第74話 主人公ドロップアウト
以前より獣人族の集落とエルフ族が管理する森を買収しようと目論み、応じなければ侵攻で手に入れようと提案するも、フレート王が一向に首を縦に振らないことに嫌気がさしているとか。
「仮にフレートの髭面を暗殺したとして、次期国王はドラ息子ハンスとなり結局は同じこと……領土拡大案は反対されるに決まっている。魔王軍でさえ侵略地を増やすため、常に己が領土を広げているのに……これだから絶対王政は厄介なのだ」
そう物騒なことを堂々と語りながら目尻が吊り上がるオディロン。
低姿勢の口調からドスを利かせた低いトーンへと変貌している。
こっちの方が宰相オッさんの本性みたいだ。
要するに野心のない保守的な王族共の姿勢に、一部の貴族達が不満を募らせたらしい。
ついには革命と称した
てか侵略して領土広げようって、随分と過激な思想を持つ宰相さんだ。
けど意図は読めてきたぞ。
「……なるほど。要は僕をおたくらに引き入れて、《
「その通りです。頭の悪い王族共との対話など不可能。だからこそ長きに渡る不満が募り結成された組織なのです。絶対王政を打破し変革をもたらすのは、最早武力侵攻しかないでしょう。だからこそローグさん、貴方のお力が必要なのです! 我らと共にルミリオ王国の発展のため同士なって頂きたい!」
「う~ん……けどなぁ。明らかな反逆じゃね? 僕に反逆者になれってことじゃん? んなリスク追うくらいなら、ここでアンタを捕らえて、それこそフレート王に突き出した方が良くね? 周囲の評価も上がるしょ?」
「……いえ、ローグさん。既に貴方の心は我ら側へと傾いている筈」
オディロンがフッと悟ったような笑みを浮かべる。
「どうしてそんなことが言えるんだよ?」
「内心こう思っているでしょ――【集結の絆】の団長アルフレッドばかり持ち上げている王族達が疎ましいと。何故、自分を評価してくれないのだと」
まるで僕の心を見透かした言葉。
これまでの受けた数々の仕打ちが蘇ってくる――。
特に聖剣の件では、僕は王族達に煮え湯を飲まされている……あのアルフレッドと比較され人格まで否定された。
あれ以来、ギルドにまで影響を及ぼし【英傑の聖剣】は高額クエストを受けられず、次々と団員達は辞めて今じゃ衰退の一途を辿りつつある。
オディロンの言う通り、義理立てする価値など皆無の糞連中だ――。
「うぐ……確かに。僕は
「ならば志しは一緒の筈! 私が主権を手にした暁にはローグさん、貴方を大将軍の地位をお約束いたしましょう!」
大将軍か……ルミリオ王国の全軍を僕が意のままに操れるということ。
つまり貴族の中でも公爵の地位までのし上がれるということだ。
――悪くない。
このまましがない冒険者で終わるより、余程夢がある大出世コース。
勇者だって魔王を斃したとしても、せいぜい領土を与えられて終わりだろ?
僕はそれ以上の存在に上り詰めることなる。
まさに勝てば官軍負ければ賊軍ってか?
「ギャンブル的でいいんじゃないか――男なら行くしかないしょ!」
僕はそう決め、オディロンの手を握り返した。
本来オッさんなんと馴れ合う趣味はないけど、そこまで僕の気持ちが昂り高揚しているということだ。
「おおっ! やはり私の目に狂いはなかった! 貴方が同士になってくれるのなら、すぐにでも実行に移せることでしょう! もう百万騎の軍勢、いやそれ以上の力を味方につけたのと一緒です! 是非に革命を成し遂げ、ルミリオ王国を最強の強国にいたしましょう!」
やたらとテンションを上げて歓喜する、オディロン。
暑苦しいオッさんだが、これが普通のリアクションだと思う。
僕という価値を正しく評価してくれているからこその反応。
それに公爵の宰相というハイスペックの地位にもかかわらず、いくらタメ口で話しても嫌な顔一つしない器の大きさ。
なのに王族連中ときたら、すぐ騎士共が僕を囲み威嚇する始末……やっぱあいつら無能だわ。
ギルドも同罪だからな。
僕の実力を正しく見定めず簡単に降格しやがった。
今まで散々軽んじてコケにしやがったバカ共よ、見てろよ……。
これは僕にとって起死回生であり、ルミリオ王国に対するリベンジだ――。
◇◆◇
現在。
この俺アルフレッドと【集結の絆】は、急遽ハンス王子に呼び戻されている。
どうやらルミリオ王国で何か事件があったようだ。
急いで移動するも、何せ片道で十日もかかってしまう距離。
帰還するまで、まだ三日ほど要してしまう。
野営する中、パールに指示し伝達魔法でルミリオ王国に何があったのか、冒険者ギルドの受付嬢ルシアとやり取りさせていた。
本当なら張本人であるハンス王子と思ったが、何やら他の対応に追われているようで応答できないようだ。
俺は待機しながら、もう少し滞在したかったオルセア神聖国のことを思い返している。
そういやあの後、伝達魔法で勇者テスラからある男について報告を聞かされていた。
――ゼルネスについてだ。
奴は現在、俺の提案した通り、ウェンディと一緒に辺境地の修道院に身柄を移送されている。
基本は男女別住であるが、ゼルネスは修道士としてではなくウェンディの執事兼お目付け役として傍に仕えることになったとか。
その背景として、バイル王の考えがあったらしい。
バイル王もゼルネスの高い能力を惜しみ、奴を牢屋に投獄した後、「今後テスラに仕えるなら其方だけは不問にしても良い」と司法取引がなされたようだ。
しかしゼルネスからは――。
「私は生涯、ウェンディ様に仕えていく。滅ぶのも一緒です」
と断ったとか。
そこで、ゼルネスに「お目付け役」という役職を与えることで、四六時中ウェンディの傍で仕えるよう恩遇が与えられた。
こうして国が要請した時は、ゼルネスが力を貸すよう恩を売る形となったわけだ。
確かにウェンディに仕えたいと願う奴にとっては本望だろうな。
しかし、あの我儘おばさんのどこが良いのやら……。
(まぁ、それでもゼルネスにとっては幸せなのだろう)
俺は報告を聞きながらそう理解した。
「――アルフ。ルミリオ王国の各地で反乱が起こっているみたいだよ」
伝達魔法を終えたパールがそう知らせてくる。
「反乱だと!? 民衆が不満を募らせ暴動を起こしているってのか!?」
「違うよ。複数の貴族が『
「マジかよ……フレート王、余程嫌われているんだなぁ。ああ見てもネチっこいところあるからな……けどハンス王子は評判が良く人格者だろ?」
「詳しい事情はわからないよ。けど反乱の収束は難しく、ギルドも対応に追われているみたい……多くの第一級冒険者や
「ローグはどうしている? あいつなら超よゆーじゃないのか?」
俺の問いに、パールは「それは……」と口籠る。
「どうした、パール? 何か言いづらいのか?」
「そういうわけじゃないけど……」
「なら言ってくれ」
「うん、どうやらローグみたいなの」
「ん? どういう意味だ?」
「ローグが矢面に立って反乱軍を扇動して、反逆に与しているんだって……」
「はぁ!?」
あのローグが反逆だと?
う、嘘だろ……。
―――――――――――
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