第53話 波乱の攻略会議



 しばらくの沈黙後、ザックが挙手した。


「テスラよぉ、ラダの塔を登頂した後、聖武器はどうなるんだ? これだけの人数に割り当てられるっていう保証はあるのか、おい?」


 相変わらず口が悪い白狼系ホワイトウルフの獣人族。

 勇者であると同時に王族のテスラに向かって、もろタメ口以上だ。

 まぁローグなんかより的を射る内容だけどな。


 ざっと見て、この場だけでも30人以上はいる。

 待機している団員と騎士団を含むと、余裕で100人は超えるに違いない。


「古文書によると、ラダの塔に眠る聖武器は巨大な球体で構成された素材であると記されている。制覇した者達が触れることで、分割され各々に適応した武器へと変換されるようだ」


「だったら、これだけの面子に割り当てられるのか? 胡散臭せぇな……」


 確か原作じゃ、ローグとシズクのヒロイン達が同時に触ることで鎧やら武器やらアイテムとかに変化された記憶がある。

 ローグは既に聖剣グランダーを手にしていたので携帯が可能な聖盾だったな。

 聖武器はサイズ調整が思いのままだが、ザックじゃないけどこれだけ人数に割り当てられるかは謎だ。


「――キミの言う通りだ。何も保証はない……ならばボスを斃したパーティが聖武器を手にするというルールを設けよう」


「つまり49階まで協力して、ボス戦のみ好きに戦っていいってことか?」


「そういうことになる。また他所のパーティと組むのもありだ。特に【大樹の鐘】は前回のアタック失敗で多くの団員を失っていると聞く。その方がキミ的にも都合がいいんじゃないか、リュン君?」


「……はい、殿下。いえ、勇者テスラさん」


 リュンは奥歯を噛みしめ一礼して見せる。

 それで団員が彼女を含め三人しかいないのか。


 あとテスラは勇者モードの際、王族としての礼節は不要と謳っているらしい。

 だからザックはタメ口のようだ。


「ちなみにボスってどんな奴ですか?」


 俺が挙手して訊いてみる。


「……登頂した者がいないのでなんとも言えないが、ダンジョン化している以上、そういった類は必ず存在する。おそらく最上階の50階がボス部屋という形だろう」


「んじゃよぉ、宝箱や魔道具アイテムとかもあるかもな」


「ザック君ではないが存在するようだ。基本は発見した者が所有すればいい。尚、略奪行為は認めないよ。少なくても50階層までは互いに協力し合うこと、それが絶対条件だ。わかったかね?」


 テスラに念を押され、各自の団長と団員達が頷いている。

 鳥巻八号の主人公ご都合主義展開ローグ・ガバから外れたイベントとオリキャラ達だけに、みんな思いの外まともな思考を持っているようだ。


 話が落ち着くと、テスラの隣に座っていた魔法士ソーサラーの女性が起立する。

 長い紫色髪で中々の美女だ。

 彼女はフィーヤといい、勇者パーティの参謀ポジだと言う。


「――では、これから共闘する上で自己紹介の場といたします」


 そう告げると、各々の団長が順番に起立してパーティ名とランクを紹介していく。

 選抜されただけあり、全員が白金プラチナクラスや黄金ゴールドクラスのトップランクばかり、しかも全員が第一級冒険者だ。


 なんだか嫌な予感がしてきたぞ……。


「次の方、お願いします」


 フィーヤに呼びかけられ、俺は立ち上がった。


「……アルフレッド、第三級の剣士セイバーです。【集結の絆】の団長を務めており、パーティランクは白銀シルバークラスです」


 そう告げた途端、周囲が一斉にざわつき始める。

 やっぱりそうなるか。


「第三級? 白銀シルバーだって?」


「おいおい冗談だろ?」


「無能とまでは言わないが……普通じゃねぇか」


 なんだか空気が悪い。

 まぁ、この錚々たるパーティ達じゃ浮いて当然か。


 すると、ザックが勢いよく椅子から立ち上がる。


「おい、テスラ! どういう了見だ!? ここには選抜された実力者しか呼ばれねぇんじゃなかったのか、コラァ!?」


 だがテスラは動じることなく、テーブルに両肘を立てて寄りかかった状態で口を開いた。


「……アルフレッド君はルミリオ王国の勇者候補だ。パーティもたった数人で魔王軍の侵攻を阻止し将軍クラスの魔族を討ち取った実力者だ」


「つまり同盟国であるルミリオ王国トップってか? 俺様が知る限り、ルミリオ王国のトップは【英傑の聖剣】のローグって奴じゃねーのか!?」


「ならば頼れそうな【英傑の聖剣】を招き入れろと? キミらはトップでありながら、自国を支えようとする矜持がないのかね?」


「んだと!?」


「僕も【英傑の聖剣】については調べてある……確かに驚異的な実力者ばかりだが、団長のローグを始め素行はよろしくないとか。特にローグは淫行問題と王族へのタメ口が問題視されているようだ」


 ついに他国にまで悪評が行き届いていた、ローグくん。

 あいつ、いったいどこまで落ちぶれるんだろう……。


「なら、この連中はなんだ!? 俺らからすりゃ、全員雑魚じゃねーか!」


「口を慎め、ザック!」


 不意にトーンが変わる、テスラ。

 ドスを利かせた迫力に満ちた口調。


 その迫力に、ザックでさえも「うぐ……」と声を震わせ後退りする。


「……アルフレッド君は僕と同様、聖武器に選ばれた者だ。この場にいる資格は十分にある。彼と行動を共にする団員達も同様だ」


「そ、それはあんたの兄貴がいるからじゃねぇのか、なぁラウルさんよ!」


 ザックに振られ、ラウルに視線が集中する。


「ラウルって……この国を逃げ出した王子?」


「ああ、国事の全てを異母兄弟のテスラさんに丸投げした駄目王子だろ」


「なんで、のこのこオルセアにいるわけ?」


 全員が酷い言い様だ。


 きっと義理母のウェンディが企て、そのように風評を広めてきるんだろう。

 たとえ国王がラウルに王位を継がせようと、民衆が強く反対し拒むように――。


 テスラは「んん!」と強く咳払いをした。


「指摘の通り彼は僕の兄だが、今は【集結の絆】に所属する第一級冒険者だ。キミらが大好きな肩書で言えば、この場にいても可笑しくない部類だろ。違うか?」


 ド正論で言われ、ザックを含む冒険者達は口を噤み何も言えなくなる。

 完全に論破された形だ。


 異母兄のラウルが言う通り多少傲慢なところはあるが、聖武器に選ばれた勇者だけあって人格が備わっている。

 俺はテスラという勇者に対し、そう印象を抱いた。


「それとあと一人、お声を掛けた冒険者がおられるのですが本日は欠席されております……」


「知る人ぞ知る呪術師シャーマンのソーリアだ」


 フィーヤに続く形でテスラが捕捉の説明をする。

 だがその名が出た途端、再び周囲が騒然となった。


「ソーリア? あの変人女か……マジかよ」


「確かに凄腕の第一級冒険者だが大丈夫なのか?」


「イカレすぎて誰にも相手にされない奴だろ……」


 どうやらローグ並みに悪評がある呪術師シャーマンのようだ。

 尚ラダの塔攻略は二日後に行われるらしい。


 こうしてぐだぐだな感じで決起会は終わった。



◇◆◇



「……あんな調子で大丈夫なのか?」


 帰り道にて、ガイゼンが不満を漏らしている。


「わたしも心配です。勇者テスラが強引にまとめていましたが、結局皆さんの意識はバラバラでしたし」


「すみませんねぇ、シャノンさん。弟がご迷惑をお掛けして……」


「いえ、別にラウルさんが謝るところではないと思います。寧ろ勇者テスラの采配は見事だと思いますよ」


 シャノンの言う通り、テスラだから場をまとめたようなものだ。

 あの場にいた全員が「俺様がトップ」という自己肯定感が半端なく、共闘も何もあったもんじゃない。ぶっちゃけ、皆イキリ散らかすローグに見えたわ。

 こりゃボス戦じゃ互いに足を引っ張り合いになりそうだ。


 そう俺達が懸念している中。


「――【集結の絆】の皆さん、お待ちください!」


 一人の美しき女子が走って追いかけて来る。

 彼女は確か、【大樹の鐘】団長のエルフ族リュンだ。



―――――――――――

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