第23話 主人公の誤算



「シャノンが出て行っただと!?」


 ラミサとの行為後。

 ベッドで寝そべるローグは、副団長となったダニエルから報告を受ける。


「はい。このような書置きが残されていました」


 ダニエルから一枚の手紙を受け取り読んでみた。



 ――ローグへ

 わたしは【英傑の聖剣】を退団いたします。

 この一カ月間で大切な幼馴染である、ローグ・シリウスはもういないとわかりました。

 残念です。どうかお元気で、さようなら。

 シャノン・フレムより――



「チッ、出ていく前に一回くらいヤラせろっての。アルフレッドの女が聖女ぶりやがって……」


 貴重な回復役ヒーラーが去ったことよりも、色欲を優先するローグ。

 皮肉にもその思考ぶりは、まるで更生される以前のアルフレッドそのモノであった。


「あんな青臭い女より、あたしの方がいいでしょ? ローグく~ん」


「まぁね、ラミサ(他にも簡単に股を開く承認欲求を満たしてくれるセフレは沢山いるし、中古のシャノンくらい別にいっか)」


「ですが団長、シャノンは一人で出て行ったわけではないようです、はい」


「ん? ダニエルさん、どゆこと? まさかカナデもか!?」


「いえ、あの者はまだパーティに残っています……去り際の彼女を見かけた団員によると、ボールサイズの青いスライムだとか」


「青いスライム? はて? どこかで見たことがあるぞ……――ハッ、まさかスラ吉!?」


 ローグは慌てながら起き上がる。

 そして思い出した。


(やっべぇ! すっかりあいつのこと忘れてたわ! そういや、アルフレッドに《能力貸与グラント》の使用を禁止された憂さ晴らしで強化貸与バフさせまくった以来ずっと放置していたままだ!)


「ローグ団長、如何なさいました?」


「……いや、ダニエルさん。別になんでもない。まぁあのスライム一匹放置したくらい、僕の【英傑の聖剣】に何も影響はない……けどね」


「けど?」


「僕がこっそり飼っていた、スラ吉にはスライムとは思えない固有スキルが備わっていたんだ」


「固有スキル!? モンスターが!?」


 博学とされる魔法士職ソーサラーのダニエルが驚くのも無理はない。

 モンスターがしかも低級で知られるスライムが固有スキルを身に着けていることは極めて稀……いやこの世界では類を見ない奇跡だ。


「して、団長……どのようなスキルなのです?」


「――《能力吸収ドレイン》スキル。捕食した獲物の肉体は勿論、能力値アビリティを自分のモノとして獲得するスキル……これは《能力貸与グラント》の強化貸与バフも反映されてしまうんだ」


「なんですと!? まさかスライム如きがローグ団長と同じ存在だと!?」


「違う違う……あくまで吸収したモノを自分の経験値アビリティに変換するだけさ。けどアフルレッドに団員への《能力貸与グラント》を禁止され、腹いせにスラ吉を強化貸与バフしまくったんだ。それが心残りでね……」


「では解除すれば良いのでは?」


「それができないんだ……スラ吉の《能力吸収ドレイン》効力でね。つまり強化バフしちゃった分、もう奴の体内で消化され経験値アビリティとして獲得したことになる」


「なるほど……事実上、破格級の最強スライムってことですね?」


「そゆこと。スラ吉がシャノンから万一、アルフレッドの糞に渡ると思うと……少しムカつくかなって思った程度だよ」


「けど、ローグくん。そのスライムを使って、アルフレッドが復讐とか仕掛けてくるんじゃな~い? あいつ執念深さは魔王級だよん」


 タオルケットで豊満な胸を隠したラミサが不安そうに訊いてくる。


「大丈夫だよ。スラ吉如きに僕が負ける事はないさ……今の僕はアルフレッドの固有スキルは勿論、没収した幹部達の全スキルが使える最強の域さ。もし仕掛けてきたとしても得意の『やれやれ、参ったな面倒ごとは……』で無双して瞬殺だよ」


「やれやれの部分は意味不明ですが、ローグ団長が無敵なのは存じております、はい」


「だね。ガチ男として魅力的だわ……ねぇローグくん。もう一回、いい?」


「やれやれしょーがないなぁ、ラミサは。ダニエルさん、ちょい席外してもらっていい? なんならお金あげるから遊んでおいでよ」


「結構です。では失礼、ごゆっくり――」


 ダニエルは丁寧に一礼し部屋から出て行く。

 血気盛んなローグと異なり、欲深い男の割には非常にクールな一面もある。


 しかし、この後。


 ローグはスラ吉を連れ去られたことが、最大の過ちであったと気づくことになる――。



◇◆◇



 時間は少しだけ遡り。

 妖精族フェアリーのピコを購入し、数日が経過した。


「……てか、なんでお前がここで寝ているんだ?」


 早朝、目を覚ますと、そのピコが俺の胸に乗っかる形で寝ていた。

 しかも隣には相変わらずシズクが丸まって寝息を立てている。


 原作ヒロイン達に囲まれながら寝ていた悪役……なんだこりゃ?

 すると、ピコがゆっくりと目を覚ました。


「おはよ、アルフ……昨夜は激しかったね」


「は? 何が? おまっ何言っちゃってんの? 俺、何もしてないよね? てか、ほぼ掌サイズの妖精族フェアリー相手に何ができるって言うんだよ? 寧ろやり方とか知りてぇわ」


「寝息よ。こうして胸の上で寝ていると、アナタの心臓の音が伝わるの……けど意外ね」


「な、何がだよ?」


「アルフって乱暴そうに見えて凄く優しかった(心音が)。アタシ、とても心地良かったよ」


 ……やっべぇ、このフェアリー。

 さっきから何、俺とヤッちゃった感出してんの?

 頭おかしいぞ……原作でローグに対してもこんなんだっけ?


 まさか試しているのか?

 俺が信頼に至る人間かどうかを……ハニートラップ的な感じで。

 いや妖精フェアリー相手にどないせいちゅーねん。


「だから、どうして俺と一緒に寝ていると訊いているんだ! お前、あれほど俺のこと嫌っていただろ!?」


「別に嫌ってないわ。それに言ったでしょ? 仲間になるかはアナタを見定めてから決めるってね。だからこうして一緒に過ごしているのよ」


「いや意味わかんねーっ。見るどころか寝てたじゃねーか。まぁ、けど脱走する意志はないと判断するぜ……ほらシズクも起きろ、朝だぞ。こいつもまた勝手に寝床に入って……」


「ふにゅ……おはようございます、ご主人様ぁ。昨夜はピコと何かしたの?」


 何そこの会話だけしっかり聞いてんだ、この白銀狼系獣人シルバーウルフ娘は!

 やっぱこの原作世界のヒロイン達はなんかおかしい!


 それから隣のベッドで呑気に寝ているガイゼンを起こした。

 こいつも相変わらず全身鎧を着用したまま寝てやがる……俺の周り変な奴ばっかじゃねーか。



「アルフ、パルからの提案。いっそみんな大部屋で寝るというのはどう?」


 朝食時、仏頂面のパールからお願いされる。


 男女を意識して二つの部屋を借りているけど、シズクとピコが決まって部屋から抜け出し俺の寝床に侵入して来るので「意味ないじゃん」と主張している。

 確かに金額的にもその方が浮くな……。

 ガイゼンもパールを娘代わりとしか見てないし、パールも俺を兄として慕っているわけだし。


「……わかったよ。今日からそうしょう。しかしシズクも近い内に成長する筈だ。その時になったら、また考えよう」


「ご主人様、私が成長すると何かいけないの?」


「いや、シズク。別にそういうことじゃ……(幼女からボン・キュッ・ボンのナイスバディの美少女になるから、俺の理性が保てなくなるかもしれえないとは言えねぇ)」


「アルフ、それよりよぉ。今日もギルドに寄ってクエストに行くのか?」


「まぁな、ガイゼン。ピコのローン返済もあるし、シズクの成長にも左右される……それに俺達もレベルアップしないとな。ダウンした分、取り戻していくつもりだ」


 そうなれば再び《神の加速ゴットアクセル》が使えるようになる。

 まずはそこを目指したいと考えていた。


 その時だ。



 バン!



「――アルフレッド様ぁ、ようやく見つけましたわぁ!」


 いきなり激しい物音と共に扉が開けられ、どこかで見覚えのある少女が乗り込んで来た。



―――――――――――

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