第52話 新たな仲間の事情



 ラウル・ファブル。

 ファブルは母親の姓であり、本名はラウル・フォン・オルセア。


 第一王子であるラウルは本来なら王位継承権、第一位であり事実上は次期国王を約束された身分だ。

 しかし母親を早くから亡くし、第二王妃ウェンディが息子である第二王子のテスラに王位を継がせるため、事あるごとにラウルを失脚させよう画策してきたらしい。


「――父こと国王バイルは私に王位を継がせ、武勇に優れた弟のテスラを英雄職である勇者として国内の情勢を盤石にしようという構想があったようですが、第二王妃ウェンディが欲深い人でして……よく嫌がらせばかりさせられていました、はい」


 宴会後。

 俺達は宿屋の一室で集まり、ラウルから事情を聞いている。


「ラウルさん、命まで狙われているんですよね? そのテスラ殿下とウェンディ王妃から……」


「……いえ、テスラは何も知りませんし、そこまで関与していない筈です。せいぜい自分の母親が義理の息子である私を煙たく思っている程度でしょうか。実際に私の命を狙っていたのは、ウェンディと彼女の配下である護衛の者です」


 だからラウルは身の危険を感じ、自分から王位継承を放棄して国を出て冒険者になったそうだ。

 そしてどのパーティにも所属せずソロである理由もここにあるらしい。


「……ぶっちゃけると、私は最初から王になることに興味がありませんでした。亡くなった母親も辺境部族の呪術師シャーマンであり、私もその血を濃く受け継いでいましたので……この髪の色と獣系モンスターに好かれやすい体質も、それらが影響していると思っています」


 なんでも馴れ初めはバイル国王が若き頃、旅に出て辺境地で怪我を負い、その母親となる少女に助けられたことがきっかけだとか。


「だけどラウルさんが生きている以上は、王位継承権は貴方にあるんじゃないですか?」


「アルフレッドさん、随分と詳しいですね? 思いの外、博学のようだ」


「いえ、まぁ(前世の知識として喋っているんだけど)」


「仰る通り父が認めない限り、私はあくまで第一王子のままです。今回、わざわざルミリオ王国の冒険者ギルドで私を呼び寄せたのも父の仕業でしょう」


「だったらこうして戻ってきて良かったんですか? またウェンディ王妃に狙われるんじゃ……」


「でしょうね。けど今の私とて第一級冒険者の調教師テイマーです。この子達が護ってくれます」


 ラウルが言いながら袖口から幾つかのカードを取り出し見せる。

 彼のスキル《封印手札シールカード》で収納されたモンスター達だ。


「……まさかあんたよぉ。それが理由で臨時にせよ【集結の絆】に入ったのか? オレ達に護衛させるためによぉ」


 黙って聞いていたガイゼンが勘繰る口調で指摘してくる。


「確かに私がのこのこ国に戻ってくれば、義母のウェンディも黙ってない。否が応でも、一緒にいる皆さんにご迷惑をお掛けするかもしれません。だからあえて目立つように振る舞い、テスラにアフルレッドさんと会わせることにしたのです」


「俺に会わせる? どういう意味ですか?」


「勇者のテスラに同じ聖武器を持つアルフレッドさんを認知させることで、ウェンディが手を出せなくするためです。現に彼から決起会に参加を呼びかけられたことで、少なくとも『ラダの塔攻略』までは手を出すことはできなくなりました。義母もテスラに知られるわけにはいきませんからね」


 なるほど、ついでにクエストに参加するラウル自身も守れるってわけか。


 保留扱いにせよ他国の勇者候補に何かあったら国際問題になるからな。

 それにラウルも優秀な第一級冒険者の肩書が生かされているわけだ。


「……それで、ラウルさんは何が目的で命を懸けて祖国に戻られたのです?」


 シャノンが聞いている。

 確かに父親の命令にせよ、んなの無視すりゃいいだろって話だ。


「――父バイルに会うためです。直接会って、『王位を継ぐ気はない』と伝えるため。皆の前で宣言すれば、流石に認めざるを得ないでしょう。そうすれば命を狙われることもなくなります……今時点で、私から動いたら義母に勘繰られ阻止されますが、『ラダの塔』を攻略すれば否応でもその機会が得られると思っています」


「いっそ、ウェンディって王妃の悪事をバラしたら?」


 パールの率直な問いに、ラウルは首を横に振るう。


「……それではテスラが悲しみます。弟は些か傲慢な性格ではありますが、根は正義感溢れる家族思いの優しい弟です。現に逃げ出した筈の私を未だ兄と呼んでくれています。おそらく私のことは王位を継ぐのを拒み家出した、自由奔放で身勝手な兄だと思っているでしょう。実際そうですし……はい」


 やべぇよ、ラウルさん。

 めちゃ弟思いのいい人なんですけど……なんか泣けてきたぞ。


 俺は基本、この手のまともな善良キャラに弱い。

 原作の男キャラの大半は主人公様にイキリられるざまぁサレ役か、主人公様を全肯定して気持ち良く持ち上げる舞台装置ヨイショ扱いだからな。

 しかもラウルはオリキャラだけに薄っぺらさがなく芯の強い人格者だ。


「なら俺達でラウルさんを護ってやればいい。もう仲間なんだし……旅は道連れ世は情けだ。もういっそ、【集結の絆】に正式加入してくれたらどうです?」


 俺の言葉に、パーティ全員が笑みを浮かべ頷いてくれる。


「アルフレッドさん、皆さんも……ありがとうございます。私も全力でパーティを支えるよう尽力することをお約束いたします。こちらこそ、どうかよろしくお願いします」


「おっし! ラウルさんが加われば、ラダの塔も登頂まで目指せるかもしれない!」


「はい頑張ります……あとアルフレッドさん、私のことは呼び捨てで構いませんよ。敬語も不要です」


「え? けど年上だし……等級も上なわけですし」


「けど貴方は【集結の絆】の団長だ。私は団員となったわけですし、体裁上必要でしょう」


「そ、そぉ? んじゃラウル、これからもよろしくな!」


 こうして、ラウルが正式にパーティに加わった。



◇◆◇



 次の日。


 オルセア神聖国の王城にて、「ラダの塔攻略」クエストの決起会が開かれた。

 参加する中でも特に高ランクかつ有能パーティとして招かれた冒険者達が設置されたテーブルを囲む形で大部屋に集結している。


 その中に俺達【集結の絆】も含まれており、団長の俺と副団長のガイゼンとシャノンと彼女の肩に乗るスラ吉、そしてラウルが着席していた。


 また昨日、酒場で揉めていた【大樹の鐘】のリュンと【戦狼の牙】のザックの姿も見られている。

 リュンはぽつんと一人でいる傍ら、ザックは厳つそうなメンバーが5人ほど並んでいた。

 なんでも【戦狼の牙】は集団クラン規模のパーティらしく、幹部を含め30名が在籍しているとか。

 まるでオルセア版【英傑の聖剣】って感じだ。


「リュン、あれほどやめとけって言ったのにガチで来やがったのかよ。恥ずかしくねーのか?」


「黙れ、ザック! 無駄に人数が多ければいいってものじゃないってことを教えてやる!」


 相変わらず両パーティの団長は険悪のようだ。

 理由は知らんけど。


 んな感じでざわついていると、中央の席に座る勇者にして第二王子のテスラが「んん!」っと強く咳払いをしてきた。


「――皆が集まったことで、これより決起会を始めたいと思う」


 テスラが指を鳴らすと、背後で待機していた騎士達が資料を渡してくる。

 用紙にはラダの塔の内部構造が表記されていた。


「皆も知っていると思うが、半年前より魔物が巣食い別の意味で冒険者達の行く手を阻んでいる。手渡した資料は奴らが占拠する前の状態だ。報告によると、今では見る形もなく迷宮と化しているとか……これまで騎士団を始め多くのパーティが討伐に挑んだが、いずれも大した成果が挙げられていない。諸君らにこうして集まってもらったのも、『ラダの塔』制覇と魔物一掃を同時に成し遂げるための大編成だ。高ランクの諸君らと手を組みアタックすることで、この二つの偉業を成し遂げたいと思っている。我がオルセア神聖国の象徴たる神殿を取り戻すため協力して欲しい、以上だ――」


 テスラは説明を終えると、「挙手にて質問を受け付ける」と告げた。


 ちなみに棲みついているモンスターのタイプは「魔蟲型」がメインらしい。

 魔蟲は縄張りから離れることは滅多にないので、ラダの塔から出て行く可能性が低いとか。


 武者修行に訪れたつもりが、まるで難攻不落の要塞に潜入するノリになってきたぞ……。



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