第94話 懸念する悪役
翌朝、俺は目を覚ました。
大抵の夢は忘れがちだが、鳥巻八号とのやり取りはしっかりと覚えている。
――虚無の神、ミヅキナイトの密かな侵略。
そして俺と同様の転生者こと、
どうやら俺は、その輩共からこの異世界を守る運命に身を置かれてしまったようだ。
特にミヅキナイトが送り込んだ実行犯的存在、
鳥巻八号の話だと、敵側のキャラじゃないかという見解だ。
俺の予想も味方側ではなく、ましてや仲間の中にはいないと思う。
もし仲間の中にそういった奴がいれば、一度追放された俺がここまで力をつけ順調にのし上がっていないからだ。
必ずそいつが邪魔して足枷となっているに違いない。
例えるなら「悪気はないんですよ、先輩~」みたいなスパイキャラ的なポジ。
大抵は知能デバフに侵されてない限り、「こいつ胡散臭せぇ」っと普通に気づくわ。
ましてや【集結の絆】の団員達の中で、そんな足を引っ張るキャラはいないし、皆が協力的で頼りがいのある仲間達ばかりだ。
冒険者ギルドや王族達も、俺の活躍を正しく評価し称えてくれる、良き支援者ばかりだと言える。
あと身近な連中で敵対していたのは、せいぜいローグ達くらいだったが……奴らはもういないようなものだろう。
まぁ、どちらにせよ。
「――ここまで来たら突っ走るしかねーか」
俺は起き上がり、そう誓いを立てた。
だが決して鳥巻八号のためじゃない。
大切な仲間達と、この異世界に住むみんなのためだ。
みんなの居場所を守るため、俺が物語を作ってみせる――。
そう覚悟を決めると、布団から妙な膨らみを感じた。
何気にめくってみると。
「う、うん……ご主人様ぁ、おはようございますぅ」
「アルフぅ、アタシが正妻だからね、ん」
いつの間にかシズクが俺の布団に入り込み、ピコが枕元で寝ていた。
「こ、このヒロインズめ……」
最近は割と大人しかったのに……やっぱどうしようもねぇ。
「おい、二人ともいい加減にしろ! またシャノンに怒られても知らないからな!」
こうなりゃ強制で布団を剥ぎ取り叩き起こしてやる。
「ふにゃ。ご主人様ぁ、ごめんなさい」
シズクは素直に謝り起き上がるも、超薄着でボディラインが露わになっている。
特に豊満なおっぱいは今にも零れ落ちそうになっているじゃないか。
うん、この子は何もわかってないと見たぞ。
「アタシはセーフでしょ、アルフ? 今回は自重して枕元で添い寝にしておいたわ」
「ピコ……俺の上か枕の上かの違いじゃねーか! 変わんねーよ!」
自重と言うのなら、ちゃんと女子達と寝ろっての。
「アルフ団長、おはようございます。お盛んな方だと聞いていましたけど、禁欲されているのですか?」
同室者のラウルがいつの間にか起きており、俺に爽やかな笑顔を向けている。
嘗て第一王子だっただけに品の良い顔立ちの癖に、何を聞いてやがるのやら。
てか起きているなら、一緒にこいつらを注意してくれ。
まぁ以前のアルフレッドなら、来る女は拒まず去る女すら追いかけまくるという、見境ないゲスだったけどな。
「ラルフ、俺は団員の子達とはそういう関係にならないよう心掛けている……今更だがピュアラブを目指しているんだ」
本当は35歳の童貞である俺の人格となったからとは言えない。
それにアルフレッドが女遊びしたばかりに、数多くの大失敗を犯しているのを知っている手前、余計気をつけていると思う。
原作だと処刑される寸前まで、これまで泣かしてきた女子達に散々石を投げられていたっけ。
あんな末路なんてごめんだ……。
それに俺には、ずっと気になる子がいる。
――シャノン。
一年半ほど前の逆ラッキースケベ展開以降、彼女とはこれといった進展がない。
あの頃はざまぁ展開を恐れて距離を置いてしまったけど、ローグと完全に決別した今はその必要がないわけだ。
今の俺は第一級冒険者となり魔王を斃すまでにせよ、勇者となったわけだし……。
そろそろ胸を張って、シャノンにアプローチしてもいいかもしれない。
「流石、ご主人様です! 誠実で清らかな紳士なところも心から尊敬しています!」
「ありがとう、シズクさん。けどそう思ってくれるなら、俺のベッドに侵入するのはやめてくれ」
相変わらず読者の承認欲求を満たし全肯定してくれるメインヒロインだけど、天然なところがたまに傷だと思う。
しかも
その後はシャノン達にバレる前に、シズクとピコを部屋に戻させた。
間もなくして、ガイゼンが「なんだ、騒がしいな」と起きてくる。
てか相変わらず鎧脱がねぇのかよ、こいつ。
「――アルフ、そういやよぉ、魔王ってどんな奴なんだ?」
身支度を整える中、ガイゼンがふと訊いてきた。
「さぁな。魔王城すら謎とされている……これまで数名の勇者とパーティ達が探し当て乗り込んだらしいが消息不明だとか。俺も勇者となった以上、今よりも力をつけながら魔王の情報とか集めることになるだろうな」
実は原作を読んで全部知っているんだけどね。
魔王城は確か『魔城マシラゴア』という移動可能な巨大島で、そこで手駒となる魔族やモンスターを生産している。
んで魔王の正体は――『シャドウ』という存在だ。
確か魔王シャドウは実体がなく、様々な怨念で生まれた集合体というオチである。
原作では闇堕ちしたアルフレッドが処刑された後に、その亡骸をシャドウが乗っ取り、魔王シャドウとして顕現した。
間もなくして大々的な侵略を開始したのだ。
最終決戦で主人公であるローグと戦い、最初こそ余裕ぶっていた魔王シャドウ。
だが結局は、ローグのチート無双と
(果たして今回は、どんな奴に憑依して現れるのか……俺は闇堕ちしてない以上、きっとオリキャラに違いない)
そう考えながら部屋を出て、女子達と合流した。
幸いシズクとピコの件は、他の女子らにはバレてないようだ。
「それじゃ今日はギルドで預金して、カードの更新もしよう」
「わかりました。アルフさん、その後はどういたします?」
シャノンが優しい微笑を浮かべ訊いてくる。
その真っすぐに見つめてくる綺麗な瞳を見て、俺の心に疼くものがあった。
「買い物とかかな……シャノン、付き合ってもらっていい?」
「はい、喜んで」
俺の誘いに笑顔で了承してくれる。
おっし! さらりとプチデートに誘うことができたぞ!
朝じゃないけど何もない時だからこそ、二人っきりの時間を作っていきたい。
「ご主人様、お買い物であれば、私もついて行きます」
「しょーがないわね。彼氏が寂しくないよう付き合ってあげるわ」
案の上、シズクとピコのヒロインズが言ってくる。
特にピコはいつも通りの彼女ヅラだ。
「悪いが二人は朝の件がある。今日は反省して宿屋で待機な」
「「え!?」」
え、じゃねーよ。
ラウルとガイゼンが同室してなきゃ、今頃は誤解されても可笑しくない状況だぞ。
そんな俺達のやり取りを傍で見ていた、シャノンが不思議そうに首を傾げている。
「アルフさん、二人がどうかしたのでしょうか?」
「ん? いやなんでもない……シズクとピコには、少し自重してもらいたい部分があってな」
俺の言葉に、二人は「は~い」と反省する様子を見せる。
基本は素直で従順なヒロインズ。
まぁ慕ってくれるのは凄く嬉しいんだけどね。
けど、俺だっていつまでも紳士でいられる保証がない。
いずれ間違いを犯す可能性だってあるわけで……。
シズクならまだしも、
……そう懸念したまでだ。
―――――――――――
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