第92話 悪役、勇者となる
ローグの流刑を遠くで見送った後。
俺達はフレート王に呼ばれる。
【集結の絆】にとって、すっかりホームグランドと化した謁見の間に招かれた。
一部の貴族が起こした反乱から数日が経過し、ルミリオ王国内もすっかり落ち着きを見ていく。
だが戦後処理や後始末など作業と対応が山積みであり、国王と重鎮達はその作業に追われていたらしい。
その間は冒険者ギルドも運営停止状態となり、王城で居候状態の俺達【集結の絆】もハンス王子率いる騎士団と共に行動し、国内の警護を手伝い巡回していた。
「おおっ! ルミリオ王国の英雄、アルフレッド様率いる【集結の絆】だ!」
「皆さん、ありがとう! おかげで元の生活に戻れました!」
「キャーッ、アルフレッド様ッ! こっち向いてぇ!」
「カッコイイ! 僕も将来、アルフレッド様のような英雄になるぞ!」
王都から村中の老若男女問わず、俺達が行く先の民衆が手を振って歓迎してくれる。
いつの間にか英雄扱いされ、俺なんか「様」呼びされるアイドル並みの人気ぶりだ。
原作じゃ、みんなに石投げられ「死ね、コラ!」だの「国の恥さらしめ!」と散々罵られた、ざまぁキャラなのに……この変わり様よ。
まぁ、それだけ貢献した自覚はある。
特に今回、もろ陛下達の命に関わる事態だったからな。
それに、【集結の絆】の団員達もみんな胸を張り誇らしげで良い顔をしている。
なんだか感慨深く、嬉しく思う。
特にガイゼン、パール、シャノンは、ローグ達に追放され弱体化した俺の後を追って来てくれた。
損得勘定もなしに、この俺を慕ってくれて……。
そんなローグへの嫌がらせで奪った、原作ヒロインであるシズクとピコもみんなと仲良くなり、こんな俺を慕ってくれている。
何より、マカ、ロカ、ミカの加入は大きかった。
彼女達がいなければ、【集結の絆】を立ち上げることはなかっただろう。
また推しキャラのカナデ、凄腕のラウルも頼りになり欠かせない存在だ。
ちなみにスラ吉は、すっかり元のサイズに戻り飼い主であるシャノンの肩に乗っている。
このチート・スライムも活躍してくれて感謝しかない。
そして最後に――。
「アルフ団長、すっかり女子達の推しになっちゃったね……けど既にボクが唾を付けたから遅いけどね、うひひひ」
相変わらずガイゼンの背後に隠れて薄ら笑いを浮かべている、ソーリア。
いつ俺に唾を付けたんだろう? このネェちゃんだけは要注意だ。
などと思いながら今に至っていた。
「――アルフレッド、そして【集結の絆】の勇士達よ。改めて礼を言おう、このルミリオ王国の危機を救ってくれて感謝する。其方らは我らにとって命の恩人であると同時に、この国の英雄である。皆どうか面を上げてほしい」
フレート王に感謝され、跪き畏まる俺達は顔を上げた。
玉座に腰掛ける国王の左右には、ハンス王子とティファ王女の二人が立っている。
雑務に追われ忙しかった割には、顔色良く体形も元に戻っているようだ。
ハンス王子が一歩前に出る。
「この度の貢献で、陛下から褒美と勲章の授与もある。【集結の絆】全員が我が国の英雄として歴史に刻まれるだろう。特に、アルフレッド」
「ハッ、殿下」
「今のキミは十分に勇者の資格を満たしている。この場にいる者、いやルミリオ王国中の誰もがそう思うだろう」
「……はい」
「どうだろう? 我が国を象徴する勇者となってくれないか?」
やはりそう来るか、そう思った。
けど疑問形でへりくだる言い方は、この王子様らしい。
通常はフレート王から「なれ」と命令されるからな。
んで断ったら首ちょんぱされないも、陛下に恥を掻かせたとして俺とパーティの立場が悪くなる。
それを回避してくれる形だ。
俺は少し間を置き考える。
ここはハンス王子の配慮に応じつつ、自分に素直になろうと思った。
「――わかりました。このアルフレッドでよろしければ、栄光ある大役を担わせて頂きたい所存です」
俺の返答に周囲の騎士や貴族達が「おお~っ」と声を上げる。
ハンス王子は勿論、フレート王やティファも温かい微笑を浮かべ歓迎してくれた。
みんな期待通りって感じか?
けど、俺の話はここで終わらないんだよなぁ。
「その代わりではありますが、期間限定でお願いしたいのですが」
「期間限定だと?」
フレート王が眉を顰め、周囲がざわつき始める。
何を言っているんだと、傍聴する誰もが混乱していた。
けど俺は意に介さず話を続ける。
「ハッ、勇者とは魔王を討ち取るのが使命であり本懐。その使命、必ず果たしてみせましょう。ですが、その後は……普通の冒険者として活動を続けたいと考えています」
「つまり魔王を討ち果たした後は、勇者としての褒美や特権は受けぬと?」
「ハッ、恐れながら」
勇者が魔王を斃した褒美として、色々な待遇が国から約束される。
まずは莫大な報酬金と共に、貴族となり領土を与えられた。
上手くいけば王女と結婚し王族にもなれるだろう。
さらに特権とは、『一夫多妻』が認められるという点だ。
これは優秀な血筋を末代まで残すという意味の制度だと言える。
俺は魔王を斃した後、これらを放棄すると伝えたのだ。
本来のアルフレッドなら目指していたことだし、有無を言わずに飛びつくだろう。
けど俺は違う。
俺には夢がある。
この【集結の絆】の団員達と生涯楽しく冒険して行くこと。
まずは異世界全体を観て気ままな旅をしたい。そう思っている。
他国であるオルセア神聖国で行ってから、そんな欲求が昂っていたんだ。
(観光もできなく呼び戻されたしな……)
それに勇者となり国の象徴となっちまったら、無闇に他国へ行けなくなる。
つまり勇者=国の所有物扱いとなるのだ。
俺の主張をハンス王子は汲み取り頷く。
「陛下、私はそれで良いと思いますよ。寧ろ欲がない、アルフレッドらしいではありませんか?」
「うむ、ティファはどう思う?」
「わ、わたくしは……アルフレッド様が思うようになさることがベストだと思っています。ですが……優秀な血を残すと言う意味でも、そのぅ、一夫多妻制は残すべきかと。あと相当の領土は必要だと思いますわ」
頬を染めて華奢な身体をもじもじさせる、ティファ。
「ふむ、つまりアルフレッドに特例を与えよと言うのだな? 確かにこの度の働きといい、勇者としての活躍次第ではその資格はあるだろう。どちらにせよ、魔王を討伐して初めて成立する制度だ。わかった、アルフレッドよ――其方の主張を認めよう!」
「ハッ、陛下」
「そして見事、魔王を斃した暁には、其方に望むままの特権を与えよう。我が娘、ティファの要望も含めてな」
「……ハッ、はぁ?」
最後の方はどういう意味だ?
魔王を斃せば、俺だけ一夫多妻は認めるということか?
しかも何気に、ティファが頬を両手に添えて顔中を真っ赤にして身悶えているんですけど……。
それから俺達に勲章が授与され褒美を受け取り、ようやく城から開放された。
◇◆◇
「……いやぁ、陛下達には参ったわぁ。まぁ一夫多妻制なんて魔王を斃したらって話だよねぇ?」
「はい、アルフさん! 是非に成し遂げましょう!」
「そうだね! 魔王をブッ飛ばしてやろうよ!」
何故か気合を入れる、シャノンとパール。
「その通りです! 頑張りましょう、ご主人様!」
「やるわよ、アルフ! 燃えてきたんだからぁ!」
シズクとピコまで息巻いている。
「これも天命か……必ずや魔王を討ち取りましょう、団長!」
「うひひひ、推しから夫へのジョブチェンジ……悪くないかも」
カナデやソーリアまでどうしたんだ?
「「「いっちょ、やってやるわ!」」」
マカ、ロカ、ミカまで……これまでキミらとそういうのは無かったと思うけど。
何故だ? 城を出てからパーティの女子達の様子がなんか変だ。
みんな目を血走らせ、「全員で魔王を討伐しよう!」と檄を飛ばし合っている。
おいおい、どんな状況よ?
―――――――――――
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