第95話 悪役、特零級冒険者となる



 久しぶりに冒険者ギルドに訪れた。


 ギルドも反乱を鎮静してから、ずっと復興に追われる。

 しばらく運営停止状態だった。


 運営を再開した今、クエストが相当溜まっており受付場は賑わいを見せている。


「おっ、【集結の絆】だ」


「あの暴徒化した【英傑の聖剣】ローグ達を鎮圧したって言う……オーラ半端ねぇな」


「確か全員、聖武器を手にしているのよね……英雄の称号まで得て、凄いとしか言えないわ」


「特にアルフレッド団長は、ルミリオ王国を代表とする勇者となったからね」


「『絆の勇者』だろ? オルセアの『ラダの塔』じゃ、自国の勇者と上級冒険者達を統率させ見事攻略してみせたって言うし、今じゃ敵なしじゃねぇのか?」


「カッコイイ、憧れちゃうわ」


 待機する冒険者達がヒソヒソと囁き合っている。

 俺はいつの間にか、「絆の勇者」と通り名を得ていたようだ。

 原作じゃ「史上最低のクズ野郎」と呼ばれていただけに落差が激しすぎる。


「【集結の絆】の皆さん、お先にどうぞ」


 冒険者達が順番を譲ってくれる。しかも白金プラチナクラスの第一級の熟練者達ばかりだ。


「……いや、流石にそれは」


「遠慮しないでくれ。貴方達はルミリオ王国の英雄だ」


「そうよ、みんな感謝しているんだからね」


 冒険者達から背中を押される形で、前に行かされる俺達。

 なんだかなぁ……少し複雑な気分だ。


「お久しぶり、アルフレッドくん。助けてくれてありがとう!」


 受付嬢のルシアが温かい笑顔を見せて迎えてくれる。

 気心知れた間柄なので、顔を見るだけでなんだかホッとしてしまう。


「久しぶり、ルシア。なんだか凄いことになっているな……」


「アルフレッドくんはそれだけの活躍をしてくれたのよ。勿論、【集結の絆】の皆さん全員がね!」


「ならいいんだけどね。んじゃ預金とギルドカードの更新を頼めるかい?」


「わかったわ、任せてね」


 俺はパールに頼み、フレート王から頂いた褒美金を提出させた。


 ちなみにパールは魔法士ソーサラーとしてレベルがアップしており、自分でオリジナル魔道具を作れるまで成長している。

 錬金術を応用して制作した特殊布『魔法風呂敷マナクロス』に何かの物質を包むことで、その物質を限界まで圧縮させ容易に持ち運べるようになった。


 パールがカウンターで風呂敷を広げると、中から大量の金貨が溢れるように出現する。

 その光景に、ルシアだけでなく傍で見ていた冒険者達も絶句した。


「はい、これ」


「ええ、パールちゃん。にしても凄い金貨の量ね……アルフレッドくん、どれくらいなのかしら?」


「ざっと50億Gかな……陛下が奮発したのか、ピコとスラ吉の分も含んでいるみたいなんだ」


「……そ、そうなのね。皆さん、それだけ貢献なさっているのだから当然ね。当ギルドが責任を持って預かるわ」


 ルシアは気合を入れて引き受けてくれるも、流石に彼女だけでは数えるのが困難な様子で他の受付嬢やギルドマスターまで出てきて、大掛かりな預金作業が行われている。

 以前から預金している分も含め、相当な金額となっているだろう。


 本当なら【英傑の聖剣】のように、みんなで住める屋敷でも買おうかと思った。

 しかし今回の反乱を起こした貴族から没収した領土の中から、勇者となった俺に与えるという話も浮上しているようだ。


 なんでも発案者は、ティファ王女とか。

 どうやら俺が魔王を斃した暁の褒美としたいらしく、ティファも暮らすことを想定して厳選中らしい。

 そういった事情で、今は下手に大きな買い物をしても無駄にされてしまう可能性がある。


「ハァハァハァ、それじゃ次はギルドカードを更新するわね」


 息を切らし俺達からカードを預かる、ルシア。

 仕事とはいえ、なんだか手間を掛けさせてしまって申し訳ない。


 間もなくして、更新されたギルドカードが手渡された。


「はい、アルフレッドくん」


「ありがとう……ん? 俺の等級、なんだか可笑しいぞ?」


 カードには『特零級とくゼロきゅう』と表記されている。


「勇者になったから、そう表記されるのよ。一国を代表する唯一無二の職種が、他の冒険者と同じだと変でしょ?」


「それで特零級か……なるほどね」


 しかし、んな設定、原作にあったか?

 記憶を辿ったがなかったような気がする。


 そういや、主人公ローグの奴……。

 原作じゃ、一応は勇者となったけど称号の授与を断ったんだ。


「――やれやれ。僕には勇者の称号は重すぎる。褒美もいらないからな。僕は誰にも縛られず自由に羽ばたきたいのさ。その代わり、魔王はブッ飛ばしてやるよ」


 などとフレート王にタメ口でイキって見せ、名前だけの勇者となった経緯がある。

 あれだけ散々目立っておいて責任を放棄した形だ。

 それは間違いだとは思わない。あくまでローグが選んだ人生だ。


 ――けど俺は違う。


 自由気ままなソロプレイ気取りの奴とは異なり、俺は【集結の絆】の団長だ。


 仲間達が期待してくれる以上、それに応えるのも団長の務め。

 テンプレ主人公のように面倒がっては、団長など務まらないのだ。


 それに俺は資格が欲しかった。

 俺はチラっと、シャノンを見つめる。


 悪役の俺が、聖女と謳われた彼女と釣り合うべき男としての資格だ。

 魅了とかそんなやましい関係じゃなく、胸を張って堂々と付き合いたい。


 そう思ったところもあるわけで……。


「おお、アルフ! 俺ら全員、第一級冒険者に上がっているぞ!」


 みんなとギルドカードを見せ合っていた、ガイゼンが歓喜の声を上げている。


「マジか? けどシズクは第三級だったよな? 二階級特進じゃないのか?」


「そうだったみたいね。でも活躍した分を考慮すれば当然の結果ね。あとシズクちゃん、固有スキルも目覚めたようだし……《スキル降臨の儀式》も受けないで自然覚醒するなんて中々のレアケースよ」


 ルシアが教えてくれる。


 そういや、シズクに儀式を受けさせてなかったな……。

 原作でもローグの《能力貸与グラント》スキルの恩恵もあったか、気づけば主人公に並ぶほど強くなっていた印象があってか、すっかり忘れてたわ。

 まさしくメインヒロインのチートぶりが開花した形だ。


「それとパーティランクも上がっているわよ。ついに【集結の絆】は最上位の白金プラチナクラスとなっているわ」


「え? けど、ウチは集団クラン規模のパーティじゃ……」


「ギルドマスターの計らいもあるけど、戦力的には妥当だと思うわ。全員、第一級冒険者で聖武器も所持しているわけでしょ? そして団長は自国の勇者だもの」


 ルシアの言う通り団員人数の要件は満たしてないけど、ギルド側で「資格あり」と認定された感じのようだ。


 今回の更新で、こんな感じとなっている。



【集結の絆】:白金プラチナクラス


特零級冒険者

アルフレッド


第一級冒険者

ラウル、ソーリア

マカ、ロカ、ルカ

パール、ガイゼン、シャノン

カナデ、シズク


テイムモンスター

 スラ吉

 その他、複数(ラウルがティムしたモンスター)


おまけ

 ピコ


以上



「どうして、アタシはいつまでもおまけ扱いなのよぉ! まったく失礼しちゃうわ!! てか、せめてテイムモンスターより格上扱いにしなさいよぉぉぉ!!!」


 定番化テンプレ通りに、ピコが憤慨している。

 そもそもギルドカード持ってねーじゃんって話。


「ピコも俺だけじゃなく、パーティ全員に《幸運フォーチュン》を齎してくれるなら、俺から陛下にお願いしていい感じにしてもらうんだけどな……」


「え? けどアルフ、アタシって……基本、彼氏一筋だから」


 台詞とデレる表情はめちゃ可愛いけど、んなちんちくりんに言われてもな……。

 どないせーっちゅうねん?


 にしても、俺が『特零級冒険者』か……感慨深いものがある。

 一年前じゃ絶対に想像もつかない。

 まぁ勇者も魔王を斃すまでだし、その後のことはその時に考えよう。


 などと俺は楽観的に捉えギルドを出るのであった。



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