第96話 聖女と買い物デート
ギルドに出てから間もなくして。
「アルフ。オレはちょっくら郵便屋に行って、妻と娘に手紙と仕送りをしていく。本当なら二人をルミリオ王国に呼んでやりたいが、魔王軍の件もあるからな。都より田舎の方が安全だろ?」
「わかったよ、ガイゼン……いつも言っているが、配達員は女性を指名することをお勧めするぜ」
「……ああ、そうだったな。けど、なんでいつも配達員を指名させるんだ?」
「いや別に……」
原作だと、ガイゼンの奥さんは若い郵便配達の男と浮気して娘を連れて蒸発してしまっている。
それを回避するためとは言えない……。
まぁガイゼンも【集結の絆】の副団長として、下手な小貴族より稼いでいるからな。
第一級冒険者となり、ギルドでも一目置かれる
でも、ずっと離れて暮らしていると寂しくてついってこともある。
所謂、寝取り展開ってやつ。だからこそ万一の念押しだ。
「アルフ団長。私も国と連絡を取るため、ガイゼン副団長と行動を共に致します」
「カナデもか? 確か極東方面の『和国』だったな。わかったよ」
このサムライガールも両親が武家(騎士家系)出身で、定期的に近況報告をしているとか。
「それじゃマカ達も別行動だね」
「
「アルフ団長のおかげで詩も増えたしお披露目してくるよ」
マカ、ロカ、ミカの三人も副業に勤しむと言う。
「では私はティムした子達の育成に励むとします。近場のダンジョンで探索していきます。運が良ければ新しい子をティムできるかもしれません」
ラウルはダンジョンに潜りモンスター育成に勤しむそうだ。
ついでにスラ吉を同行させるよう頼んだ。
このチートスライムは今のところ、シャノンの言うことしか聞かない。
前回の王都を飲み込みそうになった件もあり、もう一人くらいストッパー役が必要だと判断した。
ラウルもモンスター愛が半端ないので快く引き受けてくれる。
「んじゃ、ボクも別行動ということで……」
「ああ、ソーリア。わかったけど、どこに行くんだ?」
「秘密だよ……うひひひ」
ソーリアは不気味に微笑み、一人どこかへ消えてしまった。
なんか怖くて詳しく聞けねぇ。
「それじゃね、アルフ。あの二人のことはパルに任せて」
実はパールにだけ朝の事情を話し、二人の監視役をお願いした。
この子はアルフレッドを兄として慕っており、下手に大事にしないので信頼できる。
そのパールはシズクとピコを連れて、魔導書が売っている店を回るそうだ。
こうして団員達は各々の用事を果たすべく、バラバラになった。
目論み通り、俺とシャノンの二人だけとなる。
「それじゃ買い物に行こうか?」
「はい、アルフさん」
優しくて綺麗な笑顔を向ける、シャノン。
よく考えてみれば、彼女と二人で歩くなんて滅多になかった。
今更ながら緊張してくるかもしれない。
「何を買われるのです?」
「主に
「言われてみれば【集結の絆】の
パーティの人数が増えるほど、
こういった雑用めいた作業も仕事の内に入るからだ。
いっそ募集でもかけようか、ふとそう思えてしまう。
二人で王都の露店を回り歩いていると。
「あっ、アルフレッドさんにシャノンさんだ」
「この国を救ってくれたお二方か。しかし絵になるな~」
「本当、美男美女だから特にね……」
「実はお二人、お付き合いしているのかしら?」
「素敵……尊すぎて嫉妬もできない」
ただ歩いているだけなのに、周囲の注目を集めてしまっているようだ。
しかも俺とシャノンが付き合っていると見なされている。
ぶっちゃけ嬉しいけどね。
このまま既成事実を作って自然な流れで、「あれ? 俺達、付き合っているんだよね?」的な感じにしたいけど……。
「アルフさん。皆さんは何やら誤解しているようですね? わたしから事実ではないと正すべきでしょうか?」
「いや、そういうのはスルーするもんだよ、うん」
そう、シャノンは風評に振り回されない、しっかり者の天然女子である。
ラノベのヒロインとかなら二行オチしてくれるけど、現実はそう甘くない。
俺に主人公のような
けど最初の頃とは違い、彼女が好意を抱いてくれているのはなんとなくわかる。
あとは俺次第の筈だけど……。
「沢山買いましたね」
「まぁね、これで不測の事態にも対応できるだろう……あとシャノン」
「はい?」
「少し寄り道していかないか?」
「ええ、よろしいですが、どちらに?」
「それはついてからのお楽しみだ」
◇◆◇
「アクセサリーのお店ですか?」
「まぁね。そのぅ……シャノンに何か買ってあげたくて」
俺が連れてきたのはアクセサリーショップだ。
露店とは違い、こういった店を構えているところの方が品数も豊富だろうと考えた。
「わたしにですか?」
「うん。ほら第一級冒険者に昇格したわけだし、お祝いというか……」
「では、わたしがアルフさんに何か購入いたしましょう。何せ異例の特零級冒険者で、偉大なる勇者になられたのですから」
いや、それじゃ意味ねーじゃん。
やばい天然だ……なんとか軌道修正しょう。
「俺はいいよ。シャノンへのご褒美というか、感謝の気持ちというか……そんな感じ」
「わたしもアルフさんに感謝しています。衰退せず今にいるのも、全て貴方のおかげなのですから」
「そ、そう……じゃ、二人の記念に何か買おうよ」
「はい。では団員皆さんの分も探してみましょう」
おいおい、それこそ意味ねーよ。
天使だけど、やっぱズレている……。
多少強引に行かないと進展なんて絶望的だぞ。
店に入ると、女性店員が接客するため駆け寄ってくる。
俺はシャノンに「店員さんと話があるから、先に見てくれ」とお願いし、少し距離を置いた。
「――頼みがある。彼女と、そのぅ……ペア的なアクセサリーが欲しいんだ」
「まぁ、婚約指輪ですね!」
「ち、違う! まだ気が早いっつーか、そんなあからさまじゃなくて……例えるなら『あれ? 実は愛を誓い合った的な? ごめん、俺ぇ知らなかったわ~』的な、マイナーでささやかなやつ」
「……は、はぁ」
熱弁を振るう俺は軽くドン引きされてしまうも、店員はとあるアクセサリーを持ち出し見せてくる。
鮮やかな銀色で、可憐な花の意匠が施されたペアのブレスレットだ。
「これなど如何でしょう?
悠久か……アルフレッドの過去はしょーもないのばかりだけど、未来まで愛を誓い合う意味はいい感じだ。
俺のテーマと合致するだろう。
「んじゃ、これ二つ貰うよ」
「お買い上げありがとうございま~す!」
購入した商品を受け取り、シャノンに声を掛けようと歩み寄る。
「う~ん、アルフさん……この耳かきなんか良いと思うのですけど、団員分の在庫はないようです」
ちょい、何買おうとしてんの? んな修学旅行のおみやげじゃあるまいし。
「みんなの分は、また今度にしょう。そろそろ出ようか?」
「はい」
「またのご来店をお待ちしておりま~す!」
店を出て、早速シャノンにブレスレットを渡した。
「アルフさん、これは?」
「シャノンに似合いそうだなって買ったんだ。その花は
俺は照れながら、自分の手首にはめたブレスレットを見せる。
流石に『悠久の愛情』の意味が含まれていることは言えない。
「ありがとうございます。大切にいたしますね」
シャノンはニッコリと微笑み、自分の手首にブレスレットをつけてくれる。
うん、超かわいい……購入してよかった。
ちょっとずつでいいから、進展すればいいなぁ。
そう願いつつ、宿屋まで帰ったのだった。
―――――――――――
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