第105話 勇者と支援役の探り合い



「素晴らしいです、セナさん! よくぞアルフさんを守ってくれました!」


「セナ、有能。仲間に入れて正解」


「うむ、まさに支援役サポーターの鏡だ! これからもアルフ団長を頼むぞ!」


「「「素敵よ、セナ!」」」


 朝、宿屋の食堂にて。

 やっぱりシズクとピコの押し入り未遂がばれてしまった。


 シャノン、パール、カナデ、そしてマカ、ロカ、ミカの女子メンバーが守り切ったセナを称賛している。

 これまで誰も阻止できなかった分、その功績は大きいようだ。


 だから余計に英雄扱いされている。

 一方で実行犯であるシズクとピコは肩身が狭く自分の席で縮こまっていた。


「いえ、ぼくは当然のことをしたまでです。ですがシズクさんとピコさんも、アルフ様を慕うがあまり……お二人もきっと反省していますので、どうか責めないでください」


 セナが諭すように言うと、シャノン達は「ええ、わかりました」と素直に頷く。


「……セナさん、ごめんなさい。そしてありがとう(でも反省ゼロ)」


「正直、アンタのこと誤解してたわ。優しいところあるじゃない(上から目線)」


 シズクとピコは反省の色を見せ、庇ってくれるセナに感謝の言葉を述べる。

 まぁ内心じゃ反省しているか怪しいけどな。


 セナのおかげで俺の安眠と貞操は守られ、また女子達も理由は不明だがまとまっている雰囲気だ。

 団長として喜ばしいことではあるのだが……。


「……うひひひ。ああして女子メンバーを中心に好感度を上げているんだろうね。【集結の絆】って女子が多いから」


 俺の隣席でソーリアが不敵に微笑みながら小声で呟いている。

 セナの加入について唯一の反対派であるが、その理由は『ぼくっ娘』キャラ被りというしょーもない理由からだ。

 それでもパーティの中で最も的を得た見解があり、セナを用心する意味で俺の隣席に座らせていた。


「俺もセナがただの支援役サポーターとは思えない。『不運をもたらす者アンラック』という通り名といい……悪評があるにせよ、これまで彼女が所属していた多くのパーティが仲違いで解散したのも事実だ。実は欺くのに長けた盗賊シーフの属性もあると思っている」


盗賊シーフ? そう? ボクはそうは思ってないよ、うひひひ」


「なんだと? ならソーリアはどう思っている?」


「……暗殺者アサシンかな。人を欺くのに最も適した職業だね。しかも冒険者ギルドに認定されてなく、非公式で裏社会系の……でも」


「でも?」


「あいつから血や怨恨のイメージが湧かない。殺しはしたことがないのか……まるで見えない壁に遮られている感じで、ボクの占いも曖昧なんだ」


 占いか……そういゃ呪術師シャーマンが得意とする分野だったな。

 見えない壁とは、おそらく夢で鳥巻八号が話した「裏設定」のことだろうか?

 なるほど、それでソーリアは「キャラ被り」と称して、セナを警戒しているってわけだ。


 流石はデバフの魔女。


「ソーリア、参考になったよ。それとしばらく俺の傍にいて欲しい……セナを見極めるためにも、キミの呪術師シャーマンとしての慧眼が必要だ」


「団長くん、それって愛の告白? やばっ、推しから正妻に昇格……うひひひ!」


 ちげーよ。やべぇ、ヤンデレに拍車を掛けてしまったぞ。

 けどウチのパーティは人を疑うことを知らないお人好しが多いから、ソーリアのような周囲から一歩引いた視点を持つ団員は不可欠だ。


 それにセナが俺に何かを仕掛けようとする予防線になるだろう。



◇◆◇



 糞アルフレッドめ。


 まだぼくのことを信用してないのか、あの呪術師シャーマン女を傍に置くようになった。


 あいつのことは知っている……デバフの魔女、ソーリア・ファブル。

 裏社会でも有名な第一級冒険者の呪術師シャーマンだ。

 暗殺者アサシンの中には高額を払ってでも、あいつを仲間に招き入れたい組織が多いと聞く。


 そんな大物がどうして、糞アルフレッドの仲間に? 

 しかも不気味に微笑みつつ、奴に向けて密かに女の顔を浮かべているじゃないか?


 けど、ぼくことセナはそう甘くない。

 ぼくの正体が知られる前にアルフレッド……お前の化けの皮が剥いでやるからな!



「――セナ、これから俺は勇者としてルミリオ王城に赴かなければならない。悪いがソーリアと一緒について来てくれ。他の団員は各々で精進に励むこと」


 食後、アルフレッドがそう指示してくる。

 奴の肩にはちゃっかり妖精族フェアリーのピコが何故かドヤ顔で座っていた。

 まぁこのちっゃいのはノーカン扱いなのだろう……なんか頭悪そうだし。


 厄介なのはソーリアだが、ぼくは今すぐ行動に移すつもりはない。

 しばらくは様子を見て、他の連中の信頼を勝ち取り正式の団員になること。


 それからさ……ぼくの復讐が始まるのは。


 アルフレッド、お前を孤立させ奈落の底に叩き落してやる!

 勇者職を剥奪され、仲間達に見捨てられて泣き喚くお前の顔が今から目に浮かぶぞ……フフフ。


「わかりました、アルフ様。では参りましょう」


 ぼくはアルフレッド達と共に宿屋を出る。


 ん? 待てよ……徒歩だと?

 特零級の勇者が王城に赴くのに?

 普通、城側から迎えの馬車が来るんじゃないのか?


「……アルフ様、まさかお忍びで行かれるのですか?」


「いや違う。一応、ハンス王子から正式に招かれている。なんでも勇者の俺に極秘のクエストを依頼したいとか」


「ならばどうして城から迎えが来ないのですか?」


「断ったからだよ。俺の方からな……あんな凱旋パレードのような豪華な馬車と大人数の迎えなんぞ、いちいち街の人の迷惑だ」


「はぁ……」


 街の人の迷惑? あの強欲のアルフレッドが? 何かの間違いだろ?

 まぁどうせ仲間の前でカッコつけているだけだろう。


「おや、アルフレッドさん。おはよう」


「アルフレッドさんじゃないか? どうだウチで何か食べていくかい?」


「勇者様~、こんどいつ遊びに来てくれるのぅ?」


 アルフレッドが通り過ぎる度、おばちゃんから露店の主人、近隣の子供達が声を掛けくる。


 一国の勇者となれば上級貴族に匹敵する身分の筈。

 にもかかわらず、奴はニコニコと微笑み「また今度ね~」と軽く挨拶を交わしていく。


 なんだこいつ……本当にあの糞アルフレッドか?


 アルフレッドと接触する前に予め下調べしてある。

 あの【英傑の聖剣】の団長をしていた時も、こいつは生粋の身勝手なクズ男だった。


 けど一年ほど前だろうか……ふと、いい奴になった。

 情報だとローグから下剋上を受け追放、それから元幹部達と共に【集結の絆】を立ち上げ今に至っている。


 つまりいい奴になった途端、アルフレッドはより躍進を果たしたというわけだ。


 信じられない……いや信じられるわけないだろ?

 ぼくを金貨と引き換えに暗殺組織に引き渡した外道だぞ?



 それからも歩き続け、近道のため裏路地へと入る。

 奴が好きそうな娼婦館の前でも完全にスルーだ。チラ見することもない。


 何故だ? 何か変だぞ。


「あのぅ、アルフ様」


「ん? どうしたセナ?」


「……アルフ様はお付き合いしている女性とかいらっしゃらないんですか?」


「アタシがそうよ」


「違う、ボクだね。だって正妻公認だもの、うひひひ」


 ピコとソーリアのあばずれ女がなんかうるさい。

 お前らに訊いてないっつーの!


「……(本命のシャノンだと言いたい。けど推しのカナデも捨てがたいと思う今日この頃)いや別に。俺にそんな余裕などない。今は勇者職を全うするのに精いっぱいだ。」


「そうですか、すみません。変なこと訊いて」


 やっぱり変だ、こいつ! 女癖の悪い、アルフレッドとは思えないぞ!

 まるで別人が憑依したみたいじゃないか!?

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