第82話 スラ吉の無双



 俺はボロ雑巾と化した、ローグを観察する。

 念仏のように呪詛っぽいことを延々と呟いているが、どうやら意識が混濁している様子だ。


「……ローグこいつが生きている限り、《能力貸与グラント》は解除されないか。この様子だと説得や交渉は難しいようだ」


「ならヤッちまうのか? 確かにこいつは大罪人だけどよぉ……」


 ガイゼンもローグをキルすることに躊躇している。

 嘗て同じパーティに所属していただけに当然の反応だろう。


「勿論、俺だって今回の反乱は100%ローグだけが全て悪いとは思ってないさ……だからこそ、きちんと犯した罪と向き合い法の裁きを受ける機会を与えてやりたい。その為に彼女を待っている――」


 俺がそう言うと上空から何かが飛翔し近づいて来る。


 ラルフの魔獣グリフォンだ。

 その背には一人の女子が乗っていた。


「アルフさーん! ご無事ですか!?」


 シャノンだ。

 彼女の背後には人丈ほど大きくなった、スラ吉の姿が見られている。


「――おっし、これでなんとかなりそうだ」


 俺は口端を吊り上げ微笑む。


「アルフ、シャノンを呼んできたわよぉ!」


 一緒にピコも飛んできた。


「よし、今度はパール達に言伝を頼んでほしい!」


「え? また行くのぅ?」


「頼むよ。あっ、そうだ……今度一緒に食事に行こう(ソーリアも含めてな)」


「もう、わかったわ……その代わり、素敵な夜景が眺められるお店にしてよね」


 デレながら頬を染め要求してくる妖精族フェアリーのピコ。

 お前、空飛べば一人でいつでも夜景見られるじゃねーか。

 とは言えないので、俺は「善処する」と告げてパール達への指示内容を伝えた。


 飛び立つピコとすれ違う形で、シャノンが駆けつけて来た。


「アルフさん、酷い損傷じゃないですか!? 今、回復魔法で治癒いたしますね!」


 今じゃ彼女も二級冒険者だ。

 俺くらいのダメージなら、スキルを使わずとも容易に治癒できる範疇だろう。


「ありがとう、シャノン……キミがいなきゃ、こんな無茶なんてしてないよ」


「もうアルフさんったら。でも信頼してくれて嬉しいです」


 シャノンは頬を染め、俺の身体に手を添え回復魔法で癒してくれる。

 横目でチラっと嘗ての幼馴染みであるローグを見ていた。


「すまない……強すぎて手加減する余裕がなかったんだ」


「いえ、貴方が謝ることは一切ございません。当然の報いです……でも」


「でも?」


「……バカな人。本当にバカな人です」


 呆れつつ、とても悲しそうな表情を浮かべる。

 俺は治癒を続けるシャノンの手を握り締めた。


「キミの言う通りだ……嘗ての仲間として、こいつが犯した罪を償わせてやらないとな」


「……アルフさん、はい」


 淡く微笑む、シャノン。

 儚げでとても綺麗だ。

 ローグの奴、こんな素敵な幼馴染を悲しませるなんてガチの大バカ野郎だよな。


 間もなくして肉体の痛みが引いていく。

 ようやく動けるまで回復できた。


「――おっしゃ! 完全復活だ! シャノン、ありがとう!」


「いえ、わたしは当然のことしたまでです……あのぅ、そろそろ手を離されても」


 あっ、いけね。

 ずっと彼女の手を握ったままだった。


「ご、ごめん、つい調子に乗って……」


「いえ、わたしは全く構いませんが……他の皆さんが先程から鋭い眼光でアルフさんを見ていましたので」


 なんだって? ハッ――!


 シズクとカナデが瞳を細めてじぃーとガン見している。

 ソーリアに関してはガイゼンの背後から顔半分だけ出し、「うひひひ」と普段よりも影を帯びて不気味に笑っていた。


 ち、超怖い!


 俺は身の危険を感じ、シャノンの手を離した。

 丁度、ピコが戻ってくる。


「アルフぅ、パールにちゃんと指示しておいたよぉ! もうじきマカ達の《三位一体トリニティ》が使えるようになるから、それ次第で始めるってぇ!」


「了解した! シャノン、パール達が行動に移したら、スラ吉に下にいる反乱軍の全員を襲うよう命令してくれ!」


「……まさか殺めてしまうのですか?」


 不安そうに見つめてくる、心優しい聖女のシャノン。

 俺は笑みを浮かべ首を横に振るう。


「いや違う――スラ吉の《能力吸収ドレイン》でローグの《能力貸与グラント》で強化貸与バフした部分だけを吸収させ奪い取るんだ。そうすれば連中はただの兵士に戻る」


「なるほど、そういう使い方もできるのですね。スラ吉、お願いできますか?」


 シャノンの指示で、スラ吉は嬉しそうに飛び跳ねている。

 こいつのチート能力なら、たとえ1400人だろと問題なく吸収するだろう。

 またさらにチート・スライムと化すだろうけどな。


「考えたな、アルフ。だったらよぉ、ローグも取り込ませ《能力貸与グラント》を吸収させればいいんじゃないか?」


「いや、ガイゼン。確か固有スキルそのモノは対象外の筈だ。吸収できるのはスキル効果や魔法効力に限られると、ラウルから聞いたことがある……ん?」


 てことはだ。

 ローグが俺達から没収して得た能力値アビリティからスキル経験値ポイントは吸収できるってことか?


 俺は試しにとシャノンに提案し、スラ吉にローグを取り込ませる。

 するとスラ吉の身体が一気に膨張し膨れ上がった。

 またとんでもない大きさに成長したものだ。


 スラ吉はペッとローグを吐き出した。

 その成長した重さで攻城塔が軋み始めている。


「……つまり、これほどの力をローグは一人で蓄えていたというのか? もう呆れてモノも言えねぇ」


 だがこれで、ローグはただの付与術士エンチャンターに戻り、《能力貸与グラント》以外のスキルは使えなくなった。

 《能力貸与グラント》は確かに脅威だが、所詮は仲間に寄生して強化させた能力を奪い自分の力にするスキルだ。


 もう奴に仲間などいる筈もない――。


「ついでに、フォーガスとラリサに与えられた強化貸与バフも吸収させよう。これで残るは反乱軍だけとなる」


 俺の提案で、スラ吉はフォーガスとラリサも吸収し吐き出した。

 さらに身体は大きくなってしまい、攻城塔はさらに軋み所々でバキっと何かが折れる音が聞こえる。

 このままだと倒壊する危険があるぞ。


 にしてもスラ吉の奴……明らかに原作よりヤバさが増していると思う。

 原作でもそれなりの活躍を見せていたけど、ほぼ体の良いマスコット的な扱いだった気がする。


 そうこうしていると、俺達の身体に力の漲りを感じ始めた。


「おおっ! マカ、ロカ、ミカの《三位一体トリニティ》が再発動されたぞ!」


 すると上空から巨大な四層の魔法陣が浮かび上がる。



 カッ――!



 超強烈な落雷が地上へと落ちていった。

 しかも一度ではなく怒涛の如く連続で落ちていく。


 パールが撃ち放った上級魔法 《超四重奏雷撃網魔法カルテットサンダー》である。


 彼女のスキル《無限魔力インフィニティ》が使えるようになったことで連射して放ったのだ。

 それによって地上で駐留する、反乱軍の兵士達は再び痺れて動けなくなった。


 より広範囲に落雷が放たれ、王都中に屯する敵1400人が完全に動きを封じられただろう。

 どうせ民衆は全員避難し不在だからな。ここぞとばかりやれと指示をしておいた。


「今です、スラ吉! 務めを果たすのです!」


 落雷が静まったのを見計らい、シャノンが指示する。

 スラ吉は攻城塔から雪崩れるように自ら落ちて行った。


 束の間


「ギャァァァ、なんだこいつぅぅぅ!」


「やめろぉ、バケモノめぇ! 来るなぁぁぁ!!」


「た、助けてぇぇぇ、飲み込まれるぅぅぅ!!!」


 地上から阿鼻叫喚の悲鳴が木霊している。

 巨大化したスラ吉は多くの兵士達を体内で飲み込みながら、さらに無数に伸ばされた触手で捕縛し引き寄せていた。


 痺れて動けない上に、獰猛なチート・スライムに吸収されるのだから恐怖と地獄だな。


 ……まぁ自業自得ということで。



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