悪役ざまぁ系のやりなおし~社畜おっさんは主人公の幼馴染を寝取り追放するクズ男に転生したけどいい人バレしたら最強ムーブが起こった

沙坐麻騎

第1話  悪役クズ転生



「嘘だろ、おい! どうなっているんだよぉ!?」


 朝起きて鏡を見たら俺は別人になっていた。


 明らかに日本人離れした顔立ち、けど思い通りに表情がころころと変わる。

 黄金色の長い髪、碧眼で整った顔立ちのイケメンだ。

 おまけに高身長で痩せマッチョのモデルのような体形。

 少なくても本来の自分では、あり得ないハイスペックな容姿だと思う。


 けど間違いなく俺自身だ。

 ひょっとして、これって異世界転生ってやつなのか?

 

 前世は日本で暮らす社畜サラリーマンで35歳の独身。

 ちなみに童貞なので本来なら魔法が使えて、いずれ妖精になっていた筈だ。

 ……いや冗談だ。


 にしても何故、異世界へ転生したのか覚えていない。

 そういや残業が続き途中で意識が朦朧して気を失った記憶がある。

 まさか過労死か? あのブラック企業め!

 俺の両親、訴えてくれねーかな。

 まぁ今はいいだろう。


 それよりも……。

 改めて鏡に映る自分の顔を見つめる。


「――やっぱりそうだ。こいつ、アルフレッド・ヴェステンだ!」


 アルフレッドとは、前世で俺が後輩の佐々木君から借りて読んだWEB小説から書籍化されたライトノベルに登場するキャラだ。


 タイトル名は、

 『恋人を寝取られた付与術士。追放されたことで実は最強だと気づく~奪った連中は全員凄惨ざまぁだけど知りません』

 という。


 作者は「鳥巻八号」だったな。


 んで内容は、このわかりやすいタイトル通りだ。

 恋人を寝取られ追放された主人公が最強無双する話で、アルフレッドはまんま「ざまぁ」される悪役となるわけである。


 確かパーティのリーダーで主人公を追放した後、付与魔法バフの効果が切れて勢いが失速して失敗と失態の連続で色々と落ちぶれてしまうんだっけ。

 そして最後は闇堕ちして主人公の前に立ちはだかるも、あっさりと力の差を見せつけられて敗北し、最後は大衆の前で処刑されてしまう運命なのだ。


「マジかよ……俺は異世界に転生したってのか? いや、それよりどうして『鳥巻』原作の世界なんだ? よりによって鳥巻だぞ!」


 死んで転生したことよりも、転生した原作世界に不満がある俺。


 無理もない。

 原作者、鳥巻八号は何も考えず適当なガバ設定を好む超ご都合主義者だからだ。

 ……いや俺が勝手にそう偏見を抱いているだけかもしれない。


 何故なら書籍化やコミック化、アニメ化の話まで浮上している人気作だ。

 普通、編集者やお偉いさんが何処かで気づき指摘する筈だろう。


 とにかく主人公のためにあるとしか思えない舞台装置、またご都合展開ガバガバばかりの設定と物語の進行――。



◇◆◇



 転生前の日本にて。

 当時の俺は会社に通勤するため電車に乗っていた。


 そこで同じ社畜の後輩、佐々木君と遭遇する。

 彼は25歳の若手であり、疲労困憊の俺に比べて何故かいつもハイテンションだった。


「先輩~、ちぃーす! 早朝からお疲れっすか?」


「……まぁね。佐々木君、キミはいつも元気だなぁ。羨ましいよ、若さだねぇ」


「まぁくよくよしてもしゃーないしょ? 嫌なことがあったら現実逃避しているっす!」


 ちなみに彼は茶髪で少しチャラい。けど根はいい男だ。


「現実逃避か……してみたいよ」


「んじゃ、これなんてどうっすか? お勧めっすよ」


 佐々木君は自分のスマホ画面を見せてくる。

 それが例の「鳥巻八号」原作の作品だ。


「WEB小説かい? 読んだことないね……面白いのかい?」


「ええ、ストーリー展開がすっきりしていて、通勤中でも頭を空っぽにしてサクサク読めて楽しめますよ~」


「頭を空っぽ? 考察したり物語を楽しむとかじゃなくて? 読んだら無の境地にでもなるというのかい?」


「似たようなもんっす。読んでも何も残らないっすからね。だからいいんっすよぉ。主人公の鬱展開とか面倒くさいしょ? これ最初だけで後は気分爽快のカタルシスっすよ」


「……なんだか、ヤバ系の薬を勧められている気分だね。大丈夫なのかい?」


「ええ。一応書籍やコミック化もされ、来年にはアニメ化も決定されているらしいっすから、面白さは保証つきっす! けどWEB版しか完結してないから、こっちから読み始めた方がいいっすよ!」



◇◆◇



 佐々木君に進められ、それから毎日読むことにした。


 ――が、


 異世界モノに疎い俺でさえツッコミどころ満載の作品だった。

 そんな作品の悪役となったのだから絶望でしかない。

 ちなみに、このアルフレッドはコミック版の容姿だ。


「やべぇよ……しかも赤ん坊とかじゃなく、もろ青年だ。そもそも俺はアルフレッドとしての記憶すら――あっ!」


 すると頭の中でアルフレッドとして生きてきた記憶がドッと湧き溢れていく。

 なるほど……この記憶を頼りにアルフレッドを演じろってわけか。


 けどろくな記憶ねーっ。


 何よ、こいつ。女遊びばっかじゃねーか!

 主人公の付与魔法にばっか頼って、ろくに剣術の稽古すらしてねぇ!

 そりゃ追放したら落ちぶれるに決まっているだろ?


 しかし、


「――どうやら、まだ主人公の幼馴染を寝取ってないようだ。今からなら、まだ引き返せるかもしれない」


 もし主人公に失礼なことぶっこいていたら土下座して謝ろう。

 鳥巻の原作だけあり、中世風の世界なのに何故か日本の文化が多用されているしな。

 なんとしてでも主人公の追放ムーブを回避し、アルフレッドの末路を変えなければならない。


 そう思い、俺は鏡から離れる。

 部屋に置かれているカレンダーをチェックした。


「――異世界歴150年1月10日?」


 ほらな、早速ガバ発見。

 異世界歴って何よ?

 転生者の俺や読者から見ての「異世界」ってだけで、あくまでここは現実の世界だろ?

 鳥巻さんよぉ、せめて惑星歴とか大陸歴じゃねーのかよ。

 そもそもこの作品のテーマ、追放ざまぁであって異世界転生モノじゃねーじゃん。


「……確か寝取りや追放イベントが発生する時期は、異世界歴151年だったな。ってことはまだ一年間の猶予があるってことだ」


 それだけあれば軌道修正が可能かもしれない。

 俺は着替えを済ませて部屋を出る。



「あっ……ア、アルフレッドさん、おはようございます」


 黒髪の少年がモップを手に挨拶をしてきた。

 幼さを残した純朴そうな顔立ち、気が弱そうでおどおどしている。


 彼の名は、ローグ・シリウス。

 この物語の主人公で、現在は16歳の付与術士エンチャンターだ。


「おはよう、ローグ君。いつも雑用してもらってすまないね……」


 俺の労う言葉に、ローグは「え? え?」と首を傾げ怯え始める。


 無理もない。

 原作ではアルフレッドは、ずっとローグを見くびり軽んじ苛めていたからだ。

 当然、「君」呼びなんてするわけがない。


 本来のアルフレッドは「ローグ、テメェ! んなところで、ぼさぼさしてんじゃねぇ!」と暴言を吐いているところだ。


「……あ、ありがとうございます」


「いや、キミのおかげで助かっているよ。それじゃね」


「は、はい……?」


 思い切り不審な目で見てくる、ローグ。

 だよな。普通はそうだ。

 何もないのに急に掌を返しているんだからな。


 けど、この積み重ねは大事だ。


 まずはローグと信頼関係を築かなければならない。

 彼の追放フラグをへし折ってやらなければならない。


 これからローグがどれだけ重要で貴重な存在かを周囲に知らしめる。

 それが俺ことアルフレッドの破滅フラグ回避となるからだ。



―――――――――――

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