第81話 原作ヒロインのスキル
「ちょ、ちょっとぉ! 何勝手にやられちゃってんのよぉぉぉ!!!」
フォーガスが倒され、残ったラリサは慌てふためく。
いつも飄々とした第三者気取りの痴女
「ご安心ください、痴女さん! 次は貴女の番です!」
四枚の大楯に守られたシズクが聖武器の二刀
瞬発力のスピードなら明らかにシズクの方が上だ。
「誰が痴女よ! こんなのやってられないわ――《
ラリサは咄嗟に固有スキルを発動する。
すると突進するシズクの前に、ガイゼンが出現した。
「――えっ!?」
「おい、嘘だろ!?」
危なくぶつかりそうになるも、シズクは軽快な身のこなしで大柄であるガイゼンの頭上を飛び越えて回避した。
気づけばラリサが大分離れた隅側の位置まで移動しており、今にも攻城塔から飛び降りようとしている。
「これが《
そうえば聞いたことがある。
《身代わり
尚、身代わりが多ければ多いほど50メートルずつ逃げることができるようだ。
しかしシズクは思いの外、動じていない。
それどころか鋭い眼光がラリサを捉えていた。
「……固有スキルとは、その方の人格が反映されると聞いています。痴女さん、貴女はそうやって常に誰かを利用し足蹴にしてきたのですね?」
「あんたみたいな浅ましい奴隷なんかに言われたくないわ! あたしは魅力的な男について行くだけよん!」
「それが
うん、シズクさん。
キミは原作で真逆のことをアルフレッドに向けて断言していた記憶があるぞ。
とはいえ彼女は一切悪くないのに、いちいちデジャヴに苛まれる俺に問題があるようだ。
「どうでもいいわん。じゃぁね、奴隷さん……あたしは自分のやりたいように生きるだけよ! 女という武器を使ってねん!」
ラリサは身を乗り出し攻城塔から飛び降りようとする。
常人なら無事で済む高さでは決してないが、
あるいは《
「逃がしません! 貴女だけは同じ女子として堪忍袋の緒が切れました!」
シズクは憤慨する。
普段おっとりした彼女とは思えないブチギレ具合だ。
おそらくラリサの男を都合良く利用する姿勢に憤りを感じたのか。
――不意に風が吹き荒れた。
それは奇妙な風の流れだ。
何故かシズクの周りのみに集中され、つむじ風のように取り巻いている。
あれはまさか……。
俺には覚えのある現象だ。
そう、俺は原作を読んで知っている。
間違いない。
この吹き荒れる風はシズクが発生させたモノ――
「――《
シズクは両手の
それは彼女が宿る固有スキル、風を自在に操る能力だ。
「なっ!?」
ラリサが飛び降りる寸前、突風が吹き荒れ奴の身体を浮上させ上空へと飛ばした。
上昇気流という名の荒波に飲まれるかのように、ラリサは激しく宙を舞う。
「な、何よぉ、これぇ! 身体の自由が利かない!? このぅ奴隷の獣人族がぁ、アンタの仕業ねぇぇぇ!?」
「痴女さん……先程を見る限り、貴女のスキルは近くに身代わる対象者がいないと発動できないようですね? 野鳥ですら近づけない空域に身代わりなどいるのでしょうか?」
「うっせぇ、薄汚い奴隷女がぁ! とっとと下ろせよぉぉぉぉ!!!」
ラリサは本性剥き出しに罵声を浴びせている。
だが彼女は一切動じない。
「勿論、下ろしますよ――ただし貴女を倒してからです!」
シズクは両手の
「ちょ、来ないでぇぇぇぇ!!!」
「駄目です――
二刀の
「痛い痛い痛い痛いぃぃぃぃ、もうやめてぇぇぇぇぇ!!!」
絶叫する、ラリサ。全身から血飛沫が舞い、風向きに沿って散らしている。
あっこれ、オーバーキルしたんじゃね?
遠くで眺めていた俺はそう思った。
間もなくして風が収まり、ラリサの身体はドスンと床板へと落ちる。
もう全身が斬り刻まれ凄いことになっている。
「う、うぐぅ……」
ラリサの呻き声。辛うじてだが生きているぞ。
「九割殺しです。ご主人様に命を奪うなとご命令を受けているので」
そう断言する、忠実な奴隷っ子のシズク。
聖武器である
やべぇ……原作でもここまで凄くなかったぞ。
ブチギレてスキルに覚醒し、さらに聖武器を巧みに操ることでよりパワーアップしている。
元々主人公の次くらいに強キャラのメインヒロインだけに、なんがエグいことになってしまった。
かくしてローグを含む【英傑の聖剣】を全員蹴散らした。
だがこれで終わりではない。
残り1400人の反乱軍がいる。
「ご主人様ぁ、見てくれましたか? 私、勝ちましたぁ! あっ、大丈夫ですか!? お怪我はありませんかぁぁぁ!?」
戦いを終えたシズクが駆けつけ、真っ先に飛びついてくる。
思いっきり豊満な胸に俺の顔を埋める形で抱きしめてきた。
幸せな感触と同時に地獄の痛みが伴う。
「あ、がぁ! い、痛でぇぇぇ! シズク、外傷はないけど全身ズタボロなんだ……頼む、もう少し優しくしてくれ!」
激痛が襲いながらも要望する俺も俺だ。
シズクは「ごめんなさい、ご主人様ぁ……」と残念そうに俺から離れる。
間もなくしてガイゼン達も駆けつけてきた。
「まったくシズク殿は油断ならん! アルフ団長……そのぅ、私なら如何でしょうか?」
「いやカエデ……誰がいいとかじゃないんだけど。頼むから俺のことはシャノンが来るまで放って置いてくれ」
最近、シズクと仲良くなった分、逆に張り合ってくるサムライガール。
推しの子であるだけに嬉しいけど、何か間違っている気がする。
「……アルフ団長。ボクとの密会の件、忘れないでね。忘れたら呪っちゃうから……うひひひ」
「わかっているよ、ソーリア。てか飯を食いに行くだけだからな!」
「んなこと言っている場合じゃねぇだろ? アルフ、ローグを倒したまでは良いけどよぉ、これからどうすんだ? 反乱軍は健在だぜ? もうじきパールも魔法効果は切れるだろうし、連中もまだ
「わかっているさ、ガイゼン……」
俺は言いながら痛みを堪えて身体を引きずる。
元凶であるローグに近づいた。
「う、ううう……アルフレッドめ……よくもこんな……絶対に赦さないからな、やれやれ……」
やはり生きている。
しかも、めっちゃ俺に恨み節をホザいてやがるぞ。
てか瀕死でも「やれやれ」って言うんだな。
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