第10話 無自覚系主人公の本質



 あれから数ヶ月ほど経過した。


 これまでアルフレッドのやらかした素行を改めるための活動は続いている。

 理由はご存知の通り破滅フラグをへし折るためだ。


 自分の保身のため、パーティ以外の周囲も味方につけて損はないからな。

 前世の社畜時代に培ってきた処世術でもある。

 まず身辺整理として、過去に奴が迷惑を掛けた一般の人達に誠意を込めて謝罪しまくった。


 最も酷かったのは女性関係だ。

 ラリサのようなセフレ系のビッチなら割り切り「もういいわ」で軽く流してくれたけど、中には本気の女子もいたようで、その子らには土下座して慰謝料を渡し許してもらう。


 そして困った人達を見かけたら可能な限り手を差し伸べるように心掛けている。

 おかげで街中を歩く度、皆から笑顔で挨拶されたり気軽に声を掛けられるようになった。


 最近ではモンスターに襲われ被災地となった村に行き、炊き出しや復興支援などボランティア活動を行っている。

 聖女の神官プリーストシャノンに相談し、信頼できる幹部達だけに声を掛け参加してもらった。


 やはり当初、副団長のガイゼンから「アルフ、どうしちまったんだ? お前さんらしくないぞ?」と怪訝した口振りだったが、彼も人柄自体は悪くないので故郷に置いてきた妻と娘のことを思い出し参加してくれる。

 ローグもシャノンに声を掛けられ共に参加し、パールも俺の言葉にはイエス少女なので問題なく協力してくれた。


 おかげで【英傑の聖剣】の評価が上がり、俺ことアルフレッドは「自由なる剣士セイバー」と呼ばれている。

 しかし一部の者達の間では、豹変したアルフレッドの行動を「きっと何かを企んでいる偽善者野郎」と罵っている声があるらしい。


 まぁ以前の素行を考えたら、そう思われても仕方ないだろう。

 それでも俺は構わないと思っている。

 元震災国の日本人として無償の支援は美徳であるしな。


(まぁ前世ではブラック企業で疲労しまくり誰かを支援する余裕がなく、後悔しまくっていたこともあるったんだけどね……)


 けどそんな活動を続けるせいなのか、シャノンとの距離が益々近づいたような気がする。

 最近じゃ、俺によく優しい笑顔を向けてくれるようになり信頼感を寄せてくれる良い雰囲気だ。


 本来なら寝取りフラグをへし折るため、可能な限り関りを持つべきじゃない聖女様。

 でもやっぱり魅力的な美少女には変わりない。何より凄く性格の良い子だ。


 それに慈善事業活動もシャノンの協力がなければ成立しないところもある。

 だから仲間や友達として接する分には良いのかなと最近では考え方を改めていた。



「パールはもっと知力を高めて、ガイゼンは素早さとかを上げた方がいい。シャノンは魔力を高める訓練をお勧めするよ」


 幹部のみの食事中、俺はみんなに自主訓練を進めている。


「わかった、アルフ」


「面倒くせぇな……んなことしたことねーよ」


「アルフさんがそう仰るのであれば、そのようにいたしましょう」


 物臭なガイゼン以外は賛同してくれる。

 俺は瞳を細め、全身鎧姿の副団長を凝視した。


「お前のために言っているんだぞ、ガイゼン。日頃の努力と積み重ねは絶対に裏切らない。安易な力にばかりに頼っていたら身を滅ぼすぞ」


「……わかったよ、アルフ。しかしまるで教師みてぇだな。オレの方が年上だってのに……」


 口やかましくて悪いな。

 けどこれも、ざまぁされる側の保険。

 原作者、鳥巻八号のガバ対策だ。


 仮にローグの追放イベントが何かしらの形で強制的に発生した際、奴の《能力貸与グラント》で永続的に強化貸与バフ受けていた全てが没収されてしまう。

 そうなれば各々の能力値アビリティが低下するのは勿論、現時点で備わっている固有スキルも使用できなくなるからだ。


 したがって、パールの《無限魔力インフィニティ》は発動するのに知力が影響し、ガイゼンの《鋼鉄壁アイアン》は素早さがないと鋼鉄化した重さで身動きが取れなくなるという縛りがある。

 またシャノンの《聖女息吹《セイントブレス》》も魔力を大幅に消費してしまうため、これまで蓄積された能力値アビリティを失うと使用できなくなってしまうのだ。

 無論、俺の《神の加速ゴッドアクセル》もスキル経験値ポイントに影響する以上同様であった。


 だから転生してからすぐに剣術の鍛錬をしまくり、これまで強化された能力値アビリティを失おうとも自力で戦えるまで高めている。

 ちなみにこの異世界。テンプレのステータスは存在するが、それらを見ることができるのは主人公補正があるローグだけというガバ設定だ。

 

 したがってローグにも釘を刺す必要がある。

 あいつ、二軍メンバー達のクエストに雑用係として同行した際、また勝手に強化貸与バフを施している疑惑があった。


 だってあの野郎、やたらすっきりした賢者モードの顔で帰ってきやがるもん。

 俺があれだけ駄目だと言っているのに絶対にやりやがったとしか思えない。


 食後、ローグを俺の部屋に呼び出し二人っきりで話すことにした。



「――ローグ。お前、また断りもなく団員達を強化貸与バフしているだろ?」


「いえ、僕ぅ何かやっちゃっていましたか?」


 この野郎……何、無自覚系主人公みたいなこと言ってやがるんだ。

 俺は前世の頃から、その台詞を聞く度にイラっとするんだよ。


「とぼけるな。お前の固有スキル、《能力貸与グラント》のことを言っている」


「……やっぱり覚えていたんですね? だから古代遺跡のクエストから、やたらと念を押すようになったんですか?」


「まぁな……それまでど忘れしていたのは俺の責任だ(本当なら知能デバフのある、アルフレッドの責任だけどな)。しかし別に俺は付与術士エンチャンターとして強化バフを施すなとは言っていない……だが仲間に断りもなく術を施していることが問題だと言っているんだ」


「いいじゃないですか? 団員みんなが幸せになれるのなら。僕はそう思っています」


「通常のその時だけで効力が消える強化魔法バフなら問題ない……いや普通にあるよ、そもそも常識ねぇだろ? しかも《能力貸与グラント》は永続的にバフが上乗せされ続ける能力だ。何も知らない団員達は気づけば勝手に強くなったと勘違いして思い込んでいるんだぞ」


「それの何がいけないのでしょうか? 【英傑の聖剣】にとってマイナスはないと思いますけど?」


 ローグの野郎、すっとぼけやがって……いや実は自覚がないのか?

 考えてみれば奴自身が、どこまで自分の固有スキルを把握しているのかは不明だ。


 原作だと追放されたことをきっかけに、初めてスキル解除したことでこれまで蓄積された俺を含めた全ての団員達の経験値ポイントが自分へと移行し超破格的なレベルアップを果たし超人化を成し遂げている。

 しかも、「もういいや、スキル解除しよっと」って感じの軽いノリだった。


 それに今の時点でローグは自分が追放される運命にあることは知らない筈だ。


 だから、パーティ全体が強化される=仲間達が幸せになる。


 そう思い込んでいるのか……確かに間違った考えじゃない。

 要はローグが【英傑の聖剣】に居座り続ければいいからな。


 けど俺は……どうもローグのことが信用できない。


 追放された後もご都合展開ガバばかりで成り上がり、大した苦難も苦境に立たされることなく無双しまくり善人ぶる主人公様だ。

 ましてや、鳥巻八号の原作……やっぱ無理だろ?


 でも頭ごなしに決めつけるのも可哀想だ。

 ローグなりに仲間を思う気持ちは伝わっている。


「わかったよ……だったら、お前の《能力貸与グラント》を団員達に説明しよう。それで強化貸与バフを続けてもらいたいか、やめてほしいのか当人に一任したらどうだ?」


「アルフレッドさん、何を言っているんですか!? そんなのやめてください!」


 え? な、何?

 ローグ君ってばどうしてブチギレるの?



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