第50話 ラダの塔

 


 俺の記憶上、ラウル・ファブルは仲間であるマカ・ロカ・ミカと同様、原作やコミックに登場しないオリジナル・キャラ。略してオリキャラの筈だ。



 夜の野営地にて。


 皆で焚火を囲みながら、ラウルの祖国であるオルセア神聖国で起こっている異変について聞かされた。


「以前までラダの塔はオルセアを象徴する巡礼地であり、アルフレッドさん達のように多くの冒険者が修行する試練の場でもありました――」


 ラダの塔。


 50階建ての摩天楼施設で、嘗ては神々が住み地上を管理していたとされる国有の神殿である。

 1階には冒険者ギルドが併設されており、一般人は10階までの公共施設や商業施設までしか行くことができない。


 それ以上の階は「神が与えし試練」とされ、嘗て神々を護っていたとされる守護兵の「聖装甲騎士アーマーナイト」が待機し、最上階までの行く手を阻んでいる。

 したがって白銀シルバークラス以上の冒険者パーティしか挑戦は許可されてなく、普段は強力な施錠で封印されていた。


 尚、最上階には俺が持つ『聖剣グランダー』と同様の聖武器が置かれ、到達した全員に授けられると言う。

 各地の冒険者達は集って、己の腕試し兼聖武器を手に入れるため、最上階を目指しているというわけだ。


 無論、聖装甲騎士アーマーナイトは上階に行くほど強敵となり、これまで最上階まで到達した者はいないとか。

 なので大抵の冒険者達は途中で挫折して引き返していると言う。

 聖装甲騎士アーマーナイト達も逃げる者を追うことはないので、自分の力量を確かめたり修行する場として適しており活用されていた。


 尚、原作においても「ラダの塔」に関するイベントが書かれている。


 確か主人公ローグが旅行気分で「最上階の景色がみたい、やれやれ」とか意味不明なことを言い出し、何気に訪れたという話だ。


 読者側の俺としては物語に影響しない無駄回だったと思う。

 だから「別にスキップしても構わない。どうでもいい話」として捉えていた。

 けど当時のローグがやたらと「僕はどうしても見たいんだぁ!」と頑なに言い張り、謎の連呼していたのを思い出して今回の武者修行の場として選んだ思惑がある。


 だが実はここでも主人公のローグはやらかしていた。


 なんと奴らは夜中に、ラリサから搾取した盗賊スキルで勝手に塔の施錠を解除して不法侵入したのだ。

 しかも動機はヒロイン達と夜景を眺めながら、イチャコラするためという最低な理由だった……。


 んで襲い掛かってくる聖装甲騎士アーマーナイトを前衛のシズクとスラ吉が必死で撃退し、その後ろでローグが「やれやれ不本意なんだか……」と、不法侵入した主犯の癖に抜かしながらピコの《幸運フォーチュン》スキルにより幸運度MAX状態でイキリ散らかしながらチート無双する。


 そうして、あっさりとラダの塔を攻略して登頂したのだ。

 いつもの「超よゆー」とか言いながら……。

 (尚、原作のシズクとスラ吉は瀕死のボロボロ状態で回復された模様)


 最上階には神が残したとされる聖武器があり、ローグ達はちゃっかりと手に入れた。

 そんなしょーもない回だ。


 無論、テンプレ通り感想欄は荒れたけどな。

 アンチ読者から「こいつらまたやりやがった」「もはや犯罪集団w」「主人公がイチャコラ目的で不法侵入ってどーよ?」とツッコまれ、妄信的な読者からは「ヒロイン達と絶景を堪能しながらイチャコラして何が悪い?」「結果は同じことだし誰も不幸にしてねーだろ!」「応援しています! 先生が思うがまま執筆してください!」と相変わらず意見が割れていた。


 肝心の鳥巻先生は新刊の準備だかでスルーだったけどな。


 そういやラノベ版のあとがきで「正規に手続きを踏んでもローグ達は余裕でクリアしていました。侵入はつい夜の景色にこだわってしまった故です」と釈明しつつ、「ギリギリな部分を攻めないと作品は売れない。多少モラルに反しても所詮は世に出してウケたもん勝ち。ラブコメ主人公の隣席にセ(ピーッ)女子がいたり、おっさんが家出した女子(ピーッ)をお持ち帰りにするやつもそーだろ?」などと他ジャンル作品を引き合いにして棚に上げながら主張していた。

 

 相変わらず最悪の持論だが、それは置いといて。

 ラウルの話によると、今の『ラダの塔』は大分事情が異なっていた。


「――半年ほど前です。突如、ラダの塔に異変が起こり、今では魔物が住み着く迷宮と化しているとか」


「ガチで!? 原作とちげーじゃん!」


 驚愕するあまり、つい素のタメ口でぶっちゃけてしまう。

 俺は慌てて口元を押さえ「すまん、なんでもない……」と訂正した。


「それでラウルさんが、オルセアから呼ばれたというわけですか?」


「はい。国としても、このまま放置できないと判断し、各地のギルドから腕利きの冒険者達を集っているようです。私も祖国が故に名指しで招集された次第でして……」


 ソロとはいえ第一級冒険者だからな。

 嫌でも声が掛かるのだろう。

 だけど随分と気まずそうな表情を見せてくる。


「国に戻ると何か不都合でも?」


「まぁ昔色々ありましてねぇ……前のパーティを追放されたアルフレッドさんならわかってくれると思いますが、何分人に話せる事柄でもないので……はい」


 意味ありげに答える、ラウル。

 ワケありのようだが、オリキャラだけに彼が抱える事情はさっぱりわからない。


 とはいえ、今回の異変……。

 俺は夢で見た、鳥巻八号の言葉を思い出す。


(これも破綻へのムーブってやつなのか?)


 ――物語の破綻者デウス・エクス・マキナ


 それが、この異世界における俺のポジらしい……。



◇◆◇



 10日後。

 無事に、オルセア神聖国に辿り着く。


 問題なく検問所を通り、商人達と別れた。

 護衛クエストの報酬金はオルセアの冒険者ギルドでも受け取ることができる。


 俺達はギルドに赴き、ついでに問題となっている『ラダの塔』を見ることにした。

 神聖国と謳っているだけあり、清楚感溢れる王都の街並みだ。

 だがすれ違う人々の恰好はよそ者風で、どちらかと言えば俺達のような冒険者に近い。


「みんな塔の登頂を目指す冒険者ばかりですね……依頼主は国王バイル陛下という話です」


「国王直々のクエスト……そりゃ報酬も良いだろうし、制覇したら英雄扱いだ」


 しかもパーティ全員に聖武器が手に入るのだから気合も入るわな。



 間もなくして、聳え立つ建物が見えてくる。

 まだ結構離れているのに高々と上空まで達している白い塔。


 ……あれが、ラダの塔か。


 外観は特に異変はないように見えるが。



 ラダの塔に近づき、1階の冒険者ギルドへと向かう。

 ちなみにモンスターは20階から棲みついており、下に降りようとしたり外に出るようなことはないようだ。

 それでも上にモンスターが巣くっていれば、ギルド側としては気が気じゃないだろう。


 ギルド内では白い鎧を纏った騎士団が、モンスター討伐のため共に登頂する冒険者を募っている。


「勇気と根性がある冒険者を求む!」


 と謳っていた。


「とあえず報酬を貰って、応募だけしとくか?」


 俺の問いに、ガイゼン達は「そうだな」と頷く。


「ラウルさんはどうするんです?」


「……そうですね。しばらくアルフレッドさん達と行動を共にしてもよろしいですか?」


「つまり【集結の絆】に入団したいと?」


「はい……臨時加入で構いませんので、ご迷惑でなければ是非に」


「俺達は大歓迎です。何せ、ラウルさんは第一級冒険者ですし……なぁガイゼン?」


「ああ、特に男は大歓迎だ(このパーティ、女子率が高すぎるからな)」


 女子達も「別に構わない」と言ってくれる。

 ラウルも冒険者の実力だけじゃなく、温厚で紳士的な人柄に好感が持たれているようだ。


 基本【集結の絆】は「気の合う仲間同士が力を合わせて楽しく冒険する」のをモットーにしているからな。

 まぁ鳥巻原作のパーティじゃ、ハーレム要素を尊重するあまり、まず男仲間の加入なんて絶対にあり得ないけどね。


 その後、ギルドに「ラダの塔攻略」の参加を申請した。

 アタックの日程など、後ほど騎士団から知らせが届くとのことらしい。

 とりあえず今日はすることがないので、景気づけにと地元のラウルの案内でオルセア人気の酒場「宝満ぷく亭」で宴会することになった。


 が、


「――もう一度言ってみろ、貴様ァ!」


 何やら周りが騒がしいじゃないか……。



―――――――――――

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