第72話 崩壊寸前の主人公



 数日前に遡る。


 この僕、ローグ・シリウスは追い込まれていた。


 カナデ達が退団してからというもの、すっかり運気が下降気味だ。

 現にあれからも退団者が続出している。


 原因は団員達に割り当てたクエストの失敗だった。


 奴らは僕の《能力貸与グラント》で強化されているにもかかわらず、凶悪なモンスターや魔族を前にするとイモを引きすぐ逃げ出してしまう。

 能力値アビリティが高い癖に豆腐メンタルなもんだから、ちょっと苦戦するだけで心が折れて戦えなくなってしまうようだ。


 こいつらガチ無能。もう誰が見たってそう思うだろ?

 おまけに失敗した理由を「ローグ団長がラミサさんや他のセフレ女達とイチャコラばかりして、前線で指揮してくれないからだ」と擦りつける始末。


 いや、お前ら、そのための《能力貸与グラント》で強化バフだろうが!?

 テメェらの無能を棚に上げて、上司のせいにすんじゃねぇぞ、コラァ!


 そして最も癇に障った言葉がこれだ――。


「一年前のアルフ団長も決して褒められた人格ではなかった。けど悪態をつきながらも、常に前線に出て我々を引っ張ってくれた」


「確かに女癖も悪かったが、団員に手出ししたことは一度もない。見境のない、ローグ団長とは違う」


「特に今のアルフレッドの躍進は凄い。あの【集結の絆】は国とギルドからも一目置かれているパーティとなっている。それに比べて【英傑の聖剣】ときたら……」


「そもそもローグ団長は聖剣抜けなかったんでしょ? ならパーティ名に聖剣を入れるのは可笑しいんじゃね?」


 どいつもこいつも好き勝手言いやがって!

 ふざけるな! テメェらの無能を僕のせいにするな!


 流石の僕もブチギレ、団員達をボコボコにしてやる。

 またそれをパワハラだのモラハラだの逆ギレされてしまい、連中は「もう、アンタとはやってられませんわ!」とか抜かして次々と辞めていったというわけだ。


 おかげで20名はいた団員も、今では半数に減少されてしまう。

 そのことで冒険者ギルドから、白金プラチナクラスだった【英傑の聖剣】は白銀シルバークラスに降格扱いとなったと通達が入る。


 流石に頭に来たので、僕直々にギルドにクレームを言いに行った。



「おい、ルシア! どうしていきなり降格扱いになるんだよ、ああ!?」


「最近の【英傑の聖剣】は退団者が多く、今では10名いるかいないかではありません? ギルドでは集団クラン規模のパーティではないという適切な判断です」


 受付嬢のルシアは「フン!」と鼻を鳴らす。

 この女、以前から受付の癖に超生意気だ。


「お前、吹かしてんじゃねーぞ! 一時的なパーティ人数の減少には、ある程度の猶予が与えられる筈だ! どう見たってギルドの嫌がらせに決まっているんだろーが!」


「ローグさん、それは団員が死亡による減少の場合の話じゃないですか? 【英傑の聖剣】は違いますよね? 大半が内輪揉めによる脱退ではないですか……全て貴方への不満が発端だと聞いてますよ」


 うぐっ、こいつ……まるで僕のせいだと言いたいのか?


 僕が何をした?

 きちんと《能力貸与グラント》で強化バフしてやったのに、全部ろくに戦うこともできない糞団員共の責任だろうが!


 なんでもかんでも団長に責任を押し付けやがって!

 んなアホ共の尻拭いなんぞ、いちいちやってられるか!


「うるせーっ、ブス! 無駄にデケェおっぱい揺らしてんじゃねぇよ! バーカ!」


「な、なんですってぇ! 貴方なんかより、前団長のアルフレッドくんの方が遥かに紳士的でリーダシップも優れてますよーだ! 少なくても団員だけにクエストを押し付けるような無責任な人じゃありませーんだ!」


「はっ! んなアルフレッド如きに簡単に股開きやがってビッチが! お前、覚えていろよぉ、コラァァァ!!!」


 僕は激しく啖呵を切ってギルドを出て行った。


 ギルドマスターも出てきて何か言いたげだったけど、あのタコは僕にびびって何も言えやしない。


 そう、ルシア以外のギルド内で、僕に逆らえる奴なんて存在しない。

 大抵の冒険者達は知っているからだ。


 この僕、ローグがとんでもなく破格級に強化されていることを――。


 何も団員共の退団はマイナス部分だけじゃない。

 連中がパーティを抜ける度、僕の能力アビリティが上昇し使用できる固有スキルも増えていく。


 それが《能力貸与グラント》の能力である。


 今の万能なる僕と対等に戦える者がいるとすれば、魔王か神と呼ばれる存在だけだろう。

 けど無能の根性なしで役に立たないクズ達が抜けることで、いちいち僕の不手際扱いされることには腹が立つ。


 しかも決まって、アルフレッドと比較されてしまう……それが一番ムカつくんだ。

 


 僕は苛立ちながら屋敷に戻ると、さらに追い打ちを掛ける出来事が発生する。

 帰って来た早々、フォーガスとラリサが慌てた様子で走ってきた。


「ローグ団長! 大変だぁ、ダニエルの奴がどこにもいねぇんだよ!」


「副団長の奴がか? どうせ買い物にでも行ってんじゃね?」


「違うわ、あいつの部屋から置手紙があったのよ! これよ、これぇ!」


 ラリサからダニエルの部屋で発見したという手紙を見せられる。



 ――皆さんへ

 私は【英傑の聖剣】から脱退します

 どうか探さないでください

          ダニエル・ラド



「ガチか、あの鷲ゴボウ野郎! 副団長の地位を与えてやった恩を忘れ勝手に抜けやがってぇぇぇ!!!」


 そもそも僕の《能力貸与グラント》スキルに目を付け、アルフレッドから【英傑の聖剣】を乗っ取ろうと画策したのは、あの魔法士ソーサラーだぞ!

 にもかかわらず、ちょっと傾きかけただけであっさり見限りやがるとは超最低なんだけど!


「どうするんだ、団長ぉ!? これってかなり不味いんじゃないかぁぁぁ!?」


「ん? ああ、フォーガス……そりゃイラっとするけど別に大したことないさ。今からキミが副団長をやってくれ。無論、それ相応の報酬は約束するからね」


「あ、ああ……俺はいいけど」


「けど、ローグ団長……幹部で魔法士ソーサラーのダニエルがいないと不都合なことが多くなるんじゃなぁい?」


「大丈夫だよ、ラリサ。奴が抜けたってことは《能力貸与グラント》で貸与していた分が全て戻ってきている。つまりダニエルの固有スキルから能力値アビリティが僕のモノになったってことだ。今度は副団長となったたフォーガスにその分を貸与させればいいだけのこと。そうすれば蛮族戦士バーバリアンでも魔法士ソーサラー並みの知力を得て、ダニエルの固有スキル《賢者セージ》も使えるって寸法さ」


 ちなみに《賢者セージ》は、魔法であれば属性やジャンルにこだわらず習得して使用できる魔法万能型の強力スキルである。

 つまりフォーガスは全魔法が使える超絶強化の蛮族戦士スーパー・バーバリアンへと強化されるわけだ。


 僕は早速、《能力貸与グラント》でフォーガスのステータスを変更させ、ダニエルから没収した数値を上乗せさせる。


「おおっ! なんか凄ぇ賢くなった気がする! 見てくれ、手から魔力の火が……この俺が魔法を使っているぅ!」


 フォーガスは掌から魔力で構築された火を出現させ歓喜している。

 そりゃ魔法とは縁遠い蛮族戦士バーバリアンが自在に魔力を操作しているんだからな。

 やれやれ、できて当然だろ?


「へ、へーえ、流石はローグ団長、すっごーい! 惚れ直しちゃうん! (団長こいつお子ちゃまで性根が腐ったクズだけど、《能力貸与グラント》だけはガチで凄すぎなのよねん。見限るのは、もう少し様子見ね……)」


 ラリサにベタ褒めされ、僕は「やれやれ、面倒だけど何かぁ?」とイキリ有頂天となる。


 そう簡単に終わらねーっての!



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