第73話 主人公、勧誘される



 副団長ダニエルが失踪したことで、僕の【英傑の聖剣】は転換期を迎えることになる。


 言っとくがパーティ運営の事じゃない。

 事務作業はフォーガスを強化させたことで問題なくクリアしたし、寧ろ団員が減ったことで僕はよりパワーアップを果たすことができた。


 問題は国内の風評だ。


 でなくてもカナデ達脱退の件以降、多くの団員が抜けて悪評が広まってしまった【英傑の聖剣】。

 特に幹部であり副団長の失踪で、さらに追い打ちの拍車が掛かってしまった。


 冒険者ギルド自体は僕にびびっているので、分け隔てなくクエストを振るのだが、肝心の依頼者クライアント側が「悪名高き【英傑の聖剣】の参加は断固拒否する」と言いやがって受けることができない状態だ。


 高額報酬のクエストに限って王族や貴族が大半で、僕は何故かそいつらに嫌われている。

 特に王族からの拒否感は半端なく、何やら【英傑の聖剣】は王城から出禁となっているとか。


 糞がぁ……僕がいったい何をしたっていうんだ?

 少しタメ口で話した程度じゃんか……(未だ愛娘ティファ王女に無礼ぶっこいた件に気づいてない男)。


 おかげでクエスト選びに難航してしまっていたのだ。



「……クソッタレが。誰が爺さんの話し相手なんてすんだよ。僕はローグだ、ふざけんなバーロー」


 とある酒場にて、僕はエール酒を飲みながら愚痴を漏らしていた。


 最近のクエストといえば「逃げ出した飼い猫を探してくれ」とか「独り身の爺さんの話し相手」とかそんなんばっかだ。

 時に「辺境の村の護衛」とかあるけど、大抵の依頼人は貧乏の村長だったりするので労働の割には報酬額も低く話にならない。

 まだ犬や猫を探した方が報酬額も良かったりする。


 けどあれだ……嘗て白金プラチナクラスまで昇りつめたパーティが請け負う仕事じゃないのは明らかだ。


 僕にだってプライドはあるさ……いやマジで。


 そんなこんなんで精神的に滅入ってしまい、最近じゃセフレ達と遊ぶ気力と金が無いって心境だ。


 チクショウ……。


 ふと周りの冒険者達が僕を妙な目で見てきやがる。


「見ろよ、あれ【英傑の聖剣】の団長ローグじゃね?」


「本当だ……珍しく一人で飲んでいるぞ」


「なんでもお偉いさんに目を付けられ、ろくでもないクエストしか受けられないらしい」


「ガチで? あんなにイキっていたのに……酷い落ちぶれ様じゃないか」


「そうよね……退団者が続出して、今じゃ白銀シルバークラスに降格されたんでしょ? まだアルフレッドが団長していた方がマシだったんじゃない?」


「そのアルフレッドが率いる【集結の絆】は、今じゃオルセア神聖国で快進撃を続けているらしい」


「ああ知っている。向こうの第一級冒険者達や現役の勇者パーティでさえ一目置いているって噂だ。凄げぇな……」


「追放された連中が躍進しているってのに……んなところで、ちびちび飲んでいて恥ずかしくねーのか?」


 糞雑魚共がぁぁぁぁ! テメェら全部聞こえているからな!

 さっきから好き勝手言いやがってぇぇぇ!

 その理屈で言えば、同じ酒場で飲んでいるテメェらも恥ずかしいってことじゃねぇか、ああ!?


(にしてもどいつもこいつも、アルフレッドばかり持ち上げやがってムカつく!)


 元凶はあの王族共だ! 国が保有する聖剣を抜いたからって、やたら野郎ばかりひいきしやる!

 弱体化したアルフレッドより、僕の方が遥かに強く優秀だってのに!


 僕の方が最強だってのにぃぃぃ!!!


「――随分とお困りのようですね、英雄殿」


 不意に僕に声を掛ける声。


 その方向に視線を向けると、身形の良さそうな一人の男が立っていた。

 黒スーツにシルクハットを深々と被った中年の紳士だ。


「……誰だ、あんた?」


「私はオロンと名乗っておきましょうか」


「オロンね。んで何の用だよ?」


「名高き【英傑の聖剣】の団長である、ローグさんにクエストのご依頼がございまして」


「クエストぉ? んなのギルドに依頼すりゃいいじゃん。わざわざ直接言うってことは、あれだ……ヤバ系のクエストだと思われるぞ」


「……そう思われても良いと申したら如何でしょう?」


 口角を吊り上げて微笑むオロンという男。


 こいつ何者だ?

 犯罪者なら捕まえて手柄にすれば、僕の風評も変わるかもしれない。

 けどわざわざ、こうしてコンタクトを取って来たってことは割と魅力的な依頼かもしれないぞ。

 今の糞状況から脱して一発逆転を狙うためにも、こいつの話くらいは聞いておいて損はないだろう。


「ここじゃ糞連中が多すぎるな。僕の屋敷に来るか?」


 内容次第で、そこで袋叩きにしちまえばいいと考える。


「そうですね。では外に馬車を待たせているので、そこでお話しましょう」


 オロンの提案に、僕は罠かもしれないと少し考えるも「わかったよ」と受け入れた。

 無敵の僕をハメるバカなど、まずいないだろうと思ったからだ。


 酒場を出ると、オロンが用意した馬車に案内される。

 運転手つきで、馬車も随分と高級感が溢れる作りだ。


「……オロン、あんた貴族か?」


「まぁ詳しくは中で。お屋敷までお送りする傍らでご説明いたします」


 オロンに促され馬車に乗り込み、ゆっくりと進み出発した。

 しばし沈黙が流れた後、対面して座るオロンが口を開く。


「では早速、私の正体を明かしましょう。私は、オディロン・フォン・セディ―ル。ご察しの通り貴族であり公爵です。そして王家を支える宰相を務めております」


「なっ、宰相ッ!? 貴族の中でも最高トップじゃなか……そんな偉い人がどうして僕に?」


 宰相とは王家を支え政治を担う最高の行政首長であり官職のトップだ。

 ルミリオ王国では確か3名がその任についている筈。

 このオディロンっていう公爵はその一人ってわけか……にしては随分と丁寧な口調で腰が低い。


「ローグさん、貴方の能力を見込んで是非に私達の組織に入って頂きたいのです」


「宰相さんの組織? 僕を配下として引き抜きたいというのか? まぁ悪い話じゃないけどさ……」


 宰相の直属となれば当然、貴族の地位が約束される。

 冒険者として迷走ぎみの僕にとっては美味しい話だ。

 けど、そうなったら国に首輪をつけられるというか……真面目に働いたら負けという謎の矜持と強迫観念に駆られるのは何故だろう?


 だがオディロンは首を横に振るう。


「違います……我ら組織の目的は革命です」


「革命? 何それ?」


「我がルミリオ王国を独占する無能な国王フレートと王子ハンスを打倒し、我ら有能なる貴族が新たな政権を握り変革する――それが我ら『反国王派組織レジスタンス』の本懐なのです!」


「な、なんだってぇぇぇ!!!?」


 ガチか!? 国の頂点である大貴族の裏の顔が反国王派組織レジスタンスの首謀者だというのか!?


 驚愕する僕を前に、オディロンはシルクハット脱ぎ素顔を見せる。

 白髪交じりオールバック、渋い声に相応しい彫りが深い顔立ちの中年男。

 一見すると温厚そうで、とても反逆を目論む大胆不敵な人物とは思えない。


「ローグさん、貴方には我が組織の救世主メシアになって頂きたい! 貴方のスキル《能力貸与グラント》があれば、必ず我らの革命が叶い成就できることでしょう!」


 オディロンは僕の手を握り締め懇願してくる。

 このオッさん、やたら目力が半端ない。


 やれやれ……。


 どうやら僕はとんでもない人物に目を付けられたようだ。



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