第11話 スキルジャンキーの本懐



 俺が提案したら、いきなりスイッチが入る主人公のローグ。

 何故かめちゃ怒ってきた。


「どうしたローグ? 何をやめてほしいんだ? 別に変なこと言ってないだろ?」


「だからみんなに僕の《能力貸与グラント》を説明したら困ると言っているんです!」


「なんで?」


「だって、こっそり強化貸与バフをしてあげることに意味があるじゃないですか!」


「は?」


 いや何言ってんの、こいつ?

 意味わかんねぇんだけど。


 するとローグの口端が吊り上がる。

 それは初めて目の当たりにした狡猾的な微笑だ。


「――実はこの僕ローグが影で支えていた的なサプライズってやつですよぉ。みんなのヘイトが感謝と羨望に変わる……僕はその日が来るのを夢みて、これまで無能者だと蔑まれようと、奴隷以下のパリシ扱いを受けようと我慢して頑張って来たんです!」


 やっぱこいつ確信犯じゃねーか。


 結局、その日とやらが訪れる前に、アルフレッドにシャノンを寝取られ追放されたってことじゃん!

 そもそも意図的に「実は俺」とか目指すって可笑しいだろ!?

 いったいどんな主人公だ、コラァ!

 実はこいつ、原作の展開を知ってんじゃねぇの!?


「もういい、話にならん! とにかく今後は勝手にスキルを使うなよ! 説明なしに団員達を強化したら、ただじゃすまないからな!」


「ええーっ! アルフレッドさん、そんなぁーっ!」


 そんなぁじゃねーよ! 被害者ぶりやがって、当たり前のことだろ!?


「どうしても強化させたいのなら本人の了承を得てからにしろ! じゃないと俺が全部ブチまけてやるからな、以上ッ!」


 俺は強引に話を終わらせ、ローグを部屋から追い出した。


 奴は廊下で「うわぁーん、あんまりだぁぁぁぁ!!!」と泣き喚いている。

 もう無視しよう……疲れる、ガチで。



◇◆◇



 それから一ヶ月ほど経過した。


 ローグは俺の言葉を忠実に守り固有スキルの使用を控えているようだ。

 けど小耳に挟んだ話によると、奴は時折誰もいないのを見計らい一人で絶叫しているらしい。


「ウギャァァァ! スキル使いてぇぇぇ、使わせろよぉぉぉ――ッ!!!」


 などと怨恨の如く。


 すっかりスキルジャンキーの禁断症状が出ているようだ……。

 このまま武士の情けとして見守るべきか、何かしらの対策を考えるべきか迷ってしまう。



 などと頭を抱えていた、とある夜。


 シャノンが俺の部屋に訪ねてきた。

 普段の神官服とは違う薄着の寝巻姿。

 清楚系の美しき容貌とは異なり、豊満な胸と艶めかしい曲線美が浮き彫りとなっている。


 一瞬、「まさかシャノンが夜這い!?」と勘繰ってしまい胸をトキめかせる俺がいた。

 けど彼女は少し天然のところがある。ただ警戒心が薄いだけだろう。


 しかし、このアルフレッドの前でしてよい格好じゃない。

 精神が俺でなければ、今頃速攻で押し倒されているぞ……まったく。 


「アルフさん、夜分に申し訳ございません。実は折り入って相談がありまして……」


「わかった、入ってくれ」


 俺は扉越しに立つ、シャノンを招き入れた。

 下手に他の団員に見られたら妙な噂が立っちまう。

 シャノンを椅子に座らせ、俺は自分のベッドに腰を下した。


「それで俺に相談って?」


「ええ、実はローグのことで……ここ最近、彼の様子が可笑しいと感じまして――」


 シャノンは柔らかそうで艶のある唇を動かし、事の経緯を話し始めた。


 最近、ローグは部屋で引き籠っていることが多くなっているとか。

 心配したシャノンは部屋に訪れると、ローグはベッドの上で三角座りをして親指の爪を齧っては一点を見つめてブツブツと何かを呟いているそうだ。


「……その時、彼はなんと言っているんだい?」


「はい。『どうしてスキルを使ったら駄目なんだよ』とか『スキルを使わせろ……使わせてくれよ』など、意味不明な内容を延々と呟いていました」


 ついにシャノンの前でもスキルジャンキーぶりを晒すようになったのか?

 おまけに相当、精神が病んでいる。

 ちなみに幼馴染で恋仲とされるシャノンでさえも、ローグの固有スキルを知らされていない。


 この異世界では、ある一定の年齢に達した者は教会や神殿などで《スキル降臨の儀式》を行うという設定がある。


 ローグはずっと「仲間の能力をちょっとだけ付与させるだけのスキル」と言い張り、詳細を一切語らずさも「ハズレスキル」を演出していた。

 きっと、最もイキって見せたいシャノンにぎりぎりまで打ち明けず「実は俺――」をしたかったのだろう。

 その頃から既に病気が始まっていたようだ。


「……わかった。俺からローグに問い質してみるよ」


「ありがとうございます、アルフレッドさん。それとローグに関して一つ報告したいことがありまして……」


「まだ他にあるの? いや、ごめん……聞かせてくれ」


 せっかくシャノンからの相談ごとだ。

 内心じゃ「もうローグの件はお腹いっぱい」とうんざりしながらも無下にできない。


「はい。どうやら彼……自分の部屋でこっそり魔物を飼っているようでして」


「なんだって? それは本当なのか?」


「ええ、なんでも二軍メンバーとのクエストで拾った低級のスライムみたいなのですが……しかしスライムにしては異常なほど魔力が高いようで、ローグは必死に隠しているようでしたが身を隠したベッド下から魔力がただ漏れでした」


 魔力の高いスライム……あっ、思い出したぞ!


 ――スライムの『スラ吉』。

 原作だと、ローグにとって最初のパートナーとなるモンスターだ。


 確か奴が追放後、俺達から没収した貸与経験値バフポイントで強化しまくって最強スライムとなるバケモノの筈。

 え? ファンタジー世界で名前に「吉」とか漢字を使うのは可笑しいだろって?

 だって怪物作家、鳥巻八号の作品だもん。しゃーないだろ?

 しかも調教師ティマーでもない癖にモンスターをティムしている時点でガバだからな。


 どうせ得意の主人公補正でなんでもありなのだろう。

 けど問題はそこじゃない。


 スラ吉が原作とは違って既に強化されていることだ。

 あくまで憶測だが、ローグの奴は俺の指示で人間に《能力貸与グラント》を施すのを禁じてられているもんだから、スラ吉で鬱憤を晴らして強化バフしまくっているんじゃないかと思う。


 あのジャンキーぶりならあり得るぞ。

 明らかに動物……いやモンスター虐待だ。


「わかったよ。その事も含め、俺がローグと話をするよ。だからその件は俺に預からせてくれないか?」


「はい……ご相談して良かったです」


 シャノンは言いながら、頬をピンク色に染めて身体をもじもじとさせている。

 いつもは毅然としているのに何か様子が可笑しい。


「どうした? 他にも何かあるのかい?」


「い、いえ……そ、そのぅ、こうしてアルフレッドさんのお部屋に来たのは初めてでしたので、つい緊張してしまい……ごめんなさい」


「そうだっけ? ああそういや何かあれば廊下で立ち話だったか?」


「はい……だから嬉しいです。わたしを信用し、こうして招き入れてくれたことに……」


 え? 別に団員なら訪ねてきたら普通に入れるよ。

 この辺がシャノンの天然なところだな。


 けど彼女から俺の部屋に訪ねてくれたのは初めてだ。

 しかも寝間着姿で……あれ?


 これってまさか――ワンチャンいけるってやつじゃね?


 心の底で悪魔こと、アルフレッドの人格が囁いてきた。



―――――――――――

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