第104話 ぼくっ娘ヒロインの裏設定
仮入団として迎い入れた、
当日は他の団員に改めて自己紹介し丁寧な挨拶を交わしていた。
その謙虚な姿勢にみんな好感を得たようで早速馴染みつつあるようだ。
――俺以外はな。
さらにもう一人。
「……団長、ボクの呪いであのセナに『ぼく』って呼ばせるの禁止させていい? うひひひ」
ってゆーか、こいつはただ単に『ぼくっ娘』のキャラ被りでセナと距離を置いている節がある。
「安心しろ、ソーリア。一人称以外は一切キャラ被ってないからな」
一応フォローしておく。
不気味なヤン女だが裏表がない分、ソーリアの方が遥かに付き合いやすい。
そのセナは事あるごとに、俺の方をチラ見してきた。
一見するとさも純粋そうな大きくて綺麗な瞳だ。
しかし俺には奥側が何か濁った色にも見えてしまう。
きっとなまじ原作で奴の素行を知っているだけに余計そう思えてしまうのか。
どちらにせよ見極める必要がある。
セナ・ローウェル、お前が俺と同じ転生した『
◇◆◇
その日の夜。
俺は床に入ると、夢の中で濃霧に包まれた。
この現象って……やっぱり。
「――やぁ、アルフレッド。また来ちゃったよん」
いつの間にか目の前にはアホ面した青い鳥が立っている。
「……鳥巻八号。今日は何の用だ? 言っておくがあれから一切進展してないぞ」
「知ってるよ。今回現れたのは他でもない。実はキミに一つ伝え忘れていたことがあることを思い出してね……それを伝えに現れたってわけさ」
「伝えたいこと? いつものガバか?」
「……チッ。キミはガバガバしつこい男だねぇ。やめてくれない、そういうの? 感想欄でも一部の読者から『アルフレッドはガバガバうるさい』ってクレーム来てるよ~ん」
「なんだと? どういう意味だ……まさか、今までの俺の行動がラノベ化されているのか?」
「……いや別に。ネタ的にメシウマと思って、ちょちょっと
こ、こいつ、地球で俺をネタにやりやがっているのか!?
以前は俺に異世界を託す的なことほざいておいて、がっつり作品のネタにしているじゃねーか!
何が安心してくれたまえだ! やっぱ鳥巻は信用できん!
「……まぁいい。んなこと言いにわざわざ現れたのか? 神様は暇で羨ましいな……」
「チッ、それは余談だよ。ここからが本題だ――この異世界には読者が知らない『裏設定』が存在するのだよ」
「裏設定? つまり一般公開されていないネタってことか?」
「そういうことになる。読者は勿論、編集者さえ知らない隠された設定だ。地球で執筆している私の
「じゃあ、書籍版やコミック版はおろかネットにも載っていないってことか?」
「ああ、その通りだ。したがってアルフレッド、原作知識で行動しているキミにとって寧ろ不利に働いてしまうかもしれないということだ」
「マジか……いや、これまでだって原作と違った状況の連続だ。今更驚くこともないさ」
「え? そう? でもキミ、感想欄じゃ『アルフ、いい加減に気づけよw』とか『もう立場逆転してんのわかってんだろ?』や『おっさん激鈍ウザ!』とか『知能デバフに汚染されたガバ効果ですか?』なんて感じで色々と書かれているよ、プププ」
「はぁ? 他人事だと思ってナメてんのか!? 随分と好き放題言いやがってぇ! 読解力のねぇ痴愚無知共がァ! 第四の壁側で傍観しているテメェらならともかく、リアルタイムで動いている主人公が全て把握できると思うなよ! 俺はエスパーじゃねぇんだからな! てか誰よ、そいつ!?」
「まぁまぁどちらにせよ、今のキミは向こう側の世界に干渉できないだろ? 話を戻すが裏設定があるのは主にメインキャラ達だ。特に原作の主人公パーティには気をつけてくれ」
「原作主人公パーティ……今関わっている中だとシズク、ピコ、そしてセナか?」
「ああ特にセナは心の闇が深い。あの子はキミとローグを酷く憎んでいるからね」
「俺とローグを憎む? どういうことだ?」
「それはね、〇*×△&%□#@〇――」
突如、声質が可笑しくなる鳥巻八号。
まるで、そこだけピー音が入ったかのようだ。
「おい先生、何言っている? ちゃんと教えてくれ」
「……チッ、そういうことか。すまん、私が干渉できるのはこの範囲までのようだ」
「なんだと?」
「前に話した通り、この異世界は私の管理から外れようとしている……それだけ虚無の神ミヅキナイトに乗っ取られつつあるのだよ。奴が送り出した『
「つまりどういうことだ?」
「ネタバレ厳禁って意味だ。裏設定の件は伝えたよ、あとはキミ自身が探るしかない。それと感想欄はヘイトをぶつけたり批判する場じゃないから規約をよく読むよーに」
最後だけ何を言ってやがるんだ?
すっかり作家モード全開じゃねーか。
「……わかっている。既にセナをマークしているからな。ひょっとしたら、そのミヅキナイトの『
「それは△&%□#@〇――チッ、やはり無理か。ミヅキのせいで、すっかりバグ扱いらしい……それじゃ頼むよ、アルフレッド。私の『
鳥巻八号はそう告げると、次第に青い鳥の姿が深い霧へと包まれていく。
いつも思っているが、俺はお前の所有物ではない。
そう言ってやろうと思ったら、気づけば夢から覚めていた。
◇◆◇
「……原作者、いや神か。奴にも色々と事情があるってわけか……おや? 今回は一人か?」
俺はむくっと起き上がりベッドを確認する。
隣には男仲間のガイゼンとラウルが寝ているだけだ……ってガイゼンは相変わらず鎧姿のままかよ。
にしても普段なら、原作ヒロインズのシズクとピコが俺のベッドに入り込むのがお約束の筈だが、今回は俺一人だった。
いや、これが普通なんだけど……何故か違和感を覚え始める。
すると。
「もう、セナさん! そこを通してください! ご主人様が目を覚ましてしまうじゃないですか!」
「そうよ! アタシ達のルーティンを邪魔しないで!」
ん? 扉越しでシズクとピコの声が響いているぞ。
何やら揉めているようだ。
「いえ、なりません! アルフレッド様はお疲れでお休みになられているのです! それになんですか!? 男性の寝室に無断で入ろうとするなんて! しかも中にはガイゼンさんとラウルさんも寝てらっしゃるのですよ!」
「私はいいんですぅ! ご主人様の奴隷なんですから! ご主人様になら何をされてもいいんですぅ!」
シズクさんは相変わらず承認欲求を満たしてくれるヒロインだ。
けどそのうち俺の理性が壊れてしまうから、堂々と言わないでくれる?
「それにガイゼンとラウルは気にしないわ! いつも笑って何も言わないもの!」
いやピコ、二人は呆れて苦笑いを浮かべているだけだよ。
「そんな屁理屈、ぼくには通じませんね! とにかく自分の部屋に戻ってください!」
セナも頑なに譲ろうとしない。
つーか疑惑のぼくっ娘が一番まともってどーよ?
俺は立ち上がり、静かに扉を開けた。
「おはよ……って、キミら何してんの?」
「アルフレッド様、おはようございます! 団長の安眠を守るため、ぼくがこうして侵入者避けに警護をしておりました!」
セナが元気に挨拶をして詳細を説明してくる。
なるほど、彼、いや彼女か……とにかくセナのおかげで俺は一人で眠れたのか。
対して、シズクとピコは悔しそうに頬を膨らませ「プン、侵入者じゃありません!」と怒っている。
「そうかありがとう、セナ。シズクとピコは早々に自分の部屋に戻れよ。またシャノンに叱られても知らないぞ」
俺の説明に二人は「は~い」と返事をしてその場を去っていく。
「ではアルフレッド様、ぼくはこれで」
「ああ、気を利かせてすまなかった……セナ、俺のことはアルフでいい」
「わかりました、アルフ様。では後ほど――」
セナは爽やかに微笑み、お辞儀をして離れた。
俺は扉越しでじっとセナの後ろ姿を見つめる。
一見して気が利く有能な、ぼくっ娘――。
原作のセナもパーティ入りたてはこういうキャラだった。
んで次第に問題を起こし始める、そんな流れだ。
俺は鳥巻八号とのやり取りを思い出す。
ヒロインキャラの裏設定。
「……セナが俺とローグを憎んでいるだと? どういう意味だ?」
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