第93話 虚無の神
その日は久しぶりに宿屋に泊まることにした。
個室だと、またシズクとピコが俺の寝床に侵入し兼ねないので、ガイゼンとラウルの男二人と相部屋にしてもらう。
それから間もなくして、俺は床に入り就寝した。
◇◆◇
「――やぁ社畜君。いやアルフレッド、久しぶりだね。随分と活躍しているようじゃないか?」
ふと目の前に立つ、間抜け面の青い鳥が声を掛けてきた。
以前と同様、俺は深い霧のような真っ白な空間にいる。
ってことは、ここは夢の中だと思った。
「原作者もとい、神様の鳥巻八号先生じゃないっすか? あんたこそ、急に現れてどうしたんっすか?」
「キミに色々告げたいことがあってね」
「告げたいこと?」
「そうだ――この世界で、新たなガバが発生している!」
「あんたが犯人だろ? 神様の癖にガバ常習のラノベ作家だもん」
「……キミは相変わらず失礼な男だ。違う! 私の作品をパクッた輩がいたことが判明したのだよ!」
「
「……チッ、まぁいい。パクった奴の名は――虚無の神『ミヅキナイト』だ」
「ミヅキナイト? 神ってことは、あんたと同じ存在なのか?」
俺と問いに、鳥巻八号は「そうだ」と告げて詳しく説明してきた。
――ミヅキナイト。
並行世界では「美月夜斗」というペンネームで、鳥巻八号と同じ日本でアバターを介して作品(自分の並行世界)を某WEBサイトで執筆活動をしている。
だが売れず書籍化にならないものだから、鳥巻八号の作品を意図的にコピペして盗作する粗製乱造の神だ。
このような粗悪作品にもかかわらず、ろくに調べもしない杜撰な出版社が目を付け書籍化されコミック化に至っている。
そのことで鳥巻が創造したこの異世界(並行世界)まで影響を起こし、様々な不確定要素のムーブが発生しているようだ。
ちなみにタイトルは
『無能と罵られた付与術士、実は最強スキルだったわ。追放したパーティが落ちぶれ戻って来てほしいと言われたけどもう遅い。獣耳の奴隷少女と自由を満喫します』
う~む。微妙だ。
てか、ありがちなタイトルだけにパクリなのか不明だ。
「……ミヅキの糞野郎。キャラの名前だけちょい変えて、後は完全なコピペだ。ガチありえねぇ」
鳥巻八号は恨み節を唱えている。
余程ムカついているのが伺えた。
「なら訴えろよ」
「無理だ。私のアバターは実在こそすれど、私とリンクしていることを知らない。ただぼけーっと思いつくまま執筆しているだけの存在だ。私が直接向こうの世界で表舞台に立つことはできない。奴はそこに目をつけたのだろう。そもそも日本の法律ではそういった立証が難しいようだ」
一応は調べたらしい。
「まぁこの手の話はその辺に山ほど転がっている……パクリ云々でいえば、あんたも似たようなもんだろ?」
「私はパクッてない! オマージュと称して引用しているだけだ!」
「それをパクリと言うんだ! アホか!」
「……チッ、まぁとにかくだ。ミヅキナイトは虚無の神と呼ばれるだけあり最低なのだよ」
「ただのやっかみに聞こえるけどな。んでミヅキナイトって奴の目的はなんだ? 神様の癖に印税欲しさか?」
「違う――奴は私の作品(並行世界)を奪い取るつもりだ!」
「つまり、この異世界を乗っ取るというのか?」
「ああそうだ。既にこの世界は、ミヅキナイトに侵食されつつある。アルフレッド、キミにも覚えがあるだろう。私の作品を愛読し崇拝していた読者のキミならば――」
別に愛読しねーし、崇拝してねぇつーの。
あまりにも
しかし鳥巻が言うように、俺にも覚えがある。
「まさか……ラダの塔にモンスターが棲みついていた件と、今回の貴族達による反乱騒動か?」
どちらも原作になかったイベントだ。
特にラダの塔は、あのネイダが関与していた可能性がある。
その問いに、鳥巻八号は無言で頷いた。
「ミヅキナイトが介入してきたせいで物語と世界の均衡が崩れ、原作にないムーブが発生してしまっている。主人公であるローグがキャラ変し可笑しくなったのも、ミヅキナイトが起こしたムーブに巻き込まれたと言えるだろう」
いや、ローグがイカれているのは原作からだと思う。
そもそも無双系主人公の大半って、作者の願望からか社会不適合者が多いからな。
ただ単に主人公を持ち上げる
「だけど鳥巻先生、地球でやらかした事が発端で原因なら、この異世界で修正とかできないんじゃないか? ましてや原作者(神)のあんたさえ不可能なら尚更の話だ」
「――いいや、まだ希望がある。それはアルフレッド、キミだ」
「お、俺ぇ?」
「そうだ。キミの存在は、我々神にとってのイレギュラーでありバグなのだよ。ミヅキナイトがパクった作品の中で、キミと同様に『アルバート』という、ざまぁされる側の悪役がいる。そいつは当然ながら今のキミと違い英雄として祀られてなければ、周囲から慕われてもいない。ただ読者にヘイトを与え、すっきりさせる
アルバートか……もろアルフレッドじゃん。
改めてやべぇぞ、ミズキナイト。酷過ぎるパクリ作家だ。
「んで、俺にどうしろと?」
「このまま突っ走ってくれ! キミ自身で物語を作るんだ!」
また突拍子なことを言ってくる、鳥巻八号。
だがアホ面した青い鳥の姿とは裏腹に、やたらと真剣味が感じられる。
「悪役の俺が物語を作る? 原作者のあんたはそれでいいのか?」
「構わん! ミヅキ如きにパクられるくらいなら、そんな物語など破綻させた方がマシだ!」
よほどパクられブチギレているようだ。まぁ無理もない。
毒には毒を持って制す。そういった発想のようだ。
「しかし破綻させたら、俺が今いる異世界はどうなる? まさか爆発オチなんてないだろうな?」
「いくらなんでもそれはない――物語を破綻させることで、ミヅキナイトのパクリという呪縛から解放され、この世界はキミだけの世界となるだろう。無論、私からも離れるだろうがな」
「それって、俺が神になるのか?」
「神まではいかない。だがキミを主軸とした
つまり管理する神から、独立した新世界となるようだ。
「平等ね……ならいいか。そうなると、鳥巻先生はどうなる?」
「私は私で新たな別の世界(作品)を作ればいい。それが神という創造者たる特権だからね。だがミヅキナイトにその概念はない。奴はパクって売れてなんぼという最低の思考を持つ。現に『死ぬほどつまらない作品でも売れれば勝ち』などと、あとがきで豪語している」
「まぁそうだとしても、実際にゴリ押しして売り出す企業や買う信者側にも問題があるんだろ? 知らねぇけど」
「身も蓋ないがその通りだ。しかしアルフレッドよ、一つ懸念するべき重大なことがある」
「重大なこと? なんだ、それは?」
「――ミヅキナイトが送り込んだ、『
「なんだと!?」
それって、俺のような転生者的な存在が他にいるってことなのか?
マジかよ……。
「鳥巻先生、誰なんだよ、それ?」
「……わからん。当初はローグではないかと思っていた。奴の作品ではロースっという、捻りも糞もあったもんじゃない、パクリ主人公名だったからな」
「ロース? いやローグか……確かに、これまでの奇行具合からしてそれっぽい。だがローグは既にリタイア扱いになっている。それに今までの醜態ぶりといい、俺同様の知識を持つ転生者であれば、もう少し上手く立ち回っていた筈だ」
と言うものの内心じゃ、「実はあの野郎、しれっと生きているんじゃね?」と疑っている。
だが鳥巻の口振りから、あのローグには主人公補正はないようだ。
「うむ、キミの言う通りだ。であれば別キャラにでも転生しているに違いない。おそらくキミと相反する存在、敵側なのは確かだ。どちらにせよ、そいつに勝たなければならない。アルフレッド、キミが最後の砦といっても過言ではないのだ」
「敵側ということは魔王軍側か……まぁ勇者になった以上、激突は必須だ。尽力するよ」
「頼むぞ、私の
いや俺、別に鳥巻八号のモノじゃねーし。
寧ろ杜撰すぎて軽蔑しているくらいだし。
なんか調子よくないか、こいつ?
てか事の発端は、あんたの
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