第22話 変わり果てた幼馴染



「ぼ、没収しただと!? ローグ、テメェがアルフの能力値アビリティを……んじゃ、今のアルフは――」


「そっ。今のアルフレッドさんは、スキルも使えないただの無能者だよ、ガイゼンさん」


「酷い……アルフ可哀想!」


「可哀想? パール、それは違うだろ? アルフレッドはこれまで僕のおかげで散々甘い汁を啜ってきたんだ。それに僕は貸した強化貸与バフを返してもらっただけ。それのどこがいけないのさ」


「先程、ガイゼンさんが言った通りです! やり方が卑怯です! そもそも【英傑の聖剣】は貴方とアルフさんの二人で立ち上げたパーティではありませんか!? それにアルフさんも反省し、この一年は貴方のこと見直し優遇していた筈です!」


「シャノン……僕だってこんな真似なんてしたくなかったさ。陰ながらパーティを支え、『実はローグって凄ぇ』って感じで褒めてくれるだけで良かった……けどアルフレッドのヤリチンが、よりによって僕の大切な幼馴染に手を出したりするから! 全て奴のせいだ!」


「何度も違うと言っているではありませんか! 寧ろ、アルフさんはわたしに優しくしてくれました! わたしが押し倒してしまった時も、彼は紳士にわたしを諭してくれたのです!」


「……え? シャノン、お前さんがアルフを? 仮にも神官プリーストだよな……聖女様だと思ってたのに」


「いくら大好きなシャノンでも、それは引く」


 え? え? え!?

 何故でしょう? 味方である筈のガイゼンとパールが何故かドン引きしています。

 押し倒したのは事故ですからね(天然)!


「ほら見ろ。やっぱ寝取られてんじゃん……まぁ僕も大人の階段を上った男だ。いつまでも童貞じゃあるまいし、もう細かいことはいいだろう……っというわけだ。キミら元幹部は二軍に降格だからね。シャノンも僕の女になるなら再び幹部として迎い入れてやるよ」


 ローグからの提案。彼の背後で元二軍のダニエル、フォーガス、ラミサの三人がすっかり腰巾着と化しニヤついている。


「冗談じゃねぇ! テメェらの下になんぞにつけるか! ローグ、テメェに従うくらいなら、俺はアルフを追う! 【英傑の聖剣】から抜けてやんよ!」


「ガイゼンさん……確かに貴方の固有スキル《鋼鉄壁アイアン》は僕の《能力貸与グラント》を解除しても使用可能でしょう。ですが、その他の能力値アビリティはがっつりと下がりますよ。つまり使えても身動きが取れない置物スキルっとなるわけです。それでもいいんですか?」


「構わねーよ! オレは悪魔に魂を売らねぇ!」


「パルも抜ける! ガイゼンと一緒にアルフを追う! ローグ大嫌い、バーカ!」


 パールは盾役タンクガイゼンの背後に隠れ、短い舌を出してアッカンベーをして見せる。

 その様子をローグは鼻で嘲笑する。


「やれやれ、これだからお子ちゃまは……まぁパール、キミは昔から何故かアルフレッドに一途だからね、想定内さ。それに僕はロリじゃない好きにしろ。んでシャノンはどうするんだい?」


「わたしは残ります――ローグ、幼馴染として貴方の目を覚まさせるために」


「なるほど、キミらしい意見だ。いいだろう残留を認めよう」


「ありがとうございます。その代わりわたしは金輪際、貴方から強化貸与バフの施しは受けません。《能力貸与グラント》でしたっけ? 今すぐ解除してください!」


「なんだって? いいのかい? キミの固有スキル《聖女息吹セイントブレス》は使えなくなるぞ。そうなれば二軍どころの話じゃない。カナデと共に下っ端の新米扱いだからな」


「結構です。わたしの目的は力に溺れた愚かな幼馴染を更生させるためなので……」


「好きにしろ」


 こうして、わたし達は残る者と去る者に分かれ行動することになりました。


 本当なら、ガイゼンとパールについて行きたい。

 アルフさんに会いたいです。


 ですがローグも共に孤児院で過ごした大切な幼馴染。

 頼りなかったですが、兄のように慕っていた関係。

 そこそこ情もあり、わたしにはそう簡単に切り離せません……。

 


 間もなくして要求通りに、わたしに施されていた《能力貸与グラント》が解除される。

 やはり能力値アビリティが低下しているようで、スキルが使えなくなっていました。


 別に構いません、元々勝手に与えられた偽りの力だったのですから……。

 きっとガイゼンとパールも同じ心境だったのでしょう。


 しかし一年前、アルフさんから魔力値を上げるようにと言われていたので、その鍛錬は常に行っていました。

 おかげで回復魔法は一通り使え、回復役ヒーラーとして活動できる形です。

 本当、アルフさんは凄い……感謝しかありません。



「……シャノン殿、貴女ほどの聖女がそのような事をなさらなくても」


 調理場にて。

 共に野菜の下ごしらえをしている、刀剣術士フェンサーのカナデが話しかけてくる。

 彼女はわたしと同様、新団長のローグから雑務を押し付けられ、こうして一緒に行動することが多くなった。


「構いません。これも神が与えてくれた試練です……それにわたしは聖女ではありませんよ」


「いいえ、貴女のような身も心も美しい女性は祖国でも見たことはございませぬ。アルフ団長さえ居てくだされば……」


 カナデもアルフレッドさんを慕っていたばかりに、パーティ内では風当たりが強い。

 幹部入りしても可笑しくない実力者なのにクエストに参加させてもらえず、調理や掃除や買い出しなどばかりさせられている。


「……カナデ、貴女はここを抜けてもいいのですよ。このような事をするために、わざわざ遠い極東の国から来たではないではありませんか?」


 確かガイゼンとパールが抜ける前、二人はカナデにも声を掛けていると聞いている。


「はい、ですが……【英傑の聖剣】はアルフ団長が残した集団クランです。私はもう少しだけ頑張りたいと思います。それに皆の目も覚まさせてあげたいと思っています」


「そうですが……では一緒に頑張りましょう!」


 いつの間にか、カナデを知り互いの距離が近づいた。

 唯一そこだけは良かったです。




 それから一カ月が経過する。


 ローグのスキル効果もあり【英傑の聖剣】は、大きなクエストを幾つも達成し躍進を続けていた。

 団員達は仮初の力に溺れ心酔し、まるで神のように祀り上げている。


 そしてローグは「やれやれ。こんな事するつもりはなかったのに、やれやれ」などと、最近気に入った言葉なのか、やたらと「やれやれ」を連呼しながら《能力貸与グラント》で強化貸与バフを与え続けていました。


 また女性遊びも派手になり、頻繁に知らない女性達が出入りするようになる。

 特に彼は幹部のラミサに夢中でようで、昼間でも団長室から彼女の艶やかな嬌声が聞かれていた。


 それでも、わたしは幼馴染としてローグを見限ることなく頻繁にコンタクトを取ろうと奮闘する。


「ローグ、お話が……」


「なんだよ、シャノン。しつけーわ、これからラミサと大人の遊びをするから、アルフレッドのカキタレはどっかに行ってくれ」


 酷い言い様です。わたしが話かけてもウザがられるばかり。

 もう彼に、わたしの言葉は届かないようです。


「……潮時でしょうか」


 一人、そう思い始めた時だ。

 部屋の隅から青色でプルンとした丸い物体が姿見せて来ました。

 それはスライムです。この子は確か……。


「ローグが飼っている、スラ吉?」


 わたしが名前を口にすると、スラ吉は嬉しそうに飛び跳ねてすり寄ってきました。

 最近、姿を見せないと思ったら飼い主のローグに放置されていたようだ。

 良く見ると体中に埃が被っており、随分と薄汚れているようです。


 それに随分と人懐っこいようで、モンスターなのに愛嬌があり可愛いと思えてしまう。


「……貴方もわたしと一緒に行きましょうか? アルフさん達のところに――」


 わたしが声を掛けると、スラ吉は身体を上下に揺らしながら頷いて見せた。



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