第80話 仲間達の戦い



「タイムアップだ――《神の加速ゴッドアクセル》は解除された」


 俺達の時の流れが通常に戻る。


 同時に全身を覆っていた聖鎧セイガイの外殻から収納され、元の軽装状態となった。

 そして眩かった装甲も白銀色シルバーに変わった。


 直後。


「痛ゥッ……ぐぅっ! か、身体中の筋肉がヤバいことになっている……」


 突如、全身に激痛が襲う。俺はその場で蹲った。

 特に両足が酷い。おそらく筋肉が断裂したのかもしれない。


 聖鎧セイガイ全身装甲機能フルアーマー・モードで肉体を強化しただけでなく、マカ達の《三位一体トリニティ》で三倍強バフさせ、《幸運ラック》で運を味方にした上で成し得た極超音速領域ハイパーソニックモード。


 その反動が一気に身体を襲ったようだ。

 やはり俺にご都合展開ガバはない。

 こうしてリスクを冒さなければ、どんなに足掻こうと主人公ローグに追い越せなかった。


 一方、そのローグは倒れたまま微動だにしない。

 手に持つ二刀の剣はどちらも砕かれ、身に纏う鎧や衣類も斬り刻まれボロボロだ。

 よく見ると片腕と片足が明後日の方向を向いている。


 ぱっと見は息もしておらず、キルされたかのように見えるが……。


「アルフ! 大丈夫ぅ!?」


 隅っこで身を隠していた、ピコが俺に近づいてくる。


「あ、ああ……自業自得の満身創痍だが勝ったよ。ピコとみんなのおかげだ……」


「そう、良かったぁ。それでクソローグはどうなったの? 死んじゃった?」


 クソローグって……お前も原作じゃヒロインの一人だぞ。

 しかも決まってシズクと取り合いしてたってのに……まぁ奪った俺が言う資格はないけどな。


「い、いや生きている筈だ。何せ直接斬ったわけじゃないからな……音速を超えた衝撃波ソニックブームによる真空の波状攻撃だ。ローグのタフネスさなら命は繋いでいる筈……辛うじてだと思うが」


 今は奴の生死を確認している場合じゃない。

 俺は聖剣を床に突き刺し、痛みを堪えなんとか立ち上がる。


「ガ、ガイゼン、終わったぞ! 《全領域移動盾オールレンジ・シールド》を解除してくれぇぇぇ!」


 ありったけの声で叫ぶと俺達を囲んでいた巨大化した盾の壁が縮小されていく。


 元の大楯サイズとなり、そのうちの八枚が浮遊して一枚の大楯の中に収納された。

 その先にガイゼンが立っている。


「アルフ! おおっ、ついに決着をつけたのか!? てか、その身体どうした!? ローグにやられたのか!?」


「戦闘で負ったダメージじゃない……後遺症のようなものだ。それより、シズクとカナデはどうした?」


「ついさっき戦ったところだ。特にピンチってわけじゃねぇ。だが《三位一体トリニティ》の強化バフ効果が切れるまで、残り1分ほどだ……そうなったらわからねぇ。ローグを倒したならよぉ、奴らの強化バフも無くなるんじゃねぇのか?」


「いや、どんなに気を失わせ重症を負わせても、ローグが没収しない限り《能力貸与グラント》は永続される……フォーガス、ラリサだけじゃなく反乱軍の兵士もな」


 まだ《能力貸与グラント》が続いているということは、ローグは辛うじてだが生きているということ。

 もしシズクとカナデが苦戦するようなら、ローグの息の根を止める選択も視野に入れなければならない。


「ガイゼン、見ての通り俺は戦える状態じゃない……ラダの塔で回復薬ポーションを使い切ってしまい補充する暇もなかった。だからお前が彼女達の支援に回ってくれ」


 何せ休む間もなくオルセア神聖国から呼び戻されたからな。

 肝心のルミリオ王国もこんな状態だし道具屋に寄ることもできなかった。


「わかったぜ。ピコ、お前さんはシャノンを呼んでくれ。彼女じゃなきゃ、アルフの回復はできねぇ」


「仕方ないわね。基本、アタシはアルフの言うことしか聞かないけど、彼氏の負傷を治すためだから従ってあげるわ」


「サンキュ、ピコ……(彼氏じゃねーけど)。ついでにスラ吉も呼んでくれ」


 ガイゼンとピコが行動に移し離れて行く。

 だが気づけば呪術師シャーマンのソーリアがぽつんと立っている。


 そういや彼女の存在を忘れていた。

 どうやらガイゼンの背後に隠れていたようだ。

 神秘的で綺麗な顔立ちなのに、相変わらず病んだ瞳を俺に向けて「うひひひ」と不気味に笑っている。


「……推しの団長くんと二人っきり。激ヤバ」


 なんだろう、やたらと身の危険を感じてきたぞ。


「それよりソーリア、キミのデバフ魔法でもう少し敵を弱体化させることはできるか?」


「あれ以上の《身体機能低下フィジカルダウン》は無理だね。けど他のデバフは可能だよ」


「例えば?」


「今すぐ効果を与えられるやつなら……体臭をキツくしたり、視界を狭くさせたり、足場を滑りやすくしたり……ちょっとした嫌がらせ程度かな」


 体臭をキツくしてもな。戦闘中じゃ大したダメージを与えられそうにない。


「勿論、闇魔法での支援攻撃や防御も可能だよ。けどそうすると、ボクのスキル《絶対領域アブソリュート》の効果を失っちゃう縛りがあるんだよね。どうするの、団長?」


「せっかく敵全体を弱体化させたのに、それは不味いな……わかった。嫌がらせ程度で加勢してくれ」


「了解。あと頼みがあるんだけど」


「なんだい?」


「団長くんの髪の毛一本でいいからボクにくれない?」


「え? なんで?」


「……乙女の事情だよ、うひひひ」


 ぶっちゃけ嫌な予感しかない。

 絶対に呪術とかに使われそうだ。


「ごめん、それは無理。食事くらいは奢ってやるから……」


「推しとの密会デート。悪くないね、うひひひ」


 なんでいちいち密会すんだよ? 堂々と飯食いに行こ―ぜ。

 ソーリアは「約束だよ、アルフ団長」と呟き仲間達の加勢に向かう。


「……やべぇのと約束しちまったな。いざって時は従兄のラルフに相談しよう」


 身体の激痛を忘れるくらい、めちゃ疲れる子なんだけど。


 俺が見守る中、仲間達の戦いが始まる。


 ガイゼンは盾役タンクとして再び《全領域移動盾オールレンジ・シールド》を発動し、浮遊する八枚の大楯がシズクとカナデの周囲に展開され自動的に防御した。


 ソーリアがデバフ魔法を放ち、フォーガスとラリサの視界を抑制させ、尚且つ足元を滑りやすくする。


 そうすることで攻撃力と防御力と移動力の低下へと誘う。


「クソッ、ガイゼンが邪魔すんじゃねぇ!」


「ちょ、ちょっと! 急に動きづらくなったんだけどぉ! あと体臭なんかキツいわよん!」


 フォーガスとラリサが戦いながら悲鳴を上げる。

 地味にソーリアの奴、体臭をキツくするデバフまで施したようだ。

 少なくてもラリサへの嫌がらせは成立している。


「二人共、もうじき《三位一体トリニティ》が消えちまうぞ! その前にそいつらと決着をつけろぉ! 防御はオレに任せてくれぇ!」


「ありがとうございます、ガイゼンさん!」


「ガイゼン殿、かたじけない! 伍ノ刃――《淡月》!」


 先に仕掛けたのはカナデだった。

 刀身から眩い閃光を放ち、対峙するフォーガスの視界を奪う。


「うげぇ、眩しい!?」


「参ノ刃――《雨月》!」


 カナデは踏み込み、最速の連続突きを浴びせた。


「うぎゃぁぁぁぁぁ!!!」


 フォーガスの大剣と装備はあっさりと削られ、肉体に無数の穴が刻まれていく。

 流石は聖武器の聖刀剣だけあり威力が抜群だ。

 ちなみに『無幻刀』と名付けたらしい。


「急所を外し辛うじてだが生かしてある! そう指示したアルフ団長に感謝しろ!」


 膝から崩れ落ちるフォーガスに向けて、カナデは凛とした口調で言い切った。



―――――――――――

《補足の解説》

 以前から本編で語られており、多くの方はご存知かと思いますが、アルフレッドの《神の加速ゴッドアクセル》は限られた範囲を10秒間ほど超スロー状態にして、自分だけが通常に動くことが可能となる空間操作能力に近いスキルです。

 周囲からの評価及びアルフレッド自身の感覚から『音速領域』と呼んでいます。

 したがって先の戦でアルフレッドのスキルをコピーして同じ領域を作ったローグは彼と同じ条件となったことで普通に動けて魔法が使えて会話ができた次第です。

 さらにアルフレッドは『聖鎧セイガイモード』で自身を強化させたことで、一時的ですが音速領域の壁を突破して『極超音速領域』を作り出すという、いわば空間を上書きしたという荒業でした。

 そうして勝利を掴むため強引に作り出した空間だったため、この度のような反動に襲われダメージを負ってしまった経緯がございます。


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