第21話 残された、ざまぁ仲間達

今回はアルフレッド追放直後の残留したシャノン視点です。

前後編の二話構成となっています。

―――――――――――



 アルフレッドさんが【英傑の聖剣】を追放されて数日が経ちました。

 前触れもなく突如の事態に、シャノンことわたしは酷く困惑したのは言うまでもありません。


 なんでも、わたし達幹部とカナデを除いた団員達による追放処分の嘆願書を提示したとか。

 その時クエストを終えたばかりのわたし達は、それぞれ別の団員らに頼まれ事で離れてしまい、丁度席を空けてしまった時の話でした。


 今思えば明らかに罠であり策略だったのでしょう。


 わたし達が戻った時、既にアルフレッドさんは屋敷にいなかった。

 何も言わず出て行ってしまったアルフレッドさんも冷たいですが、そこには色々な思惑があったようです。


 一つは新団長として、わたしの幼馴染であるローグが任命されたこと。


 なんでも彼の固有スキル《能力貸与グラント》でパーティ全員の強化を行っていたとか。

 まさかローグにそんなスキルが備わっているとは知りませんでした。

 以前は聞いても「仲間の能力をちょっとだけ付与させるだけのハズレスキルだよ」っと、はぐらかされていたので……。


 唯一そのことを知っていたのは、共にパーティを立ち上げた団長のアルフレッドさんだけであり、彼はずっとみんなに黙ってローグに指示し強化貸与バフを施していたようです。


 わたし達も含めて……確かに勝手に強化って常識がないと思いました。


 しかしアルフレッドさんもただ黙っていたとは思いません。

 何故なら一年前、彼はこんなことを言っていたからです。


「――いつまでもローグの強化付与バフばかりに頼ってられないだろ?」


 そして、わたし達にも各々に鍛錬するよう忠告をしていました。

 まさしくこのような事態を想定したかのように――。



「――っというわけです。皆さん、今からこのローグさんが新たな団長となりました」


 アルフレッドさんが追放された直後。


 わたし達は幹部用の部屋で、魔法士ソーサラーダニエルから報告を受ける。

 そこにはローグの外、フォーガスとラリサの二軍メンバーが顔を揃えていた。


「おい、テメェ! 勝手なこと吹かしているんじゃねぇ! どうしてアルフが追放されなきゃならねぇんだ、コラァ!」


「これは明らかな下剋上! こんなことしてギルドに訴えてやる!」


 ガイゼンとパールが激昂し猛抗議する。


「ギルドには既に報告し受理されています。何せ24名分の嘆願書を添えていますからね。何一つ不正などしていません」


「追放の理由も過去の事ばかりじゃありませんか!? 今のアルフさんは慈善事業に精力的に取り組む立派な方です! そして常に団員のことも考えていました!」


「シャノンさん、世間ってのは今よりも過去を突っつくのが大好きな俗物の一面があります。それに善行より悪行の方が食いつきやすい……過去の団長、おっとアルフレッドですね。特に彼は叩けば埃の出まくる方でしたからね」


「んな奴にいつまでも団長させてたらよぉ、【英傑の聖剣】に所属する俺達だって同じ目で見られちまう。追放が妥当ってのが皆の意見だ」


「そっ。現にローグくんを苛めるように焚き付けていたのも、アルフレッドだしねん。本当、ローグくんよく我慢したと思うわぁ。きっと器が違うのよねん」


 ダニエルの詭弁に、フォーガスとラリサが便乗する。

 しかもラリサはやたらとローグにべったりです。別にどうでもいいですけど。


「だがやり方が汚ねぇ! オレら幹部に内密に動きやがってぇ!」


「あっそうだ、皆さんはもう幹部じゃないですよ」


 しれっと言いだす、ローグ。


「なんだと!?」


「今から幹部はダニエルさんとフォーガスさんとラリサさんの三人です。ガイゼンさんとパールは二軍に降格。シャノンは……キミ次第かな?」


「ローグ、どういう意味でしょうか?」


「パーティに回復役ヒーラーは重要だからね。それとだ……」


 ローグはわたしに顔を近づけて来る。


「――僕の女になれ。ラリサと一緒にね……そうしたら優しく可愛がってあげるよ」


「嫌です。バカですか?」


「相変わらず厳しいな、シャノン……だがキミ、アルフレッドに処女を捧げただろ? 僕はね、幼馴染のよしみとして奴が使い回した女でも、これまで通り傍に置いてやるって言っているんだぞ!」


 なんでしょうか? この浅ましき生き物は……。

 本当にわたしの幼馴染……大人しくて気弱だったローグでしょうか?


「何か誤解があるようですが、わたしとアルフさんはそのような関係ではありません」


 確かに、わたしは今のアルフレッドさんに惹かれています。

 ですが、それは異性としてなのか上司としてなのか……まだ気持ちの整理がついてないのです。

 いえ本当はついているかも……けど認めるのが怖い。


 きっぱりと言い切るわたしに、ローグは「フン」と鼻で笑い離れ行く。


「おい、ローグ! それこそシャノンはずっとテメェを庇ってきた幼馴染だろーが! その恩を忘れやがって何言ってやが――うっ!?」


 ガイゼンが掴みかかろうとした瞬間、ローグの姿が消えた。


「何か言いましたか、ガイゼンさん? 屈強の盾役タンクなのに背中がガラ空きですよ」


 気づけばガイゼンの背後に立っていたのだ。


「い、今のはまさか……アルフの《神の加速ゴットアクセル》!?」


「アルフさんの固有スキルを……どうしてローグが!?」


 その光景にパールとわたしは驚愕する。

 ローグはドヤ顔で説明してきた。


「僕の《能力貸与グラント》は、長い間強化貸与バフを施した奴の能力値アビリティとスキル経験値ポイントを没収することで、自分の能力として上乗せするだけじゃなく、奴の固有スキルごとコピーして使用できるようになるのさ。万能だろ?」


「まさしくその通り! これぞローグさんのスキルなのです! 誰が見ても、彼こそが【英傑の聖剣】の団長として相応しいことは明白でしょう!」


「おまけに俺達団員達も永続的に強化してくれるんだ! ローグさんを中心に最強パーティの完成だぜ! 超凄ぇよ、もう神レベルじゃねぇか!」


「もう、あたし、ローグくん無しじゃ生きられなーい!」


 ダニエル、フォーガス、ラミサの三人が称賛し褒めちぎっている。

 にしても様子が可笑しい。三人とも普段と明らかに目つきが違う。

 目が血走って、まるでローグのスキルに憑りつかれたようだ。


 あるいは魅入られたか……。

 わたしには、彼らが強化バフという名の麻薬に侵されたように思えてしまう……。

 強化バフされることに溺れ、妄信的になってしまった中毒者達。


 おそらくアルフさんは一年前から、ローグのスキル《能力貸与グラント》の恐ろしさに気づき距離を置こうとしたに違いありません。

 そして、わたし達にも警鐘を鳴らし続けたのでしょう。


 ――このような事態を恐れて。

 ローグの一存で団員達が操り人形にならないようにと……。


 下手にアルフレッドさんから説明すれば、ローグが《能力貸与グラント》を解除し【英傑の聖剣】は終わってしまう。

 それを恐れて何も言わず、自分から身を引いたのだと思います。


 全て、わたし達のために……。


 けどアルフさん……貴方は間違っています。

 貴方には、わたし達がいた筈。

 何故、貴方だけが犠牲にならなければいけないのでしょうか?


「やれやれ、みんなぁ、そんなに僕を褒めないでくれよぉ。僕ぅ何かやっちゃいました~ん、やれやれ」


 ローグもすっかり力に溺れてしまっている。

 けど所々の「やれやれ」はどこか癪に障りウザく思えました。



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