第91話 元主人公の決断



「パーティの内部崩壊か……だからお前は、僕にアルフレッドを追放するよう持っていったんだな!?」


 この僕ローグは、元ダニエルこと「ネイダ」と名乗る魔王軍の密偵サキュバスに強い口調で問い詰める。


「ええ、そうよ。だけど失敗しちゃったわ。逆にアルフレッドが勢いづいて立場逆転だもの」


「それで僕を見限って退団するフリして逃げ出したと?」


「表向きはね。けど本当は別の任務を与えられたからよ――オルセア神聖国の『ラダの塔』、あそこの監視を任されていたの。けど、それもアルフレッド達のせいで失敗し制覇されたわ……挙句にアルフレッドの奴、何故かワタシの正体に気づき追い回して来るものだから、オルセアにも居られなくなっちゃってね。この島で身を隠していたわけよ。新たな指示が入るまでの間ね」


「今も魔王からの指示待ちってか? そこで流刑された僕と偶然遭遇したとでも?」


「偶然か……運命かもね。神の意志に反する者同士・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・の……ワタシにはそういうスキルが備わっているからね」


「スキルだと?」


「……こっちの話よ。ローグ団長、フフフ」


 ネイダは嘲笑するかのような眼差しを僕に向ける。

 クソォ! なまじ美人だけに、やたらと勘に触る女だ!


「ネイダとか言ったな? この島は何だ!? そこにいる妙ちくりんなモンスターはお前の仲間なのか!?」


 僕は短剣ダガーの先端を魔獣の方に向けた。

 魔獣は大人しくネイダの背後で待機しているも、相変わらずニヤけたオッさん顔で「んんまぁいぃ」と唸っている。


「この島は、マシラゴアが分離した極一部よ」


「マシラゴア?」


「魔王城よ」


「なんだと!?」


「正式名称は『魔城マシラゴア』。この島はその切れ端ってわけ」


 マジか……この島が魔王城の一部だというのか!?


 にしてもだ。


「どうして魔王城の一部が流刑島になってんだ? てか魔王城が何故に島?」


「別にここだけじゃないわ。支配を目指す大陸の至る箇所に根を張っているの……この島は言わば、ワタシ達の隠れ蓑であり駐屯基地よ。ほら丁度、ルミリオ王国とオルセア神聖国の境目くらいにある位置でしょ?」


 なんてこった……んな島が存在していたなんて。

 それで魔王軍は神出鬼没で、不意に大軍を引き連れて各国に侵攻を仕掛けてきたわけだ。


「そして後ろにいる彼は、この基地を守る守護警備兵ガーディアンよ。そうよね、ショウタ君」


 ネイダが問いかけると、背後の魔獣は「んんまぁいぃ!」と長い首を上下に揺らしている。


「……ショウタ君? それが、そのモンスターの名前なのか? また妙な響きの名だ……なんか極東の民みたいだぞ」


「まぁね、確か極東出身の勇者だと聞いたわ」


「へーえ……っておい! ゆぅ、勇者だと!?」


 今さらりと、凄いこと言ったぞ!

 ネイダは微笑を浮かべ、「教えてあげるわね」と前置きした。


「以前、『魔城マシラゴア』に侵入して魔王様の命を狙った勇者よ。魔王様に敗北し捕えられて人体改造されたの。命令に忠実な異形の魔獣として……この島には後、5匹くらいこんなのが徘徊しているわ」


 そうだったのか……。


 こいつらのおかげで、この島は外部から守られ未踏の魔窟と化していたわけだな。

 もし僕がこうしてネイダと出会わなければ、既に間抜け面のショウタ君に食われていたのかもしれない。いや間違いなく食われていただろう。


 だけど勇者達を捕え、モンスターに改造して従わせてしまうなんて……。


 ――魔王、残酷すぎて超やべぇ!


「んまぁい!」


「これはショウタ君の口癖ね。意味は不明だわ。でも自我が残っている筈よ。たとえ意識があろうと、この島を守るよう命令され強制的に動かされている。そんなところかしら?」


「そんなところって……恐ろしく残酷な成れの果てだ。明らかに生き地獄じゃないか……そんな末路を迎えるくらいなら、いっそ殺された方がどんなに幸せなことか」


 命根性の汚い僕さえ、そう思えてしまう。


 こんな無様なバケモノに改造され、一生コキ使われるなんて悲惨すぎる。

 しかも本人としての自我があるって……お前ら、それ絶対あえて残しているだろ?


 これが魔王。これが魔族か――。


 うひゃ~、僕はこんなエグい連中と戦っていたのかよぉ……。


「しかし僕の《ステータス・ウィンドウ》に、ショウタ君は反応しないぞ。ネイダ、お前もだ……」


「……確か《能力貸与グラント》の一つね。おそらく、ショウタ君に関しては不正に改造された存在だからかしら? きっとローグ団長にとって、許容範囲じゃないからヒットしないと思うわ。ワタシはサキュバスの種族スキルで、そういうのを自在に隠蔽し書き換えることが可能よ。現に団長もダニエルに扮していたワタシを見抜けなかったでしょ?」


「ああ、そうだったな。伊達に魔王直属の密偵じゃないってことか」


 考えてみればダニエルだった時、僕とラリサのイチャコラを見せつけても、こいつは常に平然としていた。

 最初は「そっち系」を疑っていたけど、鷲ゴボウの中身が女で魔族ならばってやつか。


「そういうことよ。あとはローグ団長、貴方をどうしようかしら?」


 ネイダは意味深な言葉を投げかけてくる。

 僕は咄嗟に身構えた。


「どういう意味だ? 言っとくが、今の僕に殺す価値も利用する価値もないぞ!」


「《能力貸与グラント》を封じられているから? その首枷の影響ね?」


「ああ、そうだよ! 『能力封殺スキルアウトの首枷』っという呪術具だ! お前がパーティから抜けた後、貴族にそそのかされ国を相手に反乱を起こしたまでは良かったんだが……ヘマしてこの有様だ。誰も好き好んでこんな島に来たわけじゃない、だから見逃してくれよ!」


「ルミリオ王国の反乱なら知ってるわ。宰相のオディロン公爵ね」


「ああそうだ……離島で身を隠していたわりには詳しいな?」


「ええ、だってオディロンを誘発させたのはワタシだもの。ローグ団長を紹介した上でね」


「はぁ!?」


 この女、【英傑の聖剣】を脱退する前に、オディロンに反乱を持ち掛けたってのか!?

 わざわざ僕のスキルを知らせた上で……どおりであのオッさん、やたら僕の内情に詳しいと思ったら。


 ――全部、この女の仕業だったんかい!


「ふざけるな! やっぱりこの場で殺す!」


「落ち着いて、ローグ団長……無能力者である今の貴方に、ワタシを殺せるわけがないでしょ? それに……」


「それになんだ!?」


「――外せるわよ、首枷それ。魔王様ならね」


「なんだって、ガチか!?」


 思わぬ言葉に、つい僕は身を乗り出してしまう。

 ネイダは平然と頷いて見せた。


「ええ。古代の遺物とはいえ、現在の魔王様の力なら余裕よ。外して欲しい?」


「当たり前だ! あっ、でもなんか条件とかありそうだ……」


「流石、察しがいいわ。ぶっちゃけると、ローグ団長にワタシ達の仲間になって欲しいの」


 仲間だと? この僕を……ってことはだ。


「……僕に闇堕ちしろっていうのか?」


「そういうこと。魔王軍に入って一緒に活動してほしいの、フフフ」


 魔王軍に入れか……随分と妙なことになったぞ。

 ネイダは狡猾な笑みを浮かべ、僕に近づいてくる。


「それともこの島で、ずっとショウタ君と仲良く過ごす? 同じパーティだったよしみで、襲わないよう指示してあげるわよ」


 いや冗談だろ?

 あんなアホ面のショウタなんかと過ごすより、ネイダについて行った方が余程いい。


 僕は寄り添ってくる艶めかしいネイダの肉体美に釘付けとなる。

 サキュバスだけに男を惑わす抜群の破壊力、特に両胸が今にも衣服から弾けそうだ。


 上手くいけばワンチャン狙えるかもしれない――。


「わかった、ついて行くよ! 《能力貸与グラント》を復活させ、僕を陥れた連中に復讐してやる!」


「流石、ローグ団長。ワタシが見込んだだけあるわ。期待しているからね……フフフ」


 こうして僕は闇堕ちし、ネイダについて行くことにした。



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