第79話 音速領域の戦い



 それはまさに暴風の如く。


 刃と刃が交差し激しく撃ち合い火花を散らしている。


「やれやれぇ! どうした、アルフレッドぉぉぉ! 防戦一方じゃねぇか!? とっととブッた斬れろぉぉぉぉ!!!」


 やはり剣撃力パワーとスピードはローグの方が上だ。

 こっちはマカ達から《三位一体トリニティ》で三倍バフしてもらっているのに……。


 流石スペックだけは無双系の原作主人公様。


 ここまで策を講じたのに、それでも追いつかないとは……ムカつきを超えて笑いすら込み上げてくる。


 しかし俺は剣士職セイバーだ。

 剣技に関してはローグより一日の長がある。

 辛うじて不足分を技量でカバーすることができた。


 さらにだ。


「クソがぁ! なんでまともに攻撃がヒットしない! 奴の幸運度がそうさせているってのか!?」


 余裕ぶっていたローグから焦りと苛立ちが見え始める。


 それはピコの《幸運フォーチュン》スキルのおかげだ。

 幸運で守られた俺は易々と攻撃は当たらない。

 ローグが繰り出す攻撃の軌道が歪曲され、せいぜいヒットしても鎧に刃が掠る程度だった。


 だが一方で――。


(このまま撃ち合っても埒が明かない……《神の加速ゴッドアクセル》が解かれる前になんとかチャンスを見出さなければ危険だ)


 実は俺も攻めあぐねている。

 奥の手である《蠱惑の瞳アルーリングアイ》で魅了を試みる手もあるが、きっと魔眼の力より能力値アビリティがカンストであるローグの抵抗力レジストの方が強く不可能に違いない。


 どちらにせよ、使用するつもりはないけどな。


 何故ならこの戦いで、ローグに思い知らせる必要があるからだ。

 今では主人公の資格を失った奴がイキり散らかしたところでどうにもならない。


 ――その自己顕示欲と承認欲求スキルジャンキーご都合主義的ガバ思考を正すべきだと。


 だからこそ向き合い戦って、きちんと決着をつけてやる。

 嘗て共に【英傑の聖剣】を立ち上げた友として――。



 ローグの猛撃は尚も続く。

 いつの間にか腰に携えていた予備の片手剣も抜き、二刀流で巧みに襲ってきた。


 とても付与術士エンチャンターとは思えない高度な技量だ。

 おそらく【英傑の聖剣】の団員から没収した技能だろうか。


 それでも俺は幸運を活かして躱し、聖剣で丁寧に剣撃を捌いていく。

 ローグはより踏み込み、振るう刃が加速した。


「死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ね死ねぇぇぇぇ――――っと見せかけてぇ!」


 狂ったかのような乱撃に交え、不意を突く形で前蹴りが飛んでくる。

 俺は刃に集中するあまり反応が遅れてしまう。



 ガッ



「ぐっ」


 みぞおちに直撃してしまうも、幸い鎧で保護された部分なのでダメージには至らない。

 だが蹴り飛ばされたことでローグとの距離が空いてしまった。


「今だ、くらえ――《氷極結界地獄コキュートス》!」


 ローグは最上級魔法を放つ。

 俺の両足に凍てつく冷気が纏わりつき、床板から根を生やすように一瞬で分厚い氷塊と化し下半身全体を覆い尽くした。


「クソ、野郎!」


「やったぞ、アルフレッド! フォーガスからダニエルのスキルと能力値アビリティを返してもらって正解だったわ! 確かに音速領域でスキルが使えなくても魔法や技能系スキルはこうして使えるんだぜぇ! これでテメェの動きは封じたぁ! このまま嬲り殺してやるぅ! やれやれ、まさかこんな簡単に引っ掛かっちまうとはなぁ! この程度も回避できないのか、やれやれ!」


 やれやれが妙にウザすぎる、ローグ。

 完全にイキりモード開放中のようだ。


 しかし魔法士ソーサラーでもない癖に、超高度な無詠唱での最上級魔法を繰り出すとは……ソーリアからデバフを受けようと衰え知らずだと思えてしまう。

 俺達を含め、多くの団員達の能力値アビリティを没収し自分の力にしたのは伊達じゃない。


 まさしく原作通りの主人公スペック。

 これが《能力貸与グラント》の恐ろしさだ。


 本来の悪役アルフレッドなら……いや少し前の俺だって、こんな無双系のバケモノ相手じゃ敵うどころか相手にすらならないだろう。


 だがなぁ――


「オルセア神聖国のラダの塔で、俺は仲間達と共に一皮剥くことができた。ローグよ、今の俺はお前に追放されたアルフレッドじゃない。今から見せる力は《能力貸与グラント》に頼らず、自分の実力で獲得した真の能力だ!」


 直後、俺が身に纏う鎧の装甲が変形し、部分的だった外殻が全身に広がり覆われていく。

 背中から兜が出現し頭に装着されると、さらにフルフェイスの面頬となり装着された。


「なっ、アルフレッドの姿が変わっただとぉ!?」


「これがもう一つの聖武器、『聖鎧セイガイ』だ」


「聖武器だと!? 鎧タイプの……テメェ、聖剣だけじゃなく鎧まで手に入れていたのかぁ、チクショウォォォ!」


 吃驚するローグ、奥歯を噛み締め身を震わせるほど激昂して見せる。

 余程、聖剣が抜けなかったことがコンプレックスとなっているのか。


 しかも俺は聖武器を二つ所持している。その分、屈辱感も倍増されたかもな。

 そういえば原作のアルフレッドもこんな感じだった……けど今はどうでもいい。


 次第に下半身を覆う氷塊が解凍され、自力で砕き割り脱出する。


「なっ!? 最上級魔法があっさりと……嘘だろ!?」


「『聖鎧セイガイ』はオリハルコン製の鎧だ。持ち主の意志で自在に形状を変え、耐熱や耐寒も操作できる。こうして外殻に高熱を纏わせて解凍することも可能だ」


「ぐっ! このぅ、バケモノがぁぁぁ!」


 ローグが吐いた言葉に、俺は面頬越しでフッと微笑む。


「……まさか、お前にそう呼ばれる日が来るとはな。奇妙な気分だ……いや、こうして刃を交えている時点で、お互い数奇な運命に弄ばれているかもしれん」


「またワケのわかんねぇことを! 時間稼ぎのつもりなら、寧ろテメェの方が不利じゃねぇのか!? 《神の加速ゴッドアクセル》の音速時間さえ終われば、僕は他の没収したスキルが使えるようになる! そうなればアルフレッド、テメェに勝ち目がなくなるんだぜぇ! どんな聖武器を纏おうが、いくらでもブッ殺す手段はあるんだよぉぉぉ!!!」


「いちいち吠えるな、ローグ。んなのわかっている……次で確実に終わらせる」


「な、何ぃ?」


 躊躇するローグを前に、俺は聖剣グランダーを掲げて低い姿勢で構える。

 オリハルコンの剣身がキラリと煌めかす。


「この『聖鎧セイガイ』が全身装甲機能フルアーマー・モードと化した時、著しく装着者の身体能力アビリティを大幅に向上する効果を持つ。加えて今の俺は《三位一体トリニティ》スキルで三倍増の強化状態だ。しかも音速領域で放つ一撃は、音速の壁を優に超えるだろう」


 それは超音速さえ上回る、極超音速領域ハイパーソニックだ。


 さらに聖鎧セイガイが可変し、より丸みを帯びたフォルムとなる。

 装甲も白銀色シルバーから黄金色ゴールドに変化され、各可動部分から緑閃光が溢れ出す。


「く、クソォォォ! 来るな、来るなぁぁぁ!! アルフレッドォォォォ――!!!」


 ローグは危機を察したのか、形相を醜く歪めて絶叫する。


 既に形勢が逆転されたのだ。

 最早、逃げることも絶対に不可能。


「終わりだ、ローグゥゥゥ――《極超音速烈波動斬ハイパーソニックブーム》!!!」


 刹那


 俺は黄金の光となり、その場から消えた。


 そして、



 ブグオォォォオオォォォォ――――斬ッ!!!



「ギャァァァァァ――……」


 轟音と共にローグの悲鳴が木霊し、奴の身体は宙を舞い床板に叩きつけられる。


 すぐ傍には、極超音速領域ハイパーソニックモードが解除された俺の姿があった。



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