第77話 対峙する悪役と主人公



 ブルク達と別れ、王都に潜入した俺達【集結の絆】。


 ピコの斥候により、誰にも見つからず王城前で陣を張る攻城塔が見える位置まで近づくことができた。

 俺達が建物の壁に身を隠していると、ローグらしき声が拡声器メガホンを使って何やら喚き散らしていた。


『フレートの髭ぇ、コラァ! もう食料や水も無い状態だろ? 兵士共も腹減ってんだろ? いい加減降参しろよ、コラァ! テメェが意地張っていたって何も変わんねーぞ、コラァ!』


 ブルクの情報だと膠着状態が続いてから一週間が経過していると聞く。

 城内の蓄えは当に底を尽き、かなりヤバイ状態らしい。

 特に高齢のフレート王は健康に支障をきたす恐れがある。


『あーっ、あーっ。ローグとか言ったな、小僧! さっきからコラコラ、うっせーんだよ! 誰がお前ら反逆者に従う国王がいるんだぁ!? やっぱ頭悪りぃーな! そんな知能デバフに侵された奴に、このルミリオ王国を委ねられるわけねーだろ!』


 フレート王の声だ。

 反撃と言わんばかりに拡声器メガホンで罵声を浴びせている。


 杞憂か。思いの外、陛下はお元気のようだ。

 ちなみにこの国王はブチギレたら、こういうフランクな喋り方になる。


 原作では確かフレート王は、王族の中でも末端の方で庶民と変わらない暮らしをしていたからだとか……それが王位を継ぐ者がいないだかで、フレート王が選ばれ継承したという話を何かで見たことがある。

 本編に影響のないどうでもいい内容だったから、あまり思い出せないけどな。

 念のため。


『やれやれ、ようやく口を開いた一声がそれか!? 人を低能呼ばわりしやがってムカつくわーっ! なんなら一カ月ほど放置してやっか? そうなったら、兵士共も防衛できる状態じゃねーし、老いぼれたテメェなんぞ干からびて白骨化しちまうじゃねーの、ギャハハハ!』


『舐めんな、小僧! どこぞの貴族にそそのかされたかは知らんが、イキってんじゃねーよ! んな精神未発達のお子ちゃまだから、聖剣も抜けなかったんだろーが! 黒髪短髪の地味な貴様なんぞより、アルフレッドの方が百万倍も大人でイケメンだぞい、あはーんだ!』


『何があはーんだ、コラァ! 僕を奴と比べるなーっ! 僕は大将軍になるんだぁ! アルフレッドなんぞよりも高みに行くんだよぉぉぉぉ!!!』


 一見して超不毛なやり取りだ。

 だが所々で、フレート王側の意図を感じるぞ。


「――そういうことか。おそらくはハンス王子の計略か?」


「アルフ、どういう意味?」


 俺の肩に乗るピコが耳打ちしてくる。


「ハンス王子も不思議に思っていたんだろ……どうしてローグは攻めて来ないのか。きっと城内に奴をそそのかした黒幕が潜んでいるからだ」


「だから迂闊に攻められない……だったら最初からお城にいなきゃ良かったのにね」


「この反乱はそもそも貴族達が王政に不満を感じ起こしたものだ。奴らの目的は王政を排除し、貴族政に改革する言わば革命だ。したがって、ルミリオ王国の崩壊じゃない。引き継ぐ上で現物は残した方がいいだろう。城だけじゃなく騎士や兵士も含めてな」


「だから王様に降参するように煽る役がいる……そういうこと?」


「そうだ。国王にそれができるのは懐刀の重鎮しかいない。階級は公爵の位でポストも国王の右腕となる地位……宰相辺りか? んでトドメが今のローグの言葉だ――奴を大将軍にできると約束できる人物は、もう限られるだろう。ハンス王子なら既に対象者を絞った筈だ」


「すごーい! 流石、アルフ! そこまで考えられるなんて、やっぱアタシの彼氏ね!」


「……(ピコの彼氏じゃねぇっつーの)俺の考えじゃないだろ? だがフレート王が直々に仕掛けてきたってことは、逆に言うと王城内も相当ひっ迫していると思われる。一か八か苦肉の策だ」


 ローグが主人公特有の知能デバフに侵されてなけりゃ、逆手に取られる可能性だってある。

 これまで沈黙していたのなら尚更だ。

 けど奴がボロを出したおかげで、城内に潜む腹黒い鼠を炙り出すことができた。


 あとは外の連中をなんとかすればいい。

 つまり俺達がローグの野郎を止めることだ。


「――時間がない、仕掛けるぞ。各自、作戦通りに動いてくれ」


 俺の指示に【集結の絆】全員が行動に移していく。


 パールとラウルは建物の屋上に上り、駐留する反乱軍に向けて攻撃を仕掛ける。


「――《超四重奏雷撃網魔法カルテットサンダー》!」


 パール魔杖は掲げると上空から巨大な魔法陣が出現し、四層に重なる形で連なった。

 強烈な落雷が地上へと落下し、反乱軍の兵士達を襲った。


「ギャァァァ、何だぁ!?」


「き、奇襲だぁぁぁ!」


「クソォ、身体が痺れて動けねぇ!」


 一帯が騒然となるも死者は出ていない。


 そうなるよう、パールが力をセーブしたからだ。

 魔杖型の聖武器のおかげで、魔力の節約ができるようになり微調整が可能となったようだ。

 おかげでパールのスキル《無限魔力インフィニティ》を使用せずとも一撃なら上級魔法を撃つことができるようになった。


「《封印手札シールカード》――みんなお願いしますよ!」


 ラウルは聖武器『召喚銃』を打ち、複数のカードを射出させる。

 眩い光輝と共にカードから魔獣が出現した。


 鷲獅子グリフォンと魔狼フェンリル、混合獣キマイラなど。


 キマイラは獅子の頭と胴体、山羊の頭と四肢、蛇頭の尻尾を持つ異形の魔獣だ。

 獅子の顔が火を吹き、山羊の顔が雷を放ち、蛇顔から毒を吐くことができる。


 にしてもラウルの奴、随分と強力な魔獣ばっかティムしているよな……流石は第一級の冒険者か。

 ちなみに「召喚銃」の中に《封印手札シールカード》を収納することで、魔獣達は通常より育成され強化バフされた状態で出現できるという優れ物だ。


 その魔獣達は痺れて動けなくなっている兵士達の命を奪わない程度で蹴散らし、道を作っていく。


「よし! 出るぞ、みんな――!」


 俺の指示で各自が駆け出し、完成された通路を疾走する。

 難なく巨大な攻城塔に近づいた。


「マカ、ロカ、ミカ! バフを頼む!」


「「「わかりました、団長――《三位一体トリニティ》!」」」


 三つ子の小人妖精族リトルフによるスキルが発動され、俺達全員に強化バフが施された。


 強化された俺達は飛び移るように登り、屋上を目指していく。

 全身鎧を纏うため移動力が低いガイゼンも軽々と登っていた。


 そして、ついに屋上へと到達する。


 久しぶりに見たローグの姿があった。

 傍には蛮族戦士バーバリアンのフォーガスと盗賊シーフラリサ、さらに反乱軍の兵士が10人ほど見られる。


 全員がローグを守る形で固まっており警戒を上げていた。

 団員から奪ったローグ自身のスキルと危機察知能力に長けたラリサもいるからか、奇襲を仕掛けてもそう易々と懐に飛び込めない。

 

 だが虚を衝かれたことで酷く動揺はしている様子だ。


「――なっ! アルフレッド!? なんで、テメェがここにいるんだよ!?」


「うるせぇ、ローグ! お前のせいで、まともに休暇も取れず戻ってきたんだよ!」


「チッ、武者修行とか抜かして不在だと思っていたのによぉ! この騒ぎもお前らの仕業か!? 何故、パールが最上級魔法を使っている!? あいつも貴様同様に弱体化した筈だぞ!」


「オルセア神聖国で【集結の絆】全員が聖武器を手に入れている。それに加え、優秀な付与術士エンチャンターの三姉妹が俺達を強化バフしてくれているんだ!」


 そのマカ、ロカ、ミカは攻城塔に登らず、ラウルの魔獣達に乗って撤退させている。

 二度目の《三位一体トリニティ》は不要と見越したからだ。


 特にローグとの決着は5分以内でつけてやる――。


「ぐっ、アルフレッド……ガイゼンやカナデまでも……ローグ団長、どうするんだよ!?」


「あの銀狼獣人族シルバーウルフの奴隷も厄介よ。あと見たことのない女もいるわ……あの装い、呪術師シャーマンねん」


 フォーガスは尻込み、ラリサが懸念の声を上げる。


「ハッ、びびってんじゃねーよ! 所詮は弱体化した雑魚共の集まりじゃないか! やれやれ面倒だぁ! アルフレッドぉ、お前は僕が直々にブチのめしてやんよぉぉぉぉ!!!」


 ローグだけは臆せず醜く形相を歪めて鞘から剣を引き抜いた。



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