第51話 悪役と他国の勇者



 俺達が食事を楽しむ傍らで揉め事が起こっているようだ。

 冒険者風の男女が複数人ほど何かを言い争っている。


「何度でも言ってやるぜ、雑魚が! テメェら【大樹の鐘】がラダの塔に挑むなんて10年早ぇんだよ! また仲間を無駄死にさせるだけだろーが!」


 一人は獣人族の若い男。白狼系ホワイトウルフだ。

 高身長で痩せマッチョ、精悍な顔つきをしている。

 腰に短剣を備えている以外、装備らしき物がない。格闘家ファイターか?


「貴様ら【戦狼の牙】に言われる筋合いはない! 我らとてまだ黄金ゴールドクラスである以上はアタックする資格はある!」


 威勢よく言い放っている口振りの割には、洗練された美しさを誇る綺麗な少女だ。

 白肌に長い両耳、ショートカットの金髪に空色の瞳をしたエルフ族。

 背に弓を携えており、弓術士アーチャーだと察した。


 何やら「ラダの塔攻略」に参加云々で揉めているらしい。

 どちらにせよ、あまり関わり合わない方がよさそうだ。


黄金ゴールドクラスってよぉ! たった三人じゃねーか! まともに前衛すらいねぇパーティが同じ肩を並べている時点でうぜぇんだよ、この糞雑魚共が!」


「貴様ァ! 仲間への冒涜だけは許さんぞ!」


 すっかりヒートしちまっている。

 そのうち取っ組み合いになるんじゃないか?


 一見して白狼系ホワイトウルフの兄ちゃんは言葉こそ悪いが、内容自体は案外まともだ。

 無茶しようとするエルフ姉ちゃんへの警告にも聞こえる。


 まぁ部外者でよそ者の俺としては無視が一番だろう。

 前世の社畜時代でも後輩の佐々木君と居酒屋で飲んでいた時、酔っ払い同士の喧嘩を見かけたものだ。


 一番印象に残ったのは大学生同士が揉めていた内容だ。

 彼らは文芸サークルだかで、何やらお気に入りのラノベ作家を嘲笑されただがで腹を立てていた。

 

 何を隠そう、そのラノベ作家こそ鳥巻八号のことだ。



◇◆◇



「おい、お前! もういっぺん言ってみろ! 鳥巻先生がガバ作家だと!?」


「ああそうだ! 鳥巻八号はローグを無自覚系主人公に仕立てたいようだが、いちいち『やれやれ』の使い方が雑すぎるんだよ! あれ絶対に『主人公に言わせておけば読者にウケるんじゃね?』って、適当に思っているだろ!? 所詮はエタり散らかす粗製乱造作家だわ!」 


「んだと、テメェ! 鳥巻先生がいつエタり散らかしてんだ、コラァ! 飽きたら新作ばっか投稿する(バキュン!)と一緒にすんじゃねーっ!!!」


「ちょっと先輩達、やめてくださいよぉ!」


「「うっせーっ! 牧田は引っ込んでろぉぉぉぉ!!!」」



◇◆◇



 ぶっちゃけ喧嘩より、きっかけとなった内容に驚いたけどな。

 鳥巻信者達、ガチでやべーよ。

 巻き添えになっていた、牧田って青年が可哀想だったわ……。



 てなわけで。

 他人の揉め事なんぞいちいち構ってられない。

 だから無視だ。


 そう決め込んでいると、


「ちょっとぉ! あんた達、超うるさいんだけどぉ、ヒック!」


 なんとピコがフラフラと飛びながら、二人に絡んできた。

 こいつってば何してんの!?

 どうやらまたエール酒をガブ飲みするあまり、出来上がってしまったようだ。


「フ、妖精族フェアリーだと?」


「んだぁ、このちんちくりんが!」


「キャッ!」


 白狼系ホワイトウルフの男が、指先でピコを弾いた。

 おっと。酔っぱらっていたとはいえ仲間に手を出しちゃ、流石に見過ごせねぇな。


「――おい、あんたらいい加減にしろよ! ピコは酔ってこそいるが、何も間違ったこと言ってねーぞ!」


 俺は席から立ち上がり、連中の間に割って入る。

 床に落ちたピコを手に乗せて抱えた。


「んだぁ、眼帯野郎! テメェは何モンだぁ!?」


「アタシの彼氏よ! ヒック」


 ちげーよ、ピコ。いい加減、酔いを醒ませ。


「俺はアルフレッド。ルミリオ王国から来た冒険者だ」


「冒険者の男が、何故妖精族フェアリーを連れている!? 本来、他種族との交流を避け深き森に住む、尊い種族だぞ!」


 エルフ少女がやたらと絡んでくる。

 そういや、エルフ族も本来は閉鎖的種族であり、妖精族フェアリーとは遠い親戚関係にあるとかないとか。


「んなの答える義理はない(1000万Gで購入したとは言えない)! 揉め事なら外でやれと言っている!」


「――アルフレッド君の言う通りだぞ、ザックにリュン」


 どこからか透き通るような男の声。


 途端、何故か周囲が騒然となる。

 ザックと呼ばれた白狼系ホワイトウルフと、リュンと呼ばれたエルフ族の少女が表情を歪ませ「ぐっ!」っと奥歯を噛み締めた。


 一人の男が歩いてくる。

 丁寧に分けられた紺色の髪、四角い眼鏡を掛けた中性的な顔立ち。

 綺麗なスーツ姿で貴族のような装いであり、場に似つかわしくない紳士風で爽やかな好青年だ。


「――彼は、テスラ。オルセア神聖国の勇者にして第二王子です」


 いつの間にか、ラウルが俺の背後に立ちぼそっと教えてくる。

 勇者? それに王子だって……この兄ちゃんが?


 テスラという勇者は「ん?」と俺の背後に立つ、ラウルの方を見つめる。


「……兄さん、戻って来ていたんですね?」


 兄さん? ラウルが?

 え? ってことは……。


「――ラウルさん、あんた王族だったのか!?」


 しかも第二王子から兄と呼ばれているってことは、第一王子……つまり次期国王!?


「元です。私もアルフレッドさん同様、追放された身……もう関係ありません」


 追放された? 王族から……なんか凄ぇ訳ありっぽいぞ。


「……追放ですか。自分から国事を放棄して逃げ出しておいてよく言う……まぁいいでしょう。それよりも、ザックとリュン、今僕が言った通りだ。ここでは他人の迷惑になる。揉めるなら外でやりたまえ」


「チッ、うるせーっ。偉そうにするのは城の中だけにしろ。行くぞ、お前ら――」


 ザックは大勢の仲間達を引き連れ店から出て行った。


 リュンは「フン」と鼻を鳴らし、一人でちびちびと酒を飲んでいる。

 そういや彼女は仲間が二人しかいないらしい。

 とりあえず、テスラという勇者王子のおかげで場が収まった。


「どうもありがとうございます……そのぅ、テスラ殿下」


「テスラでいいですよ、アルフレッド君。見たところ同い年のようですし、それに同じ勇者じゃありませんか?」


「勇者? 俺が?」


「ええその腰に携えた剣、紛れもなく聖武器。ルミリオ王国の象徴、グランダーでしたっけ? 所有者を選ぶ聖剣ですね」


 ああ、まぁそうだけど……。


「仰る通りなのですが、なんと言いましょうか……聖剣を抜いたことには変わりないのですが、まだ私はその域ではないという感じで……そのために、ギルドでラダの塔に挑戦しようと申し込んだ次第です」


「なるほど。であれば明日、我が王城で決起会がありますので是非に参加してください」


「決起会ですか?」


「ええ、選抜された有能な冒険者のみが招集される会議の場です。ラダの塔攻略と棲みついたモンスターの一掃に向けての作戦会議を行います」


 目的は同じだし、なら断る理由はないか。


「わかりました、是非に……」


「それでは明日また……兄さんもね」


「ええ行くだけ行きますよ、テスラ殿下・ ・


 弟と違い、ラウルの方は距離を置いた言い方をしている。

 テスラは軽く会釈をして酒場から出て行った。


 紳士風の好青年だが、なんというか圧が半端ない。

 あれが本物の勇者オーラって感じか……。


 原作主人公のローグより、よほど威厳があるぞ。

 あいつも聖剣を抜いたにもかかわらず勇者オーラじゃなく、イキリ散らかす故にまともな読者達のヘイトを溜める一方だったからな。

 某動画サイトでも散々酷評を受けてたのを思い出すわ。



「どうやら彼は私と噂のアルフレッドさんがここにいると聞きつけ、わざわざ顔を出しに来たようですね……」


 ラウルはぽつりと呟いている。

 俺達の目的には影響ないけど、何やら面倒なことに巻き込まれつつあるような気がしてならない。

 これも鳥巻八号が夢で言っていた、ムーブってやつだろうか?


「……皆さん、すみません。嫌な思いさせて」


 席に戻った途端、頭を下げて見せるラウル。


「ラウルさんが謝る話じゃ……元々酔っぱらって絡んだピコが発端だし」


「アタシは悪くないわ、ヒック! 当然のマナーを主張したまでよ、ヒック!」


 この妖精族フェアリー、まだ飲んでやがる。

 反省ゼロじゃん。

 誰か、そろそろこいつ止めろよ。


「いえ、私が謝っているのはテスラの件です……さっきも告げた通り、我が家のことでアルフレッドさんを巻き込む形になってしまいました」


「……巻き込むですか? ラウルさん、相当な事情を抱えているようですけど、弟さんと何かあったんですか?」


「……弟ですか。確かに彼とは異母兄弟ではありますがね。俗に言う王位継承争いといいましょうか。私はそんな弟を含め我が家から逃げてきたんです……命からがらね」


「命って……え? テスラ殿下に? 勇者なのに?」


 俺の問いに、ラウルは無表情のまま淡々と詳細を話し始めた。



―――――――――――

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