?


「とにかく俺には不要だ。他の団員も俺の指示があるまでは何もするなよ……わかったな」


「わかりました……そうします」


 あっさりと承諾するイエスマンのローグ。

 こいつガチでわかっているのか?

 変にしれっと無自覚系なところがあるからな。

 熱湯風呂コントのみたいに「絶対に押すなよ!」を「ウケるから押せ!」って前フリみたいな感じで脳内変換してやがる可能性がある。

 まぁ、それならそれで俺にも考えがあるけどな。



 間もなくして、古代遺跡のダンジョンへと突入する。


 早速モンスターが沢山現れた。

 ミノタウロスにコカトリス、オーガにアラクネなど。

 初っ端から強力な連中ばかりだ。


「俺が先陣を切る――《神の加速ゴッドアクセル》!!!」


 約10秒間、俺の周囲が超スロー状態となる。

 とはいえ実際の体感では10分間。

 ここ一帯が俺の世界と言っても過言じゃない。

 俺は余裕綽々とモンスター達の急所に斬撃を与えクリティカルヒットを与える。


「――タイムアップだ」


 指をパチンと鳴らした瞬間、モンスター達が鮮血を吹き出し一斉に倒れ伏した。


「ひゅーっ、アルフやっぱ強ぇ!」


 ガイゼンが面頬越しで口笛を鳴らし褒め称える。

 他のパーティ達も「流石、団長!」と持ち上げてくれた。


 現時点でローグが何もしなくても《神の加速ゴッドアクセル》は使用できる。

 何故なら《能力貸与グラント》で一度与えられたバフ効果は永続されるからだ。


 だが以前も述べた通りローグを追放することで、これまで蓄積されていた強化貸与バフの効力は強制的に解除されてしまう。

 なので一気にパーティ弱体化というカラクリだ。


 しかも当人達の任意で与えたバフならともかく、ローグがパーティのためと思って勝手に施していた効力だから始末が悪い。

 さらに実体は「付与」じゃなく「貸与」だ。

 つまりローグの意志で、いつでも没収が可能だということ。


 最早、エグさを通りこして悪質だと思う。


 まぁこれも原作者である鳥巻八号が、主人公を無理矢理に正当化させるために設定されたご都合展開カバってやつだ。



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