閑話:悪役、露天風呂で奇跡を起こす

第70話の余談となるお話です。

一大事ばかり続いているので骨休めに読んで頂けると嬉しいです。

―――――――――――


 少しだけ時間は遡る。


 報告会を終えて不穏な空気を残したまま、俺達はオルセア王城に一泊することになった。

 激戦を終えた疲労回復と、明日の朝一でギルドに行き、報酬金の10億Gの貯金と冒険者カードを更新するためだ。


 これは束の間のひと時で起こった小話である。



◇◆◇



「――露天風呂だって?」


 寝室にて。

 俺は同室するラウルに向けて首を傾げて見せた。


「ええ。敷地内の別塔になりますが、この城の屋上には大きな露天風呂があるんですよ。お父さん……いえバイル陛下の趣味で、オルセア王都が一望できる素敵な場所です」


 へ~え、あの厳格そうな王様の趣味ね。

 まぁ王様だし、それくらいの贅沢があって当然か。


「なんでしたら入浴できるよう陛下に頼んでみましょうか? アルフレッドさんなら陛下も喜んで貸してくれますよ」


「え? マジ? そうか……たまには良いかもな。ガイゼン、一緒にどうだ?」


「オレは遠慮しておく。あとでこっそり入る分には別にいいけどな」


 相変わらず姿を晒さない、全身鎧男の盾役タンク男。

 どうせ恥ずかしいからだろ? いい加減慣れたわ。


「そっか、ラウルはどうだ?」


「いえ私はそのぅ……久しぶりにテスラと昔話に華を咲かせようかと」


 ラウルは気恥ずかしくそうに答える。

 なるほど、すっかり元の仲良し関係に戻ったようだ。

 俺も兄弟の間に水を差すわけにもいかない。


「……わかった。んじゃ俺一人で入らせてもらうよ。終わったらガイゼンに声を掛けるからな」


「すまん、アルフ……時が来たら一緒に背中を流そうぜ」


 ガイゼンは申し訳なさそうに言ってくる。

 時が来たらか……何十年後になるのやら。

 俺は「わかったよ」と軽く流し、入浴の準備をして部屋を出た。

 


 ラウルのおかげで思わぬ癒しタイムだ。


 ぶっちゃけ他国に来たってのに観光らしいことは何一つしてない。

 こういう贅沢もたまには良いだろう。


 それから執事の案内で別塔の露天風呂まで案内される。

 移動だけで20分以上も歩かされた。どんだけ広いんだよ。



 ようやく脱衣場に到着し、俺は衣類を脱いで露天風呂へと向かう。

 日本人の精神を持つ身としてマナーに則り、一通り洗身してから浴槽へと浸かった。


 一人で入るにしては広すぎる岩風呂だ。


 てか中世時代に似た世界観なのに、もろ和装だと思った。

 なんでもバイル国王は大の極東びいきな一面があるとか。これらも陛下の趣味だろう。


 とはいえだ。


「くぅ~、いいねぇ~」


 つい言葉を漏らしてしまう。


 大きな岩が積み重なり、その広さゆえに奥の方が湯煙で見えない。

 ラウルの話だと奥側に行けば煙が晴れて夜景が見られるとか。


 にしても、まさに癒しの境地だ。

 温泉だろうか? 立ち込める硫黄の香りが余計にテンションを上げてくれる。

 いったいどっから湧き出る温泉なんだ?

 原作にない展開だけに、あえて考えないようにした。

 

 転生したとはいえ、俺ってやっぱ心は日本人なんだな……そう実感する。



 15分ほど経過した頃。


「つい長湯してしまった……そろそろ上がろうか」


 そう思った時だ。


「――うわぁ広いですぅ!」


 ん? この声は……シズク?


「本当ですね。このような王城に場所があるなんて意外です」


「けど嬉しい。みんなでこうして温泉に入れるから」


「パールの言う通り、私も嬉しいぞ! 故郷である『倭の国』を彷彿させる造り……バイル陛下は実に良い趣味をお持ちだ!」


 シャノン、パール、カナデの声が続いていく。

 え? どういうこと?


「アタシは苦手よ……だって羽根が濡れるんだもん」


「マカ達も苦手かな……小人妖精族リトルフだけにね」


「そうそう、水浴びはしますが入浴という概念はないですね」


「だね。みんなと一緒だから来たようなもんだよ」


 おまけにピコやマカ、ロカ、ミカの三姉妹まで?


「まさか辺境の民であるボクまで招かれるとはね。あの糞第二王妃(ウェンディ)が居た頃じゃ絶対にあり得ないよ……うひひひ」


 その不気味な笑い声は、ソーリアか?

 

 なんだよ、これ?

 湯煙でよく見えないけど、まさか同じパーティの女子達が露天風呂に来ているのか?


 どうやらラウルは俺だけでなく、シャノン達にも声を掛けてたようだ。

 んで命じられた執事や侍女の間で入浴時間がごっちゃっとなって、まだ俺がいるにもかかわらず彼女達が来てしまったと思われる。

 

 あれ? だとしたら……この状況はマズくないか?

 いや真っ当なラノベ主人公ならいいよ、ラッキースケベ展開で済む話だもん。

 

 けど俺は、夢の中で鳥巻八号から「ガバのない仮主人公ポジ」だと言われている。

 したがって、この場にいるだけでも彼女達の信頼&好感度が低下してしまう恐れがある。


 つまり下手したら変態と思われ、人生詰むかもしれないということ……。

 ところでラッキースケベ展開で済む話って何よ?


 とにかくやべぇぞ……まずは見つからないようにしないと。

 俺は反射的に後方へと下がる。

 湯煙のおかげでなんとかカモフラージュできただろうか。


 それから女子達は続々と湯に浸かってくる。


「それにしてもみんな羨ましいね」


 不意にパールが言ってきた。


「羨ましいとはどういう意味ですか?」


「うん、シャノンもそうだけど……みんな凄くスタイルいいなって、特に胸とか。凄く魅力的」


「パールは成長期だ。これからだと思うぞ」


「そうです、パル様! お胸もあと三年ほどで凄いことになるでしょう!」


「アタシが保証してあげるわ」


 うほっ、なんか生々しい会話になってんぞ。

 にしてもパールの奴、まだ11歳なのにそんなこと気にしてたのか?

 けどシャノンといい、カナデといい、シズクといい……我が【集結の絆】は勝組が多い。

 新入りのソーリアも黙っていたら神秘的な美少女だし、パイ乙という名の物量もある方だろう。


 てか、ちゃっかりピコが上から目線でパールを励ましているのが気になる。

 まぁちんちくりんってだけでスタイルは良い方か……。


 それにマカ。ロカ、ミカの三姉妹もロリ風に見えて意外と胸がある方だ。

 ロリ巨乳まではいかないも、幼く見えるだけにギャップでつい視線がいってしまうのは童貞としての性と言える。


 あれ? 

 急に頭がボーっとするぞ……どうやら完全にのぼせてしまったようだ。


 バシャ!


「何やつだ!?」


 カナデが凛と張り詰めた声を上げる。


 やっべぇ! ふらっと立ち眩みして、うっかり音を立てちまった~!

 

「誰かいらっしゃるのでしょうか?」


「まさか覗き?」


「皆様、ここは私が見てきます! もし変態さんだったら撃退しますからね!」


 不審がるシャノンとパールに続き、シズクが「覚悟してください!」と近づこうとする。


 うおっ、こりゃ駄目だぁ!


 ここは殴られるのを覚悟で出てきた方がいいかもしれん。

 いざって時は某ラノベ主人公みたいに「不可抗力だ! こっちだって覗く気なんてねぇよぉぉぉ!!!」とか勢いで押し切るか……それはそれで火に油だけどな。

(※あまりにもテンパりすぎて《神の加速ゴッドアクセル》で回避できることは忘れている模様)


 だったら小細工無しだ!


「――すまん、俺だ! アルフレッドだ! そのぅ、執事さん達の手違いか、たまたま俺が先に入ってしまったというか……別に変な気持ちはないんだ。背を向けたまま立ち去るから、どうか誤解しないでくれ!」


 と駄目元で言ってみた。


 すると、


「「「「「「「「「 な~んだ、団長かぁ !」」」」」」」」」


 全女子達が一斉に声を上げ、何故か安堵の溜息を漏らし始める。


「え? どゆこと?」


 すると全員が俺の方へと近づいて来る。

 一瞬ドキっしたが、みんな長いタオルを巻いており大切な部分が隠されていた。

 それでも綺麗な曲線美や豊満な谷間など、超浮彫りとなった際どく露わな姿に変わりない。


「アルフさんなら問題ありません……だって紳士ですもの」


 シャノンは露出した白肌をほんのりピンクに染めて微笑を浮かべる。

 しっとりと濡れた髪といい、とても綺麗で艶めかしい。


「パルもだよ。アルフなら構わないからね」


「うむ、我れらが団長に限って下心があるなどあり得ませぬ!」


「寧ろご主人様なら、私の全てを見せても良いくらいです。もうどうか見ちゃってください!」


 パールとカナデはそう言ってくれる中、シズクさんは獣人族らしく興奮したのか暴走してタオルを自ら剥ごうとし、「何を考えているの!」と皆に必死で止められている。


「彼氏と混浴なんて中々のシチュエーションじゃない」


 ピコは何故かお椀のような容器に乗って浴槽に浮いていた。


「「「アルフ団長、一緒に入ろーよ!」」」


 三姉妹も声を揃え満面の笑顔で誘ってくれる。


「推しとの混浴……いいね。やっぱ【集結の絆】は最高だよ、うひひひ」


 ソーリアも笑顔は怖いけどなんか嬉しそうだ。


 これも日頃の行いの賜物だろうか。

 女子達は俺を疑うことなく寧ろ受け入れてくれている。

 良かった……いや素直に喜んでいいのか?

 これって彼女達から男として危機感を持たれてないってことじゃね?


 警戒心の強いシャノンとカナデ達なら嬉しいけど、少なくともシズクとピコは危機感を持ってもらいたいものだ。

 まぁいい、深く考えるのはよそう。



「……綺麗な景色ですね、アルフさん」


 それからシャノンを始めとする女子団員と混浴しながら、オルセア神聖国の夜景を満喫する。

 俺は照れながら湯に浸かるのだった。


 思わぬハプニングによるラッキー展開だけど……完全にのぼせてしまったのは言うまでもない。



―――――――――――

次回、みんなが愛するあの男が登場します。


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