第49話 思わぬ再会



「……シズクさんとピコさんは反省という言葉を知らないのでしょうか、ブツブツ」


 輸送用の荷馬車にて。

 シャノンがずっと愚痴を漏らしている。


「うむ。聞けばあの二人、ほぼ毎朝だとか……アルフ団長を慕う故とはいえ、些か度が過ぎる行為ではありますな」


 新入りのカナデでさえ便乗する形で顔を顰めている。


 今朝も懲りずに俺のベッドで寝ていたヒロインズに対しての不満であった。

 その度にシャノンは注意を促し、本人達も反省した素振りを見せるが一向に改善される兆しはない。


 それはそうと現在、俺達【集結の絆】は武者修行の旅に出発し、商人達の荷馬車に乗せてもらっている。

 一応、目的地まで護衛するというクエストを請け負った上だ。


「まぁ、本人達は悪気がないというか……俺からもキツく言っておくよ、うん」


 ちなみにこの場にはシズクとピコの姿はない。

 一緒にいたら空気が悪くなるので、他の仲間達と共に別の荷馬車に乗っていた。

 したがって今ここには俺とシャノンとパール、そしてカナデの四人しかいない。


「はい……わたしはアルフさんのこと信じています。ですが男性である以上、つい魔が差すということもあり得ます。特にシズクさん……お綺麗な上にあの容姿。女性のわたしから見ても凄いというか、羨ましいというか……ブツブツ」


「確かに二人とも純粋無垢と言えばそれまでかもしれませぬが、特にシズク殿に至っては殿方に対する危機意識が欠如されているのではありませぬか? シャノン殿ではございませんが、アルフ団長だからこそ事なきを得ていると思う所存です」


 シャノンとカナデの言いたいことは十分理解している。


 本作のメインヒロインだけあり、はっきり言ってシズクの女子スペックは超ヤバイ。

 豊満な胸のナイスバディ美少女に加え、奴隷っ子で俺には絶対に従順だからな。

 原作でローグが何度もラッキースケベを発動させて浴室を覗いたり、うっかりと称して胸やお尻を触りまくっていたのも頷ける。


 今思えば、アレ絶対にわざとだと思う。

 そんな俺とて隣にガイゼンが寝てなければ、既に間違いが起こっても可笑しくない筈だ。


「……シズクに関しては奴隷として引き入れた俺の責任もある。けど俺はみんなと同じ大切な仲間として彼女と接しているつもりだ。そのうち奴隷紋章も消すべきか考えているけど、本人がなんと思うか……とりあえず信じてくれてありがと、シャノン。カナデもな」


「はい、アルフさんの言葉を聞いて安心しました」


「流石はアルフ団長、私も信じておりますぞ」


 優しい微笑を浮かべる、シャノンとカナデ。

 二人とも一年前では想像もつかないほど、俺のことを信頼してくれている。

 だから余計に裏切れないんだよな……。


 特にシャノン……まだ俺のこと、異性として意識してくれているのだろうか?

 そういや、俺が【英傑の聖剣】を追放される前の、逆ラッキースケベ展開からお互いの気持ちを確認してなかった。

 パーティも落ち着いてきたし、もうローグと関係ないわけだし、そろそろ……。


「――アルフ、何処の国に行くんだっけ?」


 ぼそっとした口調で、パールが訊いてくる。

 俺はふっと意識を切り替えた。


「あ、ああ……オルセア神聖国だ」


 オルセア神聖国はルミリオ王国と同盟を結ぶ国だ。

 馬車だと十日ほどかかる距離にある。

 その国には某コミックばりに修行できる施設があるからだ。


 不意に移動していた馬車が止まった。


「どうした主人?」


「さ、山賊です、冒険者様ぁ!」


 運転する商人が怯えた声で知らせてくる。

 山賊か……まぁ今の俺達なら問題ない相手だ。


「わかった、対処しよう。シャノンはここで待機。パールは他の馬車にいるガイゼン達に知らせてくれ。カナデはアタッカーとして俺と一緒に来てくれ」


「「「わかりました」」」


 彼女達の返答を聞き、俺は荷馬車から降りる。

 同時にガイゼン達も降りてきた。


 が、


「おい、アルフ……どうなってんだ、こりゃ?」


「ああ、山賊達が倒されている。誰の仕業だ?」


 俺達の目の前で、10人ほどの武装した山賊達が道端で寝転がっている。

 全員が何かに激しく斬られたようなダメージを負っているも、辛うじて生きていた。


 俺は右目の眼帯をずらし、《蠱惑の瞳アルーリングアイ》で辺りを見渡す。

 この瞳はただ対象者を魅了するだけじゃなく、魔力探知できる魔眼として活用できる。

 原作でアルフレッドのアホは、この機能を一切活用してなかったけどな。


「魔法による攻撃じゃない……だが強力な魔力は感じる――上か!?」


 俺は上空を見上げると、そこに大きな翼を掲げるモンスターが飛行している。

 鷲の上半身、獅子の下半身の魔獣だ。


 ――鷲獅子グリフォン

 非常に獰猛な肉食獣で高山に棲むとされている。

 鋭い爪と嘴が武器であり、また風魔法を得意とした。

 その戦闘力はドラゴンさえも追い払い寄せ付けない上級モンスターだ。


 一頭とはいえ、果たして俺達で手に負える相手だろうか……。

 そう身構えていると、グリフォンが翼を羽ばたかせ下降し近づいてくる。

 ついに地表に降りて来た。


 俺とカナデとガイゼンは身構え臨戦態勢をとる。


 ん? モンスターの背中に人族らしき姿が見られるぞ。

 魔道服を纏った白髪で優男風の眼鏡兄さん……身を覚えがある。


 ソロで活動する第一級冒険者、調教師テイマーのラウル・ファブルだ。


「――アルフレッドさん、お久しぶりです」


「ラウルさん、どうして貴方がここに? そのモンスターは?」


「このグリフォンは私がテイムした子です。可愛いでしょ?」


 可愛い? いや強面で今にも襲い掛かりそうなんだけど……てか、めちゃ鋭い眼光で俺達をガン見しているぞ。


 俺達がドン引いている中、ラウルは跨っていたグリフォンの背中から降りた。

 グリフォンは「グルルル」と喉を鳴らし、彼に擦り寄っている。


 もろ上級モンスターに懐かれている……これが第一級冒険者の調教師テイマーか。

 まるでラノベ主人公みたいな絵面だ。

 そのラウルは微笑を浮かべ優しくグリフォンを撫でている。


「……たまたま、この子で移動していたところ、山賊達がそこの馬車を襲おうと待ち構えているようでしてね。ついお節介を焼いて倒してしまいました。そのままスルーしようかと思ったんですが、アルフレッドさん達の顔を見てたら、スラ吉くんに会いたくなり降りてきたのです」


 説明しながら、チラっとシャノンの肩に乗っているスラ吉を見つめている。

 相変わらずモンスター愛が半端ない、眼鏡兄さんだ。


「そうだったんですか。こちらこそ助かりました……どちらに行かれる所だったんです?」


「――オルセア神聖国です」


「へ~え、俺達と一緒ですね。それじゃ、ラウルさんも武者修行ですか?」


「いえ、私の祖国でして……武者修行って、もしかして『ラダの塔』のこと言ってます?」


「はい。それが何か?」


「あそこは今、修行ができるような場所じゃないと聞いています。私もそれが原因で戻る羽目になったというか……」


 いきなり歯切れが悪くなる、ラウル。

 これから赴く国で何か異変が起こっているのか?


「ラウルさん、よろしければ詳しく聞かせてもらっていいですか?」


「そうですね……アルフレッドさんにならお話しても良いでしょう。では私もオルセアまで皆さんと同行してもよろしいですか?」


「ええ構いませんよ……でも、そのグリフォンは?」


「この子なら大丈夫です――《封印手札シールカード》」


 ラウルは懐から一枚の白いカードらしき物体を取り出し、グリフォンに掲げる。

 すると突如、グリフォンは光に包まれカードの中に吸い込まれ消えた。

 そのカードにはグリフォンの絵柄が書き込まれている。


「私の固有スキル、《封印手札シールカード》です。こうしてテイムした子達をカードに収納し好きな時に出現させることが可能なのです」


 す、凄ぇ……まるでカードゲームみたいな万能スキルだ。

 だから以前会った時はモンスターを連れてなかったのか。


 こうして思わぬ再会を得て、ラウルが同行することになった。



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