第2話 ざまぁされる仲間



 ――アルフレッド・ヴェステン。


 職種は剣士セイバーで年齢は17歳。

 今じゃルミリオ王国を代表する冒険者パーティ、【英傑の聖剣】を束ねる若き団長リーダーだ。


 【英傑の聖剣】は総勢30名規模の集団クランで、アルフレッドは次期勇者として期待されていた。

 確かに《神の加速ゴットアクセル》という強力な固有スキルを持ちカリスマ性や統率力もある男だ。


 しかしそれは全て付与術士エンチャンターであるローグのおかげだった。

 彼の固有スキル《能力貸与グラント》は、パーティ達の全能力値アビリティや装備を永続的に強化できる。

 またスキル経験値ポイント貸し与える・ ・ ・ ・ ・ことで、仲間の固有スキルを進化することができた。


 だがローグを追放し解約されることで、それら全ての恩恵が没収され全てのスキル経験値ポイントがローグのモノとなるエグさを秘めている。

 したがって一年後、ローグを追放したことでこれまで与えられていた能力値アビリティスキル経験値ポイントが消失する展開となってしまう。


 そしてアルフレッドと【英傑の聖剣】の仲間達は大幅なレベル低下と固有スキルが使えなくなり、次第に衰退の一途を辿ってしまうわけだ。

 一方のローグは俺達から没収したポイントで大幅なレベルアップを図り、最強の存在に至る展開となっていた。


 え? 何故、ローグは強化させる前に予めアルフレッド達に説明しなかったんだって?

 確かに仲間にした際に言ってくれれば、苛められず追放されず重宝されていた筈だよな。

 俺だってそう思う。

 けど、そこは原作者の鳥巻八号だ。今はガバ設定としか説明できない。



 食堂に行くと、既に仲間達が集まり席に座っていた。

 っと言ってもリーダーである俺と食卓を共にできる者は幹部クラスに限られている。


 一応、【英傑の聖剣】は集団クラン規模のパーティだ。

 組織の序列と周囲への体裁として必要なのだろう。

 元社畜としてその辺は理解できる。


「遅せぇぞ、アルフ。先に食っちまうところだったぜ」


 真っ先に声を掛けてきた、巨漢で全身に厳つい鎧を纏う男。


 副団長サブリーダーのガイゼン・サイマン。

 防御力に特化した職種の盾役タンクで年齢は自称24歳。

 普段から鬼のような兜の面頬をして素顔を晒したことがない。

 確か既婚者であり地元の村に妻と幼い娘がいるとか。


「アルフ、おはよう」


 控えめな口調で挨拶してくる小柄で幼い少女。


 パーム・フィリシン、10歳。

 魔法士ソーサラーであり、大きな鍔の尖がり帽子にマント姿と如何にも魔女っ娘だ。

 栗色髪のショートヘア、金色の大きな瞳を持つ美少女。

 設定では戦災孤児であり、8歳の頃にアルフレッドに拾われてから奴を兄のように慕っている。


「おはようございます、アルフレッドさん」


 慎ましく挨拶する聖女。


 シャノン・フレム、15歳。

 有能な若き神官プリーストとして周囲から注目を浴び、真っ白でゆったりとした法衣服に身を包んでいる。

 長い水色のストレートヘア、金色の瞳。雪のように白い肌を持つ美少女。おまけにスタイルも抜群だ。


 シャノンはローグの幼馴染であり、原作ではアルフレッドに寝取られてしまう運命にある。


 ――そう。


 つまりここにいる三人の幹部達がローグ追放後にアルフレッドと共に凄惨な末路を迎えてしまう、ざまぁ達ってことだ。

 ちなみに皆の容貌もコミック版のままだ。


「おはよう、みんな。待たせてすまない」


 俺が席に座ると、全員が不思議そうな表情で見つめてくる。


「どうしたんだ、アルフ? いつもなら『うっせー』とか流してくるのに」


 ガイゼンが不思議そうに訊いてくる。

 ちなみにフルェイスである面頬の口元部分だけを開けることで、器用に飯が食べられる仕組みらしい。


「……別に。いいじゃないか、早く食べよう」


「その前にアルフレッドさん、神への祈りを捧げたいのですが?」


 シャノンは冷たい口調で言ってきた。

 寝取られる前の彼女は幼馴染のローグを普段から蔑ろにして苛めている、アルフレッドに対し不満を抱いている。

 なので普段から無愛想な態度だ。

 だからこそ、アルフレッドのクズが余計に寝取り本能が芽生えたのかもしれない。


「勿論だ、シャノン。じゃみんなで祈りを捧げよう」


「本当にどうしたの、アルフ? 普段なら『この世に神なんているかっての! ギャハハハ!』って嘲笑っているのに?」


 うん、最低だなアルフレッド。

 俺はパールに微笑みかける。


神官プリーストにとって信仰心は魔力の源でもあるからな。いつまでもローグの付与魔法バフばかりに頼ってられないだろ?」


「それってどういう意味でしょうか? まさかローグを不要になったと……」


「違うって、シャノン! 変なこと言わないでくれ! まずは食事にしょう!」


 必死で否定する俺の様子に、シャノンは「ならいいのですが……」と手を組み神に祈りを捧げ始める。それに倣う形で俺達も祈りを捧げた。


 けどやべぇ。さっそく追放フラグが立っちまうところだった。

 急にキャラ変したことで、逆に不審な目で見られてしまったのか。


 ちょっと顔を合わせ、食事をしようとしただけでこれだ。

 アルフレッド。お前、普段からどんだけブッ飛ばしているんだよ……。


 食事を終えると、ガイゼンが話しかけてきた。


「三日後のクエスト、本当にローグを連れて行くのか?」


「ん? 三日後……ああ確か魔王の幹部が古代遺跡のダンジョンに潜んでいるっていう、アレな」


 アルフレッドの記憶を辿りながら思い出してみる。


 この異世界には以前から魔王が存在し、数百年前から人類に脅威を与えていた。

 名のある冒険者達が勇者となり魔王討伐に挑戦するも、現時点では悉く駆逐されている。


 我が【英傑の聖剣】も冒険者ギルドから特命を受けており、成功すれば多額の報酬金にパーティランクの最高位『白金プラチナクラス』として昇格するだけでなくルミリオ王国にも認められ、俺は勇者の称号を得られるとか。


 ぶっちゃけ興味ないな……てか、勇者になったってどうせ落ちぶれて剥奪されるし。

 けど断るわけにもいかない。

 さっきの反省もあるから、アルフレッドっぽく答えておくか。


「……ローグも雑用としては使えるだろう。あと付与魔法バフもないよりはマシだ」


「だな。使える奴はとにかく使う。お前さんらしいぜ」


「アルフ、正論」


「……まるでローグを物みたいに。さっき少し見直しましたが、やっぱりアルフレッドさんですね」


 ガイゼンとパールが頷く傍ら、シャノンだけは不満を漏らしている。

 う~ん、彼女の好感度を上げた方がいいのか迷ってしまう。

 寝取りフラグをへし折るには、このまま嫌われキャラを演じた方がいいだろうし。



 食事を終え、俺は別室の食堂を眺める。

 そこは幹部以外のメンバーが食事を嗜む場所。

 だから畏まった部屋でなく、まるで学生寮のような喧騒に包まれた雰囲気だ。


「――オラァ、ローグ! そこは俺達が食べる場所だ! 臭えんだからどけろや!」


「まったく無能な雑魚の癖に図々しい奴です!」


「貧乏っちい物乞いみたいで魅力の欠片もないねぇ。アルフ団長の爪の垢でも煎じて飲ませてやりたいよぉ、バーカ!」


 わお。

 ローグの奴、早速みんなから苛められてるじゃん。



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