第90話 元主人公のサバイバル



 ローグこと、僕は自慢じゃないが魔力探知することができない。

 てか付与術士エンチャンターの癖に付与バフ魔法も使えないから当然だ。


 《能力貸与グラント》スキルがあれば、んなの必要なくね?

 っと高を括っていたのが仇となっている。


 けど通常の付与術士エンチャンターより、優れた部分もなくはない。

 それはスキルの影響からか、生まれながらにして他人の強さと能力が数値化して見ることができるということ。

 僕はこれを《ステータス・ウィンドウ》と呼んでいる。


 その対象を見るだけで、名前と職業やレベルなど透明な窓枠状にして閲覧することが可能なのだ。

 特に仲間になった者は、より詳細に能力値アビリティ数値として見ることができ、固有スキルやスキルポイント、習得した技能スキルや魔法に至るまで表示させることができた。


 あとは《能力貸与グラント》スキルで、自在に変動させることが可能というわけだ。

 今は封じられちゃっているけどね……。


 けど前半の名前と職業(属性)とレベルを見ることは今もできる。

 この力を活用すれば、なんちゃって高性能の魔力探知代わりにはなる筈だ。



 木々と雑草を掻き分け、僕はジャングルの中に入って行く。


 サバイバルの基本といえば素材を集め。まずは寝床を作ることから始まる。

 移動中、兵士から読まされた本でそう書いていた。


「《ステータス・ウィンドウ》には何も表示されない……モンスターだって引っ掛かれば、何かしら表示されるんだけどな」


 しばらく歩いたが、これといった反応がない。

 遭遇しても小さな虫とか蛇とか、他愛のない程度だ。


 このまま何もなければ、ここはただの無人島だということになる。

 それはそれでラッキーなことだ。

 いや、サバイバルを強要されてラッキーとかって何よ?

 絶望しすぎて、すっかり感覚が麻痺しかけているのだろうか……。



 ドン――!



「うおっ!」


 不意に何かにぶつかった。

 妙な弾力性に圧倒され、僕はその場で座り込む。


「な、なんなんだよ!?」


 僕は見上げると、目の前に異様な存在が佇んでいた。


 地面に着くほど長く伸びた両腕、そして短い両足。

 毛むくじゃらの胴体に、蜘蛛を思わせる巨大な魔獣。

 だが首から頭にかけて異様に出っ張って伸びており、先端が人っぽい面貌となっている。

 にしては随分とニヤついたオッさんのような変顔だ。


 魔獣は首を折り曲げ、僕に不細工なニヤケ面を近づけてきた。


「ん~~~まぁ~~~いぃぃぃ!」


「ひぃぃぃい、出たぁぁぁぁぁぁぁ――!!!」


 僕は悲鳴を上げ、四つん這いでその場から逃げ出した。


 クソォ、なんだあいつ! まるで見たことのないタイプだ!

 それに《ステータス・ウィンドウ》に引っ掛からなかった!

 何故だ!? 未知の魔物だからか!


「んんん~~~ままぁ~~~いぃぃぃ!!!」


 変顔魔獣が奇怪な雄叫びを上げ追いかけて来る。


 僕は樹木を掻き分けて走っているのに対し、奴はそんなのお構いなしに大木だろうとヘシ折りながら直線で向かってきた。


 しかもやたら早いぞ!


「ま、不味い! このままじゃ追いつかれてしまう……戦うか? って短剣ダガー一本で敵うワケねーよ! バカにしてんのかぁぁぁ!!!」


 クソッタレ! どうして僕がこんな目に!

 あのハンスの野郎、ブッ殺してやるぅ!


 いや、奴だけじゃない!


 国王や王女、アルフレッドやシャノン、【集結の絆】の連中を含めた奴ら全員だ!

 僕を否定したあいつらを僕は絶対に赦さないぞぉぉぉぉ!


「がっ!」


 などと考えていたら木の枝を見落としてしまい、うっかり躓き転倒してしまった。


「やばいぞ! クソォッ!」


 僕は慌てて身を起こし振り返る。

 もう既に魔獣がすぐ傍まで近づいていた。


「ひぃぃぃい、来るなぁぁぁ!」


「んまぁい」


「うるせぇ、アホ面ぁ! んまいって何だ!? 僕を食べる気か!? 何日も風呂入ってなきから腹壊しても知らねーぞ!!!」


「――おや? その声はローグ団長ではありませんか?」


 不意に口調が変わる魔獣。

 いや違う、魔獣の背後に潜む何かだ。


 それは聞き覚えのある男の声であった。


「僕を知っているだと? それに団長って……誰だ!?」


「今、姿を見せますのでお待ちください。よっこらショウタくん!」


 声の主は妙な合いの手を入れて、魔獣の背後から降りてきた。


 ところで、ショウタって何だよ?

 そいつは僕に姿を見せる。


 オールバックの髪型に丸眼鏡を掛ける、痩せこけた鷲鼻の魔法士ソーサラー

 そう。嘗て同じ【英傑の聖剣】に所属し、僕をそそのかして一緒にアルフレッドを追放した男。

 んで僕を見限り真っ先に離脱した、元副団長。


「――ダニエル!」


「お久しぶりです。しばらく見ない間、随分と風貌が変わりましたねぇ、はい」


「テメェ!」


 僕は立ち上がり、怒りの感情に赴くまま奴に飛び掛かる。

 だが、あっさりと躱されてしまい、再び転げてしまった。


「痛ぇててて……」


「大丈夫ですか、団長?」


「うるさい、テメェだけは殺す!」


 僕は短剣ダガーと取り出し、切っ先を奴に向けた。

 しかしダニエルは臆することなく、寧ろニヤッと口端を吊り上げている。


「何が可笑しい!? 《能力貸与グラント》を封じられたから舐めてんのか!? 言っとくが鷲ゴボウのお前なんかより、僕の方が体力的に上だからな!」


「随分な嫌われようですね。まぁ無理もないでしょう……しかし、今の団長は凄くいい。魅力的ですよ」


「何が魅力的だぁ!? 気色悪りぃーな!」


「ああ、そうですね。確かに、この姿で言っても男性の貴方はそう思うでしょう――」


 直後、ダニエルの全身が揺らめき霞に包まれる。

 すると奴の姿が消失し、別の姿に変わった。


 女、しかも魔族だ。


 灰色の長い髪を後ろに束ね、褐色の肌で抜群のスタイルの持ち主。豊満な胸を強調した露出度の高く際どい衣装。特にガーターベルトが艶めかしい。

 切れ長の双眸に形の良い鼻梁と朱唇、僕好みの絶世と言える美女。

 だが頭部には羊のような角が生え、背中には蝙蝠の翼、臀部には長く細い尻尾がある。


 夢魔と呼ばれる、サキュバスだ。

 思わぬ姿に、怒り狂っていた僕は呆然とその姿を見入っていた。


「ダ、ダニエルが……魔族? サキュバスの女? あれ? え?」


「状況が飲み込めないのも無理はないわ。本物のダニエルはとっくの前に始末して、ワタシと入れ変わっているからね」


 口調を変えて説明してくる、サキュバス。


「始末したって……殺したのか!?」


「そうよ。一年とちょっと前かしら? 団長とアルフレッド達が古代遺跡ダンジョンに潜入した時くらいね」


「……覚えているぞ。アルフレッドが僕の《能力貸与グラント》を否定し始めた時だな? そんな前から、お前はダニエルと成り代わっていたというのか!?」


「ええ、それが任務よ。ワタシ達の脅威となり得るパーティを内部から崩壊させること。ダニエルをキルする前に、彼の能力値アビリティと固有スキルも搾取させてもらったわ……それがサキュバスの特性能力だからね」


 ……聞いたことがあるぞ。

 サキュバスは淫魔とも呼ばれ、男を誘惑しアレごと能力値アビリティや固有スキルを奪い模倣する能力が備わっているとか。


 ってことはダニエルの野郎……こんないい女とヤッたってのか?

 クソォッ、超羨ましいぞ! あっ、でもキルされたら意味ないや……。


 いや、それはそうとだ。


「脅威だと? お前……魔王軍か!?」


「ワタシは、ネイダ――魔王軍の密偵であり、魔王様直下の監視役よ」


 ネイダと名乗ったサキュバスは、ニヤッと朱唇の端を吊り上げる。

 舐めきった態度だが、少なくても僕に敵意はなさそうだ。


 僕はこの女の目的と意図を悟った。



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