第76話 主人公の騒乱



 ローグの野郎、まさかガチで反乱軍を率いってやがるのか。


 主人公の癖に魔王みたいな真似しやがって……。

 そういや以前、見た夢の中で原作者の鳥巻八号は俺にこう言っていた。


 ――今のローグにご都合展開ガバはない、と。


 ただし原作通り主人公としてのスペックは備わっているとか。


 原作ではご都合展開ガバでスルーされていたことが、色々な人達からまともに指摘されるようになり、結果として多くの団員達の脱退へと繋がりパーティランクも降格されたと聞く。

 無双系主人公の大半は社会不適合者が多いだけに、同じ性質のローグはリアルを叩きつけられ落ちぶれ気味となったらしい。


 んでヤケを起こし、貴族達の甘言に乗っかってしまったわけだ。

 悲しいが、これもご都合展開ガバを失った主人公が辿る末路なのかもしれない……。


「塔の屋上には、ローグの他にフォーガスとラミサの姿がある……如何にも奴らが大将格という感じだな」


「ダニエルの姿はねーな。あの鷲鼻、ガチで退団しやがったのか? にしても何やってんだ、あいつら……」


「みんな、どうしてあんな真似を?」


「……呆れすぎて何も言えません。以前は気が弱く、こんなことをするような人ではなかったのに……」


 俺の発した言葉に嘗て同じパーティでローグと付き合いが長い、ガイゼン、パール、シャノンが感想を漏らしている。


 特に幼馴染であったシャノンは怒りを滲ませながらも、どこか悲しげに見えた。

 同じ孤児院で兄妹のように育ってきた間柄でもあるので当然だ。


「……きっと黒幕の貴族にそそのかされ、つい魔が差しちまったんだ。だからこそ俺達で奴らの目を覚ましてやる必要がある」


「アルフレッド殿、あれほどの大軍を相手にどう挑まれるおつもりです? この人数だけでは流石に……」


 副騎士団長ブルクが慄然と訊いてくる。


「全員を相手にする必要はないですよ――戦うべき相手はローグのみです。奴のスキル《能力貸与グラント》を解除させれば、反乱軍は通常の兵士に戻ります。確か急造で集めた連中でしたよね? であれば訓練された正規軍なら楽勝でしょう」


「確かに大半は金で雇われた、ならず者達です。地の利も我らにあると思います」


「ええ。なのでブルク殿と騎士団は早急に散らばった兵士達と冒険者を集結させてください。ローグは我ら【集結の絆】で相手いたします」


「わかりました、アルフレッド殿……しかし、あのローグという男。一見して知能が低そうですが、中々強かな面もありますぞ」


「でしょうね……(人格が問題なだけだからな)。こちらも勝算があっての戦いです」


「けどアルフ、今のお前さんは単独でも《神の加速ゴットアクセル》が使えるが、ローグも同じだ。しかも野郎は俺達の能力値アビリティと固有スキルポイントだかを没収して、自分のスキルにコピーしちまったバケモノと化している。しかもフォーガスとラリサに守られている中、どう戦う?」


「ガイゼン、【集結の絆ウチ】にも第一級冒険者で優秀な付与術士エンチャンター呪術師シャーマンがいるじゃないか? さらに幸運を呼ぶ妖精フェアリーもな。制限時間付きだが互角以上に持ち込める筈だ」


「「「わかりました、団長!」」」


「うひひひ……ボクに任せてよ。いい感じでデバフかますから」


「勿論よ、アルフ。今カノとしてアナタを守ってあげるわ」


 マカ、ロカ、ミカが声をハモらせながら返答し、ソーリアが木に隠れながら不敵に微笑んでいる。

 そして毎度のことながら、ピコは彼女ヅラだ。

 うん、みんな個性的だぜ。


「――俺がローグと一対一サシで戦う。ガイゼンとカナデ、そしてシズクの三人は、フォーガスとラリサ達の相手を頼む」


「わかったぜ、アルフ」


「御意。どうか、あ奴の暴挙を止めてくだされ」


「はい、ご主人様! あのローグという図々しい不届き者をブッ飛ばしてください!」


 名指しされた三人は「任せておけ!」と気合を入れる。


 だけどシズクは原作だとローグと結ばれたチョロインだけに、今の敵対する構図に少し複雑な感情を抱いてしまう。

 原作ファンの信者達なら「シズクちゃんを返せぇーっ!」と激怒して炎上させている事態だ。


「パール、ラウルは後方支援及び反乱軍を引き付けてほしい」


「わかった、アルフ」


「了解です、団長」


「最後にシャノンは回復役ヒーラーとしてパール達と行動してくれ。可能な限り死者は出したくない……敵味方関係なく治癒に当たってほしい。スラ吉はシャノン達を守れよ」


「はい、アルフさん。聖職者としての責務を全うします」


 シャノンが返答する傍らで、スラ吉が頷くように飛び跳ねている。


 かくして作戦は決まった。

 あとは実行あるのみだ。


 ――ローグ、待ってろよ!


 必ずお前の愚行を止めてやるからな!



◇◆◇



『――やーい、王様! いやフレートのボケ、コラァ! 降参するなら命まで取らねぇってばよぉ! その代わりテメェら王族は庶民以下の奴隷家畜だからなぁ! オラァ、どうした!? シカトしてねぇで返事しろ!』


 この僕ローグは攻城塔の屋上から魔道具の拡声器メガホンを使用して、王城に向けて叫んでいる。

 ずっと籠城している、フレート王達に向けて。


 本当なら、こんなしょぼい城なんて速攻で落とすことが可能なんだけどね。


 けどこれも作戦だ。

 王族共に超プレッシャーをかけまくり無血開城させるための――。


 反乱だが目的はあくまで革命だ。

 クーデターと違い政権を奪うのではなく、王政から貴族政に変革させること。


 したがって無用な武力行使はしないという意思の表れ。

 その方が民ウケも狙えるだろ?

 まぁ邪魔する連中は容赦なく排除していいって指示もあるけどね。


 それに城には、宰相のオディロンがいる。

 あのオッさんが頃合いを見て、疲弊したフレート王達を説得する算段だ。


 まさに外堀と内堀からのサンドイッチ作戦。

 もうじき奴らの心も折れるだろう。

 ぶっちゃけ持久戦だし、まどろっこしくて僕好みの作戦じゃないけどね。


 こうして取り囲むこと一週間程となる。


 オディロンの情報だと王城の兵糧は裏工作もあって、たった三日分の蓄えしかないと聞く。

 おまけに城の中では、護衛する騎士団と兵士達が約1400人も待機しているとか。

 どんなに節約しても、とっくの前に限界を迎えている筈だ。


 一方で僕が指揮する反乱軍の兵士達は《能力貸与グラント》で能力値アビリティMAXまで高めた超強化兵。

 たとえ不眠不休の持久戦だろうと耐え抜くことが可能だ。


「チッ、返答ねーや。暇だなぁ……ねぇラリサ、ここでイチャコラでもするぅ?」


「いやーよ、ローグ団長。みんな見ているじゃん(猿か、こいつ……)」


「んなことより、団長。首謀者のオディロン宰相さんも、王族と一緒に籠城してんだよな? その人は大丈夫なのか?」


「問題ないよ、フォーガス。彼も《能力貸与グラント》対象だからね。まぁ特殊メイクで目の下にクマ作り、それっぽく見せるって言ってたけどね」


 僕の説明を聞き、二人の幹部達は「流石、団長だ! やっぱ凄い!」と称賛する。


 当初は僕が反乱を起こすと説明した時、フォーガスとラリサも半信半疑だったけどね。

 内容だけに無理もないだろう。

 んで実際にオディロンと会わせ、オッさんから説明してもらうことで信じて協力する流れとなったわけだ。


 ――けど【英傑の聖剣】全員じゃない。

 他はびびって逃げ出そうとした。


 チクられないよう《能力貸与グラント》を解除し、今はオディロンに頼み牢屋で軟禁している。

 裏切り者にはなんちゃらってやつさ。


 だから【英傑の聖剣】は僕ら三人となってしまった。


 別にいいさ……元々アルフレッドの糞と立ち上げたパーティだ。

 奴の負の遺産を僕が蔑ろにして消滅させた。

 そう思えば気分がいい。


 せっかく、僕が奴の影となってパーティを最強にしてやろうと思っていたのに……。


 アルフレッドの糞め――


 その時だ。


「ローグさん、敵襲です! 少数ですが何者かが物凄い勢いで攻めてきましたぁぁぁ!!!」


 突如、兵士達がざわめき始めた。



―――――――――――

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