第75話 反逆の主人公(ローグ)



 突如、ルミリオ王国で巻き起こった貴族達の反乱。


 その反乱軍を扇動する指導者が、主人公のローグだと言う。

 ど、どゆこと?


「……そもそもなんで冒険者のローグが貴族の反乱に参加してんだよ? 奴は第一級冒険者ってだけで、貴族じゃないし連中と接点なんてないだろ?」


「パルもわからないよ。けど、ローグを影で支援する後ろ盾がいるみたいだね……誰かは不明だけど、反乱を起こした貴族達を纏めるほど力のある人物じゃないかって」


 パールの情報はあくまで受付嬢のルシアからだ。

 本当に不明なのか、あるいは表沙汰になると都合が悪いのかはわからない。


 きっとそいつがローグの固有スキル《能力貸与グラント》に目を付け、自分らが揃えた反乱軍に強化バフを施しまくっているに違いない。

 《能力貸与グラント》はマカ、ロカ、ミカの《三位一体トリニティ》スキルと同様、仲間となった全員に適応する特性がある。


 つまり仲間なら誰でも超人になれるってことだ。


 しかもローグが解除しない限り永続的に続くから厄介極まりない。

 まさに武力行使を実行するのに打ってつけのスキルだろう。


「おそらく黒幕はそこに目を付け、ローグの野郎をそそのかしたんだ。反乱の意志を持つ貴族を団結させ、尚且つ武力行使するため国内で大軍を揃えられる人物……かなりの有力者であるのは確かのようだ」


「……マジかぁ。ローグの奴、ついにやっちまったな」


 俺の隣で聞いていた、ガイゼンが声を震わせ呟いている。

 こいつもなんだかんだ、ローグと付き合いが長い。相応の思い入れがある様子だ。


「アルフさん、早急に戻りましょう! あのローグバカを引っ叩いても目を覚まさせる必要があります!」


 ローグの幼馴染みであり嘗て兄として慕っていた、シャノンはブチギレていた。

 心優しき聖女の彼女ならてっきり悲しみ落ち込むと思っていたけど、憤慨するあまりそれどころではないようだ。


「そうだな。そういやラウル、行きは魔獣の背に乗って飛んでいたよな? 同じ方法で俺達を乗せることはできるか?」


「グリフォン君ですね。私が指示すれば問題ありませんが、乗れてもせいぜい一人か二人くらいでしょうか……流石にこの人数は無理です」


「他に空を飛べるモンスターは?」


「数匹テイムしていますが、人族を乗せることが可能なのはグリフォン君ともう一体の子くらいですね」


 どちらにせよパーティ全員は無理のようだ。

 ならメンバーをチョイスするべきだけど、対ローグ戦を想定するとみんな一緒の方が心強い。

 特に付与術士エンチャンターのマカ達と呪術師シャーマンのソーリアといったバフとデバフ能力は必須だ。


「やっぱ馬車の移動が無難そうだ。ハンス王子なら俺達が帰還するまで持ち堪えてくれる筈だ」


 こちらがリスクを冒してまで急ぐ必要はないと判断した。

 その代わり、パールには伝達魔法で常にルシアと情報共有しながら、状況によって先行するメンバーを決めておく必要があるだろう。


 ちなみにローグが団長している【英傑の聖剣】も反乱軍として参加しているとか。

 あれからも退団者が続出し、現在わずか9名の団員しかいなくなった。

 おかげでパーティランクも白銀シルバークラスまで降格されたらしい。


 さらに副団長のダニエルは失踪したようで、かなり追い詰められているようだ。

 そういや原作でも、アルフレッドが落ちぶれた途端勝手にいなくなったな、あの鷲鼻ゴボウ。

 元々そういうキャラだと言えばそれまでだが、ローグをそそのかし俺を追放させた張本人だけに何か引っかかる……。



◇◆◇



 二日後、俺達はルミリオ王国の領土内に入っていた。


 予定より一日早いのは、副騎士団長のブルクが数名の部下を引き連れて密かに迎えに来たからだ。

 なんでも騎士団長でもあるハンス王子の隠密の指示であり、ブルク達は冒険者風の姿に変装している。


「アルフレッド殿! 現在、王都は封鎖されている状態です! 入国自体は問題ないのですが、王都には近づくことすら困難な状況であります!」


 なんでも反乱軍が総出で王都内に侵攻し、王城を取り囲んでいるようだ。


 その数一千兵と大規模であり、さらに全員がローグの《能力貸与グラント》で永続的に強化貸与バフが施された最強兵士となっている。

 虚を衝く反乱に加え強力な襲撃に、正規軍や冒険者達は成す術なく撤退を余儀なくされたとか。


 そしてフレート王、ハンス王子、ティファ王女は城に残ったまま今も籠城を強いられていた。


「ハンス団長の判断で我ら数名の騎士のみが、辛うじて地下の脱出口から抜け出すことができました……おそらく通路は既に塞がれているかと。このままでは反乱軍に城が占拠されてしまいます!」


「そうかブルク殿、事態はそこまで悪化しているのですか……しかし、陛下達もよく持ち堪えていますね」


「ええ、奴らは城を囲んだまま膠着しているようです。おそらく何かしらの要求をするためでしょう」


「あるいは城に首謀者が潜んでいるかもしれない……だから迂闊に攻められないのか」


「首謀者ですか?」


 何気に呟いた言葉で、ブルクは首を傾げて訊いてくる。

 どうやら騎士団も把握していない人物のようだ。


「あくまで憶測ですよ。では急ぎましょう――」


 こうして俺達は用意された馬に乗り替え、他はラウルの魔獣達の背に乗って、ルミリオ王国へと急いだ。



 いざ祖国の領土内に入った俺達。


 普段は関所砦の門が閉められ衛兵に守られているが、内乱の騒ぎで容易に入国することができた。


 間もなくして辺境の村に辿り着くも、やたら多くの民衆で溢れている。

 どうやら大半の民が王都から避難してきた人達のようだ。


「反乱軍の目的は王政の排除です……つまり王家から政権を奪い、貴族が主権を握る体制へと変革させる革命だと謳っていました。したがって国を支える民達には害はなく、安全だけは確保できている状態です。反面、抵抗する者には容赦ないようですが……」


 ブルクの説明によると、ハンス王子の采配で冒険者達に依頼し、兵士達と共に各領土内の村へと一時誘導させたとか。


「流石はハンス殿下だ。まず国民の安全を優先にする点では次期国王として非常に優秀な証と言えます」


 俺はそう称賛する。


 いきなり土手っ腹に風穴を開けられたにもかかわず、第一に民の安全に配慮できるとは大した器量だ。

 しかし外敵対策の防壁で普段から厳重に固めようと、いきなり内部から奇襲を仕掛けられたらどうにもならない。


 ましてや多勢であり強化された兵士達となれば尚更だ。

 ある意味、魔王軍よりもエグい連中だと思う。



 その後は避難する民に紛れる形で村を出て、王都が一望できる山頂まで移動した。

 俺はパールに指示し魔法で王都の状況が見られるよう望遠魔法を施してもらう。


 ブルクの報告通り王都中には武装した大勢の兵士達が屯している。

 一般の民達は全員避難しているからか、そいつらの姿しか見当たらない。

 そして王城の正門には、より多くの兵士達で集結し陣を張っていた。


 幸い襲い掛かる様子がなく、抗議デモ隊のように駐留し圧を掛けているように見えた。

 さらにその中心に、随分と巨大な櫓のような建造物が高々と設置され一際目立っていた。


「なんだ、あれ? 攻城戦に用いられる攻城塔か……パール、あの櫓を拡大してくれ」


「わかった」


 パールは聖武器の魔杖を操作し、櫓の全体映像を拡大化してくれる。


 少し手を加えているが間違いなく「攻城塔」だ。

 移動式の櫓で、城壁に板を渡して兵士を城内に乗り込ませる制圧用の塔である。

 その真っ平らな塔の屋上に男の姿があった。


「――ローグか!?」


 間違いない、奴だ。

 俺はギリッと奥歯を強く噛み締めた。



―――――――――――

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