第78話 悪役VS主人公の激闘



「《絶対領域アブソリュート》――呪法 《身体機能低下フィジカルダウン》」


 ソーリアは攻城塔の屋上全体にデバフ魔法を放つ。

 その効力で、ローグ、フォーガス、ラリサ、他10名の兵士達の身体能力が大幅に低下された。


「な、何しやがるんだ、この女ぁぁぁ!?」


 他は自覚なく呆然とする中、ローグだけが声を張り上げ激昂する。

 そういや主人公補正のある奴だけが自分や周囲のステータスが見えていたな。

 だから逸早く気づけたのだろう。


「ボクからの嫌がらせだよ、うひひひ」


 ソーリアはガイゼンの背後に隠れ不敵に微笑む。

 デバフの魔女と二つ名を持つだけあり陰湿具合がエグい。


「クソがぁ、だがまだ僕達の方が上だ! それに数だって勝っている! お前ら殺れぇぇぇぇ!!!」


 ローグは抜いた剣を掲げ仲間達に鬨の声を放つ。

 資格を失ったとはいえ、とても原作主人公が吐いて良い台詞じゃないけどな。


「アルフ、雑魚はオレ達に任せろ! お前さんはローグと戦ってくれ!」


 ガイゼンが大楯を構え、俺の前に出る。

 すると聖武器である漆黒の大楯が形状を変え、計九枚に分離し浮上した。


「おお、ガイゼン……お前、なんだそれは!?」


 それは俺でさえ知らない性能だった。

 ガイゼンは「おおうよ!」と力を込めて首肯する。


「色々試していたらできるようになったオレの必殺技――《全領域移動盾オールレンジ・シールド》だ!」


 ガイゼンが構える大楯以外の八枚が一斉に飛び交い、ローグ達に向けて進攻した。


「何あれ、嘘だろ!? おおぉぉぉ!!!」


 意外すぎる襲撃に戦慄するローグ。

 悲鳴を上げながらも躱し、素早い動きでその場から離れた。


 フォーガス、ラリサもなんとか回避し、兵士達も後に続こうとする。

 だが八枚の大楯は兵士達を猛スピードで追跡し、逃げ切れず次々と追突された。


「うわぁ、落ちるぅぅぅ――!」


 結果、兵士達は屋上から落とされて行く。

 最初から狙いは兵士達のみであったようだ。


 攻城塔の高さなので普通は即死だが、ローグの《能力貸与グラント》で強化された状態だし死ぬことはないだろう。

 それでもソーリアのデバフ効果で能力値アビリティが低下しているので大怪我は確実だな。


「クソォ、鉄屑ダルマが! よくも僕の兵士達を!」


「ガイゼンの癖にめちゃくちゃパワーアップしているぅ!?」


「ちょっとぉ、やばくなーい!?」


 ローグが怒声を発し、フォーガスとラミサが戦慄している。

 何せ仲間である俺ですら驚愕する光景だ。

 まさかここまで盾役タンク道を極めていたとは、ラダの塔で武者修行した成果だろう。


 束の間、シズクとカナデが疾走する。


 シズクはラリサに向けて聖武器の二刀の短剣ダガーを振るい、カナデは刀剣を抜きフォーガスに一閃し攻撃を仕掛けた。


「ちょい、今度は何よぉ!?」


「カナデ、テメェ!」


 ラリサは軽快な身のこなしで回避し、フォーガスは大剣で瞬時に防御する。


「痴女さんの相手は私がいたします!」


「貴様らにアルフ団長の邪魔はさせぬ!」


 シズクとカナデの猛攻により、次第にラリサとフォーガスはローグから離れて行く。


「アルフ、今だ行けぇ!」


「了解だ、ガイゼン! ピコ、来い!」


「わかったわ!」


 背中を押される形で、俺とピコは単独となったローグへと突進する。


「おっしゃ――展開しろ、《全領域移動盾オールレンジ・シールド》! 誰にもオレ達の団長の邪魔はさせねぇぜ!」


 ガイゼンの大楯は拡大され巨大な壁となる。

 同時に残り八枚の大楯が俺とローグを囲む形で並べられ、同じように巨大化し覆っていく。


 そうして俺とローグを取り囲む、九角形のバリゲートが完成した。


 簡易的な闘技場コロッセオってところか。

 これで誰にも妨害されることなく、奴と対決ができる。


「……凄ぇな。実はガイゼンあいつが一番、聖武器を使いこなしているんじゃね?」


「アルフレッド……これはテメェの指示か? 正気かコラァ!?」


 ローグは唾を吐き捨て悪態をつく。


「ああ勿論だ。俺が直々にお前の腐った性根を叩きのめしてやる」


「はぁ? テメェ如きが僕に勝てると思ってんの? 僕は【英傑の聖剣】を抜けた全ての連中の能力値アビリティからスキルを没収し強化しまくってんだぁ! 装備している武器だって一緒さぁ! テメェが如何に聖武器を手にし、レベルを上げてバフで強化されようと、僕との力の差は歴然なんだよ! たとえデバフで低下させられようと、まだ僕の方が断然優位には変わりない、違うかコラァ!?」


 ムカつくがローグの言う通りだ。


 現状でも、まだこいつの方が圧倒的に有利だろう。

 下手な魔王より凶悪に違いない。


「だが、まだ俺には小さき幸運の女神がいる。ピコ、頼む」


「アルフ、わかったわ――《幸運フォーチュン》スキル! ラッキータイムよ!」


「なっ、バカな! アルフレッドの幸運度がMAXだとぉぉぉ!?」


 相手のステータスが見えるローグは驚愕する。

 別に驚くことはない。原作ではお前が手にしていた力だ。


「……とはいえ、ローグ。所詮、俺は悪役だ。お前のように一人で無双できるバケモノじゃない。主人公補正もなければご都合主義ガバも発生しない……」


「何言ってんだ、テメェ!?」


「だからこそ堅実に生きようと思ったんだ。そうすることで、いずれ訪れる『ざまぁ展開』から逃れたいと必死だった……」


「だから何を言っている、アルフレッド!?」


「今の俺は一人じゃない! 頼れる最高の仲間達がいる! 【集結の絆】のみんなが俺をここまで導いてくれたんだ! だから俺は負けない! ローグ、ここでお前との決着をつけてやる!」


「ワケのわかんないこと、ごちゃごちゃ並べてんじゃねぇ――やれやれ面倒だ! アルフレッドぉ、ここがテメェの墓場だぁぁぁぁ!!!」


 俺とローグは対峙し睨み合う。

 互いに仕掛けるタイミングを見計らっている。


 残り約2分……《三位一体トリニティ》スキルのバフ効果が切れてしまう。


 だが、それだけあれば十分だ。



「「――《神の加速ゴッドアクセル》!!!」」



 刹那


 俺とローグ以外の時間が超スロー状態となった。


「へ~え、いつの間にか固有スキルが復活してたのか? バフ効果もあってか、スキルポイントも全盛期並み、いやそれを上回ってやがる……」


「単独でもスキルを使えるようになったんだよ。誰かさんのインチキに頼らずともな……だがある意味、お前のおかげでここまで高めることができたのも事実だ。そういう意味では感謝している」


「ハッ、余裕かましてんじゃねーぞ、バカアルフ! テメェの十八番オハコスキルも、こうして封じられたことに気づかないのかぁ?」


「それはこっちの台詞だぞ、ローグ」


「なんだと!?」


「気づかないのか? 《神の加速ゴッドアクセル》の発動中は他のスキルは使えないと――考えてみろ、音速領域の中で同時に使用できるスキルなんて存在する筈がない」


 だから俺は戦う前にピコから《幸運フォーチュン》をかけてもらったんだ。

 予め与えられたスキル効果は音速領域でも持続されるからな。


「ぐっ、アルフレッド……テメェ!」


「言ったろ? 俺は単身でここまで来ただけじゃない。信頼できる仲間達と共に歩んでいる! それが【集結の絆】の本懐だ――覚悟しろ!」


「やれやれ、ゲス野郎が! 生意気に説教じみたこと言ってじゃねぇぇぇ! 身の程知らずがぁぁぁ、僕が最強だってこと骨身に刻んでやんよぉぉぉぉ!!!」


 俺は聖剣グランダーを掲げ突撃する。

 ローグが振るう強化された刃と壮絶な撃ち合いが始まった――。



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